「ScratchよりPythonをやれ」は正しいか?阿部先生にインタビュー
しかし、知名度が上がるとともに様々な疑問や不満の声も目立つようになりました。
今回は日本語版Scratchの翻訳者であり、Eテレ『Why!? プログラミング』プログラミング監修者も務める青山学院大学・阿部和広先生にインタビューし、Scratchやプログラミング教育全体に関するさまざまな疑問をぶつけました。

ネットでは武闘派だが、実際はとてもチャーミングな阿部先生
どんどんぶつけてください。
「ScratchよりPythonをやれ」?

Scratchに関する批判として「はじめからモダンな言語(Python等)を教えた方がいいのでは?」という指摘がありますが、どう思われますか。
あくまで私見ですが、第一線で活躍されているエンジニアに「言語に対するこだわりはありますか?」と聞いた場合、「特にない」と答える方は意外と多いんじゃないかと感じています。
その時々の仕事に応じて、必要な言語を選んで使う。あるいは、自分で言語を作っていく。「この言語じゃないとダメなんだ」とこだわる方はそこまで多くないのでは、と。
となると、「今使われている言語でなければ意味がない」の前提に疑問符がつきます。
プログラミング言語の流行は移り変わりますしね。
そうなると、まずは見た目が分かりやすいScratchからスタートして興味を持たせるのがいいのではないか、と。
確かに。
取材で子どもを見てきた感じだと、「$」の入力方法が分からないから挫折する……みたいな子もいる気がします。
ええ、本当に。いると思いますよ。
「難しい記号や英単語がイヤでやめる」のはもったいない。
Scratchでは難しいことができない?

「Scratchでは難しい作業ができないんじゃないか」についてはどうですか?
JAXAは2020年度より小学校でプログラミングが必須になることをうけ、宇宙の要素、プログラミングの要素を双方組み合わせたプログラミング教材「人工衛星・地球観測を学ぼう!」を公開しました。 この教材は入門編の「人工衛生編」、次のステップの「地球観測点」の2種類があるとのことですが、今後だいち2号ver、GPM主衛生verの2バージョンを追加予定とのことです。 ...
http://spacenewslab.horiemon.com/archives/1415 >
Scratchとの出会いをきっかけにプログラミングスキルを高め、未踏ジュニアスーパークリエータに認定された三橋優希さんのような方も。
Programming can change your life.
https://progate.com/success_interviews/ymitsuhashi >
ただ、気を付けてもらいたいのは、ネコが歩いてニャーと鳴くだけの作品も、アーケードゲーム顔負けの高度な作品も、子どもたちの表現として同じ価値があるということです。
そこに優劣はないですよね。
Scratchは見た目こそ可愛らしいですが、それは子ども達の好みを反映した結果です。
先ほども言ったとおり、ツールや言語は必要に応じて使い分ければよいのであって、まずは間口を広げる意味でScratchがよいのではないか、と思います。
それで足らなければ、他の言語でScratchを拡張したり、改造(mod)したりもできます。
私も「子供の科学」の連載* で、PythonやCライクなArduino言語、Wolfram言語(Mathematica)を取り上げていますよ。
日本初の「コンピュータクラブハウス」をどう思う?

