※ 本コンテンツにはプロモーション(PR)が含まれています。また、詳しい最新情報については公式サイトをご確認ください。
3月からはじまった休校要請のなかでオンライン授業に急速に注目が集まりました。
待ったなしでZoomなどでのインターネットを活用した学習をはじめることになり四苦八苦した現場も多いと聞きます。
1人1台の学習者用PCと高速ネットワーク環境などを整備するGIGAスクール構想にむけてインターネットを活用した授業を導入する時期が早まり、現場では手さぐりの中でも懸命に教育のICT化が進められています。
そこで今回は「インターネットを活用した教育」を行っている先駆者として「ネットの高校」N高等学校の副校長 吉村総一郎さんに現場で役立つオンライン授業のヒントを聞きました。
N高等学校とは?
IT×グローバル社会を生き抜く“創造力”を身につけ、世界で活躍する人材を育成することをめざして開校。
N高等学校の開校は2016年。インターネットと通信制高校の制度を活用したネットの高校です。設立の母体となったのは大手出版社で教育関係の辞書や参考書も多く発行しているKADOKAWAとニコニコ動画、ニコニコ生放送などで新しいメディアのあり方を追求してきたドワンゴ。
インターネットが発達し、ポケットの中のスマホを使って検索すれば世界中の情報が手に入る時代になりました。予測困難な未来へ生きる子どもたちにとって、より主体性を持って学ぶことが求められる社会において多様な選択肢を持った学びを提供しています。
全ての教科の平均点を上げる学習を目的とせず、N高等学校では「一人ひとりの“好き”をより尖らせ深く掘り下げる」ことを大切にしています。
現在はネットコースと通学コースがあり、2020年4月時点の生徒数は14,852名。
すでに生徒数が日本No.1の高等学校になっています。
N高等学校。ネット教育のポイントは?
将来につながる多彩な課外学習の充実
通信制高校として、高校卒業資格を得るための単位認定授業は効率的に学び、その上で一人ひとりが学びたいものに多くの時間を使えます。その時間を使って多彩な課外授業で知識を深めていくことができます。
大学受験対策授業に加えて、プログラミング、機械学習、Webデザイン、文芸小説創作、エンターテインメント、ファッション、パティシエ、ビューティー、ゲーム、声優などの夢をかなえるための知識をオンラインで学べます。
また、N高生の求人専用インターンシップサイトもあり、学生の内からインターンを通して経験を積み社会との接点を増やす試みも行っています。
生徒の目標実現を支援するコーチングと担任サポート
N高では、教員と生徒、生徒同士のコミュニケーションを開校以来大切にしてきました。
生徒一人一人に担任教員がつき、勉強から生活指導まで電話、メール、チャットアプリにより相談が可能です。
ホームルームも数日に一度Slack上で行われ、生徒間のコミュニケーションにも役立てられています。
ありえないほど豪華でクリエイティブなネットイベント、リアルイベント
ネットの学校として部活や運動会、遠足という従来はリアルな場で行われてきたイベントをネット上に再現し、全国各地の同級生と一緒に学校行事を楽しめます。
ネット部活には美術部、eスポーツ部、囲碁部、将棋部などがあり、たとえば囲碁部・将棋部の特別顧問は藤澤一就八段(囲碁)、阿部光瑠六段(将棋)があたるなど通常の高校とはレベルの違う本格的な活動を行っています。
遠足は「ネット遠足」としてスクウェア・エニックスが運営する「ドラゴンクエストX」の世界を生徒と教職員がともに旅をします。
リアルな場で行われる行事もあります。文化祭は、ドワンゴが運営し16万人以上が来場する「ニコニコ超会議」で開催します。もちろん文化祭の様子は生配信されネットからでも参加できる独自なイベントとなっています。
つまりN高等学校は「ネットの学校」を標榜しながらも「ネットだけの学校」で終わることなく、さまざまな角度から、一人一人の未来につながる教育を行ってきた学校のようです。
とはいえ、肝心の学業の部分がおろそかになってしまったら意味がありません。
N高等学校ならではのカリキュラムづくりの秘密もあるはずです。
そこで、カリキュラムづくりにずっと関わってきた吉村さんに質問してみました。
今回お話を聞いたのは?
