(株)市進HD代表取締役社長 下屋俊裕 | 民間教育企業はどうなる?少子化、教育改革、AIの登場
eラーニングを活用した人材教育や組織戦略について語り合う本イベントでは、各業界の有識者が講演を行います。
中でも多くの聴講者を集めていたのが、(株)市進HD代表取締役社長にして一般社団法人教育アライアンスネットワーク代表理事を務める下屋 俊裕氏の講演『激動の教育変革時代をどう生き抜くか!?』。
少子化、講師人材の不足、人工知能(AI)による新たな教育の可能性……
文字通り”激動”の現代にあって、学習塾はどう変わるべきか?
特別インタビューとともにお届けします。

2018年には一般社団法人教育アライアンスネットワーク(NEA)の代表理事に就任し、それぞれの企業の垣根を越えて協力することで、業界の課題克服や新たな取り組みに挑戦している。
一般社団法人教育アライアンスネットワーク(NEA)とは
一般社団法人教育アライアンスネットワーク(Networks of Educational Alliance、以下NEA)は(株)学研HDと(株)市進HDが発起人となった団体です。民間教育企業が垣根を越えて協力することで新たな時代の教育に取り組んでいくのがねらいで、現在は136社もの塾・教室(※一部個人)が参加しています。
下屋氏はNEAの代表理事を務めており、今回の講演も民間教育企業がおかれる厳しい局面についてのものでした。

難関校すら「倍率1.1倍」の現状
「少子化の影響はこれまでもありましたが、大学や各種専門学校への進学率も同時に上がっていました。そのため、子ども全体の数が減っても生徒数の減少が防げた。ところが進学率の上昇は限界を迎え、2031年には18歳人口が100万人を割り込むと言われています。
若年層の減少は生徒数だけでなく、講師不足にも直結する問題です。都市部、地方ともに厳しい状況の中で、継続企業としてどうやっていけるのかが問われている」

生徒数=子どもの数はもちろん、講師不足も懸念材料であると強調した下屋氏。
高校入試がほぼ「全入」に近い状況となり、地方の難関高校ですら「倍率1.1倍」が珍しくなくなっている衝撃の現状が明かされます。

2040年までに、都市部では高齢人口が増加、幼少人口は減少。人口の少ない地方では両方が減少するという厳しい予測が立てられている
「集団指導の塾は非常に苦戦しています。高校入試の倍率が1.1倍となってくると、塾に通う必要ないじゃんという話になってくる。通うにしても、集団に行くより個別がいい、となるわけですね。
一方で個別指導は過密状態です。地方からどんどん元気な塾が進出してきて、講師不足はさらに深刻化していく。そこで、映像授業が必要になってくるのです」

塾業界、人間とAIはどう役割分担する?
下屋氏はここで、講師とAIの役割分担について整理します。「知識・技能を学ぶ面では、AIはかなり強い(効果的)。過去の学習データに基づき、その子にとって最適な問題を出題できるでしょう。
一方で『叱る』のはAIにはできない。褒め言葉もそう。相手がAIだと、たとえ褒めてくれても子どもは慣れちゃうんです。
ときには『こんなの解けて当たり前!』とハッパをかけたり、『せっかくだからもう一問いってみようか』と励ましたりする。
『面倒を見る』のはやはり人間の仕事かなと思います。『講師不足はAIで補えるか?』と問われれば答えはYesですが、やはり人間の講師がやるべき仕事もあるんです」

下屋氏によると「映像授業を見ていると『わかった気』になるのですが、ちょっと捻った問題になるとアウト」だそう。
知識のインプットは映像でカバーできるものの、しっかりと定着させるには講師からの声かけと問題演習が必須であると強調し、講演を締めくくりました。

特別追加インタビュー
公演終了後、コエテコでは下屋氏に追加インタビューをお願いいたしました。—本日は貴重なお話をありがとうございました。追加でいくつか質問させてください。
ご講演中、経営効率化の観点から「映像授業の導入は有効」というお話がありましたが、
映像授業が主流となっていく場合、子ども達が受ける教育の質はきちんと担保されるのでしょうか。
子ども達の受ける授業の質はむしろアップするケースもあると考えています。
経営の面から見ても、映像授業を担当する講師にはエース級の人材を充てるはずです。授業の質が低いと、生徒が退会してしまいますから。
ただその一方で、適切な声かけや子どもの様子を見守るとなると映像にはできない。側で見守る講師の存在もやはり欠かすことはできないでしょうね。

下屋氏は追加インタビューでも「適切な声かけ」の重要性を強調した
—なるほど、納得感のあるお話です。
では次に、新たな時代の教育つながりで「プログラミング教育」についてお聞きします。
ずばり、プログラミングスクールの現状をどう捉えておられますか。
そもそも、プログラミング教育=いきなりプログラミング、でなくていいと思っています。
大切なのは論理的思考力であって、プログラミングに取り組む「前段階」が必要なのではないかと。
たとえば保護者の方と旅行に行く際、子どもに企画を立てさせて「どうしてそこに行きたいのか」を説明させるだけでも充分に教育効果はある。
ここを準備しないまま、とりあえずロボットだけ触らせておけばいいや、とするのでは、文章を書いたり話したりするのにも使える汎用的な思考力が育たないのではないかと危惧しています。
—確かに。「おもちゃで遊んでいるだけでは?」という不安は保護者からも聞かれます。
教育効果のないカリキュラムでも、子どもは楽しいですからね。
学習塾でもそうですが、保護者の方は授業料を「安心料」として捉えがちです。「通わせているからいいや」と安心してしまう。
でも、学びにつながっていかなければスクールに通っている意味がありません。大切なのは効果。新たな時代に向けて、しっかりとしたスクール選びをしていただければと思います。
—ありがとうございました。
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