そんな中、ドローン市場において圧倒的な優位性を持ち、存在感を放っているのが株式会社FLIGHTSです。同社は「ドローン前提社会の創出にもっとも貢献した企業へ」というビジョンを掲げ、ドローンの直販・卸販売、運用代行、導入・コンサル、ドローン保険、ドローン保守、アプリケーション提供、アプリケーション開発といった幅広いサービスを提供しています。これにより、ドローンの導入から運用、保守、さらにはデータ活用までをワンストップでサポートできることで、ドローンの持つ可能性を最大限に引き出しているのです。
そんな同社が特に強みとしているのは、ドローン技術を用いた橋梁やインフラの点検・測量分野です。高い精度でのデータ取得と、それに基づく分析や報告書作成の自動化は、他社の追随を許しません。プロフェッショナルだけでなく、ドローン初心者でも使いやすいシステムは、「ドローンの普及を本気で目指す」ために設計されたものといえます。
今や点検・測量分野で圧倒的なシェアを誇る同社は、どのようにしてその地位を築き上げたのでしょうか。そして、次に見据えている挑戦とは? 代表取締役の峠下周平氏に、そのビジョンと戦略を伺いました。
グライダーパイロットの経験が、起業の道を選ばせた
——峠下さんがドローンに関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。私の空への挑戦は、大学時代にまで遡ります。航空部でグライダーを操縦していた私は、経験を積むごとに、機体と自分が一体化するかのような感覚を得ていました。風、速度、角度、そして抵抗を全身で感じながら、目的地を目指して機体を操る。この一連の操作が、やがて無意識のうちにできるようになっていったのです。
その快感を知った私は次に、「この感覚を数値化できないだろうか?」というひらめきを抱きました。グライダーの操縦は、まるでスポーツのように体で覚えていくものですが、各要素を細かく分解すれば、操作の一つ一つを数値化できるはずだと考えたのです。もしそれが可能なら、自動化システムに応用できるのではないかと。
しかし、グライダーのような大きな機体を開発するには莫大な費用がかかります。そこで目をつけたのがドローンでした。手軽に扱える上、需要が高まる中で自動化によるコスト削減の可能性も十分にある。この直観が、のちに私を起業へと駆り立てました。
——そこからどのようにして株式会社FLIGHTSを立ち上げられたのですか。
大学4年生になった私は、あるプロジェクトの開発業務にアルバイトとして参画する機会を得ました。さまざまな経緯から、自然とプロジェクトの中核を担う立場になった私は、ビジネスデベロップメント(BizDev)としてユーザーインタビューを実施し、システムの構想を練り、プロダクトを売りつつ、ユーザーからのフィードバックを元に改善を重ねる――いわゆるリーンスタートアップの形で事業開発を進めていきました。
本を片手に手探りで進める毎日は、充実感に溢れていました。しかし、全力で取り組むうちに、「自分自身の仮説を世の中にぶつけてみたい」という思いがどんどん強まっていったのです。会社の枠組みの中で動くと、どうしても全体の方針と自分の考えが合わない部分が出てくる。その中で、「制約を取り払って、自分の限界に挑戦してみたい」という気持ちが抑えきれなくなり、その熱意のままに会社を立ち上げることを決意しました。
振り返ってみれば、知らないことが多かったからこそ、その難しさに気づかずにいられたのだと思います。無知ゆえのチャレンジ精神が、私を起業に駆り立てました。
受託業務を通じ、ドローン普及の「3つの課題」を発見
——立ち上げ後は、どのようにビジネスを展開していったのでしょうか。当時、ドローンの可能性はまだ手探り状態で、僕たちも世の中全体もその活用法を模索している最中でした。そんな中で、私たちがまず手がけたのはドローンパイロットのマッチング事業でした。具体的には、業務や実証実験のニーズを持つ企業と、飛行許可の取得やリスク管理といった専門知識を持つパイロットをつなげるサービスです。これは国内初の試みで、私たちにとって記念すべき第一歩となりました。
