私塾界ソリューションセミナーレポート ・プログラミング必修化にともなう⺠間教育サービスの対応を考える
今回は、午後の部に行われた『プログラミング教育必修化にともなう⺠間教育サービスの対応を考える』の様子をお届けします!
【特別講演】『情報活用能力の育成におけるプログラミング教育』
セミナー冒頭、特別講師として登壇された文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 情報教育振興室⻑ (併)初等中等教育局 視学官 安彦広⻫ 氏から、『情報活用能力の育成におけるプログラミング教育』~22世紀までに生きる子供たちに必要な力とは?~をテーマにしたお話がありました。

今後10年以内に、仕事の半分は自動化されると考えられています。世界人口が増大する一方で、日本は地方を中心に急激な人口減少が進むでしょう。地方経済の縮小は「静かなる有事」とも言われています。
もともと日本人は勉強熱心な国民性を持っており、「読み書きそろばん」にあたる教科面での学習到達度は現在においても世界トップレベルです。そこに、知識や情報を活用する力を上乗せし、「キーコンピテンシー(主要な能力)」の底上げをはかります。
将来の予測が難しい社会において未来を拓くこと。情報を主体的に捉えながら何が重要かを考えて、見出した情報を活用しながら他者と共創し、新たな価値の創造に挑んでいくこと。
そのためには、情報教育の推進と、教科の学びをより確実なものとすることの両方が必要なのです。
プログラミング教室を展開する事業者によるパネルディスカッション
パネルディスカッション『プログラミング教育必修化にともなう⺠間教育サービスの対応を考える』で登壇されたのは、以下の6名。

・安彦広⻫氏(文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 情報教育振興室⻑ (併)初等中等教育局 視学官)
・重見 彰則氏(夢見る株式会社 代表取締役)
・安藤昇氏(株式会社ミスターフュージョン プロスタキッズ 最高顧問兼執行役員)
・磯津政明氏(株式会社ソニー・グローバルエデュケーション 代表取締役)
・秦有樹氏(株式会社全教研 グローバル室 室長)
・濱田大地氏(株式会社アーテック コンテンツ開発チーム 課長)
保護者の意識が変わってきている
---開校当初、体験授業ではどのような反応がありましたか?
重見氏(夢見る株式会社)
弊社は5年前からプログラミング教育を始めたのですが、正直なところ、最初は「なにそれ?」という反応が多かったと記憶しています。
体験会でお子さんが「楽しい」と言ってくれても、保護者の方は「中長期的にどんな効果があるのか」をとても気にされていました。
安藤氏(株式会社ミスターフュージョン)
プロスタキッズでは、世界中の子供に人気の『Minecraft(マインクラフト)』と『MakeCode(メイクコード)』を学習教材にしています。
『マイクラ』はNintendo SwitchやiPadでもプレイできますし、保護者さんもYouTubeなどを通してご存知の方が多いですね。『マイクラ』の世界で、お子さんがつくったワールドを「売れる」仕組みを持っていることを説明をすると、興味を持っていただけます(笑)。
磯津氏(株式会社ソニー・グローバルエデュケーション)
「プログラミングを学ぶことと、SONYの製品が繋がる」という、明確なゴールがあるので、安心して興味を持っていただけている部分はあるかと思います。
保護者の方には、世界的には、エンジニアはリスペクトされる職業であることを伝えています。
秦氏(株式会社全教研)
保護者の方は、何を習い事として選ぶかにあたって、「スイミングに行けば泳げるようになる、習字に行けば字がうまくなる。……じゃあプログラミングは?」という疑問を持っているように感じます。
スキルとして何ができようになるのかを伝えて、それが授業料に見合うことなのかを考えていただいています。
濱田氏(株式会社アーテック)
授業必修化の方針が発表される前からプログラミング教育に取り組んでいるのですが、最近、多くの保護者さんに興味を持ってもらっていると感じます。
世界的にIT人材の需要があることを伝え、お子さんたちが、楽しんでトライ・アンド・エラーを繰り返していることを見ていただいています。
---最近は、保護者の方の意識や求めるものは変わっていますか?
