モノづくりの街、大阪日本橋から世界へ! ダイセン電子工業 田中宏明さん(代表取締役社長)

モノづくりの街、大阪日本橋から世界へ! ダイセン電子工業 田中宏明さん(代表取締役社長)
赤に白字の基板に電池ボックスが載ったシンプルなロボットカー『α-Xplorer (アルファ・エクスプローラ)』。お子さんのプログラミング教育に熱心な方なら、きっとどこかで目にされたことがあるでしょう。今回は、ロボカップジュニア創成期から、子どもたちに愛されるロボットを作り続ける『ダイセン電子工業』田中宏明社長にお話を伺いました。

リモコンの会社が子ども向けロボットを??

――ダイセン電子工業は、もともとは何を作っている会社なのですか?

田中社長(以下 田中):わが社のメイン事業は『リモコン』です。先代の蝉(せみ)正敏社長が創業したのが32年前のことです。赤外線リモコンや無線リモコンの開発から製造、販売まで、リモコンを主としながら、プリント基板や電子部品、電子デバイスなどを扱っています。

ダイセン電子工業 田中宏明 代表取締役社長


――どうしてリモコンの会社がお子さん向けのロボットを作り始めたのですか?

田中:まったくの偶然なんです。ちょうどわたしたちの会社が「でんでんタウン協栄会」に加入したばかりの頃に、ロボカップの世界大会が大阪で開催されることになりました。

会合で、モノづくりの街「日本橋」をアピールするためにも大阪発のロボットを作ろう!という話が持ち上がり、そこで手を上げたのが先代の蝉(せみ)社長(現在は会長)でした。

――ずいぶんと急な話ですが、社員さんたちの反応はいかがでしたか?

田中:当時わたしは営業を担当する社員だったのですが、「いったい何を言い出すんだ?」くらいに思っていましたね(笑)。

でも、私たちにとってロボットを作ることは、それほど難しいことではないんです。リモコンで使われる技術はロボット作りにも生かすことができますからね。子どもさんでも扱いやすいようなロボットにしようと、試行錯誤の末に完成したのが『TJ1(Top Junior 1)』です。

――先代社長は、お子さんのロボット教育に関心があったのですか?

田中:ロボット開発そのものに興味があったんでしょうね。先代は開拓精神旺盛で、おもしろいと思ったらやってみようという方なんです。うちは社員10名ほどの小さな会社で、小回りがききやすいというのもあったと思います。

当時、NHKの高専ロボコンを見ながら「こういうの、自分たちもできるよなあ」と、みんなで話したりしていました。実際に子ども向けのロボット事業をやってみると本当に楽しくて、今ではかなりの時間をこの活動に費やしています(笑)。

本社ショールームに並べられたダイセン製リモコンとロボット

毎週末、無償で開催されるロボット講習会

――毎週末にダイセン本社で開かれるロボット講習会は、ロボカッパー(注:ロボカップに出場する選手のこと)の間では有名ですよね。

田中:多い時には20人くらいのお子さんたちが集まってくれます。わたしを含めた3人くらいの社員で行っていますが、無償ですからほとんど趣味みたいなものです(笑)。

和歌山や京都など、遠方から毎週通ってくるお子さんもいますよ。続けて通ってくれるうちに、お父さんやお母さんが熱心に協力してくれるようになって、大会の審判などのお手伝いをしていただくことも多いです。

初心者から世界大会優勝者まで、たくさんの子どもたちが訪れる


――子ども向けのロボット事業はどのように展開されてきたのですか?

田中:最初に開発された『TJ1』を使ったチームがロボカップジュニアの世界大会で優勝すると、ダイセン製ロボットの知名度が一気に上がりました

当時は今のロボカップと異なり、サッカー競技では、白から黒へのグラデーションが印刷してある紙のコートを使っていました。白黒の濃淡を読み取って、敵と味方のゴールを見分けていたのですね。

――そんな時代があったんですね!

田中:やがて現在のような緑カーペットのコートになり、方向は地磁気(コンパス)センサで測るようになりました。

ロボカップジュニアのルール変更に合わせて、わが社では『TJ2』、『TJ3』、『e-ガジェット』、そして『アルファ・エクスプローラー』を開発してきました。

技術的には変わりましたが、ややこしい配線なしでお子さんでも簡単に組み立てられるという当初のコンセプトは守り続けています。

ずらりと並べられた歴代の強者ロボットたち


――ダイセンのロボット教材は『本格的』というイメージがありますが?

