子どものデジタル格差を解消したい。NPO法人キッズドアがIT&デザインプログラム「IFUTO」にかける思い
IFUTOを主催するのは、⼦どもをめぐる社会課題の解決に取り組む認定NPO法人キッズドアです。協働パートナーとして千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュート(dri)と一般社団法人プロジェクト希望が参画し、プログラムをサポートします。
IFUTOにかける思いや実施する意義について、キッズドア理事長の渡辺由美子さん、千葉大学理事の渡辺誠さん、プロジェクト希望代表理事の平井一夫さんにお話をうかがいました。
なぜ「女子」に限定したのか?IFUTO立ち上げの背景
IFUTOが実施された背景には、貧困によるデジタル格差があります。経済的に困難を抱える家庭ではパソコンやインターネット環境がない場合も多く、情報社会から取り残されてしまうケースが少なくありません。文部科学省による取り組み「GIGAスクール構想」では全国の児童・生徒を対象に1人1台の端末(タブレットまたはパソコン)が支給されますが、IT関連のスキルを学ぶには端末のスペックが低かったり学校の課題しかできない仕様になっていたりする場合が多いのです。

知りたい情報にすぐアクセスできる環境で育った子どもと、そうでない子どもでは、学習機会に大きな開きが生じます。「子どものデジタル格差が学力の格差となり、将来の経済格差に繋がってしまう」と考えたキッズドア理事長の渡辺さんは、パソコンを無償で貸し出し、女子中高生にITスキルを学ぶ機会を提供するIFUTOの立ち上げを決意します。
渡辺さんは内閣府の「子供の貧困対策に関する有識者会議」の構成員や、一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表理事も務めており、経済的な理由で子どもが夢を諦めることのない社会を目指し、活動してきました。
キッズドア理事長の渡辺由美子さん(画像中央)
貧困家庭はひとり親世帯である場合が多く、その中でも母子世帯がかなりの割合を占めています。貧困の連鎖を断ち切るには、女性が自立できるスキルを持つことが重要です。
成長著しいIT業界において女性技術者はまだまだ少ないため、性差なく活躍できるスキルとしてITを学ぶ機会を女子中高生に提供したいと考えました。
26名のうち81%がパソコンを所有していませんでしたが、受講生にはパソコンが無償で貸し出され、プログラム修了時にはリユースパソコンが1人1台プレゼントされます。
自宅にインターネット環境がない場合はポケットWi-Fiの貸し出しもあり、千葉大学墨田サテライトキャンパスへの交通費も補助されるなど、サポート体制は万全です。
IFUTOを通じて身につくITスキルとは
プログラムの設定や講義を担当するのは、千葉大学理事の渡辺誠さんです。誠さんは2021年4月に千葉大学墨田サテライトキャンパスが開設したのと同時に、同キャンパスを拠点とする教育研究組織「デザイン・リサーチ・インティテュート(dri)」を立ち上げました。これまでITに触れてこなかった子どもに対して、いきなりコードを教えてプログラミングをさせるのはハードルが高く、学習についていけない可能性もあります。
そこで女子中高生にとって身近なもので、かつ興味を持てそうなものということでファッションと掛け合わせた学習プログラムを考案しました。
IFUTOの具体的なプログラムの内容を教えてください。
まずは基本的なICT教育として、ITリテラシーの向上を目的としたタイピング練習、PowerPointを使った資料作成などを2ヶ月おこないます。
後半の3ヶ月ではパソコンを使ってTシャツをデザインし、最終的に販売するところまでおこなう予定です。デザインの技術だけでなく、商品を売るためのマーケティングの手法やeコマースの仕組み、プレゼンについても学びます。
売れなかったら売れなかったで、それも経験。将来に活かせるリアルな学びを提供したいと考えています。

デザイン制作に使用するAdobe Creative Cloudなどのツールはアドビ株式会社から無料提供され、Adobeエバンジェリストによる特別講義もおこなわれる予定です。
また、千葉大学に留学している外国人の大学院生や、driに所属する外国人研究者もプログラムをサポートするなど、グローバルな環境で学ぶ体制も整っています。
IT業界に女性が増えることで、社会全体の多様化が推進する
「IFUTO」のプログラム名は、受講生が「if=もし、~だったら」と連想し、「こうありたい」と考える自分の将来をイメージして実現してほしいとの想いから命名されたそうです。また、実現するためのITスキルを身につけられるプログラムであることから「IT」の文字も入っています。IFUTOのネーミングやロゴ制作、プログラムを推進するための寄付、また、特別講師としてもプログラムの支援をおこなうのは、2021年に設立した一般社団法人プロジェクト希望です。代表理事の平井一夫さんはソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)の元社長であり、現在も同社のシニアアドバイザーを務めています。
「あらゆる子どもに、きっかけになる、感動体験をつくる」というミッションを掲げるプロジェクト希望が、IFUTOのプログラムに賛同し、協働パートナーとして参画しました。
「子どもは、子どものころに体験するさまざまな「感動体験」を通じて自己肯定感が生まれ、自分の可能性を信じ、将来への希望が生まれる。その子どもが、次は自らが次世代の感動体験を生み出せる人材へと成長していく」と考える平井さんが、IFUTOの受講生たちに期待するのは「感動体験の多様化」です。
女性がITスキルを学ぶことで、社会にどのような変化があると考えられますか?
IT業界をはじめとするさまざまなビジネス分野で女性が活躍することによって新たな視点や考え方が流入し、社会全体の多様性が推進されると考えています。
多様性を認め合うなかで、これまでにない革新的なイノベーションが生まれる。そういった変化を期待しています。
第二期への構想も。IFUTOが繋ぐ「女性とITの未来」
IFUTOが目指すのは、受講した女子中高生たちがデジタル格差を乗り越え、女性技術者としてIT業界で活躍する未来です。現代社会におけるデジタル格差に対して、危機感を持っている子どもはたくさんいます。IFUTOの第一期の募集は締め切られていますが、今でも受講希望者からの問い合わせが後をたちません。
今後も支援の輪を広げるために来年以降の第二期受講生の募集や、関東圏以外でのプログラム実施を検討中です。
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