21世紀のKUMONを目指して。インドネシアから未来を変える、徳永裕さんの挑戦

21世紀のKUMONを目指して。インドネシアから未来を変える、徳永裕さんの挑戦
インドネシアを中心に、東南アジアやエジプトなど5カ国でIT教育サービスを展開するtimedoor academy(タイムドア・アカデミー)。パンデミック中にオンライン教育に切り替えた経験から、現在では5000人のアクティブな生徒を持つまでに成長しています。


同校を運営するタイムドア・インドネシア(PT. Timedoor Indonesia)代表 徳永 裕さんは、「もっと社会に貢献できる仕事をしたい」と10年前に単身インドネシアへ渡航、現地で起業されたというパワフルな人物。経済的な条件に左右されず、すべての子どもが平等に学べる「21世紀版のKUMON(公文式)」をつくろうと、果敢に挑戦を続けています。

この記事ではそんな徳永さんに、これまでの歩みとtimedoor academyの魅力、今後の挑戦について聞きました。

タイムドア・インドネシア(PT. Timedoor Indonesia)代表 徳永 裕さん

貧困の現実に衝撃を受け、28歳で日本を飛び出し起業

——徳永さんは20代で日本を飛び出し、インドネシアで起業されたそうですね。当時の経験について教えてください。

私は大学でITを学び、その後は日本のネットメディアで約5年間勤めました。そこでは主にウェブサイトの制作やネットマーケティングを担当していました。

当時は海外旅行の経験すらなかったので、「ちょっと行ってみるか」と、遊び心でさまざまな国を訪れるようになりました。そのなかでフィリピンを訪れた際、初めて直面した貧困層の子どもたちを見て、自分が日本で生まれ育ったことがいかに恵まれているかを痛感したんです。

——というのは?

たとえば、スモーキーマウンテンという地域では、5歳の子どもたちが空き缶を拾って生計を立てている様子を目にしました。

それを見て、生まれながらにして厳しい環境に置かれている子どもたちがこんなにもいるのかと。「unprivileged」(基本的人権すら与えられていない)とはこういうことか、と思い知らされました。彼らは初めから、非常に不利なスタート地点にいるんです。


この光景は、僕にとって大きな衝撃であり、強烈な原体験となりました。

日本の仕事では、売上やユーザー数を増やすプレッシャーに追われ、ブラックワークのような状態でした。僕は仕事が好きなので、それはそれでやりがいはありましたが、ひとたびフィリピンの現実を目にすると、「この努力は本当に社会にとって価値あるものなのか」と疑問を抱くようになりました。

どうせハードワークをするなら、社会にとって本当に良いことをしたい。テクノロジーを一部のお金持ちのものにせず、貧しい人々を助ける道具として使うべきだと思い至り、会社を辞める決意を固めました。


——社会貢献をするうえで、テクノロジーに着目したきっかけは何だったのでしょうか?

時代の影響ですね。私が大学生くらいの頃に、ネットビジネスが本格的に始まったんです。楽天やサイバーエージェントなどの新興ネット企業が次々と登場し、非常に刺激的でした。

私も自分でウェブサイトを作り、「本当にモノが売れるんだ」と感動しました。この経験から、インターネットの可能性、テクノロジーの凄さに魅せられていったんです。これと同じ恩恵を発展途上国の方にも体験していただけたら、社会的意義は大きいなと感じました。

インドネシアは「カオスとポテンシャルの国」

——数ある国の中からインドネシアを選んだのは。

カオスさとポテンシャルに惹かれたからです。インドネシアは人口が非常に多く、さまざまな都市があります。これはビジネスを展開するうえで大きなメリットです。

そしてインドネシアは、多くの社会的課題も抱えています。たとえば、多くの人々に雇用を提供しなければならないことや、教育の課題です。シンガポールやマレーシアのような小さな国と比べると、良質な教育をすべての人に届けるのが難しいという点もあります。

ビジネスとは、社会の課題を解決することによって価値を生み出す行為です。インドネシアのように課題が多い国なら、チャンスもまた多いはずだと感じました。だからこそ、インドネシア、特にバリ島で起業することにしました。

——ジャカルタではなくバリ島を選ばれた理由は?

人件費などのコストですね。ジャカルタに比べると、バリ島の人件費は半分近くまで安くなります。IT業界では特に、仕事の場所がそれほど重要ではないため、コストを抑えられるバリ島を選ぶのが合理的でした。

文化的な魅力もあります。バリはジャカルタとは違い、ヒンドゥー教の文化やバリ独特の文化が色濃く残る田舎の雰囲気があります。さらに、多様な国籍の人々が訪れたり定住したりするため、多様性が豊かな環境です。ここでなら自分を成長させながらビジネスを立ち上げられると思い、バリ島を選びました。


