(取材)GIGAスクール構想の生みの親、遠藤利明衆院議員にうかがう日本の教育の未来とは

(取材)GIGAスクール構想の生みの親、遠藤利明衆院議員にうかがう日本の教育の未来とは
2021年、文部科学省は教育の中にICTを取り入れる「GIGAスクール構想」を発表しました。その目的は、小中学校の児童・生徒全員にパソコンを支給することで、子どもたちに最適化された学びや創造性を育む学びを提供することにあります。

本記事では、「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟(ICT議連)」の会長であり、GIGAスクール構想を強力に後押ししてきた自由民主党総務会長の遠藤利明氏に、日本がこれから目指すべき未来とそのために必要な教育についてうかがいました。
 

一人ひとりが持つ適性を生かす教育を 

――いまの子ども達が社会で活躍する未来に向け、自民党としてはどのような教育が必要だとお考えでしょうか。
 
これからの日本に必要なのは、従来型の詰め込み教育ではなく、自分で物事を判断し、課題を解決していく能力を身に着けさせる教育です。
 
この背景には、日本の少子化も大きく関係しています。第二次世界大戦後直後の日本では、1年間で約270万人の子どもが生まれるなど、人口が爆発的に増加していきました。そのような状況下においては、画一的な教育を行っても何も問題ありませんでした。全員を同じ方向に走らせ、その中で授業についてこられない子どもたちがいたとしても、人数の多さでカバーできていたんです。
 
ところが、2022年度の出生数は80万人を切りました。これは70年前の3分の1以下の数字です。そうすると、かつての日本の強さを発揮するためには、単純計算で1人が3人分の働きをしなくてはいけないわけです。
 
そこで重要なのが、ICTの力を活用して一人ひとりが持つ適正を生かす教育を行っていくことだと考えています。
 
――単にITを取り入れようとしているのではなく、その本質に「課題を解決する力を育む」という狙いがあるんですね。 
 
この考え方は急に出てきたものではありません。批判も多い「ゆとり教育」ですが、その本質は課題を解決できる思考力を育むためのものでした。つまり、いまわれわれが目指している姿は、ゆとり教育が目指したものと同じなのです。ゆとり教育の理想自体は正しかったといまでも思います。
 
ただしゆとり教育の問題は、文部科学省の役人も本質を理解できないま進めてしまったことにありました。それで学校の教員に理解してもらおうとしても無理な話ですよね。結果として、現場には「授業時間を減らす」といったようにただ矮小化されて伝わってしまいました。もう少し時間をかけて丁寧に進めていけば、違った結果になったのではないかという思いもあります。
 
また近年、子どもたちの創造性を育むことがさらに求められるようになっています。というのも、かつては知識を持っていることが優秀さの証でもありましたが、いまはインターネットを使えば、知識なんていくらでもすぐに手に入れることができますよね。そのような時代で必要なのは、手に入れた知識を使ってどのように問題を解決していくかなのです。

 
――幼少期から教育の中に課題解決型のプログラムを取り入れていくことが重要だということでしょうか。 
 
10歳くらいからはそうだと言えます。ただし幼児期から小学3~4年生まであたりまでは、基礎的な教育が重要だと思っています。ネットで検索するにしても、そもそも何を調べて、どう理解するのかには体系的な知識が必要です。たとえば漢字が読めなければ、どう検索していいかもわかりません。
 
スポーツの世界でも、強いチームほど基礎的な練習をしっかりとやっています。その観点でいくと、教育において一番大事な期間は、小学校1年生から4年生くらいまでの期間ではないかと考えています。たとえば3年生では掛け算を学びますが、掛け算を理解できなければ、その後の授業についていけなくなります。
 
