帆南(はんな)さんは、TikTokで29万人ものフォロワーを抱える人気TikToker(ティックトッカー)です。帰国子女という自身の育ちを活かし、2019年から「英語のレッスン」や「海外と日本の文化の違い」を発信し、コアなファンを増やしてきました。
帆南さんの本業は、女優。なぜ帆南さんはTikTokを始め、どのようにしてTikTokerとしての立ち位置を確立したのでしょうか? TikTokを仕事にするために大切なことや収益化の裏側まで、そのリアルなお話をうかがいました。
女優とTikTokerが生業。得意の「英語」を発信し、インフルエンサーへ
女優業とTikTokerをおよそ8:2の割合で兼務している、という帆南さん。女優としては多数の映画や舞台・ドラマに出演し、注目の新星としてその名を馳せつつあります。TikTokでは、過去にタイとシンガポールに住んだ経験を活かし、ネイティブさながらの英語力を披露。2020年5月のこちらの動画は、“日本人がまちがって使いがちな英語”がユーザーを驚かせ、24万件を超える「いいね」がつきました。
帆南さんの魅力は、その愛らしい関西弁と、流暢な英語のギャップです。「いーっじょう(以上)♪」の決めゼリフが印象的で、ユーザーからは「こんな英語の先生がいたら最高」「家庭教師になってほしい」などのコメントが寄せられています。
お芝居がしたい一心で、女優の道へ。TikTok「最初は怖かった」
「物心ついたころにはすでに海外にいた」という帆南さん。1996年に大阪で生まれ、お父様のお仕事の関係で、4歳から11歳までをシンガポール、11歳〜18歳までをタイで過ごしたといいます。女優を志したきっかけについて、帆南さんはこう振り返ります。
「タイやシンガポールでは、日本のテレビ番組で放映されていたのがNHKだけ。私もずっとNHKを観ていたのですが、ある土曜日の昼間にみた時代劇で、犯人役の女優さんがものすごく格好よかったんです。その演技にくぎづけになって、『時代劇に出てみたい』と強く思ったのがきっかけです」
時代劇に出演するには、お芝居を学ぶ必要がある……帆南さんはそう考えて、女優を夢みるようになったといいます。
早くも夢に近づいたのは、日本に帰国後の19歳のときでした。現事務所の社長と出会い、芸能活動をすすめられたのです。願ってもない誘いに心動かされた帆南さんでしたが、まだ学生だったことからご両親の反対をうけ、一度は断念。普段は『好きなことを好きなだけさせてくれる両親」(帆南さん)』だっただけに、ご両親の心配が伺えます。
こうして一度は距離を取った帆南さんでしたが、20歳のときに社長からもう一度「やってみないか」と連絡が。やりたい気持ちを抑えきれず、今度は家族には内緒で所属することを決めたそうです。
その後、短大から4年制大学へ編入してまもなく、晴れて映画のオーディションに合格。勇気をだしてご両親に「お芝居1本でやっていきたい」と打ち明けたところ、意外にも「あっさり了承してもらえて拍子抜けした」といいます。こうして2017年、大学を中退し、女優業に本腰を入れ始めました。
こうして堅実に活動の幅を広げていく帆南さんにTiktokをすすめたのは、プロデューサーでした。
「せっかく英語ができるのだから、TikTokで発信してみてはどうか?」
プロデューサーにそう声をかけられたのは、2019年、あるアイドルグループに属していたときでした。帆南さんは戸惑い、すぐには返答できなかったといいます。
「というのも、この時期、同じアイドルグループの友人がTikTokで炎上している真っ最中だったんです。それを間近でみていたから、私のなかでは『TikTok=怖い』という印象しかなくて。ただ、2回にわたって説得され、もうやるしかないなって腹をくくりました」
見映えより、まず投稿。2年強でフォロワー29万人へ
それ以降帆南さんは、連日スマートフォンを手に、撮影に取り組みました。1年目はなんと、365日間、1日も欠かさず動画を撮影されたそう。「仕事で疲れているなか、大変だったのでは?」と問うと、帆南さんは「一度決めたことは曲げたくないほうなんです」と笑顔をみせました。しかし、幕開けは順調だったわけではありません。
「最初のころは、撮影にこんなに時間をかけているのに、どうして(いいねやフォロワー数が)伸びないんだろう……と悩みました。ネタもどんどん尽きるので、毎日必死でネタ探しをしていましたね。ネットで調べたり、その日にみた夢からインスピレーションを得たりもしました」
するとある日、1本の動画がバズった* のです。帆南さんは当時の驚きを、こう話します。
「数百人だったフォロワーさんが、一気に5,000人以上も増えたんです。しかもTikTokは一度バズると、その後もしばらくバズることがあるんですよね。私も何度かバズを経験し、多いときには1万人単位で(フォロワーが)増えました」
「まずは1万人を目指して頑張ろうと思っていたので、今の状況は予想していなかった」という帆南さんは、動画がバズった理由について、
「多少うまく撮れなくても、質より量の精神で、毎日投稿したのがよかったのかもしれません。それから、体感になりますが、TikTokでバズるコツは『流行にのる』ことなのかなと。昔流行ったネタではく、いま現在進行形で流行っているハッシュタグを、オリジナリティのある内容で投稿するのがおすすめです」
とアドバイスをくださいました。TikTokのハッシュタグには、たとえば
