小学2年生の女の子が3年間Scratchで作品を作り続けてどうなったか?

小学2年生の女の子が3年間Scratchで作品を作り続けてどうなったか?
Hanareでは「あるじさん」と呼ばれる新妻正夫さん

「小学2年生だった子が3年間Scratchで作品を作り続けてどうなったか、なんてテーマは興味がある人いるかな」きっかけはFacebookに投稿されたこのメッセージ。興味を持ったコエテコ編集部は、メッセージを投稿したCoderDojoひばりヶ丘の主催者・新妻正夫さんに連絡を取り、お話を伺ってきました。

CoderDojoへの登録申請は日本で2番目!CoderDojoひばりが丘

これまでプログラマーやシステムエンジニア、コンサルタントを経験し、IT系ライターとしても多数の著作がある新妻さんは、2009年「テクノロジーもっと身近に」をテーマに合同会社桃山.舎を設立。2012年6月からはコワーキングスペースHanareひばりヶ丘を運営し、ここを拠点として子どものためのプログラミング道場・CoderDojoの活動をボランティアで行っています。

--- CoderDojoを始めたきっかけは何ですか?

新妻さん:2012年当時、CoderDojoはまだ無名でした。そして、子どもたちがプログラミングを学ぶ環境があまりなく、パソコンに自由に触れる場所もありませんでした。CoderDojoのようにパソコンがあって学習教材が少し転がっていて、という活動自体はすごくお金がかかるわけではない。場所さえあれば個人の力でできるのではと思い、Hanareを始めた年にCoderDojoの申請をしました。CoderDojoひばりが丘は、日本のCoderDojoの中で2番目に登録申請しているんですよ。いままでの経験から、プログラミング教育はこれからの子どもの可能性を広げるために必要だと常々感じていたからです。

珍しい一軒家タイプのコワーキングスペースHanareひばりヶ丘

新妻さん:僕のエンジニアとしてのキャリアは社会人になってから。大学では数学を学び、一時は教師になることも目指していたので、子どもの教育にはもともと関心がありました。CoderDojoを知ったのは、子どもが楽しいと思うプログラミング教育の大切さを感じていた時。子どもの純粋な好奇心や可能性を伸ばすためのプログラミングによるコミュニティ、というCoderDojoのコンセプトに共感したんです。

世界とつながる!Scratch(スクラッチ)の魅力

--- CodeDojoひばりが丘では、いろんなプログラミング言語を扱っているそうですが、特にScratch(スクラッチ)を使った作品作りを子どもたちに奨励しているのはなぜですか?

新妻さん:無料というのも理由として大きいのですが、Scratchのベースにある「簡単だけど高度なことができる!」という質の高さが素晴らしいからです。Scratchは作った作品を公開できますし、中のプログラミングも見ることができます。他の人が作ったプログラミングを紐解きながら画面を眺め、「そうか!ここを自分の作品に加えれば、もっと面白い動きになる!」というように、子どもが仕組みを学んでいけるんです。

Scratchは子どもだけでなく大人も十分楽しめる」という新妻さん

新妻さん:『ねこたいほう』という僕がScratchで作った短い作品があります。ドラムの効果音の後に大砲から猫がポーン!と飛び出すだけなんですが、和むでしょ?初めて見学に来る、特にプログラミングをよく知らないお母さん向けに用意しています。プログラミングは難しくないんだって感じてもらえればと思っているんですよ。プログラミングはパソコンに向かって黙々とテキストを打つだけ、というイメージを何とかしたいんです。

新妻さんの作品『ねこたいほう』
(画像引用:Scratch)

新妻さん:この『ねこたいほう』は、Scratchのサイトで共有公開されています。そんなことができると子どもたちに知らせることも大事。世界のどこかに住む人が、猫を「ポーン!」と飛ばして遊んでいる姿を空想させることで、子どもたちも自分が作った作品をScratchのサイトにどんどんアップします。自分の作品が世界のどこかとつながっているという感覚は、子どもたちには新鮮で刺激的だと思います。Scratchは優れた言語というだけでなく、敬意をもって利用者同士をつなげる機能があります。そんなコミュニティに惹かれて、スキルアップしていく子どもも多いんです。

