2月19日開催「MITOU2022 Demo Day」レポート|ITで世の中の困りごとは解決できる?未踏クリエータらのアイデアとは

2月19日開催「MITOU2022 Demo Day」レポート|ITで世の中の困りごとは解決できる?未踏クリエータらのアイデアとは
2023年2月18・19日、経済産業省およびIPA(情報処理推進機構)が展開する「未踏プロジェクト」の成果発表会「MITOU2022 Demo Day/第29回 未踏IT人材発掘・育成事業 成果報告会」が開催されました。本プロジェクトは、今後IT化が進むうえでカギとなる「突出したITスキルを持った人材」を発掘し、育成することを目的としたものです。

イベントでは2日間で総勢21組のクリエータたちが、限られた開発期間の中で形にしてきた「自分だけのアイデア」を存分に披露し合いました。本レポートでは、各プロジェクトの内容とクリエータたちが語った熱い思いをダイジェストでお届けします。

抜かない型を前提とした型設計支援ツールによる物作りの自在化:皆川 達也

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


型に材料を流し込むタイプの「型成形技術」は量産性などに優れる一方で、型から抜かなければいけないという制約があるのも事実。型から抜けない形は成形できないという欠点を払拭すべく、本プロジェクトでは、抜くのではなく除去する形で「抜かない型」の実現を目指しています。

本来の型成形であれば抜き取れない奥まった部分には、鋳造における「中子」のようなパーツを別途用意することで対応。中子は溶かせるワックスで出来ているため、温度を上げることで自動的に型が除去され、3Dプリンタでなければ作れない形でも難なく実現できるとのこと。

3Dプリンタの登場によってものづくりのフェーズは確実に進行しているが、決して型成形技術が廃れているわけではないことを考えさせられる内容になっています。クリエータの皆川氏は結びに「型成形と3Dプリンタの技術を融合した本ツール「Katalyst」が広まれば、型成形による自在なものづくりができる社会が実現する」と熱く思いを語ってくれました。

トラッキング技術を用いたサッカー試合映像の検索・分析システム:内田 郁真、スコット アトム

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


数多くのプロサッカーチームが技術向上のために「試合映像の分析」を行なっている一方で、アマチュアチームではまだまだ積極的に映像を活用できていないという現状に目を付けたプロジェクトです。

撮影者がいない・機材が高い・編集が大変で活用できない……などの問題を解消すべく、今回の試合映像セレクトアプリ「TASC」開発に至ったとのこと。

トラッキング技術を用いているため「無人自動撮影」が可能なほか、AIが「試合のハイライト生成」「比較映像提案」まで自動で対応。コーチや選手への負担ゼロで、アマチュア選手でも気軽に映像分析を練習に取り入れることができるとしています。

クリエータのスコット氏は「今後は開発・調整を回して全国のサッカーチームにTASCを広めていきたい」としたうえで、「最終的にはAIを活用して『人の動きが計算可能な世界』の実現を目指したい」と大きな夢を語りました。

建築土木の鋼構造体工事における膜厚管理システムの開発:中村 凌平

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


橋梁・鋼橋といった公共設備の改修塗装においては、作業後の検査を「膜厚管理」と呼ばれる手法で行うことが主流です。これは計測器を用いて「塗料が一定水準以上に塗布されているか」を確認するものですが、特定の「点」で計測するというシステム上、膨大な回数および時間を要する点がデメリットとして挙げられており、集計作業や合否判定などの事務作業が大量に発生してしまうのも懸念だと言います。

本プロジェクト「マクアツ」は、共同創業者の膜厚管理に関するボヤキからインスピレーションを得て「人がやるには荷が重すぎるこの業務を何とかしたい」と思い立ったことから始まりました。マクアツを使えば「面」での測定が可能になり検査時間を大幅短縮できるほか、これまで事務所に戻ってからやる必要があった事務作業も現場でほぼ完結するように。研究成果によれば、既存業務を83%削減することに成功したとしています。

