教育版マインクラフトの利用における注意点とは?民間事業者が押さえておきたいポイント・ありがちな規約違反の例も解説

教育版マインクラフト 民間事業者・塾が注意したいこと
生徒の学習意欲や集中力が上がるとして、昨今「ゲーム型学習」が注目を集めています。

その代表的なソフトに「教育版マインクラフト」があります。同サービスは当初、小・中学校、高校といった「認定教育機関」でしか利用できなかったものの、2021年に実施されたアップデートにより民間事業者も気軽に導入できるようになりました。

一方で、購入するライセンスや適用される規約が教育機関向けとは異なるため、利用に際しては十分注意が必要です。そこでこの記事では、教育版マインクラフトの概要やライセンスの種類をはじめ、民間事業者が教育版マインクラフトを導入するうえで気を付けたい注意点・ありがちな規約違反の例などを詳細にまとめました。

記事後半では、教育版マインクラフトを適切に活用して成果を挙げている事例も多数紹介しています。「自社にも取り入れてみようかな」と考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。

Java版・Bedrock版とは何が違う?教育版マインクラフトならでは特徴とは

通常のマインクラフトには、PCでプレイする「Java版」、ゲームハードやスマホでもプレイできる「Bedrock版」の大きく2種類があります。そんな中「Bedrock版をベースに教育用の機能を多数追加したもの」として、2016年にリリースされたのが「教育版マインクラフト」です。

その他エディションとの違いとしては、主に以下のようなものがあります。

  • プログラミング環境「Code Builder for Minecraft:Education Edition」がデフォルトで構築されている
  • 学習に便利な専用アイテムがある(科学実験など)
  • 生徒たちを統率するための教師向け機能が搭載されている
  • 授業用のワールドテンプレートが多数用意されている 

教育版マインクラフトは、プログラミングや情報教育の知識習得を一つの目標としているため、その他エディションでは少々複雑な「プログラミング環境の構築」が最初から施されているのが大きな特徴。用意されている各ワールド(レッスン)を、MakeCodeやPythonといったプログラミング言語を用いながら進めていくことになるので、ワールドのテーマを学びつつ自然とプログラミングスキルが身につきます。

また「元素記号ブロック」などといった教育版ならではの専用アイテムも用意されているので、ゲーム内で科学実験を行う、といった使い方も。普通の授業ではできないような少々危険な実験も、教育版マインクラフトであれば安全に・かつ楽しく取り組めるでしょう。

このように活用の幅が非常に広いことから、新しい学びの選択肢として、リリース以降多くの教育現場で積極的に採用されてきているのです。

ハードウェアにとらわれず学べる。アップデートで追加コンテンツも続々

教育版マインクラフトは、Bedrock版マインクラフトがベースとなっていることもあり、利用できるハードが多いのも魅力。2023年6月現在、以下の機種でプレイすることができます。

  • Windows
  • Mac
  • Chromebook
  • Android
  • iPhone / iPad 

WindowsやMacといったパソコンはもちろん、各種スマートフォンにもしっかり対応。学校ではパソコン、家ではスマホといった柔軟な学習スタイルも実現できます。パソコン限定のJava版よりも、一層気軽にマインクラフトの世界を楽しめるでしょう。 

さらには不定期でアップデートも行われており、学べるワールドテンプレート・レッスンプランは続々と追加されています。中には、ウクライナの首都「キーウ」を再現したオリジナルワールドもあり、世界情勢までも学ぶことが可能です。

一部制限は設けられているものの「無料トライアル(デモレッスン)」も用意されているので、実際に遊びながら「どう授業に反映するか?」を検討できるのも嬉しいところですね。

教育版マインクラフトのライセンスの種類

無料でも遊べる教育版マインクラフトですが、本格的に利用するためには「ライセンス」を購入する必要があります。リリース当初は認定教育機関にしか提供されていませんでしたが、2021年5月26日に行われたアップデート「The Camps and Clubs Update」以降、民間の塾などでも利用できるようになりました。

以下は、現在提供されているライセンスの種類です。

  • Microsoft365 A1 for Devices/A3/A5ライセンス
    教育機関用のMicrosoft Office 365ライセンス。教育版マインクラフトのライセンスも内包されているため、追加費用なしで利用できる
  • 通常の年間ライセンス
    Office 365 Educationのアカウントを作成した状態で、Microsoftサイトより購入する通常のライセンス。生徒一人あたり年間544円。
  • 商用ライセンス
    2021年5月より新たに誕生した民間向けライセンス。通常のOffice365を契約したうえで、年間1,425円で購入できる。

