プログラミング教育がわかる、プログラミング・ロボット教室がみつかる

Scratch日本語版の翻訳者・阿部和広教授インタビュー -子どもの興味を引き出し、主体的に学ぶことがScratchの原点-(後編)

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前編では、Scratch開発の背景や特徴についてお話をうかがいました。

前回の記事>>   Scratch日本語版の翻訳者・阿部和広教授インタビュー -子どもの興味を引き出し、主体的に学ぶことがScratchの原点-(前編)

実は勝手に開発?Scratch日本語版開発秘話

―阿部さん自身がプログラミングと出会ったきっかけを教えてください

私がパソコンと出合ったのは1970年代後半の中学時代です。当時住んでいた広島のアマチュア無線店に国産のパソコンが並び始めた頃で、「これは何なんだ?」と触れているうちに、それを命令して動かすことに興味が芽生えてきました。でも、パソコンなんて子どもに買ってもらえない時代ですから、自転車で自宅とお店を行き来し、本を読んで覚えたプログラミング言語のBASICを店頭のパソコンで試していました。

それから時が流れて、大学生のときに、家電量販店のパソコン売り場でバイトをしていたのですが、1984年にApple社のMacintoshが売り場に入ってきたんです。画面は小さいし、白黒だし、最初は大した事ないって思ったんですけど、使ったとたんに衝撃を受けました。今までのパソコンがすべて過去になった感じです。

それで、Mac自体がどのような仕組みで動いているのかに興味を持って調べていくと、その源流にはなにやらSmalltalkというものがあるらしいと。オブジェクト指向の考え方や、その開発者でパソコンの父と呼ばれるアラン・ケイの存在を知ったのもその頃です。それからずっと、仕事もSmalltalk一本ですね。Smalltalkであればなんでもという感じです。

そして、2001年にアランが来日した際にはじめてお会いした際に、「子どもの教育こそ最も重要だ」と言われ、教育の世界に転身しました。私はプログラマーで一生を終えるのかなと思っていたので、まさか子どもにプログラミングを教えるようになるとは!(笑)驚きです。

―そこから阿部さんがScratchと出合い、日本語版を開発されたのはどういったきっかけだったのですか?

今はオープンソースのScratchですが、MITメディアラボで開発され始めた当初は、英語といくつかの言語にしか対応していないクローズドな環境でした。当時のプログラミング教育用言語の主流はアラン・ケイが開発したSqueak Smalltalk上で動くEtoyesで、私もこの日本語化をやっていました。で、ScratchもSqueakで書かれていたんですよ。アラン・ケイもパパートの指導を受けていたので、レズニック教授もその仲間という関係です。働いている人たちの交流も盛んでした。

そういうわけで、まあScratchも日本語化してみるかと勝手にリバースエンジニアリングしたらできちゃったという感じです。それをMITメディアラボに送り付けたら、それなりに評価はしてくれたのですが、直接は使われませんでした。とはいえ、彼らもScratchの世界的な普及のため多言語化を考えている最中で、日本語版の開発に積極的に応じてくれました。今は多くのボランティアが参加していますが、初期の日本語の翻訳は私が行っています。

―Scratchの先生としてはどのような活動をされているのですか?

子どもたちに、プログラミングでものを作る楽しさを知ってもらうために、全国の学校などを巡っています。ただ、私が直接できることには限界がありますし、私が帰ったらそれで終わりになってしまいます。ですから、最近は、教員研修やScratchに関連した本の執筆や監修、NHK Eテレの番組『Why!? プログラミング』のプログラミング監修など、もっとたくさんの子どもたちにプログラミングの面白さを広げることに力を入れています。加えて、大学の教員として、大学生にも小学生のような創造性を取り戻してもらうための授業を行ったり、あとは先ほどお話ししたようなオンラインコミュニティへの参加にもかなりの時間を割いています。

「プログラミングは子どもが自分の発想を豊かにするための表現教育!」阿部さんが今後取り組んでいきたいこと

―文部科学省が2020年から小学校でプログラミング教育を必修化したことで、プログラミング教育に注目が集まりはじめましたが、プログラミング教育の必修化に関してはどうお考えですか? 