建築・土木業界では、今後2〜3年のうちに「公共設備の深刻な老朽化」「管理人材の一斉退職」が同時に起こると懸念されています。そんな危機的状況に、クリエータの中村氏は「今後必ず来る社会的な流れ。その解決策として、時短かつ専門知識なしに扱える『マクアツ』を提示していきたい。」と自信を示しました。将来的には、SaaS(ソフトウェア)等として事業化も検討しているとのことです。

スマートフォン向けにカスタマイズが可能なサイレントスピーチインタフェース:蘇 子雄、方 詩涛

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


「OK、Google」などが有名なボイスアシスタント機能を利用している人は、きっと多いはず。しかし声を認識するという都合上、大勢の人が入り乱れるところでは精度に欠ける人の前で使うのは少々恥ずかしいといった使いにくさがあるのも事実です。

本プロジェクトでは、スマートフォン(iPhone)のカメラを用いて口元の動きを画像で読み取ることにより、無声(口パク)でも入力可能なシステムの構築を目指しました。

本研究のような「リップリーディング」と呼ばれる手法は既にいくつか存在していますが、データ処理や語彙数などに課題を抱えているのが現状。今回開発したシステムでは、独自のリップリーディングモデルを構築・実装することで、既存手法よりも幅広い言葉・言語の認識を可能にしたとのことです。さらには継続学習や独自コマンドの作成も可能なため、使えば使うほど自分に適したシステムに洗練されていくとしています。

現在はソースコードの公開のみで、まだアプリとしての公開までは至っていない模様。「いずれAppleStoreでのリリースも視野に入れている」と、クリエータの蘇氏は話しています。

ハイブリット会議のためのマイクシステムの開発:関 健太郎、大澤 悠一

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


コロナ禍でリモートワークが急速に推進されてきたこともあり、現地(会議室)とオンライン(Zoom)とを混ぜた「ハイブリット会議」がよく見られるようになりました。遠隔からでも会議に参加できる一方で、マイクから遠い人が話しているとオンライン側は聞き取りづらかったり、発話のたびにマイクの「ミュート/ミュート解除」をしなければならなかったりと、何かと不都合が多いのが現状。

対面会議と遜色ないほどスムーズに、ハイブリッド会議を実施できるようにしたい」との思いから開発されたのが、本システム「Easy Meeting」です。

各自のスマートフォンから収集した音声を統合することで、会場内に一つの大きなマイクがあるようにする、というのが今回のアイデア。出席者は本システム起動後に表示されるQRコードをスマホで読み込むだけで、即会議に参加できるとしています。

現状はユーザー側の操作をなくし、とことんシンプルさを追求したシステムとなっていますが、クリエータの関氏によれば「ユーザー側を巻き込む機構の導入も考えている」とのこと。今後の展望としては「大規模会議への応用を考えている。本システムがあれば、成果報告会などでよく見受けられる『発言者へのハンドマイクの移動』をなくせる」と話しています。

レイアウトの自由度とキー操作性を両立したノートテイキングアプリケーションの開発:稲葉 皓信

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


昨今は紙を使わずパソコン・タブレットといったデジタル端末を用いてメモを取る人も増えています。そんな中、クリエータの稲葉氏は「パソコンだとレイアウトが固定的、タブレットだと入力スピードが遅い」というそれぞれの問題点に着目。新しいノートテイキングアプリケーションで解決策を提示したいと思ったことが、本プロジェクト「鍵記(Kenki)」開発開始のきっかけだということです。

キーボード特化アプリは「ショートカットが覚えられない」という問題が起こりがちですが、鍵記は「次の状態へ遷移するためのコマンドが最小限」「最初はマウスと併用しながら学習していける」という特徴が仕込まれているのがポイント。習得のしやすさも考慮されています。

