VUCA時代を生き抜くマインドセットは「デバッグ主義」 ― 元文科省副大臣 鈴木寛

VUCA時代を生き抜くマインドセットは「デバッグ主義」 ― 元文科省副大臣 鈴木寛
2020年の新学習指導要領実施(小学校)までいよいよ1年を切りました。プログラミング教育の必修化、外国語と道徳の教科化といった内容面の変更はもちろん、「主体的・対話的で深い学び」(=子ども達の学び方)、「社会に開かれた教育課程」(=学校のあり方)が変わろうとしています。

今回は元文部科学副大臣であり、現在は東京大学大学院教授、慶應義塾大学教授を務められる鈴木 寛(すずき・かん)氏にインタビュー。

前編ではコミュニティ・スクール制度と「気軽なボランティア」の中身、民間教材のパワーについてお話を伺いました。

この後編では21世紀に育つ子どもに必要とされるマインドセット(PDCAサイクルからAARサイクルへの転換)について詳しく語っていただきます。



(インタビュー前編へはこちら)

未来の教育は「地域一体」「民間の力」が鍵 ― 元文科省副大臣 鈴木寛

2020年の新学習指導要領実施(小学校)が迫りました。プログラミング教育の必修化だけでなく、学校のあり方が大きく変わろうとしています。今回は元文部科学副大臣の鈴木 寛氏にインタビューし、コミュニティ・スクールや民間の力の重要性について語っていただきました。

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コーポレーションからコラボレーションへ

—社会の変化が進み、子ども達が身につけるべきスキルに注目が集まっています。20世紀から21世紀への変化はどのようにまとめられるでしょうか。

20世紀の教育はよい工場労働者、工場管理者を育てる教育でした。マニュアルを読んで正確かつ高速に再現するのが大切であって、労働のスタイルも多くの人が同じ作業をするcooperation(コーポレーション、共同操作)型でした。


一方、21世紀の中心産業はアナログ/デジタルの知財(知的財産)です。知財を生み出すには同じ作業をする人がたくさんいても仕方がない。

完璧なコピーが理想とされた社会から、コピーには価値がなく、禁じられる社会へと変化したのです。同義反復では意味がない。情報社会の価値は「差異」なのです。

劇団のように、俳優がいて、音楽監督がいて、照明がいて……と誰が欠けても成り立たないチームで動くのが21世紀の社会です。

異分野、異能力のチームを作って取り組むcollaboration(コラボレーション、共働)型への転換が必要だと言えるでしょう。

OECDの提唱する「生き延びる力」とは

私はOECDの教育2030メンバーを務めています。その「Learning Compass 2030(ラーニング・コンパス 2030、教育の羅針盤)」では、生き延びる力を以下の3つに分類しています。

①新たな価値を創造する力(Creating new value)
②責任を取る力(Taking responsibility)
③緊張関係やジレンマを調整する力(Reconciling tensions & dilemmas)



それぞれについて見ていきましょう。

①新たな価値を創造する力(Creating new value)

教育と社会はコインの裏表です。社会を変えたければ社会の担い手を変えなければならない。つまり教育です。

私の友人であるマイケル・A・オズボーン博士も論じていますが、10年後には多くの仕事が消えると言われています。産業構造、就業構造、社会構造のすべてが激変するでしょう。

これからの子ども達は、言われたことを忠実にやるだけでは意味がない。AIを使いこなし、AIだけではできない仕事をクリエイトしなければならないのです。

②責任を取る力(Taking responsibility)

「釜石の奇跡」という出来事があります。東日本大震災のとき、岩手県釜石市の小中学校では99.8%の児童・生徒が生き延びた出来事です。

児童・生徒がなぜ津波から逃れ、生き延びられたのか。それは、片田敏孝さんという防災研究者が2004年からアドバイザーとして釜石市に入っておられたからです。

小中学生の生存率99.8%は奇跡じゃない

岩手県釜石市内の小中学生ほぼ全員が、このたびの震災で津波の難を逃れた。彼らは、いかにして防災意識と対応力を身につけたのだろうか。

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想定外の状況では、指示を待たずに率先して動かなければ生き残れません。マニュアルに頼りすぎることなく、ミスを恐れず最善を尽くす姿勢が求められます。