田中:複雑に見えるかもしれませんが、お子さんでも扱いやすいように細部まで考えて作っています。

ロボットというのは、いくらプログラムを工夫したところで、ハードが不安定では思い通りの動きをさせることはできません。これからロボットプログラミングを始めようとするお子さんが使うものだからこそ、ハードの安定性にはこだわっています

もちろん、ロボットをコントロールするためのソフトもこだわって作っていますよ。C-style(シー・スタイル)は、C言語をベースにわが社が独自に開発したビジュアルプログラミングソフトで、初めて使うお子さんでも理解しやすいようにいろいろな工夫がされています。

ダイセン製プログラミングソフト『C-Style』
出典:http://www.daisendenshi.com/robot/


――『C-style』は今でも定期的に更新されていますね。

田中:それも子どもたちの意見を取り入れて行っているんですよ。講習に来てくれるお子さんの中には、とても細かいところまで検討してくれる子がいて、「ここがうまくいかないから、こういうふうにしてほしい」とか言ってくれるんです。一緒に開発している感覚ですね。

講習会では蝉(せみ)正敏会長も熱心に指導


小学校での採用も多い『アルファ・エクスプローラー』

――2020年の初等教育で始まるプログラミング教育の必修化に合わせて、ダイセンのロボットを採用する学校も増えてきているのではないですか?

田中:今のところ20以上の学校で、アルファ・エクスプローラーを使っていただいています。このロボットはラインセンサーが2つだけというシンプルなもので、誰にでも扱いやすいのが特徴です。

――ネジもチップもむき出しという見た目が、メカ好きの心をくすぐりますね。

田中:見た目はとくに狙って作ったわけではありませんが、今のお子さんたちにとっては新鮮かもしれませんね。

最近は、家電もどんどん高機能になって、中で行われていることが簡単にはわからないものが多くなっています。昔のように、壊れたら家で修理するという習慣もなくなりつつありますね。ドライバーなどの工具がないというお家も増えています。

アルファ・エクスプローラーを使って、自分でビスやネジを締め直したり、電池を入れ換えたりすると、「モノはこうやって動くんだ」と、その仕組みを目で確認することができます

マイコンチップもむき出しですから、「いまキミたちが書いたプログラムはここに入っていったんだよ」と見せることで、子どもたちも納得しながら学ぶことができます。


――小学校には、社長様が自ら教えに行っているそうですね?

田中:教えるといっても、子どもたちはあっという間に使い方を習得してしまいますよ。アルファ・エクスプローラはiPadでプログラミングできるので、スマートフォンなどのタッチパッドに慣れている現代のお子さんたちは、飲み込みが早いですね。

――お子さんたちの反応はいかがですか?

田中:『楽しかった!』『おもしろかった!』と言ってくれますね。小学校の出前授業がきっかけになって、週末の講習会に来てくれるお子さんもたくさんいます。

学校の授業で活用するなら高学年のほうがよいと思いますが、興味があれば、3年生のお子さんでも講習ではお教えしますよ。

――民間の教室でも使われているのですか?

田中:塾などでご利用していただくことも増えています。最近は民間の教室からの問い合わせも多いですね。 

まずは体験できる機会をお子さんに与えてほしい

――プログラミングは小さい頃からやったほうがいいのでしょうか?

田中:あまり年齢が小さすぎるのもどうかとは思いますが、たとえばスマートフォンはほとんどのご家庭で小さい時から触らせていますよね。でも、スマートフォンがどうやって動いているのかについて知っている子は少ないでしょう。

そういったモノの動く仕組みに興味を持たせるためにも、プログラミングに小さい時から触れることは意味があると思います。子どもは半分遊びのような感覚で慣れていきますね

ロボットプログラミングが優れている点は、「ここでロボットを止めたい」「右に曲がらせたい」など、解決すべき課題が明確であるというところです。

国語や算数だと、漠然とそれが大事だとはわかっていても、やったところで実際にどう役立つのかがわかりくいのではないかと思います。

でもロボットを使うと、課題を解決することで、自分の思い通りにロボットが動く喜びを得られますから、学習意欲も自然と湧いてきます。

ある小学校の先生に聞いたお話しでは、ロボットに熱心に取り組むと、他の教科の成績が上がることもあるそうです。

――ロボットを通して、自分で問題を解決する楽しさやおもしろさに気づくのですね。

田中:大会出場も大きなモチベーションになります。試合に勝ちたい、全国大会に出たいというのがひとつのきっかけになって、自分でわからないことを調べたり、工夫したりするようになります

学校の授業ではなかなか差が出ませんが、大会で、同じ機材を使っていながら自分よりずっと上手にロボットを動かしているのを見ると、学習のモチベーションになりますね。

――ご自身のお子さんもロボットプログラミングをされているのですか?

