中学校でのプログラミング教育必修化を徹底解説—文部科学省・上野耕史さんインタビュー

中学校でのプログラミング教育必修化を徹底解説—文部科学省・上野耕史さんインタビュー
2021年度からは、中学校でも新学習指導要領が「全面実施」となり、プログラミングに関する内容が拡充されます。

そうはいっても「全面実施」の意味を含め、なかなか認知が進んでいないのも現状。

今回は文部科学省 上野耕史(うえの・こうし)さんにインタビュー。中学校でのプログラミング教育についてお話ししていただきました。

「技術」分野の意義から具体的な変更点、先生へのサポート体制など、気になる質問をどんどんぶつけていきます。


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「全面実施」とは

—まずは、基本を確認させてください。

インターネット上では「今の小6(=小学校で必修化する年度に、中学生になっている子ども)はプログラミングを学ばないまま終わるのでは?」という疑問が散見されます。

新学習指導要領は、中学校では平成33年度(2021年度)から「全面実施」となりますが、分かりやすく教えていただけますか。

はい。ポイントなのは「全面実施」の意味です。「全面実施」というのは「2021年度に中2、中3の子ども達は、新しい学習指導要領で学んでおかなければならない」という意味なんです。


—ちょっと難しいですが、今の小6(=2019年4月から中1になる子ども達)は中学校を卒業する時点で、新しい学習指導要領の内容を学んでおかなければならない、ということですね。古い内容しか学んでいないと、履修漏れになると。

そういうことです。

新たに加わった内容を2021年度(中3)から慌てて履修しようとしても時間が足りない可能性がありますから、各学校には、新学習指導要領に基づき、計画的に授業を実施していただくようお願いしています。

題材や指導方法の検討、使用する教材の選定を今から進めておいてくださいね、ということです。


どの学年でプログラミングを扱うかは各学校のスケジュールによりますから、中1・中2・中3のどこで学習するかは変わりますが、「現在の小6はプログラミング教育を履修しない」ということではありません。

プログラミングは「技術・家庭」で

—さらに詳しくお聞きします。中学校でのプログラミング教育は「技術・家庭」科目の一部として実施されるのですよね。

はい。「技術・家庭」のうち「技術」分野で扱います。

「技術」分野の内容は4つに分かれています。それぞれはこのようになっています。

(A)材料と加工の技術
(B)生物育成の技術
(C)エネルギー変換の技術
(D)情報の技術

こちらに教科書を用意しました。一度ご覧になってみてください。


—自分が学んだときと比べて、ずいぶん変わっています。牧畜や水産に関する内容は、社会科で学んだ記憶があるのですが……

「技術」分野は、我々の生活を支えている様々な技術に対する理解を深め、課題を設定し、解決していく資質・能力を養うためにあります。

おっしゃっている「(B)生物育成の技術」もそうで、日本は小さな国ですが、排他的経済水域等の面積は世界6位なんです。海洋国家として、水産技術の学習は欠かせません。

—なるほど。プログラミングに関連するのは「(D)情報の技術」でしょうか。

ええ。ただ、ここで重要なのは、「プログラミング教育」と聞くと「プログラムを組むこと」が最終ゴールであると思われがちなのですが、それだけが目的ではありません。

「(D)情報の技術」に関して例を挙げると、写真などの「画質」の問題が分かりやすいですね。印刷するのであればそれなりの画質が必要になります。けれども、スマホの画面で見るだけならそんなに高画質である必要はありません。

高画質な写真のデータはネットワークに負担をかけますから、適切な画質に抑えるのが好ましい。では、どの程度が適切だろう?……といった情報のデジタル化、システム化等について考えることが大切であり、「(D)情報の技術」を学ぶねらいの一つです。

「人権や個人情報の保護」など、SNS時代に即した内容も盛り込まれている


これから技術が発展すれば、作りたいものの設計だけすれば、具体的なプログラムは機械が書いてくれるかもしれません。プログラムの技術だけを習得するのではなく、プログラムを通していかに問題を解決するかが問われます。

具体的な変更点

—水産技術と同じで、生活を支える技術のひとつとして学ぶ、という意味合いが強いんですね。具体的な変更点についてお伺いできますか。

こちらの新旧対照表を見ながらご説明していきましょう。


これまでの「技術分野」にもネットワークや情報モラルに関する内容は含まれていました。プログラムに関しても「(3)プログラムによる計測・制御」という項目が従前からありました。

では、どこが大きく変更されたのかというと「(2)ディジタル作品の設計・制作」という項目です。


この項目は、プレゼンテーションやアニメーション、Webページなどのディジタル作品の設計・制作を学びます。学習にあたり、これまではソフトウェアを活用するのが主でした。

新学習指導要領では、「(2)ディジタル作品の設計・制作」が「(2)ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題解決」という項目に変更されました。

ソフトウェアをどう使いこなすか?(受動的な活用)だけではなく、ネットワークの活用、コンピュータとの双方向性、プログラミングによる問題解決(能動的な活用)が盛り込まれているのです。

