インターナショナルスクールで夏休みの間に開かれる「サマースクール」。日本の公立校などに通っている子どもたちにとっては生きた英語に触れる絶好の機会で、英語初心者でも気軽に参加できます。いったいどのようなプログラムなのでしょうか。インターナショナルスクールの経営経験があり、サマースクールのプログラム開発に携わってきた国際教育評論家・まなぼん(本名:村田学)がお答えします。
<今日のポイント>
1.サマースクールとは、インターナショナルスクールの授業が体験できる英語プログラム
2.水遊びなど夏ならではのプログラムも充実
3.サマースクールのメリットは多文化に触れる中で英語が好きになり、探究的な思考力が育つこと
4.参加費の相場は1ターム(5日間)で約5万円
5.サマースクールを選ぶときはプログラム内容や英語のレベルを確認すること
サマースクールとは、インターナショナルスクールの授業が体験できる英語プログラム
サマースクールに参加する子どもたち=葉山インターナショナルスクール提供夏休みの間、英語に楽しく触れることができるインターナショナルスクールの「サマースクール」が小学生の間で人気です。まずは、プログラム内容について解説します。
サマースクールとはどんなところ?
A. サマースクールの多くはインターナショナルスクールが主催している夏休み限定の英語プログラムです。エンターテイメントの要素をたくさん取り入れており、探究型のテーマ学習や科学実験、スポーツなどを英語で学ぶことができます。サマースクールは、インターナショナルスクールに通う子どもが普段受けている授業を楽しく体験できる短期留学のようなもの。サマースクールにも種類があり、①室内で学ぶ「サマースクール」②合宿型でアウトドア体験をする「サマーキャンプ」③泊まりなしでアウトドア体験をする「サマーデイキャンプ」と分かれています。
インターナショナルスクールのサマースクールは1980年代からあります。バイリンガル教育の普及などで近年は特に人気で、リピーター率が60%以上のサマースクールも。子どもたちに付き添うアシスタントのお兄さんやお姉さんの多くはインターナショナルスクールの卒業生で、サマースクールを経験しています。子どもたちとの接し方が上手なことも人気の理由のひとつです。
サマースクールではどんなことをするの?
気候変動について学ぶ子どもたち=白馬インターナショナルスクール提供A. 最近多いのは探究型のテーマ学習です。例えばテーマが「地球」の場合、国数を数えたり、国別に人口を比較したりして、調べた内容をまとめて英語で発表します。算数や社会、地理など他教科の要素を総合的に取り入れた学習になります。体育の時間では、鬼ごっこのような競技「カバディ」やフィールドホッケーなど、普段接する機会のない世界のスポーツを体験することができます。
サマースクールの時間割=ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス提供
最初の日に、はじめて出会う友達と仲良くなるため、チームを組んで工作ゲームをする「アイスブレイク」があります。例えば、「スパゲッティ5本」、「マシュマロ2個」、「テープ」を使って15分内でタワーをつくるなどのゲームをします。コミュニケーションを取る必要があるので、チームの団結力が一気に高まります。また、初日から下の名前で呼び合うのでリラックスした雰囲気も特徴的です。
プログラムの中に「タレントショー」があります。チームに分かれてアメリカンコメディーを披露したり、歌ったり踊ったりして、人前で発表する楽しさを体験します。記念のメダルやワッペンなどももらえます。遠足があったり、最終日にはバーベキュー大会を開いたりするスクールもあります。
夏ならではのプログラムも!?
自分たちでデザインした水力発電機の実験をする子どもたち=白馬インターナショナルスクール提供A. 夏だからこそ、体育の代わりに「ウォータースライダー」などの水遊びを取り入れているサマースクールもあります。
ブルーシートを校庭に敷いて、水をシートにかければウォータースライダーの完成。ブルーシートに走り込み、どこまで滑れるか、距離を競い合いながら遊びます。ウォータープレイは普段存分に遊ぶ機会が少ないので、子どもたちに喜ばれるプログラムです。長野県の青木湖でスタンドアップパドルボード(SUP)をする子どもたち=白馬インターナショナルスクール提供
サマースクールを体験するとどんなスキルがつくの?メリット3つと注意点を紹介
インターナショナルスクールのサマースクールが人気なのは、普段の学校生活ではなかなか体験できない経験ができるからです。具体的なメリット3つとともに注意点を紹介します。①英語が好きになる
英語の環境に身を置いて、毎日英語に触れるので、英語を話すことへの心理的な壁が低くなり、自信を持つことができます。サマースクールに参加後、家族とハワイ旅行に行った小学生の子どもが現地の人に積極的に英語で話しかけるようになり、「うちの子ってこんな子だったっけ?」と驚く親もいるほど。スクールでの経験がグローバル社会に羽ばたくための翼になります。②多様な文化に触れるからこそ、「自分らしく」いられる
サマースクールに参加するとたくさんの友達ができます=葉山インターナショナルスクール提供多国籍の先生が多くいて、多様な文化が混ざっているからこそ、お互いの違いを受け入れ、自分らしくいるユニークさを大事にしています。そのため、子どもたちは普段の日本の集団生活で封印している「自分らしさ」を安心して見せることができ、素の自分を表現することができます。人と違っても良いんだ!と自信を持てるわけです。おとなしい子が良くしゃべるようになるなど、性格にも変化が見られます。
③探究的な思考力を育てられる
ペンシルロケットを打ち上げる授業=ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス提供近年、探究的な思考力を育てる自然科学系の学習が人気です。宇宙をテーマにした学習では、宇宙の定義から銀河系、地球と月の関係、人類がどのように宇宙に行くことができるかなどについて考えます。 NASAの宇宙飛行士のトレーニングや宇宙食についても調べ、ペンシルロケットを実際に作って空に向かって発射する実験などもします。
サマースクールに参加するうえでの注意点は?