商用ライセンスが誕生したことで、教育版マインクラフトはこれまでより格段に導入しやすくなりました。学校だけでなくプログラミング教室・学習塾・クラブ活動・非営利団体に至るまで、活用の場がグッと広がっています。

一方で、認定教育機関向けのライセンスとは少々扱いが異なるため、規約面などで留意すべきポイントが多くなっているのも事実。利用に際しては、公式に公開されている利用規約などをよく確認し、意図せず規約違反を犯してしまわないように注意が必要です。

利用する団体によって異なる!教育版マインクラフトの規約・条件

先に「教育版マインクラフトを利用するうえでは、利用規約をよく確認することが大切」と述べましたが、実は利用する団体・ユーザーによって、確認すべき規約が変わってきます。教育版マインクラフトにはいくつかの使用許諾契約(EULA)がありますが、それぞれ何を参照すべきなのか、利用者別にまとめました。


認定教育機関については「教育版マインクラフト自体のEULA」であるのに対し、商用利用する団体は「Microsoftのサブスクリプションに関する契約」を確認しなければいけません。同じ教育版マインクラフトであっても使い方・活用範囲などは大きく異なるということを、十分理解しておく必要があるでしょう。

なお、認定教育機関かそうでないかにかかわらず、マインクラフト公式サイトにある「terms(契約条件)」についても、ぜひ一度目を通しておきたいところ。教育版のみならず、マインクラフトというゲームにおいて「やっていいこと・いけないこと」がまとめられています。EULAと併せて確認しておくと、知らない間に規約違反を犯してしまうリスクを避けられます。

教育版マインクラフトを利用するうえで特に注意すべき点

教育版マインクラフトの各種利用規約は英語で記載されていることもあり、少々わかりにくいところもあるでしょう。先述したMinecraft Education EULAMicrosoft Online Subscription Agreement (MOSA)マインクラフト公式termsをもとに「特に注意すべき点」として抜き出すと、以下のようなものが挙げられます。

  • 個人製作のあらゆる制作物(チラシ等)に、マインクラフト(およびMojang)のロゴ・公式キャラクターは使用できない
  • 制作物には「この製品は非公式であり、Minecraft が作成または承認したものではありません」といった文言を明記する必要がある 

端的に言えば「ユーザーの制作物を、あたかもマインクラフト公式が作成したかのようにふるまうことはしない」ということ。公式は一切かかわっておらず、非公式の制作物であることをはっきりとアピールしなければいけません。

商業目的でない制作物はもとより、商業目的物に関してはより厳格にガイドラインが設けられています。マインクラフトでの制作物を外部へ公開しようと考えた際には、隅々まで規約に目を通す必要があるでしょう。

特に「マインクラフト公式terms」に記載されている以下2つの項目は要チェックです。

気をつけて!こんな使い方は規約違反 

教育版マインクラフトを商用ライセンスで利用している現場でありがちな規約違反例として「アカウントの使いまわし」といったものがあります。例えば以下のような現場であるとき、いくつライセンスを契約するのが正しいでしょうか。

  • 生徒数:30名
  • 教室にあるパソコン数:5台 

この場合、パソコン分の「5個」だけではNG。生徒数である「30個」ライセンスを契約するのが正しい使い方になります。

先述した通り、商用ライセンスの場合に準拠しなければいけないのは「マインクラフトの規約」ではなく「Microsoftの規約」です。Microsoft公式サイトにある「Microsoft License Terms(マイクロソフトソフトウェアライセンス条項)」を見ると、Office365(サブスクリプション契約)1ライセンスあたりのユーザー数は1名であることが、しっかりと明記されています。
本サービス/ソフトウェアは使用許諾されるものであり、販売されるものではありません。お客様が本規約のすべてのご契約条件に従う場合、Microsoft は、以下のとおり、本サービス/ソフトウェアのコピーをお客様が所有および管理しているデバイスに個人使用向けにインストールして実行する権利をお客様に付与します。

