今回は、算数タブレットによる遠隔学習や、個別指導塾による学習支援サービスを提供しているRISU Japan株式会社の共同創業者・取締役 加藤 エルテス 聡志 さんにお話をうかがいました。
居住地域や親の経済状況による教育格差
――教育の地域格差はしばしば話題になりますが、居住地域による子どもやその親の教育に対する考え方の違いについてどのようにお考えでしょうか?
どの場所に住んでいても、子どもに対して健やかに、幸せな人生を送ってほしいと願う親の気持ちに違いはありません。
ただ、都心部にいると子どもの知的成長に対する選択肢が多く、また、周りの友人を見てもそうした教育機会に積極的な投資をしている層が多くいるため、都心部にいる親の方が教育投資に積極的であるという側面はあります。
学校外の私教育への投資については、都心か田舎かという居住地域よりも、各家庭の経済水準からの影響が顕著です。
ですが、子ども自身に知的好奇心の差があるわけではありません。私たちの取り組みが、居住地域や親の経済水準を超えて、才能を埋もれさせない一助になってほしいと願っています。
勉強の時間?遊びの時間?
――RISU Japan株式会社は、日本初の遠隔双方向ライブ授業サービス「東大NETアカデミー」を運営する株式会社フィオレ・コネクションと共に、日本最西端・沖縄県与那国島にてプログラミングの遠隔授業を実施していますよね。
実際に授業を体験した子どもたちの様子はいかがでしたか?
授業というよりも遊んでいる時間という認識で、子どもたちは楽しく授業に取り組んでいました。
対面でなくビデオ通話を利用した授業ということで、大人は子どもに熱量のある授業が提供できるのか懸念する声もありました。しかし、そんな心配をよそに、生徒は非常に熱心に取り組んでいました。
ロボットを動かす課題を解くためには、実は多くの算数の知識や応用的思考が必要になります。
詳しくは拙著をご覧ください。ですが、今回のロボット算数授業が、生徒からは「お勉強の時間」とは捉えられず、「遊びの時間」として認識されていた点に21世紀の新しい学習の方法のヒントが隠されています。
しかし実際には、授業内で角度、速度、移動時間など、複雑な算数の応用思考を扱っていたんです。私たちは、20世紀の旧来の考え方を改める時期に来ています。
アナログとデジタルのブレンド
――遠隔学習ならではのメリットやデメリット(またそれを解消するための工夫)がありましたらお聞かせください。
授業の質を高めることと、実態の正確な把握を行うことです。
授業の質を高めることはアナログな考え方です。素質の高い先生を厳選して採用し、先生のモチベーションを高め、多くの訓練を積み、生徒との距離を縮める、という従来の塾が考えていたアプローチです。
一方、実態の正確な把握はデジタルを活用する考え方です。RISUを使うことで、どの生徒がどの問題につまずいているのか、何が得意で何が苦手なのか、集団授業であっても講師が個別生徒の実態を把握できます。
そのため、画一的な授業にならず、一人ひとりの生徒に合わせた算数の問題と、全体のレベルを見ながら最も生徒が熱中できるロボミッションを出すようにできています。
単なるアダプティブラーニング(適応学習)でも反転学習でもないブレンドクラスが実現できているのは、こうしたアナログとデジタルの仕組みがある、私たちならではの取り組みです。
※アダプティブラーニング:生徒一人ひとりに応じて学習内容やレベルを調整し、提供する仕組みのこと
ロボットプログラミング×算数
――子どもたちに学びの楽しさを気付かせるためには、どうすればいいでしょうか?
