2月18日開催「MITOU2022 Demo Day」レポート|突出したITスキルを持つ未踏クリエータたちが生み出した研究成果とは

2月18日開催「MITOU2022 Demo Day」レポート|突出したITスキルを持つ未踏クリエータたちが生み出した研究成果とは
2023年2月18・19日、経済産業省およびIPA(情報処理推進機構)が展開する「未踏プロジェクト」の成果発表会「MITOU2022 Demo Day/第29回 未踏IT人材発掘・育成事業 成果報告会」が開催されました。本プロジェクトは、今後IT化が進むうえでカギとなる「突出したITスキルを持った人材」を発掘し、育成することを目的としたものです。

イベントでは2日間で総勢21組のクリエータたちが、限られた開発期間の中で形にしてきた「自分だけのアイデア」を存分に披露し合いました。本レポートでは、各プロジェクトの内容とクリエータたちが語った熱い思いをダイジェストでお届けします。

麻雀プロのためのAI牌譜解析ツール:大神 卓也、奈良 亮耶、天野 克敏、今宿 祐希

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より



将棋や囲碁のプロがAIツールを用いて戦術を研究している一方、プロ雀士はまだ積極的にAIを活用できていない現状に問題を見出し、始められたのが本プロジェクトです。

麻雀は、相手の手牌を含む「見えない牌のパターン」が約1極(10×10の48乗)通りあると言われているほど、非常にランダム性の強いゲーム。AIを使うことで最善手を導くことは出来ないかと考えたことが、今回の麻雀AI「」開発のきっかけになったとのこと。

クリエータの今宿氏は「麻雀プロに納得して使ってもらえる麻雀AIを作成し、学習や放送対局の解説などに活用してもらいたい」としたうえで「将棋界でAIによって起こった変化を麻雀界にも引き起こすきっかけになりたい」と語りました。

ハードウェアを意識しない組み込み開発環境:饗庭 陽月

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


家電やAV機器・通信機器などの開発に用いられる「組み込み」の分野においては、ハードウェア開発の難しさがボトルネックとなっています。そんなハードウェア開発を独自のブロック状デバイス「mCn」で代替することで、組み込み開発のハードルを下げるのが本プロジェクトの目的です。

スマートフォンに接続できる「ベース」と呼ばれるパーツ、ベースに取り付ける「モジュール」と呼ばれるパーツだけでハードウェアが完成するので、開発者はソフトウェアさえ作ればOK。そのソフトウェアさえも、直感的操作が可能な独自の開発環境が整えられており、従来の組み込み開発とは一線を画す手軽さとなっています。

mCnは今回発表の機種ですでに5代目で、クリエータの饗庭氏によれば「モジュールをアップデートできる仕組みづくりや、専用スマホ『Xphone』の開発を進めているところ」とのこと。「mCnは革新的な開発環境であり続けたい」と結んでいます。

祭り運営を支援するアプリケーションの開発:阿部 優樹、辻口 輝

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


日本を含む世界各国で開催され、人々を盛り上げている「祭り」。本プロジェクトは、そんな祭りを裏で支える「運営側の負担」が大きすぎる点に目を付け、運営メンバー含む参加者全員で祭りを存分に楽しむことを目標としたものです。

開発されたツール「temaneki」を用いることで、これまで特に大変だった「ボランティアの管理・連携」が直感的かつ簡便に。運営側がスケジュールを設定するとリアルタイムでボランティア側にも反映されるほか、シフトを自動で割り振ることも可能で、運営の敷居・負担が大幅に低減できます。

さらには祭りを開催するごとにデータが蓄積され「引継ぎ資料」が生成されていくことから、昨今各地の祭りで問題になっている「継承問題」にも寄与できるとのことです。

「temanekiを活用してみんなを運営側に『手招く』ことで、楽しい祭りの未来を実現したい」と、クリエータの阿部氏が熱く語ってくれました。

VRと電動トレーニング機器を用いた筋力トレーニングシステム:栗本 知輝、黒木 琢央、松田 響生

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


世界的疫病流行による健康意識の向上、YouTubeなどの動画プラットフォームの利用者の増加といったさまざまな理由から、昨今筋トレやフィットネスが注目を集めています。しかし、なかなか続けられなかったり効果が薄かったりと「筋トレはつらい・楽しくない」といった印象がぬぐえ切れていないのも事実。