本システムのユースケースとしては「ノート上に自由に思考を発散できることから、研究や勉強への利用が第一に考えられる」と話しています。加えて「記したキャンパスをそのままプレゼン資料にすることで、発表ツールにも活用できる。フルでプレゼンをサポートする機能を今後搭載していきたい」と展望も示しました。

締めくくりには「各種アプリがフルキーボード化することによって、デスクワーカーの健康被害として挙げられる『ストレートネック』『パソコン肘』などの抜本的な解決にもつながるのではないか」と、キーボード活用の有用性についても語っています。

UVプリンタを用いたラインストーン造形システムの開発:島元 諒

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


アクセサリーなどのハンドメイド作品で良く用いられる「ラインストーン」。手作業で一つ一つ貼り付けていくという従来手法の大変さに目を向け、特殊なプリンタで気軽にラインストーン作品を作成できるようにしたのが本プロジェクトです。使用するプリンタは「UVプリンタ」という、紫外線で固まるインクを利用したもの。自身の研究テーマだと言います。

特徴は、スマートフォンを使って絵を描くようにラインストーンのデザインを作成できる点。「貼り付け」工程自体はUVプリンタが代行してくれるため、細かいラインストーンを大量に配置するような手作業では難しい作品もデザインできるのが魅力としています。

実際に本システムを試せるワークショップを開催したところ、幅広い年代の方から高評価をいただけたとのこと。「オリジナルのラインストーン作品を楽しく作成できるシステムになった」と喜びをあらわにしました。

今後の展望としては「よりこだわったラインストーン作品が作れるような機能追加も検討していきたい。UVプリンタの設置されているメーカースペースでの活用にも繋げられたら」と語っています。

切磋琢磨を促すリモートフィットネスアプリケーションの開発:石井 峻

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


運動をすることは、健康維持・体力増強などのあらゆる面において重要です。それを頭ではわかっていても、一人ではモチベーションを維持するのが難しく、だからといって複数人だと予定を合わせるのも難しい

本プロジェクトで開発されたアプリ「Runder(ランダー)」は、そんなもどかしさを解消するものとなっています。私たちの身近にあるスマートフォン・スマートウォッチなどのデバイスを利用してマッチングすることで、遠隔でも切磋琢磨しあいながら運動に取り組むことが可能に

本アプリには「競争モード」と「協力モード」の2種類を搭載。前者はお互いの運動量がリアルタイムで画面に表示されるため、一人なら「疲れたからやめようかな…」と思うような場面でも「負けてたまるか!」という気持ちに。後者は勝ち負け・体力差などにこだわらず、穏やかな気持ちで運動を継続できるとしています。

マッチングして運動に取り組んでいる様子を「客」として観戦する機能が備わっているのも面白いところ。誰かが運動しているところを見ることで「自分もやってみようかな?」というやる気を誘います。

「今後は1対1ではなく組織単位で健康経営をサポートするような機能を実装し、本アプリを使って何か社会貢献ができたら」と、クリエータの石井氏は語りました。

ラップバトル対話システムの開発:三林 亮太

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


2人のラッパーが対話形式で即興ラップを披露する形で行なわれる「ラップバトル」。プロでもない限り即興で韻を踏むことは相当難しく、素人では簡単には楽しめないのが現状。「もっと簡単に創造的なラップをする方法はないか」と考えたときにAIの活用が浮かび、本システム「踵(KIBISU)」の開発を決めたとのことです。

ラップバトルは、人間でもとてつもない語彙と頭の回転を必要とする創造的な競技。やりたいとは思っても、対戦相手の確保の問題、練習場所の問題など、さまざまな課題がありました。今回開発されたシステムがあれば、誰でも家で手軽にラップバトルを楽しめるとしています。

クリエータの三林氏は「現状はまだまだ『とりあえず』のシステムを作った段階」としたうえで、今後について「生成するラップの精度を今よりも向上させ、現在の将棋・囲碁AIみたいに存在感を出していきたい。ゆくゆくはロボットのラップバトルも開催出来たらと思っている」と意欲を示しました。