- #落書きソング
- #クールフェイスチャレンジ
- #冬の歌うま
大切なのはメンタル面の維持。「自らコメント取りにいく!くらいのポテンシャルで」
帆南さんのアドバイスで、TikTokでフォロワーを伸ばすには「継続して投稿すること」が大切だとわかりました。では、継続するための秘訣はあるのでしょうか。帆南さんいわくそれは、「受け流す力」。インターネットの世界では残念ながら、注目されればされるほど、それを叩く人が現れるものです。帆南さんにもそうした経験があるようで、
「最初は落ち込みましたが、いまは『そんな考えの方もいるよね』と割り切ってスルーしています。そうしないとメンタルがもちません(笑)。むしろ、批判的なコメントも含めて、なるべく多くのリアクションを取りに行く!くらいのモチベーションで挑んだほうが、きっとTikTokを楽しめると思います。とはいえ私は、コメントに一喜一憂するよりも、今私を応援してくださる方々がどうしたら喜んでくださるかに集中したいですね」
と笑顔をみせてくれました。
必要な機材は、スマホと照明つきスマホスタンドの2つだけ
ところでTikTokの世界では、多くの投稿者が「加工」機能を使って、自分を美しくみせています。最近ではむしろ、その状態(加工された状態)が“通常”であり、無加工の動画を見つけるほうが困難なようにも思えます。そんななか帆南さんは、きわめて最小限の加工しかしていない印象です。なぜなのでしょうか。
「激しい動きをすることが多いので、加工してもズレてしまうからです(笑)。それでもできるだけきれいに撮れるよう、日中は自然光が顔にあたるようにしたり、夜なら照明つきスマホスタンドを使ったりしています」
ちなみに、帆南さんが撮影に使う道具は、
- スマートフォン
- 自撮りスタンド(160cm前後の高さ)
「動画を配信する」という点では、YouTuberやバーチャルYouTuberなどが類似の職業ですが、いずれも本格的に配信するにはパソコンが必要です。
TikTokerはその点、スマートフォン1台で始められます。子どもたちにとっては、入口が広く開かれている、と言えそうです* 。
インフルエンサーになれば年収4桁も?TikTok本社から連絡がきたらチャンス
ここで、「TikTokはそもそも“職業”なの?」という疑問が浮かんだ方もいるのではないでしょうか。「職業=定期的に安定した収入が得られる仕事」だとするのなら、TikTokerは、インフルエンサーになることが、“職業”にするためのひとつの条件のようです。帆南さんは言います。
「これは私自身のケースなので一概には言えませんが、TikTok本社や企業様から直接、一定量の仕事を受けられるようになると、収入はかなり安定する印象です。私の場合、事務所を通してお仕事を受けているので詳細がわからない部分もあるのですが、ある日事務所から『TikTok本社から連絡があった』と知らせを受けて以来、企業さんのPRのお仕事などをいただけるようになりました」
と、「TikTok本社からの連絡」というひとつの分岐点について教えてくださいました。また、TikTokerの収入について、帆南さんはこう続けられます。
「TikTok専業で活躍されている方のなかには、年収4桁の方もたくさんいらっしゃいますし、私のように副業でやっていたとしても(TikTok本社と契約しPR案件が得られれば)、アルバイト代程度の収入は得られるのではないでしょうか」
今は、企業が自社の商品をPRしてくれるインフルエンサーをつねに探している時代です。帆南さんのようにTikTok本社から認められ、TikTokの枠を超えて活躍できるようになったときが、「TikTokを仕事にしている」と自信をもって言えるきっかけなのかもしれません。
「飾らない、ありのままの自分で」子どもたちにTikTokを楽しんでほしい
最後に帆南さんが、子どもたちにメッセージをくださいました。「TikTokを楽しむコツは、飾らない、ありのままの自分でいること。思いもよらないコメントが来ても深く考えず、やりたいことを貫いてほしい」
さらに、帆南さんの所属事務所『プレミアムエンターテイメント』の甲田健代表取締役も、
「彼女のよさは『純粋さ』です。目の前の壁を乗り越えるために、決して先まわりせず、小さな努力の積み重ねを苦にしない姿勢が成功をもたらしてくれたのではないでしょうか。今はインターネットで調べれば多くの情報が得られる時代。多くの人がつい『積み重ね』をおろそかにしてしまう中で、遠回りにも見える努力を続けた結果が、今の彼女を作っているのではないかと思うのです。そう考えると、遠回りに見える道こそが成功への近道と言えるかもしれませんね」
と温かいコメントをお寄せくださっています。
わが子にもし「TikTokerになりたい」と言われたら、モデルケースを知らないだけに、私たち保護者は頭を抱えてしまうかもしれません。ですが、帆南さんが女優の夢を胸に抱きつづけたように、子どもの「やってみたい気持ち」は簡単には消せないもの。
帆南さんのように、TikTokでの発信をきっかけに、本業で大きく活躍できるケースもあるでしょう。保護者の私たちに必要なのは、「SNSは仕事になりうる」と、まずは知ることかもしれません。
そんな帆南さんのこの先の夢は、「ミュージカルに出ること」だそう。その輝くような笑顔が、新たな舞台でも多くのファンを魅了することでしょう。