「デジ連」は2022年7月5日(火)に経済産業省「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」が取りまとめた「Society5.0 を見据えた中高生等のデジタル関連活動支援の在り方提言」(2022.3.31)の社会実装を担うために設立された団体です。
イベントでは、全国を対象にした教員デジタル研修や、部活指導員の研修・認定等についての事業説明が行われました。
また、トークセッションでは、文部科学省に高等学校情報科担当教科調査官として勤務し、新学習指導要領(情報)の作成に従事した鹿野利春氏や、さくらインターネット代表 田中氏、経済産業省 大臣官房審議官(IT 戦略担当)、現役学生等をゲストに迎え、これからの日本に必要なデジタル人材育成について活発な議論が交わされました。
この記事では「デジ連」設立イベントの一部をレポートとしてお届けいたします。
(来賓)経済産業副大臣 太田房江氏からのご挨拶
デジタル社会の到来が全世界で加速度的に進んでいることは皆さん実感しておられるとおりです。
しかしながら国際経営開発研究所(IMD)による「世界デジタル競争力ランキング」の2022年の数値によりますと、63の国・地域のうち日本は過去最低の29位に甘んじており、人材に関する順位は50位、デジタル技術スキルに関する順位は62位と厳しい現実が目の前にございます。
かつてPanasonicを一代で築き上げた松下幸之助氏は、「物をつくるまえに人をつくる」という言葉を残しておられます。これは時代が変わり、デジタル化した社会においても何ら変わることのない言葉であろうと考えておりますし、岸田政権においても「人への投資」を盛んに申し上げております。
さて、人材を育成するにあたりましては、大学生や社会人のみならず、中高生の段階からその機会をつくることが欠かせません。
今年度から高等学校では必履修科目として「情報Ⅰ」、さらにはそれを発展させるための選択科目として「情報Ⅱ」が設置されますけれども、こうした内容を超えてなお、部活動等でも学びたいと感じる子ども達も多いはずです。
そこで経済産業省では「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」を開き、部活動の指導者不足やジェンダーバランスの偏りといった課題を検討するとともに、地域での活動や個人活動への支援等についても議論いたしました。この検討会で取りまとめられた提言の趣旨にご賛同いただいた方々の尽力によって「デジ連」は立ち上げられたと伺っており、これは大変ありがたいことです。
最後になりますが、「デジ連」の本部は大阪にあると伺っております。私自身も大阪を地元とする国会議員ですので、大阪ならではの「やってみなはれ」の精神には大いに期待するところです。
2年半後には大阪・関西万博も迫り、テクノロジーを利用して社会課題を解決する中高生向けの「デジタル文化祭」「未来構想コンテスト」が開催されると伺っております。「デジ連」様の支援により若者たちが大きく羽ばたくことに期待するとともに、その発展を心より祈念いたします。
(来賓)文部科学副大臣 簗 和生氏からのご挨拶
近年、情報技術は急激に発展を遂げており、子ども達を取り巻く環境は劇的に変化しています。そのような社会にあっては、あらゆる情報・サービスを適切に選択し、活用することが不可欠であり、今後の高度情報社会を支えるIT人材の裾野を広げていくことがますます期待されております。
こうした中、新しい学習指導要領では、情報活用能力を学習の基盤となる資質能力として位置づけ、小学校で新たにプログラミング教育の必修化を行うとともに、中学校では技術・家庭科の技術分野でネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングを学ぶこととなりました。
そして高等学校においては、情報の科学的な理解に関する指導が必ずしも十分ではないのではないか。あるいは情報やコンピュータに興味関心を有する生徒の学習意欲に必ずしも応えられていないのではないかといった課題を踏まえ、本年4月から必履修科目として「情報Ⅰ」が新設され、プログラミングやデータの活用等について全ての生徒が学習することとなりました。
また高等教育においても、成長分野を牽引する高度専門人材の育成が重要になっております。とくにわが国の国際競争力を強化していく観点から、デジタル人材の育成・確保は喫緊の課題であり、政府目標として、専門分野のデジタル技術を活用する力を持った大学・高専生を2024年度末までに毎年17万人育成することと定めております。この目標の実現に向けて、先月、経済産業省と連携をして、産官学連関係者を構成員とするデジタル人材育成推進協議会を新たに立ち上げたところでございます。
