プログラミング教育がわかる、プログラミング・ロボット教室がみつかる

『MADE IN SHIBUYA』の子どもたちを育てる街づくり―渋谷区 長谷部健 区長

LINEを活用した子育て支援サービスや区内の公立小中学校全児童・生徒への端末配布、シリコンバレー青少年派遣研修など、渋谷区ではこれからの時代を生きる子どもたちの育成に意欲的に取り組んでいます。

渋谷区ならではの事例や今後の学校教育のあり方について、長谷部健 区長にお話を伺いました。

新しい教育や新しい分野にチャレンジする渋谷区らしさ


――まず最初に、渋谷区が行っている取り組みについて教えていただけますか?

プログラミング関連でいうと、区政全体の中でも主要施策の一つとして取り組んだのは(区内の公立小中学校全児童・生徒への)端末の配布ですね。

2020年度から小学校でのプログラミング教育が必修化されますが、その時代が来ると分かっているのであれば早めに取り組みたかったですし、先行者メリットもあると思っています。

最新のプログラムや機器などが渋谷で成功すれば、都や全国の他の地域でも展開できる、渋谷で導入することにメリットを感じる企業の方もいらっしゃいます。そういったことも勘案して、思い切って踏み出しました。

また今、学校に通っている子供たちが大人なるころ、現在と仕事の内容が変わってくるのは目に見えている。

その時に問われる対応力や応用力といった力の育成に対して、渋谷区の子どもたちにはいち早く取り組んでいてもらいたいという思いから、端末を配布しました。

――渋谷区は商業地区としてはもちろん、海外からの観光客も多く訪れる文化の発信地としても注目されています。一方で、渋谷区に住んだり、ここで子育てができるのは所得が高い人々に限定されてしまうイメージがありますが・・・


渋谷は裕福な区というイメージがあるかもしれませんが、人口23万人という区ですから、当然のことながら多様な方々が生活されています。

ですから、特定の層に何かが偏ったり限定されるといったことはないですし、政策にも多様性が求められています。

ちなみに、渋谷区は3~40代の人口が一番多いんですよ。ただ、この年代は転出も多い。理由はいろいろ考えられますが、一番は住宅事情だと思います。

子どもが小学校にあがる時に部屋を作ってあげたいとか、2人目が生まれたので手狭になってとか・・・。

渋谷区の転入転出データを紐解くと、初めて渋谷区に来る方々というのは全国各地からいらしています。

一方、転出していく方たちは杉並、世田谷、目黒、川崎、横浜といった近隣の地域に移動しています。なので、転出の理由はライフステージに応じた住宅事情なのかな、と思っています。

転出入といった動きがある程度あるのはいいことだと思うんですが、区内に人を惹きつけておきたいという気持ちも当然あります。

保育園を増やしたり待機児童対策をしたり、質を高めていますが、卒園後すぐに転出されてしまうのはやはりちょっと寂しい。

日本全体のことを思えば、子どもたちへの投資がどこで花開いても問題はないんですが、なるべく少しでも長く渋谷区にいていただきたいというのが本音です。

端末の配布が転出入事情に直接的な効果があるとは思っていませんが、新しい教育や新しい分野にどんどんチャレンジし、様々な教育ニーズに対応する渋谷区らしさは、大きな魅力だと思っています。

『シティプライド』が持てる街・渋谷


――渋谷区における義務教育についてお聞かせください。

区内に公立小学校が18校あるのに対して、公立中学校は8校。渋谷区の子どもは小学校から中学校に上がる際、およそ半数くらいが私立に進学します。昔からそういう傾向ですね。

「なぜ私立がいいんだろう?」と考えると、理由のひとつとして私立では最新の教育にチャレンジしているという点が挙げられると思います。

端末の導入も私立ではとっくにやっていたりしますよね。だからこそ、公立もなるべく同じレベルにしたい。

一方、公立には公立の良さもあります。
あらゆる層の子どもたちが学んでいることで、ダイバーシティについて肌で分かったり、住んでいる場所や生まれ育った場所への愛着、つまり『シティプライド』は公立に通っている子の方が強く持っていると思うんです。それは非常にいいことじゃないでしょうか。