小学校2年生の時にやってきた女の子・emimi27ちゃん

CoderDojoひばりが丘には、開催日に毎回3~4組の親子が訪れるそうです。常連さんも多いのですが、その中に新妻さんが注目している女の子、emimi27ちゃんがいます。Scratchをおもちゃ箱のように扱う彼女独特の発想には、いつも驚かされているそうです。

新妻さん:emimi27ちゃんは、小学校2年生の時にCoderDojoひばりが丘に来ました。お父さんがIT系のエンジニアで、おそらく検索でここを見つけて一緒に来られたんですね。それから3年間、今では常連さんになっています。お父さんの影響でしょうか、来る前から少しパソコンでScratchをいじっていたみたいです。でも、家でひとり黙々とやっててもしょうがないということが、お父さんがここを探した理由だったと思います。女の子は珍しいなあと、チラッと思いましたけど、僕の娘もパソコンが好きだったので、驚きはしませんでした。『ねこたいほう』も見せましたよ。それを見たemimi27ちゃんには鼻で笑われちゃいましたね!

emimi27ちゃんの作品『ねこたいほう remix』
(画像引用:Scratch)

『ねこたいほう remix』は、emimi27ちゃんが新妻さんの作った『ねこたいほう』を元に作った作品です。Scratchでは、リミックスといって「ある作品を元に、新たな作品を作ること」が認められています。「リミックスするときは、必ずクレジット(元の作者名)を「作品への貢献」として記載」するというガイドラインを守ることで、他の人がシェアした作品を自由に使うことができます。

新妻さん:emimi27ちゃんはここに来る前からScratchを家でいじってはいたみたいなんですが、リミックスは知らなかったようでした。リミックスを知ってから作品がものすごい勢いで増えていきました。それも元の作品を単純にコピーして・・・という感じではなく、ちゃんと彼女の個性がリミックスでも出ているんです。いま現在Scratchの共有サイトには彼女の作品が165個(※インタビュー時点)もアップされていて、まだ増殖中です。emimi27ちゃんの『ねこたいほう remix』には、画面に自分でグラフィック機能で描いた猫の絵や「バイバイ」というコメントがオリジナルで追加されています。

emimi27ちゃんの作品『団子増殖 remix』
(画像引用:Scratch)

新妻さ
ん:さらに、emimi27ちゃんがCoder Dojoひばりが丘にきて数か月たった頃です。クリックするとどんどん団子が増えていく「団子増殖」をリミックスしていました。オリジナルは30秒間の間に何個増やせるかを競うもの。それを、団子の丸の形を魔法使いに変えるだけでなく、時間設定の箇所を見つけて、60秒に変えてしまったことにびっくりしました。理由を聞いたら、「もっと数を増やしたかったから」。これには爆笑でした。

emimi27ちゃんの作品『ラジオ』
(音声のみのためURLより実際の作品をご覧下さい)
(画像引用:Scratch)

新妻さん:emimi27ちゃんが作った面白いものの中で、僕が気に入っている『ラジオ』という作品があります。「会話を聞く」という、音声だけが画面から流れるプログラミングなんです。僕も小さい頃にカセットテープに声を吹き込んで聞いて、というのをやりましたが、それをScratchの機能を使ってやってるんですね。この柔軟な発想になんじゃこりゃー!って感動ですよ。これは、emimi27ちゃんがCoderDojoひばりが丘に来て2年程たった時の作品で、task君という男の子と一緒に作ったものです。

できることは何でも挑戦したい!広がるプログラミングの世界

どんどん自分の中にあるものをアウトプットしていくemimi27ちゃん。Scratchはシェアした作品に対して他の人からコメントをもらえたりフォローされることから、ますますプログラミングの楽しさにのめり込んでいったようです。

