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阿部和広さんインタビュー|Scratch 日本語版の翻訳者だから語れるScratchの魅力とは 前編

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150以上の国と地域、40以上の言語で利用されるプログラミング言語「Scratch(スクラッチ)」。今回、インタビューに答えていただいた阿部和広教授はこのScratchを日本語に訳した人です。

子供たちがプログラミングに親しんでもらいたいとの思いを込めた著書「小学生からはじめるわくわくプログラミング」が2013年に発行され、シリーズ累計発行部数は11万部を超え、この分野では異例のヒットとなり、日本におけるScratchの普及に一役買っています。

今も、たくさんの子どもたちがプログラミングを学ぶ現場を笑顔で見守る阿部さんに、「なぜ子どもたちがScratchにワクワクするのか」、さらに「これからのプログラミング教育」についてコエテコ編集部が伺ってきました。

「Scratch」と「レゴ マインドストーム」の源流は一緒?Scratch誕生秘話

―阿部さんは日本におけるScratchの第一人者として知られていますが、Scratchが誕生した背景を教えてください

Scratchは、米国マサチューセッツ工科大学の研究所(以下、MITメディアラボ)にあるミッチェル・レズニック教授(以下、レズニック)が率いる研究グループ「ライフロング・キンダーガーテン」が、子どものために開発したプログラミング言語で、「Scratchチーム」と呼ばれるメンバーが運営管理をしています。

通常のプログラミングでは文字で入力する部分を、視覚的に分かりやすいブロックのような画像にしたことで、プログラミングが初めての子でも、それを組み合わせて簡単にプログラミングできる所が特長です。2006年に最初のバージョンが発表され、その後、2013年に現在のScratch 2.0が発表されました。

―レズニック教授はなぜ子ども向けプログラミング言語を開発したのですか?

コンピューターは1970年代にマイコン、今でいうパソコンが登場して身近なものになる前は、科学者や専門家が使うものという存在で、子どもが使うという発想はありませんでした。そんな時代に、MIT人工知能研究所の故シーモア・パパ―ト教授(以下、パパート)は、子どもたちはものづくりを通して学ぶという「構築主義」を提唱し、その手段としてコンピューターとプログラミングが適していると考えました。そのために1967年に開発されたのがプログラミング言語「LOGO」です。

そのLOGO言語に注目した企業のひとつにデンマークの玩具メーカーLEGOがあり、自社で発売しているブロックとLOGOを組み合わせた「LEGO/Logo」というシステムをパパ―トらと行っていました。そこに加わったのが、パパ―トの下で博士課程を専攻していたレズニックです。レズニックらの研究成果である「プログラマブルブリックス」を基に開発されたロボット玩具の「マインドストーム」もパパートの著作から名前をもらったものです。

―Scratchとレゴ マインドストームの源流が同じだったとは驚きですね

レズニックは、LOGOやマインドストームを使った学びには何かが足らないと感じていました。たとえば、LOGOでは、画面上のカメに命令して図形を描く「タートルグラフィックス」を通して、さまざまな数学の概念を子ども自身が発見することを狙っていますが、すべての子が幾何図形に関心を持つとは限りません。また、マインドストームはとてもメカメカしく、機械好きの子は熱中しやすいですが、かわいいものが好きな子の興味をひきません。

このように、たくさんの子どもと接するうちに、『子どもたちは彼らにとって個人的に意味のあるものを組み立てている時のみ、それを知的に行っているということである』と確信するようになったのだと思います。

―Scratchは子どもの興味がベースにあるのですね

そうです。そこで、子どもが大好きな「ゲーム、アニメ、音楽、物語」に注目し、それを自分で作ることができる環境を用意するという方法を考えたんですね。

そこが他の教示主義的なプログラミング教育と大きく異なっていて、子どもの目線なんだと思います。Scratchという名前にしても、レコードをこすって音を出すDJのパフォーマンスから名づけられたものです。

―なぜ、レズニック教授は、子どもが考えたり感じたりすることを理解できたのでしょうか?

