「未来の学びコンソーシアム」は、文部科学省、総務省、経済産業省の3省と、教育関係者や企業・関連団体など官民一体となって、これからの子供たちが未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む教育の実現を目指して集まり、2017年3月に設立された組織です。その「未来の学びコンソーシアム」が体制強化を図るため、2017年12月から事務局を文部科学省が中心となった体制へ移行すると発表されました。
これは、「プログラミング教育がわかるメディア」を掲げるコエテコ編集部としては見逃せない!ということで、「未来の学びコンソーシアム事務局」の一員も務める文部科学省 情報教育振興室長 安彦広斉さんを訪ねてお話を伺いました。
小学校でのプログラミング教育必修化が決定!「未来の学びコンソーシアム」が誕生!
Q. 「未来の学びコンソーシアム」が誕生した背景を教えてください2017年3月に文部科学省から「新学習指導要領」が告示され、小学校、中学校で情報活用能力というものが、学習の基盤となる資質・能力と位置付けられたことが大きな背景として挙げられます。この「新学習指導要領」で定義された「情報活用能力」の中に、プログラミング教育が含まれていて、小学校の授業でも必修化されることとなりました。
実は、「情報活用能力」は1986年に「臨時教育審議会」で出てきた言葉なのですが、当時からこれまで学習指導要領には入ってきませんでした。ただ、「情報活用能力」を育成することを目的にした教育改革は最近の世界的な流れになってきており、機が熟し、2017年3月の新学習指導要領に入ることとなりました。
Q. 小学校では新しく「プログラミング」の教科ができるわけではないのですが、実際のところ小学校でのプログラミング教育って何をするのでしょうか?
おっしゃる通り、新学習指導要領では「プログラミング科」というような教科が新しく出来るわけではなく、現在ある算数や理科をはじめとした各教科等の中でプログラミングを体験しながら学んでいくことになります。小学校でのプログラミング教育の目的は、IT技術者を育成するために「プログラミング言語を覚えさせたり、プログラミングの技能を習得させたり、プログラミングを教える」ことではありません。
プログラミング教育を通じて目指す育成すべき資質・能力は、①自動販売機やお掃除ロボットなど身近にあるものが『魔法の箱』ではなく、「コンピュータにプログラミングで命令することで動いていて、便利な世の中が出来上がっていること」や「問題の解決には必要な手順があること」に気付くこと、②プログラミングを体験しながらコンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を育むこと、③コンピュータの働きをよりよい人生や社会づくりに活かそうとする態度を養うことです。
こうして得られた知識や力は、これからの予測困難な時代に、一人一人が未来の創り手となるために必要なものであり、22世紀まで生きる今の子供たちには、時代を超えて普遍的に求められるものだと考えています。
民間と協力しながら進めていく未来の学びコンソーシアムが目指すプログラミング教育の形
Q. 「未来の学びコンソーシアム」が2017年末に体制変更されましたが、「未来の学びコンソーシアム」の存在意義というか、役割はどういったことだと考えていますか?今現在、プログラミングの塾などで、ロボットをプログラミングで制御する教材などが使われていますが、学校の授業で求められる教材となると、その教科等が目指す教育内容とプログラミングを体験しながら目指すことをうまく相乗効果が出せるような教材が必要となってきます。そういった学校現場が求める教材の要件などを開発する側の方々と情報を共有するなど、官民協働により、民間による質の高い教材開発を促進していくことが、「未来の学びコンソーシアム」の目的のひとつとして考えています。
もうひとつの大きな目的は、先生への研修の講師や授業の支援なども含めた人的支援体制を作ることです。今の小学校には発展的なレベルまで学んだ子供の専門性の高い質問にまで答えられる先生が少ないという現状があります。ただし、そこまで先生に対応してもらうことは求めていませんので、そうした対応は地域やIT企業などの支援人材にサポートしてもらいたいというニーズが学校にはあって、それを官民で連携して解決していけるのではないかと考えています。
Q. 官民連携とおっしゃられましたがどういったことを想定されていますか?
例えば、ピアノを使った音楽の授業では、すでに民間の音楽教室の方と連携している事例もあり、専門領域は専門性の高い方にお願いしつつ、先生は教育指導に専念するほうが有効な場合があります。そういう観点から、プログラミングを体験させる授業でも地域のIT企業の支援人材の方と連携できるよう、こうしたノウハウを持つ企業や塾などが加盟している団体に、連携・協力をお願いすることも想定しています。
Q. なるほど、専門の方のサポートをいかにして得ていくのかが重要になるんですね
(その道の)専門の方がしゃべるというのは、それだけでも説得力があり、効果的なプログラミング教育の場面で専門の方に活躍していただくことができると考えています。ただ、そういう専門性の高い支援人材が全国どこにもいるわけではないため、どの地域にこういう人がいて、その人がどうすれば、支援人材として教育のサポーターになってくれるのか?そのためにどんな研修が必要なのか?などと多くの課題があります。
特に離島や山間地などでは、都市部のように近くにIT企業などの支援人材がいるとは限りませんので、そうした地域の中でプログラミング教育を支援できる人材を確保するためにどうするかが課題となります。先駆的な取組としては、ある離島の町で島内の人材にプログラミング教育の支援ができるような専門的な研修を行うなど、支援人材の育成を既に始めている事例が出てきています。これは、「未来の学びコンソーシアム」の関係団体と賛同企業、地方自治体との連携・協力により実現しているものであり、今後、このような取り組みをマッチングできるようにしていきたいと思っています。
先生たちも初めての体験!「小学校でのプログラミング教育導入」で現場の不安感を払拭するためには、「グッドプラクティス」が重要!