N高等学校の副校長 吉村総一郎さん 東京工業大学大学院修了。製造業の製品設計を補助するシステムの開発にたずさわり、その後ドワンゴに入社。ニコニコ生放送のミドルウエアの開発にたずさわり、ニコニコ生放送の担当セクションマネージャーとしてチームを率いる。 |
N高等学校の構想段階からプログラミング教育のカリキュラム作成を行い、現在は学校のICT戦略全体を統括しているひとです。
はじまりは腕一本で食っていける技術育成をめざした
----そもそも、吉村さんがN高のカリキュラムづくりに関わるようになった経緯はなんだったんですか?もともと私は大学院で顕微鏡の画像解析をしてバイオ関係の研究をしていて、最初はシステムインテグレーターに就職しました。
その後、ドワンゴに転職してニコニコ生放送のミドルウエアの開発に関わりました。
ニコニコ生放送は当初Flashという技術で作られていて、スマホなどの新しいプラットフォームでは使えないという問題がありました。
これを作り直して、新しいプラットフォームでも利用しやすくするためのプロジェクトに関わっていました。
この仕事はまだまだつづくと思っていたんですが、開校の1年ほど前に「N高等学校に異動」といわれて、まさか本当に学校を創設するとは考えられず「なんですか、それ?」「新しいサイトはじめるんですか?」と思ったのをおぼえています。
----それ以前に教育には関わっていなかった?
そうですね。開発チームのメンバー教育はしていましたが、学校に関わるようなことはなかったですね。
ドワンゴに入ってから中途採用・新卒採用のチームを手伝っていた時期があったのですが、新卒で社会に出てくる人たちが「仕事をする準備ができていない」ことに関して大きな疑問がありました。
大学の情報学部で理論を学んでも実務的にはたった一つのアプリケーションを組んだ経験もない。それでシステム開発ができるでしょうか。
学者や官僚になるには過去の教育のままで構わないと思うのですが、企業で働くなら「企業がどういうもの」で「何を求めている」か高校生ぐらいからわかっていた方がいいと考えていました。
私がN高と関わりはじめたときにプロジェクトを統括する理事から言われたのは「腕一本で食える技術を育ててほしい」でした。
そこから「ソフトウェア開発企業の新人教育を修了した社員と同程度のプログラミング技術を在学中に築き上げる」という目標が生まれました。
プログラミングに関しては私自身の業務のなかで培ってきた蓄積があるので、これをどうブレークダウンしていけばいいのかという観点でまとめていきました。
ただ、エンジニアは一人ではなく、チームで一つのものを作り上げていくことが求められます。技術スキルを伸ばすだけでなく、どう人と作り上げていくかが大事になります、そこで、私たちがディスカッションしているときに行き当たったのは、MIT(マサチューセッツ工科大学)で生まれた「創造的学び」と4P(Projects、Peers、Passion、Play)の考え方でした。
----プログラミング教育の中でスキルだけでない人材育成にも力を入れていると聞きましたが?
一つの考え方として「スキル教育に比重を多くかけていく」という方向性もありえたでしょう。たとえば「GitHubを究める」「アルゴリズムを究める」・・・などなど。徹底的に進めていくことで何人かの天才エンジニアを育成するのは可能であると推測されました。
しかし、それが本当に私たちの目的なのだろうかという議論になっていきました。
ネットゲームの裏技をさがすとか、セキュリティ破りを考えるとか。スキルだけ豊富に持っていても、技術を正しく使うことを知らない人材は私たちがめざすものではありません。それらを考えずにスキルだけ鍛えると、危ない方向に行ってしまっても不思議はありません。
最初に教えるべきは、やっていいこといけないことをきちんと教えていくこと。
スキル教育よりも人材教育の比重を大きくしていこうと方向性は固まっていきました。
そこからプログラミング教育のミッションである「“創造力"を発揮するために高い人格とプログラミングスキルを与える」また教育の基本にある「作ることで学ぶ」という考え方が確立され、私たちは実践に移していきました。
ここだけは譲れないN高等学校のオンライン授業のツボ
----N高等学校のプログラミング教育は基本オンラインで行われているわけですが、それを成功に導くために必要だったのは何でしたか?オンライン授業をはじめるとなると、教材づくりやインフラ面に関心が行きがちですが、教材自体はいま低価格で内容もすぐれた既存のコンテンツがあるので、これらを使えばいいと思います。
それ以上に大切なのは生徒をどれだけ自由に学ばせるか。どれだけ細かくサポートできるかだと思っています。
そもそもN高等学校が発足した目的の一つに「インターネット時代に主体的に学べる人材を育てる」といった考え方がありました。
私たちが注力したのは、コンテンツをできるだけ数多くを用意して選べるようにすることでした。
プログラミングに限りませんが「絶対に学びたくない」子どもを学校や親の判断で無理矢理学ばせようとしてもトラウマが残るだけでしょう。
「プログラミングを学びたいひとには、これだけのコンテンツがある」「学んでも学ばなくてもいい」「学びたい人はラインアップの中から選べる」
という環境のなかで学ぶので確実に成果が出るのだと考えています。
----コーチングに力を入れていると聞きましたが?
