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テクニカルイラストとは、家電や家具についてくる「取扱説明書」のなかのイラストのこと。あの精緻なイラストを思い出し、「そもそも、人の手で描かれていたの?」と驚く方もいらっしゃるのではないでしょうか。
小学生の「なりたい職業」探検隊・第8回は、そんなテクニカルイラストレーター歴13年のぬっきぃさんです。ぬっきぃさんは先日、TBS系列の『マツコの知らない世界』に取り上げられたばかり。「100品以上の取扱説明書を書いたイラストレーター」として、脚光をあびました。
ぬっきぃさんはなぜテクニカルイラストに興味をもち、どのようにしてその道を極めてきたのでしょうか。幼少期のお話から“取説のぬっきぃ”と呼ばれるまでのエピソードまで、これまでの軌跡をうかがいました。
テクニカルイラストレーターは「取材が8割」
27歳のときに夫の転勤で、地元・埼玉県から群馬県に移り住んだぬっきぃさん。現在はほぼリモートワークで仕事をこなします。直近では、NHKのバラエティ番組『万物トリセツショー』の番組制作に協力。企業からの依頼も絶えません。ぬっきぃさんいわく、テクニカルイラストレーターの仕事は「製品の取材」が約8割。対面の場合はメーカーに出向いて話を聞き、リモートの場合は、郵送で製品を送ってもらうところから始まります。
ぬっきぃさんによると、取材(=製品の把握)は以下のような流れで進むそうです。
- 実際に自分で使ってみる
- 分解して、また組み立てる
- テクニカルライター(文章を担当する人)と打ち合わせをする
イラストに詳しくないと、「漫画とテクニカルイラストでは、どう違うの?」と疑問を持ってしまいますが、求められるものはまったく違うそう。というのも、漫画ではエンタメ的な演出が求められるのに対し、テクニカルイラストは「機械図面」に近く、最悪の場合、人の命にかかわります。何よりも正確さを求められるからこそ、綿密な取材が重要になるのです。
画像提供:ぬっきぃさん
推薦ほしさに美術部へ。審査員の好みをつかみ、金賞に輝く
3人きょうだい(弟・姉)の真ん中に生まれたぬっきぃさんは、遊びや勉強にそこまで制限の多くない、「ごくふつうの家庭」(ぬっきぃさん)に育ったといいます。「おしゃべりが苦手だった」ぬっきぃさんが没頭したのは、家で黙々と遊べる、デンマーク製のプラスチック玩具「レゴブロック」でした。「とにかくレゴブロックが好きで。組み立てて壊して、また組み立てて……と、夢中になっていましたね」
ちなみにレゴブロックは、ぬっきぃさんのお母さまが、自身で遊ぶために購入したものだそう。お菓子づくりの先生をしていたお母さまは、好奇心旺盛な性格だったそうです。
FLL認定プラチナスクールにも選ばれているロボット科学教育 Crefus(クレファス)。毎年欠かさず世界大会出場者を輩出しているエリート校です。そんなCrefusでは、年長〜小2生向けには「Kicks(キックス)ジュニアエリート」コースも開講。今回は、気になるその授業内容をレポートします。
2024/11/06 11:42
当時のぬっきぃさんは、「イラストは、好きではあったけれど得意ではなかった」そうで、
「小学校では手芸部、中学では美術部に入っていました。美術部を選んだのは、絵がうまくなりたかったからです。ただ、ちょっとした打算もあって(笑)。美術部は、絵画コンクールで賞をもらうと高校の推薦をとりやすいと聞いたんですよね。勉強が苦手だったので、部活に打ち込むことで推薦をもらえたら、と考えた面もありました」
その結果、ぬっきぃさんはなんと、県が開催する絵画コンクールで金賞を受賞。「得意ではない」とおっしゃるのとは裏腹に、充分、イラストの才能があったのでは? と思わされますが、そこには秘策がありました。
「美術部のライバルだったAちゃんに、ぜったい勝ちたかったんです。どうしても推薦がほしくて。でも、Aちゃんは絵が上手だったので、なにか別の部分で差別化する必要がありました。それで、歴代の受賞作のデータをとって、審査員の好みを分析しました」
「描いたのは選挙のポスターでした。気合を入れたのは、絵よりもキャッチコピー。わかりやすいほうがいいと思ったんです。たしか、A3用紙の半分をイラスト、もう半分をキャッチコピーで埋めたと思います。先生には『イラストの制作期間が短すぎる』と注意されたんですけど、私が時間をかけたのはイラストより下準備だったので。金賞だったときは、先生もびっくりしていました」