本プロジェクト「TRAVE」の開発目的は、筋トレグッズの中でも人気のある「電動トレーニング機器」と先端技術である「VR機器」を融合させることで、新しい筋トレ体験を提供すること。筋トレの課題としては主に「単調さ」「辛さ」「孤独さ」の3つが挙げられますが、それぞれにアプローチするVRコンテンツを利用することで、モチベーション高く継続できるとしています。

クリエータの栗本氏いわく「新しいVRコンテンツの作成、自宅・ジム両方で使えるようなシステム展開、既存のトレーニング機器の機能拡張などを目標に、現在も開発を続けているところ」とのことです。

動画でフィギュアスケートの練習を支援するシステム:山形 昌弘、麻 大輔

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


自身がフィギュアスケートプレイヤーとして練習に取り組む中で「ジャンプ」に苦戦してきた経験を振り返り「どうにかしてもっと手軽にジャンプを習得できないか」という切なる思いから始まったのが本プロジェクトです。

ジャンプが成功するかどうかは「踏切」でほぼ決まることから、踏切の間違いを効率的に直すシステムが有効だと考え、今回「SkateJumpBoard」を開発。スローモーションかつガイドに沿って踏切を練習できるため、闇雲に氷上で練習を繰り返すよりも効率的に「型」を習得できるとのこと。

クリエータの麻氏は「SkateJumpBoardでフィギュアスケートのジャンプの練習に革命を起こしたい。直すべきポイントが分かっているのに直せないという停滞状態をなくし、着実に進歩できるような世界にしたい。」と理想の未来を語りました。

疲労を推定する体重計型デバイスの開発:北道 広大、村山 大騎、鶴岡 萌捺、中村 優真

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


日々デスクワークを行なっていると、なんとなく「疲れているなぁ」と感じることは誰しもあるはず。そんな疲れを客観的に見ることができないかと思い立ったことが、本プロジェクト開始のきっかけとなっています。

当初の目標は、乗るだけで身体年齢やメンタル状態をチェックできる「次世代の体重計」の実現でした。結果的に体重計型デバイスの開発は断念せざるを得なかったものの、その際に得た触覚の強さ(触力)の知見を活かし、触覚を自分に最適化(オーダーメイド)するアプリ・デバイスである「以振伝振」が誕生したとのこと。

「今後触覚に関係するデバイスが登場してくるにあたって、視力・聴力などと同様に 『触力』の検査も必要になってくるのでは。そういったユースケースが出てきたときに活用してもらえるデバイスでありたい」と、クリエータの北道氏は展望を示しています。

内部処理分析を基にしたWebアプリケーションのセキュリティSaaSの開発:赤松 宏紀、大迫 勇太郎

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


私たちが普段利用している種々のWebアプリケーションにおいて、脆弱性をついたサイバー攻撃は後を絶ちません。そのため開発側では、頻繁に脆弱性検査を実施する必要があるなどの負担を強いられている状況。本プロジェクトは、そんな脆弱性からの「防御・検査・対策」を一度に担うサービス実現を目指すものです。

クリエータたちは、既存のセキュリティシステム「Web Application Firewall(WAF)」での検知が難しい攻撃に注目し、今回のシステム「Phrude(フルード)」を開発しました。これまで問題視されていた「システムの穴をついた攻撃」にもしっかり対応し得るサービスができたとのこと。

一方で、使用できるプログラミング言語が限られるといった弱点もまだあるとしています。クリエータの大迫氏は「今後も開発チームと連携しながら、さまざまな言語で発生しうるセキュリティ侵害を食い止めるサービスへと成長させていきたい。既存のセキュリティサービスとの連携も検討している」と語りました。

