起業家として、学者として、世界の情報産業に携わってきた株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO 藤原洋氏。
なぜこれからの社会でプログラミングが必要なのか?国際社会で生きていくために、今の子どもたちに必要なものとは?興味深いお話をたっぷり聴かせていただきました。
第3次AIブーム到来!未来はどう変わる?
近年の急速なIT化で、AI(人工知能)が脚光を浴びています。「AIが人間よりも賢くなって、今ある仕事がなくなるのでは?」とも言われています。実はAIブームは以前からあって、今回が第3次ブーム。技術の飛躍的な進化で予測不可能な時代になり、子どもたちの将来が心配になる方も多いかもしれませんね。
でも、そんな心配はしなくていいと思います。例えば、銀行の窓口業務などの仕事はなくなるかもしれません。ですが、これからの未来がどういうことになるのか、もっと全体を見て考えていくべきなのです。プログラミングというのは、「人間がコンピューターを働かせる方法を学ぶ」という明るい未来を表しています。「コンピューターに人間が使われる」という話ではないのですよ。
人類には、今までにいくつかの発明があります。それは、脳以外の部分を補完するものが多かったんです。産業機械にしても、人間ではとでも出せない力を発揮するものだったり、長距離を何時間も高速で走っていくものだったり、それらは人間の手や脚の補完でした。
それに対して、コンピューターは脳の補完ということになります。人間の脳をどうやってコンピューターが補完するのかを整理してみましょう。
人間の脳には入って来た情報を処理する機能があり、処理される情報の中には人間にしかできない作業と、機械でもできる作業が混じっています。人間には負荷がかかってできない作業や、人間でもできるが機械でもできるというような作業は、プログラミングをして機械の脳にお任せし、空いた時間で人間にしかできないことに集中した方が社会としても効率が良いため、プログラミングが必要となるのです。
機械でできることと人間にしかできないことを整理して、空いた時間をきちんと人間のための時間として使えるようにすれば、余裕が出てきますよね。
なぜプログラミングを学ぶのか?
小学校でのプログラミング教育実施については、「プログラミングをやらなきゃ将来困るわよ!」というような強迫観念で教育するのではなく、自分たちが人間らしい仕事をするためにコンピューターにできるだけ働いてもらう、その術を子どものうちから訓練しましょう、という話だと思っています。
ここで「データサイエンティストが何万人不足する」とか、「ITエンジニアが何万人不足する」とか、そういう「人材不足」の懸念を押し出し、だから勉強しようと取り組むことは誤りです。プログラマーの不足は、子どもの成長には全く関係ないことですから。育てたいのは質なのです。プログラマーの質を上げるために、基礎学習として小学校でプログラミング教育を実施するのは良いことだと思います。
大切なのは「自分の考え方を持たせる」こと
プログラマー不足は会社の存続に関わる、とIT企業では死活問題のように言われます。それはそれで事実ですが、僕が会社や社会の歴史を変えると期待しているのは、1,000人の普通のプログラマーより1人の天才プログラマーです。もちろん小学校のプログラミング学習で、産業界のための天才プログラマーを育てろと言っているのではないですよ。人数じゃないというのは、日本の社会全体の話です。
僕の場合はインターネット業界ですが、世界に目を向けた時になんとなく敗北感があるのです。例えば、楽天とAmazonはどっちが強いか?Yahoo!JAPANとGoogleは?残念ながら世界ではAmazon、そしてGoogleになります。
今度はそこに百度(バイドゥ)や阿里巴巴(アリババ)といった中国の企業が進出してきました。アメリカ、日本、中国で企業価値を見るとアメリカが一番高く、次は中国になります。