とはいえ、私立学校も私立独自の良さがあることから選ぶ人が多いんですよね。渋谷区の公立校の水準は高いと思うんですよ。例えるなら、どこも70点、80点以上は絶対ある。

ですが、100点や120点といった際立った学校があるか?と聞かれるとちょっと考えてしまう。

しかし、区内の中学校では、理数を頑張る学校、英語を頑張る学校、スポーツや部活に力を入れている学校など、各学校がそれぞれ特色を活かすよう取組を進めています。

渋谷区では、通う小中学校を区内の全域から選ぶことができる『学校選択希望制』を採用しています。

もともと公立校同士では切磋琢磨が生まれにくいんですが、渋谷区内ではそれが起こり始めている。それをもっと後押ししていきたいなと思っています。

目に見えない革命はすでに起きている



昨年の12月にエストニアを視察してきました。大使館が区内の神宮前にあることから縁があるんですが、行ってみたら衝撃でしたね。

(首都である)タリンの市役所を訪れましたが、ほとんど人がいない。結婚、離婚、土地の売買以外の行政サービスはオンラインで完結してしまうので、行く必要がないんです。

そして、教育現場を見ると中学生がブロックチェーンのプログラミングをやってるわけですよ。すべてがエストニアのように上手くいくかは分かりませんが、電子政府のシステムはすでに存在している。世界は進んでいるんです。

日本もマイナンバーでぐずぐずしている場合じゃありません。いま渋谷でやろうとしていることも、もっと加速しないといけない。

すべてを思い通りに進めるのは難しいことです。たとえば、発達障害の子の中には、コンピューターとの親和性がすごく高い子がいます。彼らにとって学校の勉強は全然面白くなくて、学校に行かなくなってしまう子もいる。

そういう子たち専門の教室も一応あります。本当はもっとそこにプログラミングを含めた学校的なものが用意できればいいんですが、公立にはそのノウハウがない。

ノウハウのある私立とタイアップしていろいろやりたいんですが、公立と私立が一緒になって何かを行うというのはルール的に難しく、ハードルが高いんです。

なので、まずは(児童生徒が)ひとり一台端末を持ち、家に持ち帰ることもできるというベースを整えました。このことによって、一人ひとりが自分のペースや意思で習熟していくことができる。

この分野は間違いなくこれからのスタンダードですし、目に見えない革命はすでに起きている。未来への投資だと思ってやっています。

――いまの子どもたちが大人になった時に、どういうスキルが必要だと思われますか?

論理的思考、国語力は当然大切ですよね。あとはクリエーション(creation)やイノベーション(innovation)といった力が必要だと思います。

1を10にするのはAIがやってくれると思うので、0を1にする力、今後はこれが問われるんじゃないでしょうか。

グローバルを目指すだけでもダメだと思っていて、この街で生まれてこの街でずっと暮らしていても、幸せになれるようにしないといけない。

ただ、世界にはこれだけチャンスが広がっていて、今後はもっと広がるじゃないですか。そこで生き生きと戦える、勝負できる、という両軸を持つことが大事だと思います。

――これから教育が変わっていくにあたり、教える先生の役割もより重要になってくると思います。渋谷区の先生たちに対して、何か研修や取り組みは行っていらっしゃいますか?

端末を使った授業方法は、各学校で研究してもらっています。これまで半年ほどやってきて、各学校において少しずつ活用方法の事例が出てきているところです。

エストニアに行って分かったんですが、向こうでも結局、不得手な先生はいまだに不得手なんだそうです。

教職課程でプログラミングや端末を使った教育方法を学んだ先生がどんどん増えてきて交じり合っていくことで、ようやく上手く進み始めている、と聞きました。

渋谷区でもこの過渡期をなるべく焦らず、とはいえ早く乗り越える必要があると感じています。ここまで来るのもいろいろ大変でしたが、予想よりはスムーズにきていると思います。

渋谷だから学べること



――渋谷区は新しいことに理解のある区のように思えます。

そういう街なんだと思います。京都や鎌倉みたいに数百年も前から代々住んでる家がほとんどいない土地柄ですし。江戸時代の小説を読むと、このあたりには何もなかったのが分かります。

