活躍の舞台は水平線を超えてどこまでも!独立行政法人 鳥羽商船高等専門学校

活躍の舞台は水平線を超えてどこまでも!独立行政法人 鳥羽商船高等専門学校
プログラミング教室やロボット教室を通して、コンテストに挑戦するというお子さんたちも多いことでしょう。

今回は、世界的な学生プログラミングコンテスト『Imagine Cup(イマジンカップ)』の日本大会でみごと優秀賞に輝き、7月にシアトルで行われた世界大会に出場したチーム『ezaki-lab』にお話を聞くため、三重県にある鳥羽商船高等専門学校にうかがいました。

マイクロソフト社『Imagine Cup』世界大会に出場!

『Imagine Cup(イマジンカップ)』は、マイクロソフト社が主催する世界最大規模の学生向けITコンテストです。

2003年から開催されているこのコンテストの優勝賞金は、なんと8万5000ドル (約970万円)!毎年日本からも多くのチームがエントリーしています。

そして今年、東京大学の2チームとともに世界大会へ勝ち進んだのが、鳥羽商船高等専門学校のチーム『ezaki-lab』です。

高等専門学校(高専)は中学卒業後、5年一貫教育による実践的で創造的な専門の技術者を養成するための高等教育機関です。

国公私立あわせて57ある高専のほとんどは工業系で、船の技術者や海に関わる人材を育てる商船高等専門学校は5校だけです。
 
学校にはイマジンカップ出場を称える大きな垂れ幕が

その中でも鳥羽商船高等専門学校の歴史は古く、明治14年に開校されて以来、すぐれた海技技術者を輩出してきました。

昭和60年には電子機械工学科、63年には制御情報工学科と工業系の学科が新設され、現在では商船系だけではなく、情報やコンピューター、自動制御や人工知能などの幅広い分野で活躍する人材の育成を行っています。

その鳥羽商船では、学外のコンテストを教育の場として積極的に活用しています。制御情報工学科長の出江幸重教授にお話をうかがいました。

「制御情報工学科では、3年生になると全員が学外のコンテストにエントリーします。ロボットコンテストやアプリコンテスト、プログラミングコンテストなど、教官と相談しながら出場するコンテストを決めます。コンテストのための活動は実験授業の一環として、単位や成績に含まれます。このような先進的なカリキュラムは、全国でも珍しいのではないでしょうか」。
 
制御情報工学科長 出江幸重教授

「コンテストに出るということは、最終的な目標に向かって、どうやってシステムを作るかといったエンジニアリングデザインの教育にもなります。また、そこで成果を得た学生は、自信をもって就職活動などでもアピールできます。社会もそのような人材を求めており、机の上の勉強だけではない、実践力を示すことができます」。

AIを使った効率のよい魚の養殖システムを開発

今年『Imagine Cup』の世界大会に出場した『ezaki-lab』は、制御情報工学科5年の河口祭さんと世古口英大さん、生産システム工学専攻科1年の服部魁人さんの3人からなるチームです。河口さんと世古口さんにお話をうかがいました。

「わたしたちが開発したのは、マダイやシマアジなどの養殖魚に、人工知能(AI)を使って適正な量のエサを自動で与える『EFFECT』という装置です。その有用性が認められてImagine Cup日本大会では優秀賞をいただきました」。

「開発のきっかけは地元の漁師さんから相談を受けたことです。これまでも、一定の時間に一定の量のエサを与える『タイマー式自動給餌』の方法はありました。

水産業は高齢化で人手不足になっており、給餌システムは自動化されつつあります。しかし、魚は毎日同じ量を食べるわけではありません。季節や水温、また潮位によっても食べる量は変わります。

従来の方法ではエサを与えすぎたり、または足りなかったりして、最適な大きさに魚が育たないなどの問題がありました。必要以上にエサを与えればムダなコストがかかってしまいます。

ご存知ないかもしれませんが、養殖魚の値段の8割はエサ代なんですよ。もし、いつでも適切な量のエサを与えることができれば、大幅なコストダウンにもなります」。

「魚の市場価格は変動が激しく、収入が不安定なのも事実です。もし、最適な給餌システムがあれば、出荷日に合わせて、欲しい大きさの魚を欲しい数だけ養殖することができます。

たとえば、10月10日の結婚式のために300グラムの鯛を100匹欲しいとしましょう。魚のサイズと出荷日から逆算して、まず1日に与えるエサの量を決定します。

さらに、水温や潮位などから、その日に最適なエサの量を自動的に計算します。ただし、魚は予定通りに食べないこともありますから、養殖イカダに設置したカメラの画像から魚の状態を判断して、最終的に与えるエサの量をAIで決定します。

今までは、決められた大きさと数の魚を出荷日に揃えるために、余分な数の魚を育てたり、エサを与えすぎたりしていました。

『EFFECT』を使えば、こういったムダなコストを削減できるだけでなく、決まった日に決められた大きさの魚を必要な数だけ用意することができ、確実な収入を見込むことができます」。

AIによる自動給餌システム『EFFECT』

この画期的なシステムは水産業界から注目されており、今後は実用化に向けて、三重県の水産実験場と協力して実証実験を行うとのことです。

このシステムのおかげで、美味しい魚が今よりも低価格で食べられる日も、そう遠くはないでしょう。

解くべき課題を見つけることが重要


チーム『ezaki-lab』の指導教官であり、ご自身も鳥羽商船ご出身という江崎修央教授にお話をうかがいました。

――コンテストのための課題はどのように決めるのですか?

