「よく生きる」を企業理念とするベネッセ。2020年の教育改革を前に、教育のガリバー(巨人)としてますます存在感を増しています。
そんなベネッセの通信教育教材といえば「進研ゼミ」。全国の小学1年生~高校3年生まで、多数の会員を持つ通信教育教材ですが、ついに今年から「進研ゼミ小学講座」でもプログラミングを学べるようになりました※。
※小学講座の専用学習タブレット「チャレンジタッチ」や、会員専用サイト「チャレンジウェブ」で学習が可能です。「チャレンジタッチ」で受講されていない方は、PCが必要になります。
今回は「はじめてのプログラミング」「はじめてのゲームプログラミング」について、カリキュラム開発者のお三方にお話を伺いました。
追加料金なし。「ボタンを押せば始められる」気軽さが強み
—まずは「進研ゼミ小学講座」のプログラミング教材について、良さを一言で教えていただけますか。
なんといっても、気軽に始めていただけることかと思います。小学3年生のお子さんには「はじめてのプログラミング」(2018年度1月号から提供開始)、4~6年生のお子さんには、それに加えて「はじめてのゲームプログラミング」をご用意しているのですが、いずれも通常の範囲内で、追加料金なしで受講していただくことができます。
普段ITに親しむ機会が少ないと、プログラミング教室を探したり、体験授業に足を運んだりすること自体がハードルになることもありますよね。
その点、小学講座は、普段の国語や算数の教材に取り組むのと同様の感覚で、「新しいプログラミングの教材ができたんだ、ちょっと始めてみようかな」と、ボタンを押せば始められる。追加料金もかからないので、本当にライトな感覚で始めていただけるんです。
通信教育教材は「1人で取り組める」ことが大前提
—追加料金がかからないのは家計的にも大きな魅力ですね。教材を作る際、考慮した点はありますか?
「進研ゼミ小学講座」は、多くのお子さんに受講していただいているので、それぞれのお子さんごとにレディネス(学習に必要な条件や環境、前提知識)の差はどうしても出てしまいます。
高度なことをどんどんやっていきたい子もいれば、パソコンを触ったことがなかったり、「プログラミング」ってそもそも何?という子もいます。
「進研ゼミ」は通信教育教材ですから、子どもが一人で取り組める内容でなければいけません。たとえレディネスの差があったとしても、自分で取り組めるかどうかを考慮する必要がありました。
—なるほど。会員数が多い+通信教育だからこそ、繊細に作り込まなければいけなかったというわけですね。
開発してみて、やはり実際に教材を出してみないと分からないこともたくさんありました。たとえば、一画面の中にどれだけの情報量を盛り込むか。指やペンで作業をしてもらう際、どういう順番で、どのくらいのペースで情報を与えればいいのか。
子どもでもわかる指導に加え、保護者への伝え方も含め、トライアルアンドエラー、ユーザーとのコミュニケーションが必要な分野だと感じています。開発者側も、勉強しながら作っていく必要があるなと。
そこで開発時には、各学年のお子さんに意見をいただく機会を設けるなど、プログラミングをやったことがない子でもつまずかず、1つずつ情報を受け止めてスムーズに進んでいただけるよう工夫しました。
「プログラミングで育成する資質・能力の評価規準」をもとに教材のカリキュラムを作成
—では、具体的な内容についてお伺いします。教材を開発する際には、どのようなコンセプトをもとにされたのですか。
カリキュラムの設計の際には、文部科学省が示した「プログラミング教育を通じて目指す育成すべき資質・能力」の枠組みや、海外の事例を参考に大学・企業・NPOなどに属する有識者と協力して、ベネッセが作成した「プログラミングで育成する資質・能力の評価規準」をもとにしました。
これはプログラミングを通して身につけてほしい力をまとめたもので、大きく分けて【知識・技能】【思考力・判断力・表現力等】【学びに向かう力・人間性等】という3つのカテゴリがあります。
「ベネッセの教材で初めてプログラミングに触れる」というお子さんに対し、これらの力を、どのような順番で身につけていただくか。それを考えながら、神崎と二人で開発をしていきました。
スモールステップに分解する・他の答えも認める
—先ほど、通信教育教材の開発の難しさについてお伺いしましたが、具体的にはどのような点を工夫されたのでしょうか。
工夫した点としては、とにかくスモールステップに分解すること。繰り返しになりますが、事前知識のない子・苦手な子でも一人で取り組めるのが重要なので、そこにはこだわりました。
「進研ゼミ小学講座」の教材にはブロックプログラミング(動作を表す「ブロック」を使う、視覚的なプログラミング)を採用しています。
視覚的にわかりやすいツールですが、それでもいきなりプログラミングをさせるのではなく「この動きを表すブロックは、三つのうちのどれかな?」と三択で答えさせたり、「『?』の部分に入るブロックはどれかな?」と穴埋め問題を出したり。
1つずつ、ブロックの意味を理解してもらってから「実際に動かしてみよう」と誘導するんです。それが「スモールステップに分解する」ですね。
もう一つ工夫したことは「答えを一通りにしない」です。目的地にたどり着くために、まっすぐ進んでもいいし、迂回して行ったとしても、一つのゴールとして認めてあげる。