HDCアクセラレータとRISC-Vを組み合わせたエッジサーバの開発:井阪 友哉

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


機械学習の手法としては「深層学習(ディープラーニング)」がよく知られていますが、後発の「超次元ベクトル計算HDC』(Hyperdimensional Computing)」と呼ばれる手法に可能性を見出し、始められたプロジェクトです。従来の機械学習法と比べて高速・低消費電力・ロバスト(堅牢)といった特徴を有しており、昨今注目を集めている「エッジコンピューティング」の分野に最適としています。

本プロジェクトでは、HDCと低価格CPUを一体化したユニット「HPU」を開発。HDCを活用していることで、CPU単体の能力と比べて速度160倍、消費電力1/13000倍という驚異的なスペックを実現できたとのこと。高性能CPUとして知られるmacの「M1 Max」を上回る学習能力・処理速度も示しています。

クリエータの井阪氏は「今後は製品化を目標としているが、価格の低廉化・USBデバイス化・ICチップ化など、考えることはまだまだある。引き続き開発を進めていきたい」と述べています。

翻訳IMEとInput Method抽象化レイヤの開発:竹村 太希

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


ネット普及により国際的な交流が身近になってきている今「翻訳」は特に注目度が高い分野です。本プロジェクトは「Google 日本語入力」などで知られるIME(入力文字変換機能)そのものに翻訳機能を付与することで、英語を用いたコミュニケーションをより気軽に楽しもうというコンセプト。

これまでの翻訳作業と言えば、以下のような非常に多くのステップを必要としていました。

  • ブラウザを開いて翻訳サービスにアクセス
  • 日本語を入力
  • 生成された英語をコピー
  • アプリへ戻り入力窓にペースト

今回開発したIME「Konjac(こんにゃく)」があれば、どんなソフトを使っていたとしても、キーボードから日本語を打ち込むだけで計28言語に自動翻訳してくれるのです。

クリエータの竹村氏は「既に多くの人から『使いたい』との要望をいただいている。実際にオンラインIMEサービスとして提供すべく、実装を進めていきたい。」と今後の展望を示しています。

なお同プロジェクトでは「抽象化レイヤ」と呼ばれる、IME開発の敷居を下げる仕組みについても並行して研究が進められています。こちらも「今後ドキュメントを整備し、オープンソースとして公開していく予定」とのことです。

直和型の代わりにユニオン型を持つ静的型付け関数型プログラミング言語の開発:伊藤 謙太朗、福間 遼太郎

画像出典:MITOU2022 Demo Day (1日目) YouTube Live映像より


プログラミング言語には多数の型がありますが、その中でも「ユニオン型(union) 」は、記述がシンプルになるなど利便性に優れています。しかし、C言語やJavaといった「静的型付けプログラミング言語」においては、そもそもユニオン型をもつ言語が少ないのが現状。クリエータたちはこれを課題として認識し、独自言語の開発を決めたとしています。

本プロジェクトで開発された言語名は「Cotton(コットン)」。静的型付け言語であるにもかかわらず、一般的な直和型ではなくユニオン型を採用したことが大きな特徴とのこと。「直和型でできることは大抵ユニオン型でもこなすことができるし、ユニオン型の方が記述に冗長性がなくシンプル」というのがクリエータ2名の見解です。

クリエータの伊藤氏は「Cottonによって『静的型付け言語×ユニオン型』の相性の良さを示し、新しい関数型言語を開発しようとした人が「直和型ではなくユニオン型を採用しよう」と思ってもらえるようにしたい。」と語っています。

まとめ

今回プロジェクトの指導に当たったPM(プロジェクトマネージャー)からは「今年はどのプログラムもレベルが高くて驚いた」とのコメントが多く寄せられました。未踏は2000年に始まり今年で22回目となりますが、新たな技術の登場やクリエータ自身のスキル上昇等が相まって、年々進歩している様子がうかがえます。

昨今はAI・人工知能などの先端分野が急速に普及している一方、実際に扱える人は少ないという点が課題として挙げられています。経済産業省によれば、2030年までにIT人材が最大79万人不足するとのデータも。

突出したITスキルを持つ未踏クリエータは、これからの日本産業を担うキーパーソンといっても過言ではないでしょう。今後も「課題を発見する視点」と「アイデアを形にする技術」を武器に、世の中を豊かにするプロダクトを生み出してくれることに期待したいところです。
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