→ Microsoft 365 Personal サブスクリプション。お客様のみの使用向け

引用:Microsoft License Terms
現状は「パソコン分だけ契約して使いまわす」というやり方ができてしまうため、規約違反とは知らずに不正利用してしまっている人も多いのではないでしょうか。Office365はユーザーライセンス(※)であり、ユーザーごとに契約しなければならないということを理解して、正しく利用するようにしましょう。

* ユーザーライセンス…パソコン(デバイス)ではなく利用者(ユーザー)に対してライセンスを付与する方式

この使い方はOK?よくある利用事例をもとに「違反か否か」を確認

各種規約をしっかり確認したものの「これは違反にあたるのかな…?」と不安になってしまうこともあるはず。ここでは、教育現場でよくある使い方を例に挙げ、各ケースごとに「規約違反か否か」を解説していきます。

教育版マインクラフトでオリジナルのワールドを作り、それをもとに授業を展開する

授業内で利用が完結する場合、作成したオリジナルのワールドは「非商業目的物」に該当すると考えられます。マインクラフトは個人利用の作品や非商業目的物に非常に寛大であるため、このケースの場合、基本的には規約違反にはあたらないでしょう。
当社は、お客様が自身のために作成したものについては楽観しています。この場合は、ほぼすべてのことが許可されます。そのため、最善を尽くし、楽しんでください。ただし、当社の著作物は頒布しないでください。

また、当社は、その他の非商業目的物についても非常に楽観しています。そのため、動画、スクリーンショット、独自に作成した (当社資産を使用していない) Mod、ファン アート、マシニマなどは自由に作成および共有して構いません

引用:マイクロソフト公式terms BRAND AND ASSET GUIDELINES「お客様ができること」より
ただし、作成したワールドを外部に配布する、商業利用するといった場合には話が変わってきます。先述したように「マイクロソフト公式が一切かかわっていないこと」をはっきりと示すなど、必要な対応をあらかじめ頭に入れておくといいですね。

教育版マインクラフトでの授業風景(写真、動画など)を教室パンフレット等、商用の媒体に使用する

作成した教室パンフレットなどに、マインクラフト公式のロゴ・キャラクターが含まれていたり、公式と誤認してしまうようなタイトルがつけられていたりした場合には、ほぼ間違いなく規約違反に当たるでしょう。

教育版マインクラフトの商用利用については、完全に禁止されているわけではないものの、より厳格なガイドラインが設けられているため注意が必要です。チラシ・パンフレットなどへの利用を考えている場合には、マインクラフト公式terms「COMMERCIAL USAGE GUIDELINES(MINECRAFT 商用利用ガイドライン)」によく目を通しておくことを推奨します。

ゲーム内スクリーンショットをステッカーにしたりマグカップに印刷したりして販売する

このような商用利用の場合、マインクラフト公式terms「COMMERCIAL USAGE GUIDELINES(MINECRAFT 商用利用ガイドライン)」のハンドクラフト製品」の項をよく確認することをおすすめします。というのも、利用の仕方によって販売できるケース・できないケースが両方あるからです。

例えば、当該ガイドラインから読み取れる「販売できる例」としては以下の通り。

  • 製品またはデザインが、完全にオリジナルかつ他にないユニークデザイン(※)であること
    * ユニークデザイン…個人の創造性を十分に加えた、特徴的でオリジナルな作品
  • 同じ (または実質的に類似の) ユニークデザインを使用して、20個を超える商品を作って販売していないこと
  • 製品や説明書などに「NOT OFFICIAL MINECRAFT PRODUCT.NOT APPROVED BY OR ASSOCIATED WITH MOJANG」と明確に記載している
  • 年間に 5000 ドルを超える売上を得ていない etc... 

同項では「自身の創造性を活用してお金を稼げるようにすることが実際の目的」とも記載されているので、お金儲け最優先の商用利用は全般的に不正にあたると考えて差し支えないでしょう。あくまで「マインクラフトを利用して創造的な活動を行なった先に、副産物として売上がある」程度に考えておくのが無難です。
人が趣味で自分たちの作品や創造的な労働の成果を共有し、自身の創造性を活用してお金を稼ぐことができるようにすることが実際の目的です。そのため、企業が弊社のブランドまたはアセット、あるいはその両方を使用し始めるためのものではありません。万が一そのようなことがあった場合には、対処いたします。