——事業立ち上げはすぐに軌道に乗ったのでしょうか。

いえ、全然です(笑)。完全なゼロスタートで、言葉もろくに話せない状態でした。

まず取り組んだのは、現地での人脈作りでした。たとえば、大学へ行って「テクノロジーに詳しい日本人」としてセミナーを開くなどですね。そこで興味を持ってくれた若い人たちをスカウトし、少しずつチームを形成していきました。でも、人を雇っても肝心の仕事がない。どうやって顧客を見つけるかが、次の大きな課題でした。


手をこまぬいているわけにはいかないので、とにかく様々な場所を訪問しました。お土産屋さんやスーパーなど、業種を問わず飛び込んでいきました。

まったく効率の良くない営業でしたが、それでも100件、200件と訪れるなかでいくらかはリアクションがありました。それが一つずつ実績となり、紹介などを通じて仕事につながっていきました。そうやって一歩一歩生き延びてきたんです。

アダプティブラーニングでIT教育の普及をめざす

——タイムドア・インドネシア社では、主にWebサイトやアプリの開発を手がけていると伺っています。教育分野にチャレンジされたのは、何かきっかけがあってのことでしょうか?

Webサイトやアプリの開発も一種の社会貢献ではありますが、やはり原体験が「教育格差を解決したい」という思いだったので、いつかは取り組みたいという熱量を持ち続けていました。

そんななか、日本でGIGAスクール構想が始まることを知り、小学生がタブレットを使ってプログラミングを学ぶという事実に大きな衝撃を受けました。

インドネシアには、そのような教育システムはまだ存在しません。しかし、IT教育が重要になることは世界的な流れであり、インドネシアもまた例外ではないはずです。だとすれば、自分が始めるべきだろうと。そこで最初はボランティアとして、近くの子どもたちに自宅でコンピューターの基本を教え始めました。


そうした経験から、この活動をただのボランティアではなく、多くの子どもたちが学べる事業へ育てることを決意しました。それが、教育分野への本格的なチャレンジの始まりでした。

これには想像以上に反響がありました。そして、彼らが自分でWebサイトやアプリを作れるようになっていくのを見て、自分の活動が社会に役立っている実感を得られました。



——こうして生まれたのがtimedoor academyというわけですね。同校のコンセプトは?

1点目は、とにかく「楽しく学ぶ」ことです。インドネシアには日本のような受験戦争がなく、子どもたちが一生懸命勉強する環境が少ないんです。ありていに言えば、あまり勉強が好きじゃない(笑)。

ですから、まずは彼らが楽しく学べる場所を作ることを目標に据えました。日ごろ勉強をつまらないと感じている子でも、遊び感覚で興味を持ってもらえるような教室にしたかったんですね。

このコンセプトはカリキュラムにも反映されており、ロボット作り、AR・VR、ドローンなど、子どもたちが好きなものを通じてコーディングやプログラミングを学べます。日本ではマインクラフトが人気ですが、こちらではRoblox(ロブロックス)が人気なので、これもカリキュラムに取り入れています。


2点目は、我々が独自に開発した教育システムを利用することです。このシステムには動画教材、練習問題、スライド、さらには試験も含まれています。

このシステムを利用すれば、生徒は一人でも自習が可能です。いわゆるアダプティブラーニングですね。

従来の教育では、同じ年齢の生徒に同じ進度で教えることが一般的です。このスタイルには、理解が遅い生徒は取り残され、理解が早い生徒は自分のペースで進めることができずに退屈してしまうデメリットがあります。

アダプティブラーニングなら、一人一人の生徒が自分の興味やレベルに合わせて学ぶことができます。これにより、全ての生徒が最大限に学びを深めることができると考えています。


——timedoor academyにはどのような生徒たちが集まっていますか?

幅広いですね。インドネシアにおける習い事の状況は、家庭の経済的な余裕に大きく左右されるのが現状です。経済的に余裕がある家庭では、子どもを多くの習い事に通わせています。とくに、いわゆる華僑の家庭は非常に勉強熱心で、教育にかなりの投資をします。

一方で、経済的に余裕がないローカルのインドネシア人の家庭では、子どもたちが習い事に参加する機会はあまりありません。多くの場合、子どもたちは家でゲームに熱中していて、保護者からも「うちの子はゲームばかり」と相談が寄せられます。だからこそ、ゲーム感覚で学べるtimedoor academyが魅力的な選択肢になっているようです。

——幅広く教育を行き渡らせるという点では、授業料の設定などにも気を配られているのでしょうか?

そうですね。timedoor academyの授業料は、地域によって多少の違いはありますが、だいたい月額4,000円から5,000円程度に設定しています。これは中間層の家庭でも利用しやすい価格設定で、幅広い子どもたちにリーチすることをめざしています。

——プログラミング教育は指導者(講師)が不足しがちだと言われますが、timedoor academyではその課題をどう解決していますか?