一説によると、道玄坂は道玄という追いはぎの名前に由来しているんだとか。いま考えると、あんな所に追いはぎが出ていたなんてびっくりですよね。

僕は3代目なんですが、同じように祖父母世代が戦前戦後に渋谷に出てきて、いまが2代目、3代目という人が多い。よそからここに来たという想いがあるから、新しい人たちにも寛容です。

恵比寿はそれが上手くいってる例ですよね。古い人たちと新しい人たちが上手く交じり合っていて、だから住みたい街ランキングで上位に来ているんじゃないかなと分析しています。

僕の出身地である原宿では、歩行者天国でいろんな人が交じり合って、ロカビリーが生まれ、竹の子族が生まれ、DCブランドが生まれ、アメカジ、渋カジ、コギャル・・・ずっとストリートで交じり合ったカルチャーが続いていますよね。

多様な価値観がぶつかり合ってお互いを認め合って調和して生まれている。多様なことが許される街、それが力になっている街だと思います。

僕は『シティプライド』が持てるこの街が好きなんです。だからいま、この仕事をしているんだと思います。

渋谷だから学べることってあるんですよ。僕が子どものころ、夕方くらいに明治神宮の前に立つと真っ暗で本当に怖かった。そこでいわゆる森に対する畏れのようなものを教えてもらいました。

中学校時代は109の前に佇んで道玄坂の方を見上げながら、「あっちは大人になったら行くとこだな」なんて思っていました。

渋谷では、学校では教えてくれないことを街から学ぶことができます。そういった渋谷の特性は今後ももっと突き詰めて、活かしていきたいですね。

――この環境で育った『MADE IN SHIBUYA』の子どもたちがどんどん出てきてほしいですね。

いいですよね!平昌オリンピック 銅メダリストの原 大智(はら だいち)選手(フリースタイルスキーモーグル選手)は、渋谷区生まれで広尾小、広尾中の卒業生なんです。彼のようなシブヤボーイ、シブヤガールが今後いっぱい出てくれるといいですよね。

――オリンピック後、原選手はセンター街でパレードをなさってましたよね。

本人のたっての希望です(笑)。ただ、センター街では車に乗ったパレードはできないので、次の北京オリンピックで金メダルを獲ったら車でのパレードを考えようね、と話しています。

――最後に、区長が考える渋谷区における教育についてメッセージをいただけますか?

いま渋谷区では2016年に策定した「基本構想」という、20年後の渋谷区を展望したビジョンに基づいて区政を進めているんですが、そのコンセプトは『ちがいを ちからに 変える街。渋谷区』です。

多様性・ダイバーシティを意識したものですが、教育においても個性がそれぞれあって、それをお互いちゃんと認め合い、好き勝手するのではなく、しっかりと調和して交じり合って新しい価値・文化を生み出すことを追求していこうと思ってるんです。

合奏や合唱をイメージしていただくと分かりやすいと思うんですが、いろいろな楽器の音や声が交じり合って、ひとつのメロディや曲ができますよね。

しかし、社会の中では全員が良い音を奏でられるわけじゃない。その現実を、寛容性を持って受け止められるか、ということが問われてくる。

これは教育だけでなく、街づくりにも言えることですが、そういった多様な価値観を認め合える包容力のある街でいたいし、そんな街でいるためにはそういった教育を続けなければなりません。

もちろん渋谷区の学校で課題がまったくないわけではありません。いろいろなことが起きたりもしますが、トータルとしてはみんなでつながって助け合って交じり合い、これからさらにそれを強くしていくことを考えています。

ぜひみなさんそれぞれの違いをこの街で発揮していただいて、いっしょに大きな力を作っていただければと思います。




■プロフィール
渋谷区長
長谷部 健(はせべ けん)

■略歴
昭和47年(1972年)3月渋谷区神宮前生まれ
神宮前小学校・原宿中学校卒業
佼成学園高等学校卒業
専修大学商学部卒業
(株)博報堂退職後、NPO法人green birdを設立し、まちをきれいにする活動を展開
原宿・表参道から始まり全国60ヵ所以上でゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施
2003年から渋谷区議会議員(3期12年)
2015年4月27日から渋谷区長就任

区長の部屋
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/kutyo/index.html


(インタビュアー/GMOメディア株式会社 代表取締役社長 森 輝幸)
(文/冨岡美穂、撮影/コエテコ編集部)

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