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未来の教育は「地域一体」「民間の力」が鍵 ― 元文科省副大臣 鈴木寛

2020年の新学習指導要領実施(小学校)までいよいよ1年を切りました。プログラミング教育の必修化、外国語と道徳の教科化といった内容面の変更はもちろん、「主体的・対話的で深い学び」(=子ども達の学び方)、「社会に開かれた教育課程」(=学校のあり方)が変わろうとしています。

今回は元文部科学副大臣であり、現在は東京大学大学院教授、慶應義塾大学教授を務められる鈴木 寛(すずき・かん)氏にインタビュー。

鈴木氏が繰り返し強調されてきたコミュニティ・スクールや民間の力の重要性と、世界経済の視点から見た「今の子ども達に必要なマインドセットの転換」について語っていただきました。

この前編ではコミュニティ・スクール制度と具体的な活動の内容、「世界に類を見ない」ほど高水準な民間ICT教材の普及についてお話を伺います。



(インタビュー後編へはこちら)

地域が一体となって子どもを支える仕組み

—新しい学習指導要領では「社会に開かれた教育課程」という考え方が示されていますね。

鈴木さんが重要視されてきた「コミュニティ・スクール」にもつながるかと思います。「コミュニティ・スクール」とは何か、改めて伺えますか。



コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)とは公立学校と地域の皆さんとが一緒になって子ども達を支える仕組みです。

直接的な子ども達の保護者だけでなく、子育てを卒業されたシニアの方、子どものいないご夫婦、若い方、学生の方などあらゆる地域の方が公立学校を支えるのがコミュニティ・スクールであり「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(第47条の6)に基づいています。


具体的には、保護者や地域住民の代表が学校の理事会に入り、学校の運営方針について意見を言ったり議論したりします。

以前は「東の三鷹、西の京都」と言われ東京・京都での活動が盛んでしたが、今や全国で5000校を超えています。

—地域のつながりが薄れつつあると指摘されることも多いですが、コミュニティ・スクールは着実に増えているのですね。どうしてでしょうか。

法律が変わったのが大きいですね。


法改正以前は、コミュニティ・スクールになるには市区町村の教育委員会の指定が必要でした。

現在の法律では「すべての学校をコミュニティ・スクールにする」が努力目標になりました。今後はより多くの学校が地域に開かれていくでしょう。

—アメリカのチャーター・スクール* と似ているように思いますが……。

* チャーター・スクール……チャーター(特別認可)を受けて設立される公立学校。保護者や地域住民の希望のもと、特定のカリキュラム(コンピューターサイエンス等)に特化した学校を作ることができる。

学校外からカリキュラムについて意見を出し、議論できる点ではチャーター・スクールにも似ていますが、チャーター・スクールの場合は民間企業が運営を請け負うケースも多くなっています。

コミュニティ・スクールは企業というより、地域の力で公立学校を支えることに重きを置いています。その点がチャーター・スクールとは異なります。

「家の水やり」がボランティアに

—運営理事会への参加以外にはどのような形のボランティアがあるのでしょうか。

地域の方がアシスタントティーチャーやサポートティーチャーなどの形で放課後の学びやクラブ活動に入られたり、ときには授業そのものに入られたりするケースもあります。

プログラミング教育で言えば、地域にいらっしゃる方が「パソコンクラブ」を支援する形が考えられるでしょう。

さらに気軽なボランティア活動の事例としては、通学路の安全確保があります。通学範囲は広いですから、学校の先生だけではとても手が回りません。ガードマンの配置も予算面で非現実的です。

そこで地域の力をお借りする。実際のケースとして「このあたりを8時15分から30分ごろに通ります」とチラシでお知らせし、庭木への水やりやペットの散歩をその時間にしていただけませんか?とお願いした例があります。


多くの方が協力してくださり、子ども達が通学するタイミングで一斉に地域の方が出てこられる環境が作れました。

不審者が恐れるのは大人の目です。「人は城」と武田信玄も言ったとおり、大人がただそこにいるだけで守られる安全がある。不審者の近寄りにくい地域を作れるのです。

—なるほど。学校へ出向くのはハードルが高いですが、それくらいなら私にもできそうです。先生の負担も減りますね。

学校の先生からお話を聞くと、授業で忙しくなるのは構わないが、授業外の業務が多すぎると悩まれる方が多いです。

先に述べた安全確保もそうですし、子どもが非行等の問題を起こしたときに迎えに行くのも先生です。これは日本に特有の業務で、なんでもかんでも学校の先生に押しつけてしまう日本の学校環境が端的に表れていると言えるでしょう。

