(取材)危険な蜂の巣をドローンで除去?清掃サービス大手・ダスキンの挑戦
ダスキンが挑む蜂駆除×ドローン
――「清掃」のイメージが強いダスキンですが、害虫の駆除も行っているそうですね。南:そうです。あまり知られていないのですが、1977年から害虫駆除サービスを展開しています。飲食店ではゴキブリやネズミの定期的な駆除を行って衛生的な環境を保ち、個人宅ではゴキブリやシロアリ、蜂やムカデなどの駆除を行っています。
――蜂駆除の現状と課題はどうなっているのでしょうか。
南:蜂の駆除は大変危険な作業です。防護服は万一蜂に刺されたときでも針が身体に届かない特殊な素材を使っていますが、分厚いものなので着用すると非常に暑いです。蜂駆除のご依頼は夏から秋にかけて多いのですが、防護服を着ていると熱中症や脱水症状を起こすリスクもゼロではありません。
また高所に巣があると、作業の難易度も危険度も増加します。そのため、駆除をお断りするケースも相当数に上ります。
それから実際の駆除の場面では、住宅街や学校の通学路に巣がある場合、近隣の住民や学生に迷惑をおかけしないよう作業の時間帯を夜間にすることがあります。ところが、夜間になると視認性が悪くなり、作業効率が下がるのです。このように、注意しなければならないことが多岐に渡っているのが蜂駆除の難しさといえます。
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――そんな中、兵庫県と新産業創造研究機構(NIRO)による2021年の「ドローン先行的利活用事業」に採択されました。応募された経緯を教えてください。
齋藤:まず前提として、ダスキンではいろいろな新しいことにチャレンジする風土があります。ドローンが普及し始めたことを受け「害虫駆除でも活用できないか」と考えはじめ、2020年ごろからドローンを活用した蜂駆除のプロジェクトがスタートしました。
ダスキンのゴキブリ駆除の手法の一つに、ゴキブリを掃除機で吸い取って駆除するというやり方があります。薬剤を撒いて駆除するよりも薬剤の使用量を格段に抑えられるため、環境負荷の少ない社会づくりへの貢献を目指すダスキンとして積極的に展開してきた手法です。
これを蜂駆除に応用し、「ドローンに掃除機を乗せ、蜂を吸ったらいいのではないか」というアイディアが出てきました。それをどんどんブラッシュアップしていき、実用化に向けて進めていきました。
そんな中で、兵庫県が官民連携で民間分野でのドローンの高度利用を促進する事業の公募を始めました。実は、兵庫県は神奈川県と並んで蜂駆除の相談件数が多い県です。どちらも、人口の密集地と自然との距離が近い点で共通しています。
日本ペストコントロール協会によると、2016~2020年の5年間で兵庫県が相談件数トップになったのは4回。2020年では4245件の相談が寄せられています。実証実験を行うには適している地域だと考えて応募したところ、ありがたいことに採択されました。
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掃除機で吸引、ドリルで粉砕
――実証実験の具体的な内容について教えてください。南:これは新規開発した蜂駆除用ドローンの機能性、作業性、効率性、安全性、行政への申請手順などを評価し、若干の改良を加えながら、早期の社会実装を目指すというものです。兵庫県内で実際に蜂が巣を作った4ヶ所で駆除作業を行いました。
第一段階として2021年9月〜12月にかけて住宅地から離れた場所にある鳥居や空き家の軒下に作られた蜂の巣を駆除。同年12月には第二段階として、橋梁部の人の手が届かない場所で実験を行いました。
これまで、橋梁部といった場所での作業は難易度が高く、なかなか実施できませんでした。そのため、この実験が成功すれば場所が増えると非常に期待を寄せていました。
――蜂駆除用のドローンにはどのような特徴があるのでしょうか。
南:蜂駆除専用のドローンには、①有線給電②バキューム吸引③パーツ換装の三つのポイントがあります。
まず一つ目の「有線給電」。ドローンというと無線で自由に飛んでいくイメージがあるかと思いますが、あえて有線を使用しています。これは、飛行時間とパワーの面でメリットがあるためです。
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バッテリーを使用する一般的なドローンの飛行時間は15〜20分程度ですが、有線給電なら最大6時間程度の飛行が可能です。それに、バキュームやドリルを使う際には掃除機程度のパワーを必要としますので、そもそも無線でその力を確保するのは難しいです。
有線といっても、ダスキンで使用するドローンは30mの高さまで飛ぶことができるので、多様なシーンでの活用が可能です。有線にすることで、ドローンが勝手に飛んで行ってしまう事態も防げます。
二つ目の「バキューム吸引」では蜂の習性を利用し、掃除機で蜂を吸引します。まずは掃除機の一部を黒く塗り、黒色に反応して向かってくる蜂をおびきよせます。蜂は危険を感じると警報フェロモンを出し、仲間を呼びますから、蜂を吸引すればするほど掃除機を「敵」とみなし、自ら向かってきます。その習性を利用して次々と蜂を吸い込んでしまうのです。