文科省がプログラミングの義務教育化を検討し始めた当初、私も「プログラミング学習に関する調査研究会」の委員として議論に参加していました。その後、「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」、中央教育審議会の議論を経て、新学習指導要領が告示されたわけですが、必ずしもScratch的なプログラミングの目的は理解されていないかもしれません。社会の認識は、これから人材が不足するからとか、いい会社に入るためにはプログラミングが必要だ、とかいうような目的志向になってしまったように感じています。そうすると、受験や就職のためのお勉強になってしまうかもしれません。

子どもたちが行うプログラミングは、産業界が求める人材育成のためではなく、子どもたちが自分のアイデアを形にする手段であり、それを通して創造的に考えるためのものであるべきです。自分の興味があることを主体的に学ぶための環境であることが、Scratchの存在理由です。

―日本におけるプログラミング教育に関して何か感じることはありますか?

先生が教えて、子どもたちがそれに従うという方法から脱却できていないような気がしています。Scratchを使っていたとしても、先生が板書したとおりに、子どもたちが間違いなくプログラムを入力して、授業が終わった時にはみんな同じ画面になっていれば良いというようなものです。対して、子どもたちの創造性を重視すると言っていても、褒めどころが違っていると感じる事があります。例えば、Scratchのブロックを適当に並べた結果、たまたま面白い動きになっただけなのに、それを創造性と言ってしまうような場合です。その子が、なにをやろうとして、なにを試して、どう組み立てたのか、ちゃんと説明を聞いてあげる必要があります。

プログラミングが終わると子どもに発表をやらせたりしますが、多くの場合、こんな作品ができましたと見せあうだけで、プログラムの内容についてはほとんど触れません。その子がどういう風に作って、どこに苦労をしたのかは、プログラムを見なければ分かりませんが、教える側に興味はなければ、でき上がった作品の見栄えを褒めるだけ終わってしまいます。

これらのいずれにおいても、その背景には、先生のプログラミングに対する知識の不足というよりは、実際に自分でやってみた経験の不足があるのかもしれません。

―これからどういったことに力を入れていこうと考えていますか?

本当は子どものプログラミングは、もっと自由度が高いほうがいいんです。細かなカリキュラムなんて必要ないかもしれません。これは、プログラミングに限らず、新学習指導要領の根本である「主体的・対話的で深い学び」に正面から向き合えば、他の教科でもそうなる筈です。しかし、すべての授業をいきなり変える事は不可能ですし、すべてをそうしろというわけでもありません。だから、私は学校や先生の考え方を徐々に変えていきたいと思っています。

私がScratchで作った『ネコ逃げ』というネズミがネコにぶつからないように逃げるゲームがあるんですが、それを先生方に作っていただくと、みんな同じ、それこそ寸分たがわぬ結果になります。これが、子どもだと、みんなバラバラで同じものにならないんですけどね(笑)。

書いてある通り、指示通りに仕上げる能力が必要なことは間違いありません。しかし、これからの世の中は、それだけでは難しいのかもしれないと感じています。結果がひとつにならないということは、先生からすると恐怖かもしれません。想定した指導案通りにならず、学習のめあてを達成できずに授業が終わるかもしれないわけですから。しかし、子どもたちは、ゲームを作る過程で、自分で考えて、試行錯誤して問題を解決しています。そして、結果がみんな違うということは、自分とは違う他の考え方があるということです。その異なる視点を取り入れることができれば、多様性の理解につながります。
英語や道徳だけでなく、限られた時間内に教える内容も増えている状況の中でこのような授業を行うことが、子どもたちの学びにとって意味があることなのかを先生方に納得してもらえるかどうかだと思います。

―最後に、もし子どもから『プログラミングをやって何になるんですか?』と聞かれたら何と答えますか?

