2030年代、2040年代に社会に羽ばたき活躍する子供たちのために、総務省ではどのような取り組みを行っているのでしょうか?総務省・情報流通行政局 情報流通振興課 情報活用支援室室長・田村卓也さんにお話しを伺いました。
(インタビュアー:GMOメディア株式会社 代表取締役社長 森 輝幸)
情報活用支援室が目指す、誰でも情報にアクセスしやすい世の中
―― まず田村さんが室長を務められている情報流通振興課 情報活用支援室では、どのような事業を行なわれているのか教えていただけないでしょうか?
現在の総務省は、旧自治省、旧郵政省、旧総務庁が合併してできた省庁です。そのため総務省全体としては、旧自治省が行っていた地方自治、旧郵政省が行っていた情報・通信や放送、旧総務庁が行っていた行政の管理などの業務を主に行っています。
その中で情報流通振興課 情報活用支援室というのは、情報島と呼ばれる情報通信の利用を中心としているグループに所属しています。現在、情報活用支援室で行っている事業は主に3つ。
1つはスマートスクール・プラットフォーム実証事業というもので、文部科学省と連携し、教職員が利用する「校務系システム」と、児童生徒が利用する「授業・学習系システム」間の安全かつ効果的・効率的な情報連携方法などについて実証する事業を行なっています。
2つ目は、情報バリアフリーという、高齢者や障害者の方でも情報を入手しやすい環境を整える事業です。
ウェブアクセシビリティと呼んでいるのですが、目の見えない人や耳の聞こえない人でも快適にインターネットが使えるようにガイドラインを作ったり、障害や年齢によるデジタル・ディバイドを解消するための役務提供や機器等の研究開発への助成といった、高齢者や障害者がICT(Information and Communication Technologyの略で「情報通信技術」のこと)を使いやすくするための取り組みを行っています。
3つ目がプログラミング教育です。総務省では2020年からの小学校でのプログラミング教育必修化に先駆け、2016年度より2年間で若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業を実施し、教材開発、指導者育成等に取り組みました。
具体的には地理的・身体的条件などによらず、全ての児童生徒が質の高いプログラミング教育を受けられるよう、地元の人材を指導者(メンター)として育成するとともに、教材・カリキュラム、指導ノウハウなどを開発。
インターネット上で共有・活用しつつプログラミング教育を実施するモデルを、企業・団体・自治体が主体となり、放課後などの課外に学校という場を中心に実証しました。
若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業は2016年度からの2年間で、全国36都道府県・40プロジェクトを実施し、計105校(小学校60、中学校12、そのほか23)で実証しました。
北は北海道の江別市から、南は沖縄県の石垣島まで様々な地域で実証を行うとともに、実証事業が実施できなかった11県を中心に20自治体の教育委員会と連携して出前講座を実施しました。
スポーツクラブのようにプログラミング等を学ぶ『地域ICTクラブ』
―― こちらの実証実験は昨年秋に発表されていた、プログラミングクラブ構想に繋がっているのでしょうか?
そうですね。子供たちがIoT、AI時代を生き抜くために必要な、論理的思考力、想像力、コミュニケーション力、ICTリテラシーなどのスキルを育むためには、学校での授業だけでなく、放課後・休業日などでの課外活動が重要だと考えています。
先ほどの実証実験で明らかになったのですが、プログラミングを受けてもらった子供たちの9割程度が「またプログラミングをやりたい」と答えていて、保護者の方からも「引っ込み思案だった子が、プログラミングをきっかけに生き生きするようになった」「プログラミングを続けさせたい」「子供の可能性を伸ばしたい」という感想が寄せられています。
2020年度にプログラミング教育が必修化されると、プログラミングに興味を示してくれる子供たちはさらに増えると思いますので、野球やサッカーのように学校外でのクラブ活動としてプログラミングを行う「地域ICTクラブ」の展開をスタートしました。
また、2020年からのスタートでは準備が間に合わないということも考え、総務省で先行してクラブ活動を実施し、来たるプログラミング教育必修化に必要なノウハウを蓄積しようとしています。
具体的には民間のプログラミング塾やIT企業をはじめ、大学生や地域の人たちにメンターを務めていただき、放課後の空いている教室であるとか、地域のスペース、企業などでクラブ活動を行なっていければと考えています。
課外の時間にデザインやアプリ制作、世代間での知識・経験の共有などを通じて楽しく学び合うことで、ICTに対して高い興味関心を示す子供たちを増やしたいですね。
まだ構想中の段階ではありますが、野球やサッカーと同じくグローバルに活躍する人材を育成できるよう、ゆくゆくはプログラミングの全国大会も開催したいと思っています。
プログラミング教育必修化に備え、指導者やノウハウを蓄積
―― プログラミング教育の必修化というと、文部科学省の所管という印象だったのですが、総務省と文部科学省でどのような役割分担をされているのでしょうか?