A. まれに「英語アレルギー」を発症する子どもがいます。子ども自身が英語に興味がなかったり、英語を全く知らなかったり、親からサマースクールのプログラムについて詳しく聞かされていなかったりすると、子どもたちもいきなりの環境変化に戸惑ってしまいます。もちろん、英語の環境に慣れる場合もありますが、中には嫌がってプログラムに参加できないケースもあります。その場合、スクール側も無理に参加させようとはしません。
サマースクールがあまりにも楽しく、「9月からインターナショナルスクールに転校したい!」という相談を親から受けることがあります。しかし、サマースクールは英語初心者の子どもでも参加しやすいようにつくられた専用のプログラムです。実際のインターナショナルスクールの授業についていくには相当な語学力が必要になります。また、サマースクール後に土曜日限定の「サタデースクール」に申し込む家庭もいます。ただサマースクールと同じ先生から学べるとはいえないので注意しましょう。
保護者からよく寄せられる質問まとめ!参加期間・費用・お弁当事情も
ドローンを飛ばすためにレクチャーを受ける子どもたち=ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス提供保護者からよく寄せられる参加費やスクールバスなどに関する質問内容をまとめました。
サマースクールに参加できる期間は?
A. 通常は月曜日から金曜日の5日間で1タームと数えます。計5ターム(5週間)にわたり参加できます。申し込み時期は、早いインターナショナルスクールでは1月下旬から募集を開始します。多くのインターナショナルスクールは、ゴールデンウィーク明けの5月中旬に募集を開始します。サマースクールの多くは、7月下旬から8月下旬にかけて開催されます。コロナ禍の中でも感染対策をしたうえで開催しているところもあるのでインターナショナルスクールの各サイトを確認しましょう。
サマースクールの参加費は海外旅行並み!?
A. 1ターム5日間で平均5万円です。夏休みのスケジュールに合わせて、タームごとに選べる仕組みになっています。夏休みのお盆休み以外は毎日サマースクールを開催しているスクールもあり、最大5ターム(5週間)に参加すると約25万円かかります。サマースクールの人気が高まっているため、参加費はこの10年間で値上げされてきました。ちなみに海外で開催されるサマースクールは2週間で30万円前後(渡航費込み)します。今後も参加費が高くなりそうです。
サマースクールに参加している間はずっと英語なの?
サマースクールに参加するとオリジナルTシャツがもらえます=ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス提供A. 外国籍の先生が多く、基本は英語でコミュニケーションをします。英語がわからなくても、先生も子どもたちが聞き取れるようにゆっくり話すので心配しなくても大丈夫です。授業中の質問に英語で答えると、ハイタッチなどしてくれるのでフレンドリーな環境にすぐに打ち解けることができます。
外国籍の先生の中には日本語もわかる人もいますが、子どもの英語力を伸ばすため、子どもが日本語で話しかけても英語で答えるようにしています。教室には、担任とは別に英語と日本語がわかるアシスタントもいます。子どもの体調が優れないときや地震など災害が起きた緊急時の際に、日本語で迅速に対応する必要があるからです。子ども18人対し、担任とアシスタントの2人配置のスクールが多いです。
ランチはお弁当?それともカフェテリア?
A. サマースクールによって異なります。カフェテリアがあるスクールでは、自分で好きなものをバイキング形式で選びます。カフェテリアがないスクールではお弁当を持参します。お弁当を冷蔵庫で保存してくれるスクールもあります。また、カフェテリアの場合は、子どものアレルギーの有無を事前にスクール側に伝える必要があります。アレルギー対策のため、ほとんどのスクールではピーナッツなどのナッツ類の持ち込みを禁止しています。
スクールバスは利用できるの?
A. サマースクール用のバスを運行しているスクールもあります。なお、スクールバスを利用する場合は別途費用がかかります。サマースクールの選び方は?
A. スクールによって英語の勉強や探究学習など、重視しているプログラムが異なるので、プログラム内容を確認しましょう。また、お子さんの英語力とプログラムの語学レベルが合っているかどうかを見極めることも必要です。リピーター率が高いサマースクールでは、前年の参加者に優先案内が届くことが多いです。そのため募集と同時にすぐに定員が埋まるところもあります。 定員になった場合も、ウェイティングリストに載せてもらうことで翌年度に優先案内が届く場合があります。国内のサマースクールを経験した後、小学校高学年からフィリピンやシンガポール、マレーシアなど海外のサマースクールに挑戦するのもおすすめです。
まなぼんからのメッセージ
私がインターナショナルスクールに興味を持ったきっかけも、小学3年生のときに参加したサマースクールでした。フィールドホッケーの授業が楽しく、日本では見たことがないカラフルなケーキやアイスクリームを食べられることに驚いたのを今でも覚えています。当時、本気でインターナショナルスクールに転校したいと親にも相談しましたが、授業料などの面で断念しました。インターナショナルスクールを経営する側となった今、子どもたちには英語を学びながら思いっきり楽しんでほしいと思います。サマースクールにぜひ参加してください。イラスト:カワチハルナ