高等学校の情報化の指導に当たっては、産官学の連携が極めて重要でございます。担当教員に加え、民間企業等の第一線で活躍する方々をはじめ、様々な専門家の支援を受けることは生徒にとって大変有意義な機会になるはずです。「デジ連」の設立はまさにこうした政策と軌を一にするものであります。「デジ連」様の今後のご活躍とご発展をお祈りし、お祝いのご挨拶といたします。
(ビジョン説明)代表理事 鹿野 利春氏
私からは、この団体ができた経緯、それから我々は何を目指しているのかについて簡単にご説明させていただきます。
私は公立高校教諭、財団法人職員、教育委員会事務局を経て文部科学省教科調査官を拝命し、昨年3月にそちらを辞して現在では大学の教員として勤めております。
なぜ文科省を辞めたのかと言いますと、ひとことでいえば、文科省ではできないチャレンジをしたかったからです。そして、そのチャレンジとはつまり、このような社団を立ち上げて産官学で連携しながら若者たちを応援していくことでございました。
「子ども達に良いものを手渡したい」。立場は違えど、この場におられる誰もがそう考えておられるはずです。
先ほど太田副大臣から日本のデジタル人材育成の遅れについて指摘がありましたが、まだまだ日本にはトップを走れるポテンシャルがあるはずです。学習指導要領の改訂はその希望となるもので、簗副大臣もおっしゃった「情報Ⅰ」の内容などは相当に高度です。
せっかくですので、大学入試センターより出された「情報」のサンプル問題を見てみましょう。ここでは選挙の比例代表を選ぶプログラムを考えたり、サッカーチームの強さの秘訣をデータで分析したり、情報をわかりやすく伝えたりするような問題が出題されています。これこそが、今の子ども達が生きていく世界なのです。
「そうはいっても、プログラミングは日常の役に立つのだろうか」と疑問に思われるかもしれません。しかし、データが活用できるようになれば、たとえば飲食店の仕込みなども効率が良くなり、フードロスが削減できるとともに、経営状態もよくなります。このように、プログラミングはもはや、日常のツールとなっていくのです。
私たちが目指すのは、「デジタル人材」という区別をあえてする必要もなくなるような社会です。この目標を実現するためには企業、大学、高専、いろいろな人の応援が必要になります。「提言」を「提言」のままで終わらせないためにも、ぜひみなさまのお力をお借りできれば幸いです。
(来賓)一般社団法人日本ディープラーニング協会 松尾豊理事長(代理:岡田隆太朗理事)
中高生、高専生を中心とした若いデジタル人材の育成を通じて国際社会における日本のデジタル分野の競争力向上を目指す。これが当協会の設立理念です。
ディープラーニングを中心とした技術により日本の産業競争力を向上させたいと考える我々協会の存在意義と「デジ連」の設立精神には深い親和性があると考えており、大変嬉しく思っております。
当協会は2017年に設立され、今期で6期目を迎えます。AIの産業社会への実装には人材育成が何よりも重要かつ急務です。そこで当協会では設立当初より検定資格試験を実施し、AI人材の輩出に取り組んでまいりました。これまでの合格者は、年齢は10代から70代まで、累計5万8000人となっておりまして、合格者によるコミュニティ活動も非常に活発化しております。
また、2019年からは高専生向けのディープラーニングコンテスト、通称Dコンを実施しており、デジタルネイティブ、とりわけ数学・機械・コンピュータサイエンス領域に強い高専生にビジネス関連のインサイトを学んでいただくことで、事業化レベルのプロダクトやサービスの開発に取り組んでもらえるよう、アントレプレナーシップ教育にも力を入れております。
昨今のデジタル化社会では、技術の進化も日進月歩です。産業構造も今後どのように変化していくか未知数です。圧倒的なアドバンテージを持つ若い世代の可能性を最大限引き出すためには、既存の枠組みにとらわれないリアルな産業社会との接続性が重要だと考えております。今後、「デジ連」様が様々な取り組みをされていく中で、私達が強みを持つAIコミュニティネットワークともご一緒できることをたいへん楽しみにしております。
(事業説明)事務局長/共同設立者 春名 絵美氏
中高生のデジタル教育を支援するにあたり、私どもは3つの課題があるというふうに考えております。こちらのスライドをご覧ください。
まずは教育現場への情報や人材が不足しているという点です。こちらにつきましては、教員研修、指導者養成をサポートすることにより解決を図っていきたいと考えております。
次に、学び/活動の場が少ないことです。こちらにつきましては課外活動支援(部活・個人)を行うことで解決してまいりたいと考えております。