基礎をしっかりと身に着けたうえで、10歳くらいから応用へと発展させていく。それがよりよい子どもの成長に必要なプロセスだと考えています。

この「10歳」というのは、ちょうど心身ともに個人差が大きく表れ始め、子どもから大人へと向かっていく年齢です。要は成長の仕方が変わるんですね。
 
これまで小学校では、一人の教員が大体すべての教科を教えていました。しかし2022年度からは教科担任制が導入され、小学5年生からは専科教員が特定の科目だけを教えるようになりました。これも、子どもたちの成長の特性を踏まえた結果です。
 
このように、時代が変わってきているんですね。義務教育はいま小学校6年、中学校3年の「6・3制」ですが、私自身はこれも変えるべきだと思っています。9年を「4・3・2制」あるいは「4・5制」にわけることが、子どもたちに寄り添った教育のために必要ではないかと考えています。

議員立法でGIGAスクール構想を後押し 

――ICT教育が必要だと思われたきっかけを教えてください。 
 
いまから十数年前、広島県の尾道市立土堂小学校で初めてタブレットを使った授業を見ました。その光景はまさに目からウロコ。たとえば、普通の授業では40人の児童が書いた答えを確認するためには、教員が教室中を歩いて見て回らなければなりません。ところが、タブレットだと全員の答えが瞬時に教員のタブレットに送られる。非常に効率がいいんですよね。
 
また教員の答えや、児童の特徴的な答えを電子黒板に映し出し、わかりやすく説明することも容易です。教員にとっては生徒一人ひとりの理解度を格段に把握しやすくなりますし、子どもにとっては楽しく学べる。 「これはいい」と感銘を受けて、同じく衆院議員である河村健夫先生、松野博一先生、塩谷立先生とともにICT教育を推進していこうと決意したんです。
 
――その後、どのような形で推進したのでしょうか。 
 
まずは、タブレットとWi-⁠Fi、電子黒板を各学校に整備することが必要だと判断し、そのための予算を確保するために動き始めました。2009年、塩谷先生が文部科学相だったときには「スクールニューディール構想」を打ち出し、学校への太陽光発電の導入などを含む教育環境の一体的な整備にかかる補正予算として約4900億円を計上。この中でタブレットなどの経費も30億円ほど確保しました。
 
ところが補正予算の成立後すぐ、選挙で負けて政権交代してしまった。新たな政権は経費削減を進め、せっかく確保したICT教育推進のための予算も削ってしまいました。あれは悔しかったですね。日本のICT教育はそこで7、8年は遅れてしまったと考えています。
 
その後自民党が政権を取り戻し、2015年には私が会長を務める超党派の「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟(ICT議連)」を設立。17年には経済産業省内にICT教育を推進する教育産業室が立ち上がり、19年6月には議員立法である「学校教育における情報化の推進に関する法律」が公布・施行されました
 
このような流れがあり、同年12月に文部科学省が打ち出したのが「GIGAスクール構想」です。法律が通ると、予算が付きやすくなるんですね。補正予算で2318億円を計上し、国公私立問わず、児童・生徒一人ひとりにタブレット端末を配布する予算を確保できました。
 

――ゆとり教育時のように現場が「GIGAスクール構想」を理解できず、タブレットが活用されないという懸念はなかったのでしょうか。 
 
確かにかつては、ICT教育の有効性を役人も首長も教育委員会も理解できていませんでした。たとえば教室には昔からパソコン1台が配備されていましたが、どうやって使ったらいいかがわからないので、結局使われていないという実態がありました。
 
ただGIGAスクール構想が打ち出され、全国の小中学校に全児童・生徒分のタブレットを配ると発表したとき、ようやくすべての教育関係者が政府の本気度を実感し、「これは大変だ」と思うようになりました。ゆとり教育の反省もあり、現場に理解してもらうことに関しては丁寧に進めています。
 
また、新型コロナウイルスの感染拡大により、タブレットが必要だという機運が一気に高まりました。コロナは国にとっては一大事でしたが、 ICT教育の推進という観点では効果がありましたね。コロナ禍の影響もあり、2020年度の補正予算でも2292億円が計上されました。
 