何も言わなくてもどんどんじぶんでテーマを見つけられる生徒には必要ないのですが、なかには何を作ったらいいかわからない生徒もいます。
また、高校生ですからモチベーションが下がって投げやりになる時期もあります。
そこで一人一人の状況を把握した上で最小限のアドバイスをしていくコーチングをきめ細かく行うようにしています。
「作りたいプログラムのテーマが決まらない」「サッカーが好きなのだったらサッカーの情報を集めて分析して知りたい情報を集められるプログラムとか便利じゃない?」といったコミュニケーションを行っていきます。
じぶんから学ぶのを大事にしているのであまり手を出しすぎないようにも気をつけています。
プログラミングも創作活動ですから波があって当たり前。
だれも命令していないのに徹夜して作品づくりに没頭する子どもでも、空気が抜けたようにぼーっとしている時期もあります。
それはそれで構わないのでスイッチを入れるタイミングをはかっていく感じですね。
----N高等学校では友だちづくりも大切にしていると聞きました。ネット教育らしくない気もしたのですが。
Slackというチャットアプリを生徒同士のコミュニケーションなどに活用してきました。
LINEに似た要領でいろんなグループを作って会話ができるので、同じ教室で学ばなくても一定のつながりが生み出されています。
でも、それだけではありません。とくにプログラミング学習の場合は、お互いを高め合う効果やアイデアを育てるブレーンストーミング効果もあります。
「○○君がすごいプログラムを作った」と情報が入ると、もっとすごいものを作りたくなります。
「○○君が作ったプログラムのここを改良したらもっとすごいものになる」といったアイデアが積み重っていく効果もあります。
天才と言えるような子どもが何人か集まってトップコミュニティみたいなグループを作っていると、大変な化学反応が起きてクリエイティブなコラボレーションがはじまったりします。
一人でいると閉じこもってしまうので、お互いに刺激を与えあいながらグングン伸びていけるという好循環も生まれてきます。
インターネットを駆使すればさらに大きな未来が生まれてくる
----N高等学校は先駆者として今後も進化はつづいていきますか?学園のミッションステートメントは「ネットを駆使した未来の学校であれ」なんですが私たち自身まだネットを駆使し尽くしてはいないと思っています。
インターネットを駆使したコミュニケーションにはまだまだ可能性があるのでどんどん挑戦していきます。
まとめ|オンライン授業の決め手はツールではなく、多くの選択肢とコーチング
今回吉村さんにお話をうかがって強く感じたのは「ネットの学校」の先駆者でありながらN高等学校には「オンライン授業」自体には驚くほどに気負いがない事実でした。教育の基本や具体的な施策について「オンラインだから」との発想はほとんどなく、すでにごく当たり前のコミュニケーションツールとしてインターネットはあり、学校を運営する側の関心はコンテンツの拡充に向けられていました。
現在、N高等学校の授業はこの学校のために開発されたアプリケーション「N予備校」を通じて行われています。
個人学習にも生授業にも対応し「なるほど」ボタンにより理解度が確認できるといったすぐれた機能が用意されています。
とはいえN高等学校のオンライン授業のポイントはツールにはありません。あくまで多彩なコンテンツとコーチングにあるのを強く感じます。
「仏作って魂入れず」のことわざではないですが、開校後も年々莫大な学習コンテンツを新規投入し「魂を入れ」つづけたところにN高等学校の成功の理由はあるようです。
もう一つお話を聞きながら考えたのは、リアルで行われてきた授業内容を、そのままオンライン化するのに意味があるのか。
ネットワークの利用により「伝わり方」が根本的に変わっていく以上「伝え方」さらには「教育コンテンツに関する位置づけ」もゼロから組み直さなくては無駄と無理ばかりが多いオンライン授業になってしまいそうです。
既存の教育を単にインターネットに移行するのではなく「インターネット時代に合わせた人材」を「インターネットを利用して育てる」新しい教育の必要性をN高等学校は教えてくれています。