最後は、意欲を高める発表の場が必要であるということです。こちらに関しては各分野のデジタル大会を支援するとともに、大会ガイドラインの作成なども行ってまいる所存です。
それをもちまして、我々はこのような事業を設計いたしました。
まず、広報部会に関しましては、主にWeb等を使って様々な情報を発信していきたいと考えております。
学校教育部会に関しましては、講師派遣研修等を通して先生方を支援していくような格好で事業を進めていきたいと考えております。
産業部会では、課外活動支援としまして、指導員の養成・認定などに取り組むことにより多くの子ども達にアウトプットの場を楽しんでいただけることをねらいとしたいと思います。
そしてガイドライン部会では、その名の通りガイドラインを策定するなどの活動を通し、各種の大会支援をすることでさまざまな場を盛り上げていきたいと考えております。
さて、このような活動をするにあたり、我々「デジ連」は会員制度にて運営を行なってまいります。会員は正会員/一般会員の2種に分かれており、正会員の企業様には、所定の会費をいただく代わりに、講師派遣や教材コンテンツの提供を通して教育現場にアプローチできるメリットをご提供いたします。一般会員につきましては無料でご入会いただくことができ、デジタル教育の情報収集に広くお役立ていただけますので、ぜひこの機会にご検討ください。
ここからは具体的な事業の説明に入らせていただきます。まずは広報支援事業です。こちらでは正会員様の教材コンテンツのメリットや事例をWebサイトやメールマガジンにて教育関係者等に発信してまいります。
次にデジタル大会支援事業です。こちらでは学生向けデジタルコンテストの情報収集コンテンツを作成し、学生・教員への情報提供を行います。
それから、講師派遣・研修事業です。こちらでは全国47都道府県での「講師派遣」実施を⽬指すために「講師派遣」ができる正会員様を募集しております。この機会にぜひご検討いただけますと幸いです。
同じく正会員様を募集しているのが、教材開発事業です。情報だけでなく⾳楽や美術、総合的な学習の時間など学校全体の学びをデジタル化する教材開発に取り組んでいければと考えておりますので、こちらもぜひご検討ください。
次は、課外活動⽀援事業ですね。こちらでは学生のデジタル活動を支援する指導員や教材の募集を行なっております。もちろん、指導員になってくださる先生も募集しております。
同じく課外活動⽀援事業では、デジタル部活領域における外部⼈材の積極的参加を促進するため、研修及び認定制度を整備いたします。本事案につきましては、学校の活動に参加するにあたっての基礎知識やモラル、教員との連携等について研修という形で情報提供をし、確認⼯程(試験や⾯談などを予定)を経て、デジ連より第三者認定を⾏います。これにより、学校側が安⼼して外部⼈材の⽅々と連携できる環境を⽬指すものとなります。
最後に、ガイドライン事業です。この事業ではデジタルコンテストのガイドラインを策定し、⼤会運営側に周知・活⽤を促していきます。とくに大切なのが、ジェンダーバランスの確保を含む⼤会ガイドラインの策定です。策定には理事として佐々⽊ 成江先生にご参加いただき、女子児童・生徒を含めた幅広い若年層の能力向上を図ってまいりたいと考えております。
「デジ連」は7月5日設立のまだまだ若い団体ですが、すでに多くの企業様に正会員としてご賛同いただき、たいへん驚いております。これほどまでに名だたる企業様が子ども達の未来を支援しようとしてくださっていることは大変心強いことです。今後も皆様とともに事業を進めていければと思いますので、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
トークセッション(一部抜粋)
1991 年 4 月、郵政省入省。総務省で情報流通行政局地上放送課 長、郵政行政部郵便課長及び企画課長、 大臣官房会計課長を経て現職。岡山県高梁郵便局、岐阜県庁、衆議院法制局、(独)情報通信研究 機構パリ事務所、金融庁、内閣サイバ ーセキュリティセンター等で の勤務を経験。
平成12年文部科学省入省。初等中等教育局教育課程課等で研究開発学校や学習指導要領の改訂業務等に従事。人事院長期在外研究員としてHarvard Graduate School of Educationで教育政策を研究(M.Ed)。平成22年から4年間北海道教育委員会に出向し、学校力の向上、基礎学力保障、事務職員の職域拡大、初任者研修改革などに取り組む。その後、初等中等教育企画課教育制度改革室長補佐として、小中一貫の制度化、学校規模適正化。小規模校活性化、夜間中学校の振興等に尽力。外務省一等書記官、大臣官房総務課副長などを経て、本年6月よりGIGAスクール構想の総括担当の課長職(現職)に就任。