指導者不足はまさに大きな課題ですね。都市部ではまだIT教育に携わる人材が見つかりやすいですが、地方に行くとIT人材がほとんどいません。先ほどのアダプティブラーニングシステムは、教育の質を維持しつつ、先生たちの負担を減らすための仕組みでもあるんです。

たとえばtimedoor academyでは、学校の先生を副業として採用しています。彼らは午後3時くらいに仕事が終わるので、終業後にアルバイトとして来てくれるんですね。学校の先生ですから子どもとの接し方はプロですが、IT知識は足りないこともある。それを支えるのが、生徒たちが自律的に学ぶアダプティブラーニングシステムというわけです。

東南アジア、そして中東へ。21世紀のKUMONを目指して

——現在、timedoor academyのアクティブ生徒数は5000名を超えるそうですね。インドネシアのみならず、フィリピンやバングラデシュ、エジプトでも展開されているそうですが、進出する国はどのような基準で選ばれたのでしょうか?

最初の成功体験はコロナ時代にオンライン化を進めたことから始まります。パンデミックで学校が閉鎖されるなか、インドネシアでもオンライン教育が国内全域で受け入れられるようになりました。これが追い風となり、timedoor academyは大きく成長することとなったんです。

これを受けて、似たような市場条件を持つ東南アジアの他国にも展開することができると確信。マレーシア、フィリピン、シンガポール、バングラデシュ、ベトナムなど、地理的に近く、似たような市場潜在力を持つ国々を選んで進出していきました。

現在では、フィリピン、マレーシア、バングラデシュでは、成果が見られたので継続。一方、シンガポールは少し挑戦があったため、戦略を見直しています。

エジプトへの進出は、完全に新しい挑戦でした。我々は発展途上国や新興市場での教育ビジネスに強みを持っていますが、ビジネスを展開するなかで、中東市場における教育への投資ニーズを感じたんですね。中東では、オイルマネーを教育やその他の新分野にどう活用するかという課題があり、市場の成長潜在力が非常に大きいんです。

なかでもエジプトは人口が1億人を超え、教育サービスの需要が高まっていますが、質の高い教育を受けられる機会がまだまだ足りていません。ここでtimedoor academyが受け入れられれば、チャンスは大きいと考えました。


——今後の成長のために乗り越えたい課題は何ですか?

オンライン教育から対面への回帰というトレンドをどう乗りこなすかですね。パンデミックが終息し、「やはりオンラインでは集中力が続かない」と考える保護者が増えてきています。これを受けて我々も多数の教室を設立していますが、オンラインと対面では戦略が大きく変わるので、チャレンジングな局面です。

また、教室を設立するための資金調達も課題の一つです。新しい教室を一つ作るためには、かなりの初期投資が必要です。フランチャイズモデルを活用しながら効率的に展開を進めているものの、インドネシアのような広大な国で教室を開設していくことはかなりの困難が伴います。資金の調達、教室の質の維持、そして地理的な拡大をどうバランス良く進めるかが、目下の大きな課題です。

ちなみに、ビジネスを展開するにあたり、僕が参考にしているのがKUMON(公文式)です。KUMONは世界的にも成功していて、インドネシアだけで800店舗、世界全体で約25,000店舗を展開しています。これは、地域ごとにしっかりと教育サービスを提供し、信頼を築いてきた結果です。

ただし、KUMONが教えるのはあくまでも「読み書きそろばん」であり、IT教育は含まれていません。ですから僕たちの目標は、ITを活用した21世紀版のKUMONを作ることです。生まれた場所に関係なく、誰もが一定のIT知識を身につけられる教育システムを提供するのが我々の夢です。

いずれは大学設立も。未来につながるビジネスパートナーを募集中

——今後、さらに考えている展開はありますか?

教育をほんとうに価値あるものにするには、子どもたちに中長期的なベネフィットをもたらさなければなりません。

そこで我々は、次の大きなステップとして、大学の設立を計画しています。そこでは、いわゆる「出世払い」のような形で教育を提供するつもりです。カリキュラムとしては、英語や日本語を学んだり、インターンシップ等を通じて実践的なスキルを学べたりするプログラムを展開したいですね。

これらのプログラムを通じて、学生たちが日本をはじめとした海外企業への就職を手にしてくれればと。デジタル技術に精通し、国際的に活躍できる人材たちが巣立つ場を作れれば、地域社会だけでなく、グローバルな市場においてもポジティブな影響を与えられると考えています。

——まさに社会貢献ですね。

そうですね。ただ大切なのは、こうした活動がビジネスとして成り立つことです。活動を持続可能なものにするには、ボランティアベースでは限界がありますから。

教育は投資であり、その投資は個人だけでなく、社会全体に対しても豊かなリターンをもたらします。学生が社会に出て成功することで、彼らが自身の経験を基に次の世代に貢献する。こうした教育の循環が生まれるのが理想的です。

この計画を実現するためには、多くの支持と協力が必要です。資金提供者、教育者、テクノロジーの専門家、そして政府など、多方面からのサポートが不可欠です。

共にこの新しい教育モデルを構築し、社会に新たな価値を提供できるようなパートナーシップを築きたいと考えていますので、ご関心をお持ちの方はぜひコンタクトしてください。ともに教育の未来を変えることができると信じています。


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