自らが意思を持って自発的に動く。20世紀の教育とは正反対の姿勢に切り替える必要があるのです。

③緊張関係やジレンマを調整する力(Reconciling tensions & dilemmas)

現在の経済環境はVUCA(ブーカ)の時代と言われています。Volatility(不安定さ)、Uncertainty(不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)がうずまく社会なのです。

何かをしようとすれば、必ずコンフリクト(衝突)やトレードオフ(一方を立てようとすれば、こちらが立たなくなる状況)が発生する。これを調整する力が求められるのです。

新しい学習指導要領にも「特別の教科 道徳」が加わり、教科書を読んで学ぶ道徳から考える道徳への転換がはかられています。

機械は、過去に人間が下した判断をすべて学習できます。前例踏襲の仕事はAIに任せられる。人間がやるべきは非連続な新しい事態への対処なのです。

PDCAからAARサイクルへ

20世紀型から21世紀型への転換を端的に言うと、PDCAサイクルからAARサイクルへ転換しましょうということです。

PDCAサイクルとはPlan-Do-Check-Aciton(計画、実行、評価、改善)の繰り返しです。ビジネスでいうと、何らかの前提に基づいて中長期的な計画を立て、その通りに実行し、評価と改善を行う。これがPDCAサイクルです。

しかし、VUCAの時代にPDCAサイクルは通用しません。世界経済が目まぐるしく変動し、計画を立てるための前提が次々と変わるためです。

前提が変われば計画も立て直さなければならない。いつまでもPlan-Plan-Plan-Plan-……と計画ばかり立てるはめになります。だから極めて重要なビジネスチャンスを逃し、避けるべきリスクを避けられない。これこそが日本企業の陥っている苦境の根本ではないかと考えています。


VUCAの時代に必要なのはAARサイクルです。AARサイクルとはAnticipation-Action-Reflection(見通し、行動、振り返り)のサイクルで、ある程度の見通しが立ったらすぐにやってみる。作りながらバグを直して少しずつ完成に近づけていく。そういうサイクルです。デバッグ主義と言い換えてもいいでしょう。

プログラミング教育のねらいはここにあります。世界的にもPBL(Project-Based Learning、問題解決学習)が注目されていますが、子どもたちがAARサイクルを体得するにはプログラミングが非常に適している。

文化祭、体育祭のような大掛かりなプロジェクトで体得するには時間がかかります。複数人が関わる難しさもある。プログラミングはパソコン1台ででき、3日間あれば充分AARサイクルを一周できますから。

プログラミングでAARサイクルを体得しよう

部屋のインテリアは学生が決めているという鈴木さん。談話スペースにはソファだけでなく、ビーズクッションやハンモックもあった


—本日はありがとうございました。最後に、プログラミング教育に関わる先生や民間事業者など、コエテコ読者に向けてのメッセージをお願いいたします。

初めからバグのないプログラムはまず書けません。荒削りな設計ができたらまず書いてみて、エラーが出れば直し、少しずつゴールに近づける。

コンパクトなAARサイクルを高速に回せる点で、プログラミングは21世紀型のマインドセットへ転換するのに適した題材だと言えるでしょう。

福沢諭吉が『学問のすゝめ』で論じたように、人間の本質は五つの要素から成り立っています。それは身体、智恵、情欲、至誠、そして意思です。

プログラミングは道具にすぎません。どんな世界を作りたいか、そのために機械に何をさせたいか。その意思を持つのは人間なのです。

—ありがとうございました。

(インタビュー前編へはこちら)

未来の教育は「地域一体」「民間の力」が鍵 ― 元文科省副大臣 鈴木寛

2020年の新学習指導要領実施(小学校)が迫りました。プログラミング教育の必修化だけでなく、学校のあり方が大きく変わろうとしています。今回は元文部科学副大臣の鈴木 寛氏にインタビューし、コミュニティ・スクールや民間の力の重要性について語っていただきました。

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