ただ勘違いしてほしくないのは、タブレットは遠隔授業のためではなく、基本的に教室の中で活用するべきものだということです。コロナ禍のように学校に来れない場合にももちろん有効ではありますが、本来は個性と個性が集まる環境の中で、いかにタブレットを活用して楽しく効率的な授業を構築していくかが重要です。
 
以前見て「いいな」と思ったのは、生徒を4人くらいずつにわけ、それぞれのグループでタブレットを活用する授業です。そこでは教員が教えなくても、生徒同士が勝手に教え合っていました。このような環境が構築できれば、教員の手間が減り、子どもたちの理解がさらに促進されるはずです。

優秀な子どもをさらに伸ばす教育が必要

――効果的なICT教育を実践していくためには何が必要だとお考えでしょうか。 
 
日本の教育はこれまで、学習レベルを真ん中より少し下のレベルにいるような児童や生徒に合わせてきました。しかしこれからの教育に必要なのは、授業についていけない子どもに学習の照準を合わせるのではなく、できる子どもをそのままどんどん走らせることだと考えています。
 
もちろん、授業についていけない子どもをカバーする必要はありますが、それを考えるのは後なんです。これまでとは順序が違います。ICT教育の導入により、ようやくそういった形の授業が展開できつつあると期待しています。
 
また、これは教員にも同じことが言えます。30~40代くらいだとパソコンを使える先生も多いのですが、あまり使いこなせない50代の教員が現場で力を持っているばかりに、活用の推進を阻む場合があるんです。使えない教師を基準にするべきではありません。
 
ただ面白いのは、タブレットを上手に使えるからといって、20代や30代の若い教員がいい授業をするかというとそうとも言えないんです。これまで見た限りでは、40代前半くらいのある程度熟練した教師が一番うまいですね。なぜなら、授業の中身をしっかりと理解しているからです。いくらタブレットを使いこなせるといっても、授業の本質を理解できていなければ駄目なんです。
 

――これからの教育では、優秀な子どもたちを伸ばしていくことが必要なのですね。一方で、保護者にとっては公平性の観点などから懸念の声も上がりそうです。 
 
授業にはさまざまな形があっていいと思っています。たとえば、現在横浜創英中学・高校の校長を務めている工藤勇一さんは、単に解き方を教えるだけでなく「なぜ算数を勉強する必要があるのか」を理解させた上で授業をしています。加えて特筆すべきは、同じクラスの中で、優秀な生徒とそうではない生徒をわけて教えていることです。
 
もちろん、同じクラスではっきりと子どもたちを区別することには、保護者からの批判もあるでしょう。けれど、できないわけではありません。「そんなことできませんよ」と話す教育者もいますが、校長の覚悟さえあればできるんです
 
もともと、学校は非常に閉鎖的な空間でした。教師の社会的な評価も高く、子どもたちに余計な雑音を入らないようにすることこそが評価されるポイントでした。ただし、時代は移り変わっています。その変化に取り残されてしまっては、日本の教育はどんどん後塵を拝することになります
 
元リクルートで杉並区の中学校校長に就任した藤原和博さんは、学校運営に外部人材を積極的に登用しました。極論を言えば教員はクラスの運営能力さえあればよく、わからないところがあるのなら詳しい誰かに手伝ってもらえばいいという考え方です。そうやって環境をオープンにしていくことで、学校全体のレベルを上げていくのです。
 
いま、そのように多様な人材の力で学校の力を最大化していく「チームとしての学校」の取り組みも全国で進めているところです。
 
――保護者に向けて、ぜひ一言メッセージをお願いします。 
 
子どもに対しては、「褒める」「叱る」の両方をしっかりと行ってほしいですね。それが保護者の責任であり、子どもたちのためになることだと考えています。また同じように、学校には学校の役割があります。保護者と学校、それぞれの責任をよくご理解いただき、ぜひ学校の取り組みを温かく見守っていただければと思います。

えんどう利明オフィシャルサイト

山形一区衆議院議員 「遠藤利明」 の公式サイトです。

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