このマッチングサービスを通じて得たご縁は、現在でも続いています。創業当初から提携している大手建設コンサルタント企業や、ドローン測量に関心を持つ企業様とは今でも強いパートナーシップを築いており、この継続的な関係は私たちの誇りでもあります。
しかし、事業を進める中で直面した大きな課題がありました。それは、「ただドローンを販売・導入するだけでは顧客に使ってもらえない」という現実です。マーケティングの格言に「顧客が求めているのはドリルではなく、穴」というものがありますが、私たちのドローン事業にも同じことが言えました。顧客が本当に必要としているのはドローンそのものではなく、そのドローンが生み出すアウトプット――測量データや損傷箇所の状態を把握するデータ、それに基づく保守レポートや成果物なのです。
このことに気づいた私たちは、2020年頃から事業の方向性を大きく転換しました。ドローンのハードウェアだけでなく、システムやソリューション全体を提供することで、顧客が本当に必要とする成果物を確実に届けるためのビジネスモデルへと再構築したのです。この決断は、私たちの成長を加速させる大きな転機となりました。
——具体的には、どのように事業を再構築していったのでしょうか。
私たちはまず、橋梁や土木測量といった業務の受託をスタートしました。さらに、お客様と協力して技術の検証を行い、現行のドローン技術と理想とのギャップを浮き彫りにしていきました。
その過程で、三つの大きな課題が明確になりました。
まず一つ目は品質です。ドローンを使用しているからといって、データの品質を犠牲にすることは許されません。「ドローンだから仕方ない」という言い訳が残る限り、ドローンが本格的に導入されることはないでしょう。
二つ目はコストです。ドローンの導入目的は、何よりもコスト削減です。導入がかえってコストを増加させるようでは、検討に値しません。
三つ目は操作の難易度です。いくら便利なツールであっても、操作が難しく、扱える人が限られていては、現場での活用が進まず、導入が敬遠されてしまいます。
これらの課題を解決するため、私たちは飛行やデータ処理、レポート作成の自動化に注力しました。ドローンの操作をシステム化し、品質、コスト、操作難易度の全てをクリアすれば、ドローンがより普及しやすくなると考えたのです。
——どれも容易ではない課題ですが、どのような強みが、これらを乗り越えることを可能にしたのでしょうか。
ドローンを中心とした業務のデジタル化を進める上で、最も重要だったのは「何を作ればいいのか」を深く理解することでした。繰り返しになりますが、ドローンを活用したシステム開発においては、データの取得だけでなく、そのデータをどう活用し、どのような成果物を作り上げるかが鍵となります。求められる成果物への理解がなければ、適切な仕様を作り上げることは決してできません。
このような高い参入障壁がある中で、私たちが他社と比較して圧倒的な優位性を持つシステムを提供できている理由は、組織の専門性にあります。全メンバーの3分の1以上が土木系技術者であり、橋梁点検や測量において、定期的に改定される要領や規制への対応を可能にしています。これらを理解し、適切な仕様に落とし込むには、専門家の知見が欠かせません。
エキスパートたちが活躍できる組織づくりを進めた結果、現在、ドローン技術を用いた橋梁点検において、私たちのシェアは他社を圧倒しています。それだけでなく、当社は国土交通省本省や関連団体と密に情報共有を行い、現場のニーズに合ったルール作りにも積極的に関与しています。
技術者がシステム開発の中心を担い、ルールメーキングにも関与する。この体制が、私たちをここまで連れてきてくれました。
▼参考:建設コンサルタントからFLIGHTSにジョインした社員へのインタビュー記事
FLIGHTS は、革新的なドローン測量技術と橋梁検査のリーディングカンパニーとして急成長を遂げ、市場をリードする存在となっています。その急成長の裏には、6つの技術士資格を持ち、開発チームを率い...