子どもにプログラミングに興味を持ってもらいたいと、多くの保護者が思っています。私は普段、小学生を対象とした算数教室やロボットワークショップを運営しているので、多くの保護者から「プログラミングを子どもにさせたいのだけど、どうしたらいいですか?」と質問を受けます。
その答えの一つが、ロボットプログラミングと、算数をかけ合わせた遊びです。
『子ども向け』『プログラミング』などと検索すると目を引くのが、『Scratch(スクラッチ)』などのウェブ上で学べるブロック式のプログラミング言語です。NHKの番組にもなっていますから、ご存じの方もきっと多いでしょう。
しかし、『Scratch』には多くのプログラミング初心者が陥りやすい落とし穴があります。実際にご家庭でお子さんに『Scratch』のサイトを見せると、すぐに「思ったほど熱中しない・・・」と気づかれることでしょう。
『プログラミングは、ロボットから始めよう!』の書籍でも書いている通り、ロボットプログラミングは初心者でも熱中して取り組める特徴があります。
画面上のプログラムがちらちら動いているよりも、目の前でロボットが動く方がずっと直感的なんです。子どもの興味をひく度合いが全く違います。
ロボットのワークショップ中には、子どもは歓声を上げたり飛び跳ねたり、困ったり笑ったり、大興奮です。これはロボットなしの、画面だけでのプログラミング学習ではめったに見られない高揚です。
画面上の表示は、プログラムを書いたら何度でもその通りに動きますが、ロボットにはムラがあります。まるでロボットに機嫌があるかのように、完全に同一のプログラムであっても、思い通りに動くこともあれば、動かないこともあります。地面として使うマットの凹凸や、充電状態によっても挙動は変わります。
こうした目の前で実際に「もの」が動いている様子や、「うまくいくかな、どうかな」と思うドキドキはロボットならではのものです。
もちろん、画面上のプログラミングがダメだと言っている訳ではありません。例えば『Scratch』のオンラインコミュニティーにはステップ・バイ・ステップで簡単に学べる工夫がたくさん載っていますし、子どもたちが作った素晴らしい作品が数多く投稿されています。
やり方がわかってくれば、『Scratch』はどれだけでも没頭できる素晴らしいツールです。ここで私がお伝えしたいのは、ツールには適材適所があり、プログラムを触ったことのない初心者が楽しいと思うには、ロボットを使ったプログラミングのほうがずっといいですよ、ということです。
プログラミングをするには、通常はパソコンが必要です。慣れればパソコンも簡単なのですが、初心者にとっては設定に苦戦したり、意図しない画面が出た時にどうやって戻れるかわからなくなったり、とっつきにくいものです。
私達の授業ではとにかく初心者にとっての簡単さ、そして楽しいと感じてもらうことを大切にしています。今回のプログラミング授業が、パソコンではなくタブレットでできるようにしてあるのもそのためです。
私は2014年に創業した教育会社RISU Japanの運営を通じて、1万人以上の小学生の生徒に接しています。タブレットで算数を教えることもあれば、塾で読書プレゼンテーション大会をすることもあります。接する子どもたちの国籍も、日本だけではなくアジアやアメリカなど様々です。
そうした中で最も大切にしていることは、『心に火をつけること』です。一度心に火がついてしまえば、あとは子ども自身が必要な試行錯誤や知識の吸収を進めてくれます。
多様なチャンスを子どもに提供するために
――子どもたちの才能や個性を伸ばすために、親ができること、なすべきことはなんでしょうか?
現在の公教育で提供されているティーチングは、子どもの才能を開花させるために設計されたわけではなく、もともとの設計は工業社会で必要とされる人材の規格化です。
そこにうまくフィットする児童も中にはいるでしょうが、そもそも現在の公教育のあり方が子どもを楽しませたり、その子特有の才能を伸ばすことを目的としたりしている訳ではありません。
公教育よりも、私教育の方がはるかに多様性が多く、子どもの才能を伸ばすために設計された学習機会が多く存在します。
本来は公教育が変わるよう、私たちが国に働きかけていく必要がありますが、学習指導要領の変更は10年に1度であり、また、既存の教員への配慮から、社会が必要としているドラスティックな変化が望めるわけでありません。
公教育の改革を10年、20年と待つ間にも子どもは成長してしまい、人生で最も多くのことを吸収できる時期はすぐに過ぎてしまします。
保護者自身が優れた民間のプログラムへのアンテナを持ち、画一的な公教育だけでない、違うチャンスを子どもに提供することが必要です。
――RISU Japanの今後の展開についてお聞かせください。
教科、年齢、国を超えて、より多くの生徒の才能を開花させるよう努力してまいります。
――ありがとうございました。
RISU Japan 株式会社 取締役
略歴
東京大学卒業。コンサルティングファーム(McKinsey & Company)・米系製薬会社等を経て、2014年にRISU Japanを創業。著書「機械脳の時代」(ダイヤモンド社)、「日本製造業の戦略」(ダイヤモンド社・共著)、編集協力に「日本の未来について話そう」(小学館)、「Reimagining Japan」 (Biz Media LLC) など。
講演 TEDxTokyo Salon 教育の未来とデータサイエンス、など。
RISU式 ロボットプログラミング教室
http://www.risu-japan.com/robot-book/
RISU Japan株式会社
http://www.risu-japan.com/
RISU算数のあゆみと評判・メディア掲載
http://www.risu-japan.com/corporate/media.html
(取材・文/冨岡美穂)