これはテクノロジーの差ではなく、ユーザーの言語人口の差です。アメリカがインターネットを発明した国だから企業価値が高いというのではなく、英語のアドバンテージが高いわけです。アメリカ国内には3億の人がいて、他にも世界中に英語を共通言語にしているところがいくらでもあるわけですから、英語はとても強い武器になります。日本語しかサービスしない楽天がAmazonと勝負をしても、売上が二桁違ってくるわけです。
そして、意外と強いのが中国。人口が圧倒的に多い中国で断トツの一番企業になると、世界で一番の企業にもなれます。日本が量で勝っても閉塞感が強くなるだけなのです。日本こそ質で勝負をするべきですね。
世界を視野に入れた教育は大事です。でもそれは教育的視点とか、そんな難しいことではないのです。むしろ「世界を視野に入れた教育的視点で、子どもの頃から英語を学び、堪能になれ!」と言ってる場合じゃないのですよ、本当はね。英語はいずれ人工知能の翻訳機能で対応できるようになるので、話せたらいい、くらいなものです。
「自分の考え方を持たせる」というのが、今の子どもに必要な本来のグローバル教育です。
ジューイッシュマザーと日本の教育ママ
イスラエルはIT産業が盛んな国です。人口は約860万人と非常に少ないんですが、産業の質が高い。例えば、資金力の乏しいベンチャー企業に資本金を提供し、立ち上げをバックアップするベンチャー創成キャピタルファンドの額が去年(2017年)は5,000億円ありました。対して、人口約1.27億人の日本におけるこの額は2,000億円です。アメリカは3兆円ほどありますが、それは人口の多さです。イスラエルの5,000億円は人口比でみると突出していて、アメリカの2倍以上になります。
日本の子どもに将来何をやりたいかを聞くと、男の子はサッカー選手で女の子はケーキ屋さんだったりします。昔はプロ野球選手が多かったですね。僕もそうでした。
しかし、イスラエルでは将来なりたい職業が男の子も女の子も起業家なんですよ。これを夢があるとみるか現実的とみるかは、また別の問題ですが。
イスラエルと日本のどこが違うのかというと、それは教育です。英語のスラングで教育ママのことを、「ジューイッシュマザー(jewish mother)」、つまり「ユダヤ人の母親」と呼ぶそうです。俗語なのですが、どうやらインターナショナルで認知されているようです。それくらいイスラエルの親は教育に真剣なのです。
でも、ジューイッシュマザーと日本の教育ママは違います。「テストでいい点を取れ!」とか「この英単語を全部暗記しなさい!」とか言うでしょ、日本は。ジューイッシュマザーはどうするかというと、「ナゼ」にこだわって子どもと会話をするのです。親が納得するまで「ナゼ」を問い続ける教育です。日本だと理屈っぽいとか言われそうですよね。日本は「そういうもんでしょ」とか「先生が仰ってるんだから、黙って聞いておきなさい」と言ったりします。イスラエルはそんな教育ではありません。
参考までにもう一つ、イスラエルでは高校が終わると軍に入るのです。男の子は3年間、女の子は21ヶ月で2年弱です。良いこととは言いませんが、日本のような受験地獄はないわけです。
後編では、子どもに論理的な考え方を身につけさせることの大切さや、プログラミングを学ぶことで子どもにどんな未来が開けるかについてお話をうかがいます。
■ 藤原 洋(ふじわら ひろし)プロフィール
1954年、福岡県生まれ。1977年に京都大学理学部を卒業。東京大学工学博士号(電子情報工学)。日本アイ・ ビー・エム(株)、(株)日立エンジニアリング、(株)アスキーを経て、動画像符号化方式の研究・標準化活動を行いMPEGの創設に参画後、1996年に株式会社インターネット総合研究所を設立。同社代表取締役所長に就任、現在に至る。2005年宇宙・環境エネルギーベンチャー(株)ナノオプトニクス・エナジーを設立。同社代表取締役会長。2012年(株)ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長 CEOに就任。2015年、一般財団法人インターネット協会理事長に就任。代表著書に『ネットワークの覇者』(日刊工業新聞社)、『科学技術と企業家の精神』(岩波書店)、『第4の産業革命』(朝日新聞出版)など多数。
株式会社ブロードバンドタワー
http://www.bbtower.co.jp/