「何にもならないかもしれない」と答えますよ。でも「それは君次第かな?」と付け加えます。だから私は、そんな「君次第」のチャンスは平等にあるべきだと思います。実際のところ、プログラミング教室などの月謝は結構高額だったりしますから、家庭や地域の格差でプログラミングを学ぶ機会が与えられないというのは問題です。

だから、義務教育におけるプログラミング教育がカギなんです。いろんな方法はあると思いますが、子どもたち全員がまずはプログラミングに触れるきっかけが与えられるようにするにはどうするか?そんなことを考えながら、とりあえず、コストや導入しやすさなどから、リーズナブルに使えるものとしてScratchを紹介しています。

編集部コメント

お話を伺った中で、プログラミングは経済や商業的に価値があるものとは全く違い、自分を表現する新しい学びという言葉がとても印象的でした。チャンスは平等に与えられるべきで、だからこそ義務教育が大事になる。私たち大人がチャンスをどのように提供していくかは考え続けていかなければならないと感じました。

無料で誰でも使えるScratchは、そんな開発者の世界中の子どもたちへの想いが、たくさん詰まった愛情あふれるプログラミング言語でした。だからこそ、世界中の子どもたちに受け入れられたのでしょう。



【阿部和広教授プロフィール】
青山学院大学客員教授、津田塾大学非常勤講師。オブジェクト指向言語Smalltalkの研究開発に携わり、パソコンの父として知られSmalltalkの開発者であるアラン・ケイ博士の指導を受ける。Scratchの日本版を担当し、日本でのScratch第一人者として、学校やイベントなどで子どものプログラミング指導で日本全国を駆け回る。

『小学生からはじめるわくわくプ ログラミング』、『小学生からはじめるわくわくプ ログラミング2』など著書多数。NHKのプログラミング番組『Why!?プログラミング』プログラミング監修も務める。
http://www.nhk.or.jp/sougou/programming/

日本語版の補遺を担当した「ライフロング・キンダーガーテン 創造的思考力を育む4つの原則」の日本語版が日経BPより2018年4月12日から発売。
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/P55550.html

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■スクラッチ関連
https://scratch.mit.edu/
https://scratch.mit.edu/conference
http://scratched.gse.harvard.edu/
https://day.scratch.mit.edu/
http://www.scratchjr.org/

■スクラッチ財団
https://www.scratchfoundation.org/

■オバマ演説
https://www.youtube.com/watch?v=6XvmhE1J9PY
ビデオゲームを買う代わりに、自分で作ってみよう。最近のアプリをダウンロードする代わりに、デザインしてみよう。プログラミングを学ぶ事はあなたの未来のためだけじゃない。国の将来がかかっているのだ。」

■コンピューター・クラブハウス
http://www.computerclubhouse.org/
貧しい地区で暮らす子どもたちにコンピューターの基礎技術を教える『コンピューター・クラブハウス』は、1993年にMITとレズニック教授他、関係者によって発足し、米国内外を合わせた19ヵ国100か所で10歳から18歳までの経済的に貧しい子どもたちが、コンピューターを使ったプログラミングなどの技術を学んでいます。2000年から2015年まで米インテル社がスポンサーでしたが、現在はThe Clubhouse Networkとして複数の企業が活動を支えられています。

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この記事を書いた人


コエテコ編集部

2020年から始まる小学校での「プログラミング教育の必修化」に向けて、小学生を対象としたプログラミング教室、ロボットプログラミング教室の市場はどんどん拡大しています。社会・教育・産業構造が大きく変革していく中で、未来の日本を担う子どもたちはグローバル化・情報化社会を生き抜く力を身につけなければなりません。 コエテコ編集部では、習い事やプログラミング教育に関わるテーマをわかりやすく、面白く伝える記事を作成し、皆さんにお届けしていきます。

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