(画像はイメージです)
石川県・加賀市とみんなのコードが、日本初の「コンピュータクラブハウス* 」を設立しようとクラウドファンディングをされていましたね。(2019年3月11日において目標金額達成)
この取り組みについて、阿部先生はどういう目でウォッチされていますか?
自治体が行うクラウドファンディングが、ガバメントクラウドファンディング。 運営母体はすべて自治体という安心感。 自治体を支援する寄付金でふるさと納税(翌年の住民税が一部控除)対象となり、お礼の特産物が送られてきたり、被災地支援もできるなど、選べる税金の使い道。
https://www.furusato-tax.jp/gcf/491 >
MITのコンピュータークラブハウスができるきっかけとなった最初のイベントは、ボストン郊外のヒスパニック系やアフリカ系、アジア系の人たちなどが多く住む地区の博物館で行われました。
当時、メディアラボで研究していたMindstormsの原型など最新の技術を子どもたちに試してもらい、フィードバックを得ることが目的でした。結果は上々で、子どもたちは素晴らしい作品を作ったと言われています。
ところが、会期が終わり、もう遊べないと知った子が、博物館に忍び込むという事件が起こりました。
そこまでしてやりたい気持ちがあるなら、常設の場を作ってあげたい。それで世界に拡大しながら現在まで続いているわけですが……ここまで続けるのはすごく大変だったと思うんです。*
お金にならない、ボランティア要素の強い活動は途中で息切れしてしまうことも多いですからね。
この手のプロジェクトを始めるには継続性、サスティナビリティが重要になります。
一度始めたことは、ずっとやり続ける覚悟が必要です。私のメンターであるアラン・ケイさんは「自分たちが生きている間には、結果は見られない」と言っています。そのくらいの息の長さです。
たとえば、新座市の児童館の指定管理者になっているNPO法人の新座子育てネットワーク* は20年に渡って地域の子どもたちの居場所づくりを行っています。
その中にはプログラミングやIoTも含まれており、児童館に来た子どもたちは思い思いに作品作りに取り組んでいます。このような活動は決して派手ではありませんが、日本的なコンピュータークラブハウスと言えるかもしれません。
きちんと子ども達の居場所になるか、これからもウォッチしていきたい。
ズバリ、学校の現状をどう思う?

Scratchの存在は学校現場にかなり浸透してきたように思うのですが、授業実践には課題も多いと予測されます。
阿部先生がとくに危惧されているのはどういったポイントでしょうか。
プログラミング教育を効果的に行うには、従来の指導方法とは異なった考え方をどれだけ受け入れられるか、言い換えれば、マインドセットを変えられるかがカギになります。
でも、実際の現場では、なんとかして従来の枠組みの中で実施されようとする先生が多いんです。
たとえば「2桁の引き算をフローチャートで書いて、短冊に切ったカードを並べてプリントの空欄を埋める」とか。それで「プログラミング教育はやりました」と言っていいのか。どう思います?

行うこと(処理)を順番に書いた図がフローチャート
うーん。順次や分岐処理の考え方を学んでいるから、一応、プログラミング教育っぽくはありますね。
ただ、モヤモヤした気持ちになるのは確かです。
これはプログラミング「的」思考かもしれないけれども、プログラミングと言ってよいのか。
研究授業や発表会の報告は成功例にフォーカスされがちですが、中には十分に咀嚼できていないような実践例もあるんです。
もちろん、研究なわけですから、そういうことがあって当然です。授業後に行われる研究協議会では、先生や講師も交えて活発な議論が行われているのですが、あまり目にする機会はないでしょう。
確かに、議論の過程を目にすることはあまりないですね。
私と豊福先生、芳賀先生が監修した『小学校の先生のための Why!?プログラミング 授業活用ガイド』は、そうした問題意識から作った本です。
先生の指導案などを含む実践報告を中心に配置し、周りのスペースに監修者コメントと質疑応答などを入れてあります。
中には厳しいコメントもありますが、成功例だけでなく、まだ改良の余地がある例も示している点で珍しい本だと思いますよ。
Amazonで阿部和広, 豊福晋平, 芳賀高洋の小学校の先生のための Why!?プログラミング 授業活用ガイド。アマゾンならポイント還元本が多数。阿部和広, 豊福晋平, 芳賀高洋作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。また小学校の先生のための Why!?プログラミング 授業活用ガイドもアマゾン配送商品なら通常配送無料。
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みなさんのギモン、受付中です!

質問に答えてくださった阿部先生
コエテコでは、読者のみなさんからの質問を大募集!
「こういうとき、どうしたらいい?」
「子どもからこんなことを聞かれて困った……」
「ずっとモヤモヤしてる!」
などなど、何でも気軽にお寄せください。コエテコの取材力を発揮し、専門家にインタビューします。
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阿部先生、よろしくお願いします!