「全小学校・全学年でプログラミング」金沢市の取り組み(副市長インタビュー前編)
国で必修化は決定したものの、具体的な中身については現場の裁量に任されているプログラミング教育。これだけの規模での全面実施には、どのような思いが込められているのでしょうか。
今回は細田大造副市長にインタビューし、伝統と進取の共存する街・金沢の取り組みについて語っていただきました。
前編では金沢市の具体的な取り組み、後編では広義の「ものづくり」を育む金沢の文化について伺います。

金沢市副市長 細田 大造(ほそだ・だいぞう)氏。柔和で気さくな副市長に、金沢のこれからをみっちり語っていただいた

「加賀百万石」と言われ、武家文化が栄えた金沢。北陸新幹線の開通とともに観光需要も高まっている(写真提供:金沢市)
市として「軸」を示す
—本日はありがとうございます。さっそくですが、金沢市でのプログラミング教育について、現在どのような状況なのか教えていただけますか。はい。金沢市では「ベーシックカリキュラム」という具体的なカリキュラムの第一版を作成しました。

この「ベーシックカリキュラム」を今年(2019年)1月〜3月にモデル校(2校)で先行実施し、2019年度中に内容を検証。2020年度から全小学校・全学年でプログラミング教育を実施します。
—「ベーシックカリキュラム」を拝見しましたが、かなり具体的な指導案としてまとめられているのですね。これは現場の先生にとってありがたいのでは。
そうですね。学校現場の先生からしてみると、プログラミング教育はまったく新しい内容です。とっつきにくいイメージもあり、不安に思われる先生も多いでしょう。
そこで、ある先生が中心となり「ベーシックカリキュラム」を用意してくださいました。1年生から6年生まで揃っているだけでなく、中学校の分もあります。

もちろん実際の授業では各先生方がアレンジを加えて指導されることと思いますが、市として軸を示すことで先生方の負担を減らそうと考えました。
中心拠点「ITビジネスプラザ武蔵」
—学校現場では「ベーシックカリキュラム」を中心に進めていかれるとのことですが、他に、市としてはどのような取り組みをされているのでしょうか。
平成29(2017)年度から「ITビジネスプラザ武蔵」にて小学生向けのプログラミング教室を開いています。
今年度は9回開催し、毎回の定員は50〜80名なのですが、いざ募集してみると10倍を超える申し込みがありました。それだけ保護者の関心が高いのだと思います。これは市としてきちんと取り組まなければ、と感じました。
金沢市とその周辺には18の高等教育機関があり、このプログラミング教室でも大学の先生や学生さん、IT企業のOBの方が指導に携わってくださいました。
ITビジネスプラザ武蔵を拠点とし、学校現場だけでなく、大学や企業、地域の方に関わっていただきながらプログラミング教育に取り組んでいます。

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課題は「授業時間の確保」
—全学校・全学年での実施となると課題もあったのではないですか。
はい。時間をどう確保していくか、というのが大きな課題でした。
どのような内容を何時間教えるか、学校では1年生から6年生まできっちり決まっています。とくに5・6年生は学習内容が難しくなることもあり、先生方のご負担も大きくなります。
多様な分野を一通り学び、体験するという意味で義務教育は重要なものです。既存の学習内容・カリキュラムは尊重した上で、プログラミング教育の時間をどう確保していくかが課題でした。

「コエテコ」読者インタビューでも「5年生になるといきなり内容が難しくなる」の声が出た。限られた授業時数でプログラミング教育をどう実施するのか、各学校は頭を悩ませる
ところが、市のプログラミング教室を開いたことで、あることに気付いたんです。というのも、初めは5・6年生を対象にスタートしたのですが、実際には1年生くらいの子が通ってくれたんですね。
「プログラミングは高学年から」というのは思い込みだったのではないか。それならば、比較的カリキュラムに弾力性のある低学年(1・2年生)、中学年(3・4年生)から実施することはできないか。
そう考えて、全小学校・全学年でプログラミング教育を実施することにしたのです。
まとめ
保護者だけでなく、現場の先生からも「具体的な内容が分からない」と戸惑いの声が聞こえるプログラミング教育。
具体的な指導案である「ベーシックカリキュラム」を示すことで混乱を解消しようとする姿勢からは、金沢市の”本気”が伺えます。
後半では、そんな進取の文化についてインタビュー。WRO(ロボットの世界大会)誘致や価値創造拠点の整備、シビックテックの取り組みなど、クリエイターを応援する金沢の魅力について語っていただきます。
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