授業など学校教育に関しては文部科学省の所管になります。そのため学習指導要領の改訂や、学校での先生への研修、指導用の資料作りは全て文部科学省の仕事です。
プログラミング教育必修化と合わせて学習用コンピュータやインターネット環境の整備など「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」という教育におけるインフラ整備も文部科学省が主導して行なっています。
総務省は、あくまで放課後や土日といった課外での実証がメインです。先ほどお話しした通り、2020年から小学校で必修化されるプログラミング教育で必要となる教材や指導者、ノウハウが現在不足しているという問題があります。
そのため総務省が先行して課外での講座を実施していくことで、ノウハウや知識を蓄積し、教育委員会や学校にそのノウハウを紹介・支援する役割を担っています。
この課外で行うプログラミング講座の中には、学校でも使えるようなカリキュラム、学校の授業を意識した構成にしているものもあります。
今後は文科省・経産省と連携し、プログラミング教育のノウハウを横展開していく
―― 文部科学省と役割分担しながら、連携して2020年のプログラミング教育必修化に備えられているのですね。今後はどのように取り組みを強化していく予定でしょうか?
2016年から総務省で行った実証で得た指導方法やノウハウなどの情報を各地方に横展開していく必要があります。そのため、文部科学省・総務省・経済産業省の3省が連携して、教育・IT関連の企業・ベンチャーなどと共に、201718年に「未来の学びコンソーシアム」という組織を立ち上げました。
これは多様かつ現場のニーズに応じたデジタル教材の開発や学校における指導に向けたサポート体制構築を推進するもので、当面は小学校プログラミング教育の充実・普及促進の実現に貢献すべく取り組んでいます。
取り組みの一環として、専用ポータルサイトにて先進自治体の取り組み紹介や、教材・コンテンツの紹介、実践指導事例の収集や紹介、ワークショップやプログラミング体験イベントの紹介、教育委員会や学校と事業者のマッチングなどを行なっていく予定です。
プログラミング教育は全ての子供の可能性を広げるもの
―― 最後に、プログラミング教育が子供たちにもたらす可能性について、田村様のお考えを教えてください。
保護者の方や学校の先生含め「プログラミングを教える」ではなく「プログラミングで教える」というのが小学校でのプログラミング教育必修化の本質であると理解していただければと思っています。
プログラミング教育はプログラミングができる、できないということではなく、論理的な思考を学ぶということが重要だと考えています。変化の激しいこれからの時代、論理的思考や物事を因数分解して捉えることは、今後より必要なスキルになってくるでしょう。
プログラミングはアクセスする手段と思考さえあれば、離島や奥地など世界中どこに住んでいても、いくらでも可能性を生み出せるもの。
2017年度には総務省で特別支援学校等を対象としたプログラミング教育を実施したのですが、キーボードが使えずともボールやセンサーなどの代替ツールを使うことで、身体的に障害がある子供たちでもプログラミングに取り組むことができました。
参加されたご両親からのフィードバックでは、「将来プログラマーになるのは無理だろうと思っていたのですが、代替ツールを使えば自分の子でもできることに驚きました。
楽しそうにプログラミングに取り組む姿を見て、自分の子供にはこんな可能性があったのかと感動しました」「いつもは落ち着きのない子なのに、プログラミングだけは集中して取り組んでいて驚きました」という声もいただいています。
プログラミングというのは、先ほどもお話しした通り地理的、身体的条件に関わらず誰でも学ぶことができるようにすることが重要です。
わたし自身、様々な地域で行われているプログラミング教育の現場を見学させていただいたのですが、プログラミングは全ての子供の可能性を広げるものであり、全ての子供たちに対して明るい未来を開いてくれるものであるということを実感しました。
子供たちの隠れた能力や才能が花ひらくなど、全ての子供に明るい未来が開けていることを教えてくれるのがプログラミング教育の醍醐味。総務省として未来を生きる子供たちの可能性を広げられるよう、より多くの場所で地域ICTクラブを展開していければと思っています。
編集部コメント
教育というと文部科学省が行なっているというイメージがありましたが、今回お話を伺い総務省が実証の部分で大きく動き、さらに経済産業省とも連携するなど、いくつもの省庁が協力し合いながら、子供たちの将来を見据えた教育現場を作り上げているのが印象的でした。田村さんの「プログラミングは全ての子供たちに対して明るい未来を開いてくれるもの」という言葉の通り、どんな子供でも夢を持てる世の中を作れるよう、大人である私たちは最大限のサポートをしてあげたいですね。
(文/中森りほ、編集/コエテコ編集部)