「あんたこれ好きじゃないの?」母の一言が大きな転機に
そうして高校の推薦をもらったぬっきぃさんは、地元の工業高校へ進学。「家を設計してみたい」という想いから、インテリア科を選びました。「ふつうに建築科へ行けばいい話なんですけど、倍率が高くて。同じような内容を学べて倍率も低い、インテリア科にしました。これも打算です(笑)」と謙遜されます。卒業後の2006年には、建築設計事務所に就職。CADオペレーターや設計アシスタントを任され、夢が叶ったように思えたのもつかの間。営業まで幅広くまかされたプレッシャーから、ぬっきぃさんの心身はすり減っていきます。ついには激務にたえられなくなり、退職を決意しました。
「前職を辞めてしばらく家にいたので、母が心配して、新聞の求人の折込チラシを持ってきてくれたんです。あんたこれ好きじゃないの? って」
写真はイメージです
その求人は、車やバイクの取扱説明書をつくる、マニュアル制作会社のものでした。職種は、テクニカルイラストレーター。ぬっきぃさんはその場で電話をかけ、採用されたといいます。
ときは2009年。この選択が、ぬっきぃさんのキャリアを大きく変えたのです。
結婚、そして独立へ。「月間売上」を掲示し、家族の理解を得る
3社目の大手化学メーカーでは、前職で身につけたテクニカルイラストのスキルを活かして、社内マニュアルの制作にも携わります。評判はすこぶるよく、しだいに個人でも依頼を受けるように。そして2013年、「テクニカルイラストも描けるイラストレーター」として、独立を決めます。ところが、現実はそう甘くはありませんでした。当時、スキルはあっても「売り方」がわからず、仕事の獲得に大苦戦。テクニカルイラストだけでは収入にならず、通常のイラストの仕事で、細々と生活していたといいます。
「そんな生活をつづけていたら、体調をくずしてしまって。(独立する1年前に結婚した)夫は『無理はしないで、頼ってね』と言ってくれたのですが、自分の生活費は自分で出したかったんですよね。それで無理していたら、お金がなくなってしまい……。定期預金の解約で、つど残高が減っていくのをみるのはきつかったですね」
それでも家族には心配をかけまいと、部屋のドアにホワイトボードを引っかけ、「今月の仕事と売上見込み」を書くようにしていたのだとか。簡単には折れない芯の強さを感じさせます。
そんなある日、友人に誘われて、久しぶりに東京へ繰り出したぬっきぃさん。すると、
「びっくりするくらい心が晴れたんです。もともと東京への憧れが強かったためかもしれません。そこで、思いました。仕事が完全になくなったとしても、東京へ出てくればいいんだって」
ドラゴンボールのメカが取説に!? “取説のぬっきぃ”の誕生
2016年、気力を取り戻したぬっきぃさんは、インターネット上で「おもしろ記事大賞」というコンテストを発見します。絵を描くことも文章を書くことも好きだったぬっきぃさんは、エッセイ漫画を描いて投稿。その作品が、佳作を受賞したのです。思いもよらぬ展開にとまどいながらも、晴れてライターデビュー。テクニカルイラストレーターとライターの、2足のわらじで歩き始めます。
しかしながら、この時点ではまだ、テクニカルイラストレーターとしてもライターとしても、無名の状態でした。
転機は、人気Webメディアの「デイリーポータルZ(ゼット)」で3本目に書いた記事、『プロが描く、ドラゴンボールのスカウターの取扱説明書』。
「新人ライターは3本目まででその後が決まる、と風の噂で聞いていたので、この記事が最後だと思ったんです。だから、好きなことを全力で書こうと思って」
結果、記事は大ヒット。Twitterを中心に拡散され、「説明書があると一気にリアルになる」「こういうのも人の手で描いてるんだね」と感心のコメントがあふれました。いつしか、“取説のぬっきぃ”という呼び名までできていました。
活躍のきっかけは「発信」。依頼は〇〇経由が大半
こうして活躍の幅を広げたぬっきぃさん。今年は、テクニカルイラストレーターとして13年目になります。「お仕事の依頼はホームページから来ることが多いですか?」とうかがうと、意外な返答が。「いえ、デイリーポータルZからです」なんと、テクニカルイラストの依頼は、ぬっきぃさんがライターとして書いた記事を読んだ人からの依頼が大半なのだそうです。しかも、「ぬっきぃさんだから描いてほしい」という、“ご指名案件”が多いというから驚きです。