安藤氏(株式会社ミスターフュージョン)
最近は、将来に危機感を覚える方が増えたと思います。「これまでの勉強だけでは、将来仕事を失うのではないか?いままでの教育ではカバーできていない何かが必要なのでは?」という感じでしょうか。
秦氏(株式会社全教研)
メディアなどで最新のICT技術に接する機会が増えて、大人が「これは一体なんなんだ?」と考えるようになっていると思います。
数年前に体験会に来た方が、「あのときは価値が分からなかった、今になって分かってきた」と入会されたケースがありました。
重見氏(夢見る株式会社)
開校当初はプログラミング教育そのものに関心のある保護者さんが多かったのですが、最近は変わっています。
興味を学びに変えることや、協調性、試行錯誤、プレゼンテーションなど、学校や家庭では吸収できない……でも、これから必要なスキルを学ぶ場として、結果的にプログラミングが選ばれているように思います。
各教室のカリキュラムが目指すものは
---各教室のカリキュラムは、どのようなことを意識して設計されていますか?
濱田氏(株式会社アーテック)
エジソンアカデミーでは、レベル別に3年4ヶ月分の教材を用意しています。基礎から積み重ね、最終的には工業高・大学生並にレベルアップしていきます。高度なロボット制御まで、2~3年を見込んでいます。
秦氏(株式会社全教研)
プログラミング道場では、小学校1年生から中学校2年生までを想定して、無学年方法をとっています。車型ロボットを走らせるカリキュラムで様々なルートに挑戦し、「ロボカップに出る」ことを目標にしています。
磯津氏(株式会社ソニー・グローバルエデュケーション)
KOOVは無学年方式の教材で、2年分です。レッスンとコンテストを自由に組み合わせる「モジュールカリキュラム」を用意しています。自由設計なので、教材は1つですが教室によってカリキュラムは多彩です。
安藤氏(株式会社ミスターフュージョン)
プロスタキッズは小学校全学年を対象に、大きく分けると初級・中級の2つのコースを用意しています。先に学んだことが3ヶ月ごとにネストされ、複雑化していくカリキュラムです。
初級で使っていた『MakeCode(メイクコード)』はそのままJavaScriptなので、中級からはJavaScriptによるコードプログラミングに入れます。ただ、中級以降は講師の養成が大変です。
重見氏(夢見る株式会社)
ロボ団では、「スターター、べーシック、アドバンス、プロ、マスター」で、最長5年分を、学校の学習単元に紐づけて学びます(タイヤを転がしたい→円周を知る→プログラミングに繋げる)。
「プロ」コースの後半から、ビジュアルプログラミングをPythonの言語に置き換え、「マスター」コースではオンラインでPythonの学習をします。
ICT化しないと「ヤバイ」
---民間ではここまでやっていますが、2020年からの学校ではどうなるでしょう?
安彦氏(文部科学省)
学校でも同じくらいやってほしいですね……イギリス英国のカリキュラムを参考に、推奨される学習単元を出しているのですが、学校での実現は簡単ではなさそうです。
予算が足りず、児童全員分の「モノ(ロボット)」がないのは、楽しくないですから。「動くモノがあるかないか」が、学校と民間の線引きになるかもしれません。
安藤氏(株式会社ミスターフュージョン)
私自身も教師をしているのですが、小学校の現場では抵抗感が強いです。「道徳も英会話も増えたのに、これ以上無理!」と思われています。
私立学校であれば人材採用も柔軟にできるかもしれませんが……。民間の塾が、学校と組むのが一番強いのではないでしょうか。
---アーテックさんは、もともと学校向け教材メーカーということもあり、公教育とのつながりをお持ちですよね、どう思われますか?