https://www.wantedly.com/companies/flights/post_articles/925794 >
「0.2mmの傷も逃さない」高度な技術とシステム化でドローン普及を推進
——こうして出来上がったシステムについて、その優位性を教えてください。ドローンの普及において、課題となるのは品質、コスト、操作難易度の3つの要素でした。
これらを踏まえた上で、私たちは品質管理、コスト管理、そして使いやすいシステムの提供に注力し、それぞれを徹底的に追求することで、他社との差別化を図っています。詳しくお話ししましょう。
まず、品質管理における当社の強みは、土木技術者を中心とした高度な研究開発にあります。多くの大手建設コンサルタント企業も同様のアプローチを取っていますが、こうした組織はあくまでも実務を請け負うための研究開発に特化しており、そのノウハウが外部に公開されたり、広く社会に実装されたりすることはまれです。一方で私たちは、そのノウハウをシステム化し、広く活用できる形にしています。
例えば、橋梁点検においては、0.2ミリ単位の傷を確実に検出する技術を保証することが求められます。これは、カメラの画角や照度、ドローンの性能、橋梁の状態など、さまざまな要因が絡むため非常に難しい課題です。しかし、私たちはその環境でも常に高精度なデータを提供できるよう、研究開発を続け、それをシステムに組み込んでいます。
世の中、「特定の環境下であれば、高精度のデータ処理を行える」サービスはあれど、環境を問わず品質を保証できるサービスはほとんどありません。「どの現場でも、確実に高品質なデータを提供できる」と自信を持って言えることは、私たちの自慢です。
次に、コスト管理についてです。ドローンの運用においては、徹底的な自動化が鍵だと考えています。手作業を極力排除することで、効率を最大化し、人為的なミスを減らしながら、データの品質も向上させられます。なお、この自動化については、ドローンプロバイダやサービスプロバイダとしての強みを活かしつつ、将来的には完全無人化することを目指しています。
同時に重要なのは、機材のコストです。もし高価な機材をゼロベースからフルスクラッチで作り上げてしまうと、初期コストがかかりすぎてしまい、導入が敬遠される原因になります。そこで私たちは複数のドローンメーカーと連携し、既存のシステムやハードウェアを活用することで、初期の導入コストを抑えつつ、高品質のサービスを提供しています。
最後に、利用の簡便性です。私たちは自社で大規模なドローン業務を請け負い、その経験を基に、誰でも扱えるプロダクトの開発を進めてきました。結果として、従来であればプロフェッショナルなパイロットになるために1000〜2000時間の経験が必要だった作業を、1日程度の研修で扱えるレベルにまで一般化し、導入のハードルを大幅に下げることができました。
これら3つの要素——品質管理、コスト管理、利用の簡便性——を徹底的に追求することで、私たちはドローン業界で他社と一線を画し、強い競争力を維持しています。このポリシーこそが、ドローン技術を広く普及させ、より多くの顧客に価値を提供するための根幹となっているのです。
目指すは、ドローンが当たり前になる社会
——次なる挑戦として、どのような課題を見据えていますか。私たちは現在、広域の計測業務の自動化、いわゆるドローンセンシングの自動化を徹底的に進め、社会実装を目指しています。ドローンは既に多くの分野で導入されていますが、まだ非効率な部分が多く残っています。例えば、橋梁やマンションの12条点検といったコンクリート構造物のインフラ点検をさらに自動化できれば、ドローン市場はまだまだ広がると確信しています。
さらに、公共測量の厳しい基準に対応しつつ、民間測量や森林の在庫管理、さらには塩の在庫管理といったニッチな分野にも対応することで、ドローンが活躍できる領域を徹底的に洗い出し、自動化を進めていくことを、まずはファーストステップとしています。
セカンドステップとしては、現行のドローン技術では取得できない新しいデータの取得に挑戦します。現在、ドローンで取得されるデータは主にカメラや赤外線カメラによるものですが、例えば打音検査に相当するデータはまだ得られていません。こうした課題に対し、10年スパンで取り組み、中長期的な視点で研究開発を続けることが次のステップになります。
最後のステップは、やや抽象的ではありますが、ドローンで取得したデータの活用が当たり前になる社会の実現です。例えば、建物の修繕に関しても、現状では目視点検が主流であるため、評価にばらつきが生じたり、時系列での検討が難しかったりすることがあります。しかし、ドローンによる撮影が当たり前になり、デジタルデータが蓄積されれば、いつ修繕が必要になるのかを予測できたり、スポットでの修繕を行うことで修繕費用を圧縮できたりといったメリットが期待できます。
私たちが目指すのは、デジタルデータが人々の意思決定をサポートする未来です。今後も現場に即した圧倒的な専門性を基盤に、ドローンを本気で社会実装すべく、研究開発を重ねていきます。