地域のサポートを受けられると先生も業務に集中しやすくなり、負担軽減につながるのです。

地域の目で非行件数が1000→30件に

—現在、学校運営にはPTAなど主に保護者が関わるケースが多いように思います。コミュニティ・スクールでは保護者だけでなく、あらゆる人に入ってきてもらうのが理想なのですね。

鍵となるのはシニアです。子育て世代はすでに手一杯で余裕がありません。シニア層は知恵も人脈もあり、時間的な余裕もある。

一方でプログラミングや語学など専門性のある内容に関しては地域にいらっしゃる方の手を借りたい。それぞれに得意なこと、できることを生かしていただき、いろいろな立場から子どもを育てるのが理想です。


こんなケースがあります。ある地域では中学校での非行件数が多く、年間1000件を超えていました。ところがある日、スーパーで転んでしまったおばあさんを助けた子がおり、学校に感謝の連絡が届きました。

感動した校長先生は朝礼でその話をし、子ども達を褒めた。すると、次の年には非行件数が30件まで減ったというのです。

地域の目があると、子ども達の暮らし方も自然と変わってきます。良いことも悪いことも見守られているのだと伝わるのが大事なのです。いわば「お天道様」ですね。

必修化の鍵を握る民間の力

—「コエテコ」では民間のプログラミング教育情報を発信しています。鈴木さんは民間の力をどう捉えていますか。

国家財政が厳しい中、国力の低下、ICT環境整備の遅れが言われています。しかしそれだけで日本をIT後進国と断じるのは早計です。

日本にはタブレット教材で勉強している小中学校生が250万人もいます。小中生はおよそ900万人いますから、3人~4人に1人がタブレット教材を利用している計算になる。

しかもここには保護者のパソコンを利用するケースやスマホ教材は含まれていません。それも合わせると相当な数の小中生がデジタル教材で学んでいる予測になります。

デジタル教材がここまで普及している国は世界に類を見ません。ほとんどの教材は民間のものです。日本の教育においては、民間が大きな力を持っているのです。


—民間教育の幅が広がると地域格差や所得格差が拡大しやすいのでは?とも指摘されますが……

こういう話をすると「本来は公がやるべきだ」と批判されるかもしれません。

しかし、頭を切り替えてみてください。公的資金は限られています。民間でカバーできるところはしてもらって、足りないところに公金を集中させる。そのほうがより効率的ではないでしょうか。

—公の足りないところを民が担うのではなく、民が率先して取り組み、公は足らずを補填するイメージだと。

学習指導要領の改訂で授業時数は増えています。それでも6年生で980時間(現行)しかありません。しかも45分授業ですから、実質の授業時間は3/4倍、735時間です。

プログラミングや外国語学習など新たな要素を入れようとしても、すでにカリキュラムがいっぱいいっぱいな現実がある。学校教育だけでは社会のニーズを捉えきれない現状があるのです。

とくにプログラミングや外国語教育は子どもによって大きく習熟度に開きが出やすい分野です。小学生でも大人顔負けの作品を作れる子もいれば、高校生になっても苦手な子もいるでしょう。

20世紀型の形式的平等主義で運営してきた学校教育は、それぞれの子に応じた学びのカスタマイズがまだまだ苦手です。

ですから、学校教育での取り組みは大前提として、営利/非営利を含めた民間教育の力が必要なのです。

後編へ続く

地域や民間の力を借り、いろいろな立場から子どもを育てる社会が理想だと語る鈴木さん。ボランティアは「負担が大きそう」と尻込みしてしまいますが「大人がそこにいるだけで守られる安全がある」話は目からうろこでした。

インタビュー後半では、21世紀の経済環境を表す「VUCAの時代」とは何か、VUCAの時代を生き抜くマインドセットとは何か?についてお話を伺います。

(後編記事へはこちら)

公開日:2019.07.10

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