(取材)経済産業省 吉倉 秀和氏|スポーツ×テクノロジーが育む、これからのAI時代に必要な論理的思考力
この記事では、経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課 スポーツ産業室長(併)Web3.0政策推進室 吉倉 秀和氏に、スポーツ産業室が目指すこと、スポーツと論理的思考力の関係、ICTが拓く新たなスポーツのあり方について伺いました。

経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課 スポーツ産業室長(併)Web3.0政策推進室 吉倉 秀和氏
スポーツの成長産業化を目指す、経産省の「スポーツ産業室」
――スポーツ産業室はどういった取り組みを行う部署なのでしょうか?スポーツ産業室は、スポーツの成長産業化を目指す取り組みをしています。
経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課は、もともとスポーツ産業振興をミッションとしてスポーツ施設業やスポーツ教授業を所管していました。その中で、地域のスポーツクラブをサービス業としてもっと活性化するべく2020年の9月に「地域×スポーツクラブ産業研究会」が立ち上げられ、より専門的に主管するための部門として設置されたのがスポーツ産業室です。
スポーツ産業室のミッションは、「サービス業としての地域スポーツクラブ業の育成」と「トップスポーツの推進」を両輪としています。さらに、DXやWeb3.0の考え方も取り入れながら、お互いの資源やスキル、ナレッジが循環するような仕組みを政策の観点から作る取り組みを行っています。
ーースポーツに関する機関といえばスポーツ庁もありますが、スポーツ産業室との違いはどういった点なのでしょうか?
もちろんスポーツ庁でも、スポーツの成長産業化というテーマで取り組みされています。スポーツ庁がスポーツの成長産業化のためのプランAを考えているとすれば、私たちスポーツ産業室がプランBを考えて、お互いに共創しながらより良くしていこうという関係性です。
スポーツ庁と経済産業省 スポーツ産業室は、国内のスポーツ産業をより良くしていくためにはどうすればいいのかという課題について、連携して取り組んでいます。
論理的思考力を育むスポーツとICT教育の関係
ーーインターネットでの検索やAIで簡単に情報が手に入る今、教育においていわゆる「記憶」する学習よりも論理的思考力の重要性が高まっています。スポーツと論理的思考力の関係についてどう思われますか。スポーツでは、まず練習の時の動きを記憶し、試合や発表会といった本番でいかにそれを再現するかという再現性が重要です。さらに、そうした記憶をもとにどのように論理的な構成をしていくかという力が必要になります。
例えばバレーボールであれば、スパイクで点を取るまでに、どのようにボールを繋いで攻撃を組み立てていくかというプロセスや論理的な構成力が非常に大切ですよね。そういう意味では、スポーツにおいては記憶だけでなく、論理的思考力も重要なファクターの一つです。
スポーツを通じて、自分たちがするべきこと、やろうとしていることを達成させるのは、論理的思考を学ぶ最高のテキストであり、実践の場であると感じています。
ーースポーツと論理的思考力はとても関係が深いのですね。
そうですね。スポーツにおける論理的思考力は種目ごとに少し違っていて、アメフトでいえばどのフォーメーションを選択するかというプロセスを大事にしますし、サッカーはボールを持っているプレーヤーがどう判断するかという決断力が必要になります。
そのスポーツの特性によって論理的思考力がスポーツのパフォーマンスとして表現されるので、どのスポーツにどれくらい取り組むかによって、育まれる力は多少変わってくるかもしれませんね。
ーー論理的思考力を育てるには、どのようなスキルが必要でしょうか。
デジタルツールを使えるスキルが求められることは間違いないでしょう。ただ、その土台として読み書き計算などの基礎学習能力はこれからも非常に重要だと考えています。それが土台にある上でデジタルツールを活用するという意味では、今の子どもたちは、今まで以上に勉強する内容が多くなるのではないでしょうか。
読書をしたりマナーを身に付けたりといった土台の上にデジタルツールをフル活用することによって、想像力や表現力、新しいアイディアを生み出す独創力なども育っていくのではないかと思っています。

すでにスポーツの現場でも、私たちの今までの経験や一般論を超越したようなアイディアを若い人たちが自ら生み出してくれるような場面に遭遇していますので、これからも期待しています。
ーーデジタル技術を使ったスポーツの可能性についてはどのようにお考えですか?
今後はデジタルに強いアスリートがもっと増えてほしいですね。アスリートがもっとプログラミングや統計ソフトを自在に扱えるようになれば、それを自ら使って自分のコンディションなどを分析できるようになります。
そういった科学的な分析ができるアスリートが登場すると、現役時のパフォーマンスが高まるだけでなく、引退後も「サイエンス×スポーツ」の分野でキャリアを切り拓いていけるはず。そうなれば、アスリートのセカンドキャリア問題にも光明を投じてくれるのではないでしょうか。
これからの教育×スポーツの可能性とは
ーーこれからの時代において、子どもたちはどのような環境のもと育っていくことになるでしょうか。人口が減少していく中で、AIなどのテクノロジーの発達は社会に大きな変化をもたらします。しかしそれは、若者たちにとってはチャンスではないでしょうか。
今後ますます人手が不足することにより、企業は給料を上げなければ優秀な人材を採用できなくなります。つまり、これからは高い給与水準でオファーを受けて、最初から自分がやりたい仕事をできる可能性があるということです。
そういう意味では、今から本当に自分がやりたいことは何なのかをいろんな書物やデジタルツールから見つけて、どんどん可能性を広げていくことが大切になるでしょう。
今人間がやっていることをAIに任せるのもよし、まだ誰もやっていないことを自分で創業するのもよし。その手段にしても、デジタルを駆使してもよし、あえて「あの人じゃないとできない」という職人芸に達するのもひとつの選択肢でしょう。さまざまに広がる可能性を自由につかんで自己実現していただきたいですね。
ーーAIには代替できない能力といえば、スポーツによって培われる調整力やリーダーシップ力も挙げられそうです。その意味では、これからの時代においては文武両道が重要になりそうですね。
そうですね。ただ、文武両道というと「どちらもいい成績を取らなきゃいけない」というイメージになりがちですが、「いい成績」が目的になってほしくはないなと思います。
他者から高い評価を得ることだけにフォーカスするのではなく、両方ともどんどん経験して、どんどん失敗してほしい。人間の成長について考えてみると、結局のところ、成功も失敗も含めたいろいろな経験を通してさまざまな感情を得ることが大切だと思うんです。私個人としては、文武両道というよりは「文武エンジョイ」に近い姿勢で取り組んでもらえたらと思いますね。

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