レズニックは、1993年に発足した「コンピューター・クラブハウス」という、経済的に困難な状況にある子どもたちが学ぶ場所づくりを行う活動に参加しています。そのような子どもたちの多くは学ぶ事に意欲的でなかったのは想像に難しくありません。ところが、コンピューター・クラブハウスで、LOGOやLEGO/Logoなど、MITの最新の研究の成果物を自由に使えるようにしたところ、子どもたちが毎日通ってくるようになったばかりか、学ぶことの意味を見出して、大学へ進んだり、社会を変える運動に参加したりするようになったと言います。

このような子どもの行動を現場で見ていたからこそ、興味と学びを切り離す事なく探求心を芽生えさせる事の大切さを理解できたのではないかと思います。

ところが、今の日本の学校教育はそれを切り離していることが多いように感じています。例えば、算数の授業で太郎さんと花子さんがミカンを分けたり、点pとqが池の周りをぐるぐる回ったり…。そんな状況が子どもたちの生活の中でどれだけリアルかっていう事ですよ。


子どもがScratchを使う上で親が気をつけるべきこと

―なるほど、Scratchは世界で登録者数2700万人と多くの子どもたちに使われていますが、そのような中、日本における利用状況はどうなっているのでしょうか?

MITメディアラボの公開データによると(https://scratch.mit.edu/statistics/)、日本の登録者数は約27万人で全体の約1%です(2018年4月現在)。世界の人口に対する比率で見みると日本はもっと増えてもよいのではないかと思うのですが、これは学校や家庭が持っているコンピューターやネットワークに対する忌避感の表れかもしれません。とはいえ、昨今のプログラミング教育ブームの影響もあってか、年間に約1.8倍の割合で拡大しています。

日本でプログラミング教育が注目されるきっかけになったのは、2013年にアメリカのオバマ大統領が国民に向けて行った演説と、それを受けた内閣の産業競争力会議ではないでしょうか。この流れは、2020年の新学習指導要領実施に向けて変わることなく、ユーザー数もまだまだ増えていくと思われます。

―ScratchにはSNS機能が付いていることで、コミュニティサイトとしての側面がありますが、どういった役割がありますか?

Scratchのコミュニティは遊び場(プレイグラウンド)的に、自分が作ったものや関心のあることをお互いに共有し合う場所です。これは、コンピューター・クラブハウスをインターネット上に拡大したものと考えることもできます。Scratchのサイトにログインすれば、自分の作品を共有することや、世界中の作品を見て、改造(リミックス)することもでき、さらには「いいね」をもらったり、コメントを交換したりもできます。もし、近所に同じ趣味の子がいなかったとしても、世界のどこかに見つかるかもしれません。これは空間や時間の制約を超えたものです。

とはいえ、インターネットには良い面と、悪い面があることも事実です。まだその判断ができていない子どもを放置している保護者が多いことが気になります。

Scratchの場合、13歳未満の子どもは保護者のメールアカウントで申請し、保護者が承認のリンクをクリックしなければサインアップできない仕組みになっています。ところが、サインアップだけしてあとは子どもに任せっきりにしたり、子ども自身が勝手にアドレスを取ってサインアップしたりしているケースがあるように感じています。アメリカでは、児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)という法律があって、それを守ることが保護者の義務になっています。口では『インターネットは危険だ』と言いながら、放置しておくのは問題です。

―Scratchは運営がしっかりしているので安全性は高いのではと思っていましたが、そういったサイトでも保護者はお子さんの動向に気をつけるべきなのでしょうか?

先ほどもお話ししたようにScratchのコミュニティは世界で2700万人以上です。年齢は幼稚園児から大人まで幅広く、LDやADHD、LGBTなど、国も年齢も環境も様々な人たちが一緒に交流しています。それらの人たちをすべて分け隔てなく歓迎するのがScratchの基本的な考え方です。

そうであるからこそ、コミュニティの中で自己顕示したくて、マナーをわきまえず書き込みまくって暴れる子や、それに対抗する子が仲間と自警団を作って攻撃しかえすとか、いろいろなことが日々起こっています。インターネットが社会の一部である以上、これは当然のことであり、これも貴重な学びの機会ではありますが、その解決のすべてを運営にまかせっきりにするには限界があります。