田中:小学4年生なので、そろそろ始めようかなというところです。実は、自分の子どもが通っている小学校ではプログラミング教育への取り組みが鈍かったんです。

それで、さんざん迷った末に「もし、お手伝いできることがあれば…」と、先日、学校に直談判してしまいました(笑)。

――ダイセンの社長様から直々に申し出があったら、学校はイヤとは言えませんね!

田中:必修化とは言え、実際のところ、先生方も未経験な領域なので、踏み出すにもかなりの勇気がいると思います。どの程度定着するかは未知数ですね。

教育委員会などでお話ししたこともあるのですが、現場の反応は鈍いというのが率直な感想です。

プログラミング教育の内容や、何をするべきかについての理解も遅れていますね。大人たちが躊躇しているうちに、大切な機会を逃す子どもたちが出てくるのが歯がゆいですね。 

初心者でも挑戦できる大会『RoboRAVE』のスポンサーにも

――ロボカップジュニアだけでなく、最近は、RoboRAVE(ろぼれいぶ)にも力を入れておられますね。

田中:私自身はRoboRAVE Osakaのディレクターを務めています。

ロボカップ開催当初の目標は、『2050年までに、人のサッカーのワールドカップ優勝チームに勝つような、ロボットのチームを作る』というものでした。ロボカップジュニアはその19歳以下のカテゴリーとして設けられたものです。

当初の目的を達成するために、ロボカップシニアの技術はどんどん高度になっています。それに合わせるように、ロボカップジュニアで使われる技術も年々難しいものになってきています。そのため、ロボットを作り始めたばかりのお子さんが出場するには、ロボカップジュニアはハードルが高い大会になりつつあります。

そんなときに出会ったのがRoboRAVEです。ライントレースや相撲競技など、ロボットを始めたばかりのお子さんでも比較的出場しやすい大会ということで、参画することになりました。

『RAVE』とはRobots Are Very Educationalの略で、ロボットは教育に向いている!』という意味なんです。RoboRAVEでは「勉強しながら楽しむこと」「分かち合うこと」、そして「チームワークを身につけること」を目標にしています。

――RoboRAVEの認知度も上がってきていますね。

田中:石川県の加賀市がRoboRAVEと契約を結んで国際大会が日本で行われるようになったこともあり、参加されるお子さんも増えています。加賀市では学校のプログラミング教材としてダイセンのロボットを導入していただき、RoboRAVEへの参加も促しています。今後、サッカー競技を取り入れたいとも考えているんですよ。

現在は大阪ブロックの他にも、RoboRAVE 福岡や 関東、東海ブロックなどがあります。各地の予選大会を全国的に増やして、もっとたくさんのお子さんたちが参加できるようにしていきたいですね。


――最後に、お子さんのプログラミング教育をお考えの保護者の方にメッセージをお願いします。

田中:まずは、子どもさんたちにプログラミングに触れる機会を与えていただきたいと思いますね。インターネットで手に入る無償の教材もたくさんあります。

そこでお子さんが興味を示さなければ、それ以上、無理にさせることはないでしょう。その反対に、そこからお子さんの世界が開けて、次のステップに踏み込むきっかけになるかもしれません。

ダイセンでは毎週末に講習会も開いていますから、ぜひ一度のぞきにきてほしいですね。個人的には、試しにやっていただければきっともっとやりたくなるはずだと思っています。お子さんが始めたことがきっかけで、ロボットプログラミングの世界にのめり込む親御さんも多いんですよ(笑)。 

まとめ(編集部から)

大阪のモノづくり魂を胸に、子どものプログラミング教育に取り組む『ダイセン電子工業』の田中社長。

「学校相手の取引では儲けは大きくない」と笑うものの、ひとりでも多くのお子さんにロボットプログラミングの楽しさを知ってほしいという思いから、自ら学校に出向いてその魅力を伝えています。

毎週末に本社で行われているロボット講習会には、遠方から訪れるお子さんも多く、ロボカップジュニアの「メッカ」と言われることも。今月末に和歌山県和歌山市で開催される『ロボカップジュニアジャパンオープン2019』では、子どもたちがその才能を発揮できるよう、設営から審判、運営まで田中社長が中心となって活動されるとのことです。

さらに、RoboRAVEもますます盛んになるということで、これからもダイセン電子工業の動向に注目していきたいと思います。

田中社長、ダイセン電子工業のみなさん、どうもありがとうございました。
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