濱田氏(株式会社アーテック)
実際には、パソコンを使うのも苦手な先生もいます。まずは「溜めた電気でLEDを光らせよう」みたいな、クラブ活動のレベルから始める必要があると思います。
磯津氏(株式会社ソニー・グローバルエデュケーション)
公教育の得意分野と、民間教育の得意分野は異なります。教育予算が諸外国に比べて圧倒的に低いのは事実で、公教育におけるICTが海外で特段に遅れていることは、大きな問題だと認識してほしいです。
「教育に対しての予算がこれでいいのか」は考えてほしい。Wordで文書を書く、PowerPointで資料をつくれる……そのくらいは、公教育で「当たり前」にしてほしいです。
安彦氏(文部科学省)
予算は「ない」といっても、あるんです(学校におけるICT環境の整備について(教育のICT化に向けた環境整備5か年計画))。投資されないお金があり、とくに地方には、お金がよく回っています。
予算の使い道に国は口出しできませんから、議会を通して申請がなければ動けません。申請のためには住民の意思決定が必要ですが、そこに意識が至っていないように思います。
1800億円のお金を実態としてどう回すのかは課題です。ICT化すれば成績が伸びるのではなく、ICT化しないと「ヤバイ」という意識を持たなければいけません。
重見氏(夢見る株式会社)
実際に小学校で体験会をおこなうと、プログラミング教室に来たことのないお子さんも、とても積極的なんですよね。
それを見て、先生や教育委員会の方からは「良いのは分かるが、自分たちではできない」と言われます。「あれもこれも」にせず、先生の負荷を減らすことも大切です。
水泳のように、しっかりした四泳法(クロール・背泳ぎ・平泳ぎ・バタフライ)は民間のスイミングスクールで教えるようなやり方でも良いんじゃないでしょうか?
国語・英語・数学の先にある「言語教育」
---授業必修化後、2020年の「先」に求められるものは何になるでしょうか?民間教育のありようはどう変化すると思いますか?
重見氏(夢見る株式会社)
いままでの学校教育は、「教育」と「社会」の間にギャップがありました。しかし、プログラミング教育では、学びと社会が直結していて、将来の見通しに実感を持ちやすいと思います。
『ロボ団』はJAXAとのコラボなどを通して、学校や塾での学びにしっかり目標ができるチャンスになると思っています。
濱田氏(株式会社アーテック)
私は学生時代に塾講師をしていて、当時のお子さんに「なんで理科なんかやるの?」と聞かれて、びっくりした記憶があります。当たり前のことだだと思っていましたから。
世の中の仕組みが便利なのは理科のおかげ……それを知らないことをまずいと感じました。世の中や身の回りのものの仕組みを知ることで、学習モチベーションを上げるきっかけにしたいです。
安藤氏(株式会社ミスターフュージョン)
日本国内に、優秀なプログラマがいる環境にしたいです。現在、優秀な人材はみんな海外に行ってしまいます。日本ではエンジニアの地位が低く、海外に行けば何倍も報酬が違いますから。
日本人のノーベル賞受賞者も、みな海外で研究しています。優秀な人が日本にいたいと思える経済環境をつくらなければなりません。「プログラマは稼げる仕事」という社会にしたいです。
秦氏(株式会社全教研)
IT関係に進みたい、と思ってほしいです。プログラミング道場で、最初にカリキュラムを消化したのはインドとマレーシアの子でした。彼らが日本の子どもと交流して、起業してくれたりしたら嬉しいですね。
磯津氏(株式会社ソニー・グローバルエデュケーション)
私はコンピュータサイエンスの研究をしていました。プログラミング教育とは、「言語教育」なんです。
自然言語は情緒的で柔軟なもの、数学は論理的で厳格なものですが、プログラミング言語は、曖昧性を排除した厳格さもあるし、国語なみの柔軟さも持っています。将来、プログラミング言語は「世界共通の言語」になるのではないでしょうか。
そのうえで、過渡期の現在においては、「国語・英語・数学」の延長線上にプログラミング言語があると考えています。
まとめ
およそ2時間のトークセッションは終始勢いと活気があり、思いもよらず熱い討論がかわされる場面も。世界の変化に乗り遅れまいとする国と、その先の教育業界を考えるプログラミング教室、そして、2020年から最前線の現場となる小学校がどのように手を組み、「新しい言語」の教育をしていくのか?これからが楽しみになりました。
コエテコでは、引き続きプログラミング学習の「いま」をお伝えしていきます!
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