ブロックの使い方も、繰り返しブロック(同じ動作を繰り返すブロック)を活用できればベストだけれども、「右を向く」「曲がる」「右を向く」「曲がる」をたくさん入力する方法でもクリアはできます。漢字や計算の問題とは違い、正解は何パターンもあるんです。
ただ、やはり効率のいい方法というのはありますから、出来たプログラムに対して「評価」という指標は入れています。クリア扱いにはするものの「もう少し短いプログラムでクリアできないかな?」「くり返しブロックを使ってクリアできるかな?」とアドバイスするんです。
—リリースしてみて、反応はいかがですか。
問題は8ステージあるのですが、最後の方になると、大人であっても少し頭をひねるような内容になってきます。
もちろん、それまでに習ったことを積み重ねれば解ける内容ではあるのですが、神崎とも「難しすぎるかな?」「でも、最終ステージだし、チャレンジして欲しいよね」と相談したほどでした。
ところが実際に出してみると、取り組んでくれた人の約7割が最終ステージまで到達してくれていたんです。試行錯誤しながら問題を解く楽しさを、今の子ども達の感覚に合った形で届けることができたかもしれないですね。
ゲームプログラミングの採用は「挑戦」だった
—個人的に「ゲームプログラミング」の採用はちょっと意外でした。「ゲーム」と「勉強」はこれまで、相反するものとして語られがちだったので。
プログラミングの目的を改めて考えてみると「何かの役に立つ」「誰かに使ってもらう」ことではないかと思うんです。
「はじめてのプログラミング」では、順次・繰り返し・条件分岐といったプログラミングの基本を一人でも楽しく体験できることをゴールにしていましたが、同時に「使ってもらう人」のことを子どもが自然に考えられるような教材が作れないかと考えました。
お子さんが「使ってもらう」相手は誰かと考えると、お友達やおうちの方がメインになりますよね。そこでコミュニケーションを生み出すには、ゲームプログラミングが有効なんじゃないかと。
「進研ゼミ小学講座」がこれまで提供する機会のなかったテーマなので、挑戦的な内容ではありました。ただ、家庭内でのコミュニケーションと教育は切っても切れない関係にあると思うんですね。
子どもが自分で作ったゲームを通して家族との会話が生まれたら、子どもの学びに大きな影響が与えられるんです。
たとえば「こんなの作ったよ」とプレイしてもらって「面白いね」「ちょっと難しいね」とコメントをもらったり。「次はこうしてみようかな」と工夫したり。会話をしながら、前向きに取り組んでもらえるのではないかと考えたんです。
—子どもさんや保護者の方の反応で、心に残っているものはありますか?
意外だったのは、カリキュラム移行期(プログラミングが必修化される前に、中学生になる学年)の子どもからの感想ですね。「自分はプログラミングを学校で習わないから不安に思っていたけど、『進研ゼミ』で習えてよかった」というものがありました。
プログラミングが必修化することを意識しているのは、保護者の方だけではないんですね。子ども達自身も、何となくロボットやAIというキーワードを気にしているんです。
ご家庭によっては、保護者の方が知らないところで「いつの間にか進研ゼミの教材をやっていた!」というシーンもあるようです。子どもが自発的に取り組んでいて「こういうものなんだな」と後から知った、と。
「自分にできないことを子どもがやっていて、感動します」というお声もいただきました。子ども達からも「もっとやりたい!」と言ってもらい、嬉しく思っています。
教材開発者の思い
—では最後にお一人ずつ、開発にかける思いをお願いします!
鈴木:世間的にはプログラミング教育への関心は高まっているものの、「プログラミングで何ができるのか?」に対する理解はまだ広まっていないように思います。
一方で「進研ゼミ小学講座」は会員数も多く、さまざまなお子さんに受講していただけています。
自分の使命は、できるだけ多くのお子さんの将来につながる選択肢を広げられる教材を提供していくことだと考えています。プログラミングが様々な分野につながっていることを、楽しみながら理解できるようにしたいですね。
そして、より世の中につなげていけるような教材を拡充していきたいと考えています。
神崎:プログラミングは、たとえばゲーム作りだけではなくて、いろいろな場面で役立つ「考え方」を育てるものです。
今は中高学年向けの教材を展開していますが、いずれ低学年や、中学・高校へ接続していけるような教材も提供していきたいですね。
多くの子どもに学ぶ機会を提供し、日本のプログラミング教育を引っ張っていけるような教材を作りたいと考えています。
上村:これまで文部科学省からは、2020年の教育改革・プログラミング必修化が打ち出される以前にも「子どもの学びが変わってきている」という情報が発信されてきました。
プログラミングという教材を通して、論理的思考力、問題解決力を育てることにつながっていく。そういうことだと思います。
先の見えない未来の中で、どういったコンテンツをご提供するか。「プログラミングの基本ってなんだろう?」を考え、授業として成り立たせるにはどうすればいいか。このチームで今後も深めていきたいと思います。
—ありがとうございました!