「普通の人は、テクニカルイラストレーターという職業があることを知らないと思うし、依頼はおろか、検索するにも至らないと思うんですよね。だから、テクニカルイラストの専門じゃない、一般のイラストレーターさんに依頼した……という方のお話も聞きます。しかし、これには問題がありまして……」
ぬっきぃさんによると、テクニカルイラストには細かなルールがあるといいます。たとえば、「外に接している面の線は太線にする」「重なり合っている部分は細い線に」など。
「発注される方はこうしたルールをご存知ないことが多いですし、一般のイラストレーターさんも、テクニカルイラストの専門家ではありません。その結果、“わからない人同士でつくった取説”ができてしまうんですよ。こういう取説って意外と多いのですが、人が使うものと考えると、とても危険ですよね。そこでつくったのが、『テクニカルイラストを描く』と題したこちらの同人誌です。基本的な技術が詰まっているので、ご興味のある方はぜひ手に取っていただければと思います」
ぬっきぃさん作の同人誌。テクニカルイラストのルールがわかりやすく描かれている。現在も650円(税込)で販売中 引用元:ぬっきぃの通販-テクニカルイラストを描く
テクニカルイラストレーターは引く手あまた。向いているのは「製品を愛せる人」
今では、テクニカルイラストとライターの仕事のみで生活できるようになったぬっきぃさん。一般に、「クリエイティブな仕事で食べていくのは難しい」とされますが、ぬっきぃさんの生活はどのようなものなのでしょうか。「実は、テクニカルイラストレーターはけっこう引く手あまたなんです。実際に私は、県内のある企業さんから、高卒の自分には高すぎるくらいのお給料をご掲示いただきました。フリーランスとして『テクニカルイラスト1本で生活する』ハードルは高いですが、機械系の会社に就職するルートならかなり需要が高いので、身につけておいて損はないスキルだと思います」
その一方で、テクニカルイラストレーターを希望して入社しても、「想像とちがう」と退職する人は多いのだとか。ぬっきぃさんが以前勤めていたマニュアル制作会社では、「漫画やアニメが好き」といって入社した人が、一気に2~3人辞めたといいます。
「繰り返しになりますが、漫画とテクニカルイラストでは求められるものが大きく違うので、極端な話、イラストに興味がないほうが長続きすると思います。たとえば、同じイラストでも、『人』より『背景』を描くのが好き、かつ、メインを張るよりも一歩うしろに下がるほうが好きな子が向いているのかなと。あとは、製品への愛です(笑)。製品理解がイラストのクオリティに直結するので、どれだけ製品を愛せるか、が重要です」
「タピオカ」のメニューを案内するためのイラスト。これも「テクニカルイラスト」のひとつ。こうした依頼は多いそう 画像提供:ぬっきぃさん
夢はUFOの取説制作!子どもたちへ「自分ならこうする、と考えてみて」
「推薦ほしさに」部活に打ち込み、審査員の好みを研究して金賞をつかみ取ったぬっきぃさん。取材中は、そんなぬっきぃさんの人柄が垣間みえるこんなエピソードも飛び出しました。「人の好みを分析するのが好きなんです。たとえば、好きな色。その人の持ち物やよく着ている服でだいたいわかるので、よく覚えてます。どうしても会話が下手なので、コミュニケーションのきっかけとして、相手が好きな色の服をわざと自分も着て、『こういう色好きですよね?』って声をかけることもあります(笑)。好きなものを当てるとみんな喜んでくれるし、私も嬉しいんですよね」
最後に、ぬっきぃさんに「今後、手がけたい取扱説明書は?」と伺うと、なんと「UFO」だとか。「理想はUFOにさらわれること。UFOの実物をみて確認したい!」とおっしゃるのは、さすがのプロ意識です。
「テクニカルイラストレーターをめざす子どもたちには、取扱説明書をたくさん読んで、『自分ならこうする』と考えてみてほしい」
ぬっきぃさんと同じように組み立て・分解が好きな子や、誰かの好みを知って、その人のためにモノをつくってみたい子。そんなお子さまは、テクニカルイラストレーターの仕事を心から楽しめるかもしれませんね。