リアルタイムな動画内物体認識技術を用いた物探しシステム:長沢 瑛史

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


本プロジェクトの物体認識システムは、自身がスーパーに買い物へ行ったときに感じた「目当ての商品がなかなか見つけられない」「広い店内を探し回るのはつらい」といった大変さの解消を目的に開発されました。使い方はいたってシンプルで、専用アプリで探したい商品を検索してモデルを読み込み、カメラで陳列棚を移すという2STEPだけ。カメラが該当する商品を捉え次第、色・バイブレーションで通知してくれるという仕組みになっています。

物体認識技術はすでにいくつか存在しているものの、識別したい画像を大量に集めて学習させる必要があるため、探し物のような即時的な検出が難しいのが欠点でした。本システムでは、あらかじめ読み込んだモデル画像+カメラに映った商品画像の「2枚の画像」に同じ物体が含まれているかどうかだけで物体認識が可能なため、学習の必要がなく非常に手軽です。

発表中のデモンストレーションでは、登録したモデルを正確に検知している様子が見られた一方で、似たようなパッケージの商品だと少々誤認識してしまう一面もありました。クリエータの長沢氏は「精度のさらなる向上を今後の目標としていきたい」と語っています。

複数のARMマシンを一つに集約するハードウェア仮想化レイヤ:飯田 圭祐、柚山 大哉

画像出典:MITOU2022 Demo Day (2日目) YouTube Live映像より


サーバーの処理性能を上げる方法の一つに、マシン台数を増やす「スケールアウト」という手法があります。しかし、複数マシンを管理するためにはハイパーバイザと呼ばれる専用のソフトウェアが必要になるため、一般ユーザーには少々難易度が高いのも確か。

本プロジェクトでは、独自のハイパーバイザを構築しオープンソースとして公開することで、誰でも気軽にスケールアウトの恩恵を受けられるようにすることを目的としています。

集約元となる物理マシンのプロセッサとして、昨今特に注目されている「arm」を選定しているのが特徴。armは、Apple社の現行Macbook Air、スーパーコンピュータとして知られる「富岳」などのCPU部に用いられているアーキテクチャです。消費電力の低さ・パワフルさを両立するとして著しく普及が進んでいることから将来性を感じ、本プロジェクトでも取り扱うことを決めたとのこと。

本プロジェクトで開発されたソフトウェア「Pilevisor(パイルバイザ)」を用いれば、安価なarmマシンを買い足して能力の底上げを図ったり、使わなくなった古いパソコンの資源をメインマシンの性能向上に利用したりすることが手軽に実現可能に。

クリエータの飯田氏は本システムについて「arm向けに実装されており、かつOS・アプリを改変せずに実行できるオープンソースソフトウェアは私たちが知る限り世界初。Pilevisorを日本初の新しいハイパーバイザとして普及していきたい」と意気込みを語りました。

まとめ

未踏プロジェクトの統括PM(プロジェクトマネージャー)である竹内郁雄氏から「採択時点の事前発表から今日の本番プレゼンまで、ものすごく進歩している」とのコメントがありました。成果報告会では華やかに見える各プロジェクトも、数多の葛藤・困難を乗り越えた末にたどり着いた結果なのだと感じさせられます。

IT人材の不足が著しい今、未踏は国としても非常に注目度の高いプロジェクト。より多くの人材発掘・育成していくために、今後も精力的に活動を続けていくとのことです。IPA理事の奥村明俊氏も「現在の応募者・採択者は東京圏に集中している状態。全国各地からぜひ応募していただいて、自身の可能性を広げていってほしい」と話しています。

応募時点ではどのプロジェクトもまだまだ荒削り状態。「自分のアイデアなんて…」と気後れすることなく、情熱をもってまずは応募してみるのもいいでしょう。新たな知見・人とのつながりが得られ、より充実した未来が開けるかもしれません。
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