「まずは学生が『ネタ』となる課題を探してきます。最初の段階では自由にアイデアを出してもらいますが、そこから具体化に向けて方向づけをするのが、わたしの役目です。最終的には、『全く誰も考えてないおもしろいもの』か、または『産業界から求められているもの』になりますね」。

制御情報工学科 江崎修央教授

――給餌システムのような課題を見つけるには、地元の方とのつながりが大切ですね。

「技術を持っていても、それを活かす場を見つけなくては意味がありません。また反対に、課題や問題を抱えている側は、今どんな技術があり、どんなことが可能なのかということをご存じありません。ですから、そういった方たちにうまく繋がるよう、積極的に働きかけることは重要だと思います。

現在、三重県や他大学等と一緒に、月一回のペースで地元の第一次産業に関する情報共有を行っています。その中で、農業や産業が抱えている問題について詳しく知ることができ、また、こちらも提供できる技術を伝えることができます。お互いの目指すところがマッチすれば、協力して課題解決ができます。

一次産業のIT化は進んでいるとはいえず、今のところ取り組むべき課題は山積しているという印象です。また最近は、コンテストで活躍した学生を新聞やメディアで見て、『こういう問題を解決してほしい』と持ち込まれることも多いですね」。

――コンテストに出場することは、どのような教育効果がありますか?

「現在は3年生以上がPBL科目としてコンテスト出場を目指していますが、来年からは1年生からカリキュラムに組み入れたいと考えています。プログラミングのスキルそのものは、ヤル気さえあれば何年生でも身につけることができます。

また、コンテストではプレゼンテーションがたいへん重要です。実際に作ったものやプログラムも大切ですが、まずは自分たちの作ったものの素晴らしさや重要性が、審査員に伝わらなければ評価されません。コンテストに出ることで、見せ方も大事だということを学生は体験することができます。

プレゼンテーションは、通常の授業でもかなり力を入れています。今の学生は、プレゼンテーションがいろんな場面で大きなウェイトを占めているということを、よく理解していますね。スライドを使ったり、寸劇を入れたりするなど、他の学生の上手なプレゼンテーションを見て学ぶことも多いようです。

その他にもコンテストの効果を挙げるとすれば、そのような場に出るのがあまり得意でない学生も、出場に積極的な仲間たちから刺激を受けて、知らず知らずのうちに関わるようになっているということでしょうか。また、たくさんの優秀な成績を挙げてきてくれるので、学校のいい宣伝にもなります(笑)」。

――7月にアメリカのシアトルで行われたImagine Cup世界大会では、どのような反響がありましたか?

「日本大会ではわたしたちのチームが良い評価を受けていましたが、食生活の違いもあるせいか、アメリカではその重要性があまり伝わらなかったようです。繊細な味覚を持つ日本人は、養殖のエサを変えることで魚の味まで調節しています。こういった文化は海外ではなかなか理解されにくいですから、伝えるのは難しいですね」。

――海外のコンテストとなると、英語力も試されますね。

「鳥羽商船では海外研修プログラムを豊富に設けて、学生の海外留学を支援しています。また文部科学省の推進している海外留学プログラムの『トビタテ!留学ジャパン』 にも、積極的に応募するようにして、語学力の育成にも力を入れています。

『ezaki-lab』の世古口君はアメリカへ留学経験があり、チームは彼の英語力に助けられたと思います。世古口君が言うように、日本人は最低限必要なことだけしか話さないので、海外の人のアピール力には負けてしまいがちです。世界大会で、そのような文化の違いや英語の重要性に気づくことは、彼らの人生にとっても大きな宝になると思います」。

『ezaki-lab』の河口祭さん(右)と世古口英大さん(左)

コンテストは最高のモチベーションになる

魚に関するシステム開発で快挙を成し遂げた『ezaki-lab』の河口さんですが、実は船酔いがひどく、船には乗れないのだとか。

養殖イカダでの作業などは、江崎先生や他のメンバーに頼りきりだったそうです。

河口さんは4年生のときにドローンを使って、ノリの養殖の遠隔画像監視をするサイトの開発を行っていたそうで、この日はドローンの操縦も見せていただきました。



来春にはIT企業へ就職される河口さんから、今プログラミングをがんばっている小中学生のお子さん方へ、メッセージをいただきました。

「わたしは、もともとプログラミングが好きだったのでこの学科を選びました。だから、授業だけではなく、自分でも一生懸命勉強しましたね。

最初はアプリを作るなど、実践を重ねていくことで技術が身についたと思います。将来はここで学んだことを活かして、AIを使ったシステムの開発に携わりたいと考えています。

プログラミングがうまくなるには、まずは手を動かすことです。なんでもいいから興味があるものから始めればいいと思います。

やっていくうちに『もっとやりたい!』という気持ちも生まれてきます。そのためにもコンテストは、よいきっかけになります。

出場するからには『優勝してやろう!』と思うでしょうし、負ければ悔しいですから次へのモチベーションにもなります。今はいろんなコンテストがありますから、ぜひ積極的にチャレンジしてほしいですね」。


鳥羽商船では平成31年度から、工学系学科が『情報機械システム工学科』としてあらたに生まれ変わり、プログラミングや工学の基礎を学ぶのはもちろんのこと、上級学年では個性や特性をいかした『オーダーメイド型カリキュラム』によって、世界にはばたく人材の育成を目指すそうです(詳しくはこちら)。

つねに先進的な教育方法を取り入れながら、進化を続ける鳥羽商船高専。ここで学ぶみなさんの活躍を、これからも期待しています!


取材協力 
独立行政法人 鳥羽商船高等専門学校 
http://www.toba-cmt.ac.jp/

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