国際競争に勝てるのはどんな子ども?これからの日本でプログラミングを学ぶ理由(後編)

国際競争に勝てるのはどんな子ども?これからの日本でプログラミングを学ぶ理由(後編)
株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO 藤原洋氏

 前編では、第3次AIブームの到来で未来はどう変わるのか、日本とイスラエルの教育の違いなどについてお話をうかがいました。


国際競争に勝てるのは、どんな子ども?


 僕は世界中の大学で講義をしたことがありますが、まず日本の学生は質問しません。アメリカの学生は質問をします。イスラエルの学生は授業を途中で遮って質問してきます。「普通じゃない!」と思うかもしれませんが、グローバルに「普通」を考えると、日本の方が「普通」ではありません。能動的な学び方が、世界標準と思っていたほうが良いでしょう。

 日本の学校では「国際競争で勝てる子どもの育成」とよく言われますが、それは戦って勝つ・負けると捉えるのではなく、世界から頼りにされる人材の育成を意味している、と僕は考えています。競争というと、相手を押し倒して上がっていくように誤解されるじゃないですか。世界が欲しがる、必要とされる、尊敬される。そういう人材が国を超えて競い合っていけば、もっと活気のある国になりますよ日本は。

 インターネット企業の代表としてではなく、教育者として皆さんに伝えたいのは、子どもの能力を伸ばすには「これは何のためにあるのか?」という論理的な考え方を子どもに身につけさせることの大切さです。かたく言うと、哲学です。この考え方は、自分の立ち位置を理解し、目的やゴールが見えるということにつながります。
 親は子どもに「何のため?」と問い、子どもは「何でこんなことやるの?」と親に聞ける環境が必要です。必然性や意義を理解すると、子どもは学ぶことが楽しくなると思いますよ。


プログラミングの答えは一つではない


小学校に入った時に教科書を渡された僕は、内容が気に入らなかったのか「この教科書は誰が書いたんだ!僕が書き直す」と生意気にも言ったことがあります。母親からは「バカなこというんじゃない!」って叱られましたけどね。そこは昭和の子育てですから。
でも、「教科書は間違ってないか?」「誰が書いているんだ?」「覚えてどうするんだ?」と疑問を持つのは、長い目で見て無駄ではないと僕は思うのです。
機械に何をさせるのか、というプログラミングは答えが一つではありません。ソフトウェアとはそんなもので、書き方によってどうとでもなります。一つしか答えが提示されていないものに疑問の目を向けることで、目的にあったプログラムの答えがいくつも出てきます。そして、その中で使う側にとって良いものを推測しできあがったものが、良いプログラミングなのです。

人間は仮説を立てて、良い方法を推測していくことができます。推論する力は、コンピューターにはまだありません。プログラミング教育はそこを意識することが大事だと思いますよ。推測する力を高めていけば、目的に合ったプログラミングができるはずですから。

藤原 洋(ふじわら ひろし)

寺子屋からプログラミング教室へ


プログラミング教育が小学校で必修化されるのは良いことだと思います。むしろ遅すぎると感じるくらいです。世界はもっと早い段階でやっていますよね。学校で教える教育、学習指導要領というのは、教育を通じて日本をどんな国にしていきたいか、という国策です。グローバル化が進む現代で、昔からの読み書きそろばん的な教育を続けていてはいけません。

「物事を適切に理解・解釈・分析し、表現する」ことを表す「リテラシー」という言葉があります。あらゆる産業がコンピューター化しプログラミングが必要となってきたら、読み書きそろばんを教えていた寺小屋のリテラシーに代わるものが必要になってきます。そういう状況で、民間が子どものプログラミング教育へポジティブにどんどん参入してくるのは悪いことだとは思いません。国もやる気のある民間と手を組むと効果的で、僕もそういう方面でいくつかの組織で協力しています。

プログラミングを学ぶことで広がる新しい世界


 第3次AIブームでロボットも話題になってますよね。僕はロボットをプログラミングの題材として扱いながらプログラミング学ぶのは、分かりやすくていいと思います。ただ、ロボットは具体的なことしかできないと思って扱うと、プログラミング学習の要素が薄れてきます。抽象的な思考、すなわち想像力を取り入れながら、「ロボットは他に何ができるのか?」を例を挙げて考えることが大切でしょうね。

 今後、ロボットだけでなくAI(人工知能)が私たちの生活の場面に大きく関わり、ITが暮らしを変化させていくことは必然です。そうなると、IT産業の構造も大きく変わらなければなりません。今の日本のIT産業は、構造的に昔のゼネコンと同じようなピラミッド型になってしまっています。構造的なヒエラルギーが、大企業の今の価値なのです。昔のゼネコンと同じような搾取の構造ということです。
 だから日本の優秀な技術者はピラミッドの上での就職を目指し、なかなか下にあるユーザー企業や起業に意識がいきません。このピラミッド構造を打破し、新しいことに挑める環境への変化が必要ですよね。そうすると、新しい技術やサービスがもっと増える可能性があります。
 私は自らがインターネットの世界で起業した経験から、これからの日本では新しいチャレンジが期待されていることを、子どもたちに伝えたいですね。今あることを粛々とやっていても、新しいことを意味を理解せず脅迫されてやっていてもダメなんです。

「プログラミングをやらなきゃ将来困る!」のは、ナゼですか?
「プログラミングをやると、見えなかったものが見えて楽しい!」からなんですよ。

編集部コメント


取材で訪れた株式会社ブロードバンドタワーのオフィスは、2017年12月にオープンしたばかり。風通しのよいオープンスペースで、会社というよりもまるでオシャレなカフェのようなスタイリッシュさです。新しい働き方を目指すためにデザインされた快適なオフィスからは、藤原さんの「働くこと」への思いやこだわりを感じました。
技術の進歩によって私たちの生活はこれからどんどん変わっていきます。しかし、それにあわせて私たちの考え方や生き方も変えていかなければなりません。藤原さんのお話からは、その変化の大切さをうかがうことができました。
世界の今を知る藤原さんの「世界の仲間が待っている!」という掛け声を、これからプログラミングに触れる子どもたちに、どんどん届けてあげたいですね。

藤原 洋(ふじわら ひろし)
■ 藤原 洋(ふじわら ひろし)プロフィール

1954年、福岡県生まれ。1977年に京都大学理学部を卒業。東京大学工学博士号(電子情報工学)。日本アイ・ ビー・エム(株)、(株)日立エンジニアリング、(株)アスキーを経て、動画像符号化方式の研究・標準化活動を行いMPEGの創設に参画後、1996年に株式会社インターネット総合研究所を設立。同社代表取締役所長に就任、現在に至る。2005年宇宙・環境エネルギーベンチャー(株)ナノオプトニクス・エナジーを設立。同社代表取締役会長。2012年(株)ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長 CEOに就任。2015年、一般財団法人インターネット協会理事長に就任。代表著書に『ネットワークの覇者』(日刊工業新聞社)、『科学技術と企業家の精神』(岩波書店)、『第4の産業革命』(朝日新聞出版)など多数。

株式会社ブロードバンドタワー
http://www.bbtower.co.jp/

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