引用:マインクラフト公式terms COMMERCIAL USAGE GUIDELINES「ハンドクラフト製品」より

参考にしたい!教育版マインクラフトの上手な活用例

教育版マインクラフトはゲーム型学習にうってつけのソフトとして、多くの教育団体が目を付け、そして実際に活用している状況にあります。そこでここでは「教育版マインクラフトを効果的に利用している全国の事例」をいくつかまとめました。「授業への上手い活用方法が思い浮かばない…」という方にとって、何か良い案を閃くきっかけとなるはずです。

事例①.授業・校務活用素材ポータル

https://kyouzai.jp/search/result/?cat%5B%5D=38&s=&catnocheck=

教育従事者向けの素材・教材・指導案などがまとめられたサイトである「授業・校務活用素材素材ポータル」では、教育版マインクラフトの指導案から操作方法、活用事例に至るまで、さまざまな参考記事が掲載されています。
本記事執筆時点(2023年6月)で、その数は40件ほど。教育版マインクラフトの導入検討段階の人はもちろん、すでに積極的に活用している方にも、参考になる情報がきっと見つかります。

事例②.徳島県上板町立高志小学校

https://edu.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1383818.html

徳島県にある、上板町立高志小学校という認定教育機関での事例です。

地元の一次産業である「藍」と、徳島県上板町が推進する「エシカル消費※」の2つをメインテーマにかかげ、教育版マインクラフトを用いて「藍とエシカル消費を広めるための理想の町」を作り上げています。

* エシカル消費…地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のこと。(引用:消費者庁より)

同校は、博報堂教育財団から「第五十二回博報賞」、時事通信社から「第三十六回教育奨励賞」を受賞した実績もある、ICT教育に積極的な学校です。

事例③.さいたま市立春里中学校

https://edu.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1390478.html

さいたま市立春里中学校では「コロナ禍で陰鬱となってしまった学校生活を少しでも楽しくしたい」という教師の思いを元に、教育版マインクラフトを取り入れています。

修学旅行が中止になってしまったことを受けて、訪れる予定だった歴史的建造物をマインクラフト上で作る、といったカリキュラムで進められたそう。実際に修学旅行班に分かれて作業するという、粋な計らいも取り入れられています。

事例④.大阪市立水都国際中学校・高等学校ほか

https://edu.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1401906.html

この記事では、以下6団体での教育版マインクラフト活用事例が一挙に紹介されています。

  • 大阪市立水都国際中学校・高等学校
    「茨城県つくば市立学園の森義務教育学校」の特別支援学級の授業用にワールドを作成
  • 長野県教育委員会スクールカウンセラー
    不登校だった複数名の児童を、マイクラのワールドで繋ぐ
  • 北海道北見市立上仁頃小学校
    閉校を迎える同校を何らかの形で残すため、マイクラで校舎を再現
  • 甲南高等学校・中学校
    マイクラを使って数学や情報の知識を利用・応用し、さらなる知識定着を図る
  • 大森学園高等学校
    街や社会の課題を解決するような建造物を考え、マイクラ上で制作
  • 茨城県立常陸大宮高等学校
    情報の授業でつまずきがちな「多重ループ」について、マイクラを使うことで視覚的な理解を促す

どの事例も、学校・日常生活におけるちょっとした「気づき」や「思い」からマインクラフト活用に踏み込んでいることがわかります。少し視点を変えてみるだけで「ここにマインクラフトが使えるのではないか?」といったアイデアが浮かぶかもしれません。

まとめ|規約を守ってクリーンに!教育版マインクラフトを学習に活用しよう

商用ライセンスの登場により、より使い勝手が向上した教育版マインクラフト。児童の学習を大きく変革させる魅力を秘めている一方で、さまざまなガイドライン・利用規約が設けられているということもお分かりいただけたかと思います。思いがけず規約違反を犯したり、不正利用をしてしまったりすることのないよう、十分注意が必要です。

今回紹介した「使用上の注意点」や「規約違反の例」はもちろん、以下3つの規約に関しては、利用前にぜひ目を通しておきたいところ。


ゲーム×教育の「ゲーム型学習」が注目されている現代の教育において、教育版マインクラフトが非常に優秀なツールであることは間違いありません。今後も変わらないサービスが提供されるよう、規約を守ってクリーンに活用するようにしましょう!

https://education.minecraft.net/ja-jp
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