——(モデレーター:ゼネラル・マネージャ/共同設立者 雪田 恵子氏)皆様がそれぞれ考える「デジタル人材の育成と、その先にある未来像」をお話しいただけますか。
藤田:現代はSDGsなどをはじめ、何十年という長期的な視野で取り組むべき課題にあふれています。こうした難しい課題にアジャイルな姿勢で取り組むには、社会のデジタル化やデジタル人材の育成が欠かせません。
なおかつ、私が思いますのは、トップ人材だけでなくて、デジタル化に馴染みのない人も取り残さないような取り組み方が必要なのかなと。行政という立場からは、そのように考えております。
武藤:GIGAスクール構想の実施により、子ども達を取り巻く学習環境は大きく変わりました。もちろん課題も数多く残されていますが、これをきっかけにコンピュータの面白さを知る子ども達が増えてくれればと思いますし、ひいては、日本からトップクラスのクリエイティブ人材が生まれるような教育を作っていきたいと思います。
田中:お二人のご意見は行政からの視点でしたので、産業界からの意見を申し上げますと、日本ってまだまだポテンシャルが残されていると思うんですね。僕はつい先日まで海外に行っていたんですけれども、「やっぱり日本は豊かだな」と思うことは多い。これは大きな強みであると考えます。
しかしながらネガティブなニュースがあるのも事実であり、その最たるものが、いろいろな意思決定が秘密裏で曲げられていたんじゃないかという種々の疑惑です。これは言うまでもなく由々しき事態であって、解決するためには、判断プロセスをクリアにしていかないといけない。デジタル化というのは、その突破口になりうると思うんです。
デジタル化した社会は、さまざまな人の存在を可視化してくれました。たとえば女性ですね。女性はこれまでマイノリティとして扱われ、意思決定のプロセスには関与できないことがあった。こういうことがデジタル化によって可視化され、正常化されていくと、世の中はもっとよくなるのにと感じております。
さて、そのためには、未来の社会を担う若年層の育成が欠かせません。それも、「社会のニーズに合わせて人材を作らなければ」というような大人の都合に合わせたものではなくて、単純に楽しいから、幸せだからデジタル技術を学び、携わる人を増やしたいんです。何を隠そう、僕もかつてはパソコン少年でしたからね(笑)。
中嶋:学生である私からは、一つ問題提起をしたいと思います。それは、テクノロジーの分野に女性がとても少ないことです。
これは、女性がテクノロジーに興味がないということではなくて、ちょっとした興味や憧れをキャリアに結びつけることができなかったり、選択肢として持つことを許されなかったりするのが原因であると考えています。
誰もがジェンダーに関係なく、本当に必要なリソースにアクセスでき、自由にキャリアを切り拓ける社会になってくれればというのが私の願いです。
武藤:いま中嶋さんがおっしゃったことは本当に深刻な問題です。日本のジェンダーバランスの偏りは数字にも表れており、たとえば東京大学の学部などは女子学生が2割台に留まっています。
対するハーバード大やマサチューセッツ工科大、カリフォルニア工科大ではすでに半数が女性で、ときにはそれを超えることすらある。女性のほうが多いわけです。ではなぜ日本ではそうなっていないのか?というと、まさに中嶋さんが指摘されたような課題があるのだと思いますし、早急に解決すべきです。
鹿野:本当にそうですね。私は心から「教育を変えたい」と願うからこそ、文科省を辞してまで今ここにおります。
ジェンダーバランスの偏りは言うまでもなく、本日話題に登った課題は、いずれも解決不可能な問題では決してないはず。変えようと思えば変えられることがたくさんあるはずなんです。
だからこそ、みなさんとともにどんどん解決に取り組んで、社会を変えていきたい。明日を担う子ども達が社会に出るとき、世の中がどうあってほしいか?それを何度でも自らに問いかけながら、今後も可能な限りの努力をしてまいる所存ですので、ぜひみなさんのご助力を賜れれれば幸いです。
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一般社団法人 デジタル人材共創連盟(デジ連)は、若年層のデジタル活動を支援を通じて、デジタル人材の育成や、ウェルビーイングを通じた地域の発展と、国際社会における日本のデジタル分野の競争力向上を目指す団体です。そのために大会等のガイドライン制定、活動拠点となるプラットフォームの提供、授業支援、教員向け研修など実施します。
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