Q. 安彦さんが感じている「プログラミング教育」の課題は何かありますか?中学校ではこれまで技術・家庭科で「プログラムによる計測・制御」をやってきた経験がありますが、2020年度からの小学校のプログラミング教育の必修化は全国約2万校の小学校で初めて実施されます。小学校でのプログラミング教育を円滑に推進することが重要なのですが、全国約41万人の先生にとってほとんど未知の分野であったり、難しいプログラミング言語を大学で学んだ経験のある先生は逆に苦手意識を持っていたりする場合も多いです。学校現場からは「何から始めてどのレベルまでやればいいんだ?」という不安の声をよく聞きます。
その不安感を取り除いていく必要がありますが、新学習指導要領やその解説を周知・徹底するだけでなく、もう少し分かりやすい、『小学校プログラミング教育指針(仮称)』というものを、文部科学省として2017年度中に出す予定です。この指針においてはプログラミング教育についての基本的な考え方などを、より具体的にかつ指導場面を例示しながら、わかりやすく解説するものとする予定です。これにより、プログラミング教育のねらいやどのような授業が期待されているのかをイメージできるものとし、先生方の不安や誤解を解消し、安心して取り組みやすくなるようにすることをねらっています。
また、2018年度には、先生方が様々な学年や教科等で無理なく取り組めるような優良な指導事例(グッドプラクティス)をできるだけ多く情報提供できるよう、例えば先行してプログラミング教育を行っていて、グッドプラクティス(Good Practice)を生み出してもらえそうな学校で取り組んでもらう予定です。
Q. 「事例の紹介」とありますが、具体的に始められていることはありますか?
コンソーシアムが新体制となってから、総務省と連携してポータルサイトの構築に取り組んでいます。ここには、プログラミング教育を推進するため、良い実践事例を紹介することに取り組んでいます。文部科学省でも学校現場と一緒に先進的な取り組みをやっていますし、独自にいろんな取り組みを既に実践している地方自治体があります。
こうした取り組みの中で、理想的に取り組まれているもので、そのまま真似をしてもちゃんと効果が上がるものを良い事例として紹介していくことで、実践の輪を広げていき、それをきっかけに、教えることのプロフェッショナルである先生方は子供たちの食いつきのいいプログラミングというツールを知って、「だったらこのツールをうまく使って、別の教科の難しい単元を乗り越えるのに使ってみよう!」といった発想が授業デザインとともに頭の中にできあがってくるはずなのです。ポータルサイトでは、こういうサイクルを生み出していく手助けをしていきたいと思います。
Q. 2020年の必修化に向けた、今後の展開などを教えてください
2019年には、新学習指導要領に基づいた各教科の教科書が出来上がってきます。2019年は、教科書の選定とともに、どのプログラミング教材が適していて、どれにするかを決める段階です。教材が決まったら、次は各学校で必要に応じて校内研修等の準備に入ります。そうやって用意を整えた上で、2020年度から一斉にスタートすることになるわけです。
「未来の学びコンソーシアム」としては、各教科の学習と相乗効果が期待できるようなプログラミング教材と学校現場が巡り合えるよう、また、プログラミング教育の実施に必要な人材支援の仕組みづくりができるよう、官民協働での活動を2020年度の必修化に向けて集中的に取り組んでいく予定です。
Q. プログラミングを教えるのが初めての立場である先生に期待することはありますか?
とにかく、無理なく取り組める事例を参考に、実践してみることが重要です。心配な場合は、様々な地域で開催されている実践的な研修を受けていただいてもいいと思います。そうすると、これからの時代を生き抜いていく子供たちに必要な、これまで教えていなかった新しい力を育んでいるという実感が得られると思います。国際的な調査でも日本の先生たちはこうした実感を伴う「自己効力感」が低いというデータがありますが、この改善にもつながっていきます。
また、ぜひともベテランの先生には、プログラミング教育に積極的に取り組んでいただきたいと思っています。やはり授業力のある先生がプログラミングを授業に取り入れると、その効果は子供たちだけではなく、若手の先生たちにも大変いい影響を与えることができます。さらに、だれにでも使いやすく、質の高いプログラミング教材の開発や改善にも有効なアドバイスも期待できます。ベテランから若手の先生方それぞれの強みを活かした取り組みが、プログラミング教育の進展だけではなく、新学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」の実現にもつながっていくことを大いに期待しています。
編集部コメント
文部科学省、経済産業省、総務省と3つの省が連携してできたことでも本気さを感じさせる「未来の学びコンソーシアム」ですが、さらに1歩進めて、官民での連携も進んで取り入れていくと語っているのが印象的でした。小学校で初めて「プログラミング教育」が実施されることもあり、現場である小学校では少し不安感も広がっていて、未来の学びコンソーシアムの役割や存在意義はそこにあると。事例の積み重ねなどを通じて、不安感が払拭され、2020年のスタート時には子供や先生、保護者も含めて笑顔でプログラミング教育を取り組んでいって欲しいと感じました。「グッドプラクティス」と呼ばれる良い実践例をもっと紹介していきたい!ということでしたので、「コエテコ」編集部の使命を改めて実感しました。
<ホームページ>「未来の学びコンソーシアム」
https://miraino-manabi.jp/
<報道資料>「未来の学びコンソーシアム」推進体制の強化
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/12/1399792.htm
<参考資料>文部科学省「次期学習指導要領と教育の情報化」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000525613.pdf