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三つ目が「パーツ換装」。バキュームでは蜂を吸うだけで、巣自体の駆除はできません。しかしお客様からは、やはり「巣まで撤去してほしい」との要望が寄せられます。そこで、蜂を吸引し終えたところでノズルをドリルに交換し、巣を除去します。回転する刃によって巣を削り取り、落下させる方法です。
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――ドローンの羽根に蜂が絡まり、飛行が不安定になったりドローンが破損したりすることはないのでしょうか。
南:もちろん蜂が羽根の方に向かってきてしまうことも想定しています。ただ、実験段階では特に大きな問題はなかったですね。蜂はそんなに固くないので、羽根にぶつかると蜂の方がバラバラになります。
――吸引した蜂がノズルから外に出ていくことはないのでしょうか。
南:それもないですね。ゴキブリを吸う掃除機で採用しているゴミパックを蜂駆除用の機体にも取り付けていますが、中に逆止弁があり、蜂が出られないようになっています。またゴミパック形式を採用することで、吸い取った蜂を簡単に処分できるメリットもあります。
「難現場」での活用に期待
――実証実験の結果は。南:実証実験を行った4ヶ所すべてで駆除に成功しました。私たちの期待通り、これまで対処が難しかった高所でもかなり有効であることが立証されたことは嬉しかったですね。
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同時にいくつかの課題も明確になってきました。まずは近隣の住民に対するこれまで以上の配慮の必要性です。いままでも丁寧に周知してきましたが、ドローン自体に不信感を持っている人がいるのに加え、作業をするとそれなりの音も出ます。作業前により広い範囲で作業内容や安全性の説明をしておかなければ、理解が得られない場合があることがわかりました。
次にドローンそのものについてです。一つは大きさの問題。蜂駆除にはある程度のパワーが必要なことから、今回の実験では86センチ×86センチの大型の機体を使用しました。
ただ実際に飛行させてみて、高所では確かにパワーが必要ですが、2階建ての建物程度だとそこまで大型のものは必要ないことがわかりました。今後はむしろ、小型でないと飛ばせない場所も多く出てくるはずです。ドローンによる蜂駆除を浸透させていくためには、小型化を検討する必要があると考えています。
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また、一般的なドローンは対象物に衝突しないように制御しながら飛行していますよね。ところが蜂駆除では、あえてこちらから衝突しにいく必要があります。そのため、カメラやプロペラの破損率が高くなることが考えられます。
それに伴って、操縦者についても高いスキルが求められます。ドローンが破損した場合に操縦者が現場でメンテナンスする必要もありますし、そもそも操縦が難しい。
このドローンは4枚の羽根で飛行しながらさまざまな方向から攻撃を加えますが、角度によっていずれかの羽に力が集中してかかる場合があります。そのような場面に対応できる技術を取得させるために、しっかりと研修を実施する必要があると考えています。
――今後の展望を教えてください。
南:ドローンの活用には多くのメリットがあります。高所などの「難現場」と呼ばれるシーンでも安全性を確保できるようになったことで、これまでお断りしていた作業を引き受けられるようになるはずだと可能性を感じています。お客様が「ダスキンに頼んでよかった」と言っていただけるよう、2023年度内のサービス開始を目指して推進しています。
――サービス展開を推進する上では、どのような壁があるのでしょうか。
南:やはり操縦技術の向上は必要ですね。目視外飛行が解禁され、いま社会的にも高度な操縦技術が求められています。私たちとしてはできるところから一つずつステップアップしていくことが肝心だと考えています。
そのほか実証実験でわかったこと以外の課題としては、ドローン自体がまだまだ高額である点が挙げられます。害虫駆除にドローンを利用している業者もまだほとんどありませんし、機体の破損リスクも高い。サービスとして展開していくためには、機体のコストを下げていかなければなりません。
あとはドローン活用の有効性を社会に広く理解していただけるよう、着実に実績を積み重ねていく。そうすることで、ドローン業界全体を盛り上げていくことにもつながると思っています。
――ドローン業界を盛り上げるため、ドローン事業に取り組む他の事業者にもぜひ一言お願いします。
南:ドローンはさまざまな分野で役に立つものです。一方でドローンがより社会に浸透していくためには、まずは多くの方に興味を持っていただくことが必要です。そのためには、今後どれだけ多くの分野でどれだけの活用事例を出していけるかかが鍵を握ります。
私たちは害虫駆除の分野でドローンの活用を考え、蜂駆除にたどり着きました。もちろん事業としては費用対効果を考えることが必要ですが、目指すゴールを設定し、まずは挑戦してみることが大事です。取り組んでみてはじめて、その先に見えるものがあるはずです。ぜひ一緒に挑戦していきましょう。
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