—私が中学生だった頃には「ホームページ・ビルダー」(ジャストシステム社)でWebページを作った記憶があります。

こういうものが”ソフトウェアの活用”だと思うのですが、これが「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツ」に変更されると。


はい。ネットワークとは、コンピュータ間の情報通信を指します。こうした通信技術はすでに我々の生活に欠かせないものですから、モラルやセキュリティの問題も含めて学習するのが目的です。

双方向性とは、使用者の働きかけ(入力)によって、応答(出力)する機能です。

例えば、プログラムを実行すれば画面に五角形の図が描かれるといった出力するだけのプログラムではなく、プログラムを実行すると何角形を描くか「入力」が求められ、それに「応答」する図形が描かれるといったことです。

加えて、中学校では1種類の情報、たとえば「文字」たけでなく、音や画像といった複数の情報も扱っていただきたいと考えています。

中学校でのプログラミング教育の内容は、小学校での内容を踏まえてレベルアップさせているという


「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツ」とは、使う人がコンピュータと相互にやり取りをしながら(双方向性)、コンピュータ間でも通信をする(ネットワーク)コンテンツ、ということですね。

具体的には「パソコン室内で利用する文字チャットのプログラム」「複数人でコミュニケーションできるデジタル筆談ボード」などの実践例があります。

先生へのサポート体制

—これまでのお話を聞いて、けっこうレベルの高い内容を扱うんだな、という印象を受けました。それだけに、現場の先生方の中には「教えられるのかな?」と不安を抱く方もいるのではないかと思われます。

先生方のサポートに関しては、どのような取り組みをされているのでしょうか。

まずは、学習指導要領の説明会を開き、改訂の主旨や内容をお伝えするようにしています。同じく、動画も作成してYouTube上に公開しています。

YouTube  

学習指導要領改訂の方向性について:文部科学省

(関連動画) 学習指導要領次期改訂に向けた論点解説(1):文部科学省 https://www.youtube.com/watch?v=ZR0-HJMZlvE

この記事をwww.youtube.com で読む >


それから、教職員支援機構(独立行政法人)という団体では全国の先生を集めて夏休みに5日間の研修をし、地域のリーダーとなる先生を育成しています。

NITS 独立行政法人教職員支援機構

独立行政法人教職員支援機構(旧教員研修センター)は、従来の学校関係職員への研修実施事業に加え、調査研究機能を付加し、平成29年4月1日より新たにスタートしました。独立行政法人教職員支援機構は、英語表記である「National Institute for School Teachers and Staff ...

この記事をwww.nits.go.jp で読む >

最後に、良い実践事例の紹介ですね。私は調査官として全国各地を回っており、「これは」と思う授業に関しては全国の指導主事のメーリングリストで紹介しています。

われわれの取り組み以外では、各教科書会社さんも手引きを作成してくださっていて、非常にありがたいと感じております。

現状の課題

—必修化となると、さまざまな課題があるのではないかと予想されます。現在把握されている課題は、どのようなものでしょうか。

主に三つの課題が挙げられます。

一つ目の課題は、小学校との接続です。

中学校には、複数の小学校から生徒が進学します。小学校でのプログラミング教育は各学校の裁量に任されていますから、それぞれの学校でどのような内容に取り組んできたかを把握し、取り上げる内容を検討しなければいけません。

小学校によって取り組みに差があるでしょうから、どのような授業を実施するか、調整が難しいケースが予想されます。

二つ目は、予算的なところです。計画的に準備を進めていただきたいとお願いはしていますが、厳しい学校もあるでしょう。難しい課題です。


そして三つ目は、セキュリティの問題です。

コンピュータやネットワークのセキュリティレベルは市区町村ごとに異なっています。具体的には、「USBメモリを接続してはいけない」「インターネット上からソフトウェアをインストールしてはいけない」といった決まりを設けている場合があります。

そうなりますと、プログラミング環境が構築できなかったり、作ったプログラムをロボットに転送できなかったりする事態が起こります。

—最近では渋谷区で「ブラウザがInternet Explorerのみに制限されているため、Scratch Ver. 3.0が使えない」という話題がありましたね。


ええ。まさにそのようなケースです。

むろん、セキュリティは大切です。判断が難しい面はありますが、学びやすさ、使いやすさと安全性を両立できるセキュリティレベルを検討していく必要があるでしょう。

技術は「人間の叡智」

—最後に、「コエテコ」読者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

現代の子ども達は様々な技術に囲まれています。生まれたときから”しゃべるスピーカー”が生活に馴染んでいたら、「人が作ったもの」という意識を持たないかも知れません。

けれども、便利な機械もまた「人が作ったもの」です。AIがいくら便利でも、それをどこに活用するか判断しているのは人間です。

もしも中学生のお子さんをお持ちでしたら、ぜひ一度、「何をやっているのかな」と技術の教科書を開いてみてください。きっと、ご自身が学ばれた時代とは大きく変化しているはずです。

新たな学習指導要領の目標は、よりよい社会、よりよい人生を作っていくことです。

技術を盲目的に信用したり、楽しく使うだけでなく、社会の課題を技術によってどう解決していくか考える姿勢を養ってほしいのです。

—ありがとうございました。

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