Scratchコミュニティには、基本的な行動の指針となる『コミュニティガイドライン』(https://scratch.mit.edu/community_guidelines)があり、参加者が自治を行う仕組みもあります。これに保護者の皆さんも加わってもらえればと思います。


―お子さん任せにせず、インターネットの問題やコミュニティサイトでの行動などを教えないといけないということですね

そうです。しかし、言葉だけでネットの危険性を子どもに教えても実践では役に立ちません。かといって、本当に危険な場所に放り出すこともできません。デジタルネイティブ世代は、バーチャルな世界こそがリアルであり、そのコミュニティを通して、プロジェクトを進めたり、モノを作ったりしていくのが当たり前です。そのような親世代とは全く異なったコミュニケーションが仕事でも生活でも不可欠な世の中を生きていく事になります。そのための試行錯誤の場としてScratchのコミュニティを利用し、子どもたちの考え方を理解するためにも、同じ場に参加してもらいたいと思います。

少なくとも、『コミュニティガイドライン』を親子でしっかり読んでいただき、保護者は子どもをインターネットの世界に放置する事なく、見守って欲しいと考えています。

―Scratchでは、リミックスがあることも特長ですが、リミックスについて教えてください。

リミックスとは、コミュニティサイトにアップされた他の人のプロジェクトをベースに自分の作品を作ることです。既存のものを改良して、より面白いものや、オリジナリティのある作品に仕上げたりすることがScratchでは普通のこととして行われています。

皆で知恵を出し合い、よりよいものを作っていくという、デジタル時代のモノ作りのやり方とも言えるでしょう。ただし、リミックスを行った場合、必ず最初に作った人や、参考にしたもの、使った素材の名前などクレジットや、ライセンスを明記しなければいけないというルールがあります。この「リスペクトしてリミックスする」という考え方は、「巨人の肩に乗る」という古くからの知恵の応用でもあります。

現行のScratch 2.0からウェブアプリケーションになり、プロジェクトがクラウドに保存されるようになったことで、リミックスがしやすい環境になりました。

―そうなるとリミックスのルールに反して他人が作ったものを自分の作品のように扱う子どもがいたりしませんか?

人の真似すること自体は悪いことではありません。問題なのは、自分の改良点を示さなかったり、クレジットを表記しなかったりすることです。そのようなプロジェクトは、運営が確認して削除されることもあります。中には自分ががんばって作ったプロジェクトを他で使われるのが嫌な子もいますが、多くの人からリミックスされることが、むしろ名誉であることに気付けば考えも変わってきます。その一方で、人の作品を自分のものだというような子は、コミュニティの中でリスペクトされなくなっていきます。リミックスはパクリとはまったく異なります。

デジタルではコピーなんていくらでもできるけれど、オリジナルを作った人がスゴイという気持ち、さらには、参照関係を記録することで、さかのぼって研究ができるといった、パスをつなぐ事の重要性を子どもたちが理解することも大切です。それもScratchを通して得られることの一つです。

ひるがえって、果たして大人が正しく行動しているのかという疑問もあります。子どもは大人の鏡ですから、悪意を持ったパクリを行う子どもにしても、コミュニティサイトで暴れる子どもにしても、そのような大人の行動を見て真似しているだけなのかもしれません。


後編では日本語版開発秘話や、これからのプログラミング教育ついてお話をうかがいます。


次の記事>> Scratch日本語版の翻訳者・阿部和広教授インタビュー -子どもの興味を引き出し、主体的に学ぶことがScratchの原点-(後編) 

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この記事を書いた人


コエテコ編集部

2020年から始まる小学校での「プログラミング教育の必修化」に向けて、小学生を対象としたプログラミング教室、ロボットプログラミング教室の市場はどんどん拡大しています。社会・教育・産業構造が大きく変革していく中で、未来の日本を担う子どもたちはグローバル化・情報化社会を生き抜く力を身につけなければなりません。 コエテコ編集部では、習い事やプログラミング教育に関わるテーマをわかりやすく、面白く伝える記事を作成し、皆さんにお届けしていきます。

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