新妻さん:NHKのEテレで放送されている『Why!?プログラミング』という子ども向けのプログラミング学習番組があります。その番組ホームページにあるコミュニティー『ワイワイプログラミング』には『Why!?大喜利』というコーナーがあって、そこでは毎月出される「お題」を元に作成したプログラミング作品の投稿ができます。この投稿に、うちに来る子どもたちは夢中なんですよ。2017年11月のお題が『クリスマスツリーで何かを作ろう!』だったんですが、なんと、入賞作品の最上位にあたるワイワイ賞に、emimi27ちゃんが作った『クリスマスのアベセンセー。』が選ばれたんです!写真入りの受賞者インタビューがNHKのホームページに掲載されて、本人も嬉しそうでした。

NHK『Why!?プログラミング』

emimi27ちゃんの作品『クリスマスのアベセンセー。』
(画像引用:Scratch)

新妻さん:emimi27ちゃんが他の子どもと違うのは、集中力です。CoderDojoひばりが丘の開催時間は13:30~15:00。子どもの集中力は長くても2時間なんですが、emimi27ちゃんは作品を作るモチベーションが高く、16:30の閉館までずっとやっています。CoderDojoひばりが丘では基本的にプログラミングは教えませんから、他の人の作品を見たり、付き添っているお父さんとディスカッションをして、その中でいろんなことに気が付いていくようです。彼女の作品のタイトルや画面を見ているだけでも、本当に発想がいろんな方向に向いていることが分かります。ゲームやらマンガやらグラフィックデザインやら、最近は芸術系というかアーティストっぽい、見せる作品が増えていますね。そして、とにかく仕事が丁寧。グラフィックも全部自分で描いて、アニメーションもしっかりしている。彼女はScratchでできることは何でも挑戦してみたいんでしょうね。

ストーリーがあってただ動くだけではないところがemimi27ちゃんの作品の魅力

--- CoderDojoひばりが丘に通うことで、emimi27ちゃんはどう変わったんでしょうか?

新妻さん:そこはよく分からないけれど、プログラミングでは自分の思いついたことを何でもやってみていいんです。例えばさっきの『ラジオ』もそうですが、「何をしているんだ?」なんて誰にも言われない、ということに気がついたんじゃないかと思います。もちろんScratchの機能でもできないことはありますが、「これしかやってはいけない」とか「ここまでしかしちゃいけない」という環境ではない。自分で作りたいもの、やりたいことをやってもこの場では誰にも文句を言われない。好きにやってもいいことに気がついて、腑に落ちたんじゃないでしょうか。学校や教室っぽくないこの場所の雰囲気も、emimi27ちゃんがのびのびと作品を作る環境として良かったのかもしれませんね。

子どもたち集まるCoderDojo ひばりヶ丘の家庭的なスペース

新妻さん:emimi27ちゃんだけでなく、プログラミング教室に通う子どもたちは、生まれた時からパソコンが普通にある世代。そして今はさらにスマホやタブレットなどもあり、メディア端末に何の違和感もなく接しています。そんなデジタルネイティブの時代なんですが、「パソコン操作を子どもが自分でできるなんて!」と驚く大人の人も多いんですよね。「こんなもの作って何になる!」というのは、旧世代の発想です。世の中が逆になって、今の大人が考える無駄が無駄ではなくなる時代が迫っているかもしれないことを、考えてもいい時期なのでは。

--- 今後はどんな活動を行っていきたいですか?

新妻さん:僕が思うのはプログラミングは誰でもできることで、日常茶飯事のひとつ。ここには資料や教材が転がっていて、2時間パソコンに触ってていればいい。その方が学びが大きいように思うんです。emimi27ちゃんが伸びたように、他にもこの雰囲気で成長できる子どもがいるはずです。CoderDojoひばりが丘は、そんなちょっとゆるいプログラミングコミュニティであり続けたいと願っています。

「それぞれの子どもに合う環境があります。ぜひ一度見学に来てください」
という新妻さん


<編集部コメント>
たくさんの独創的な作品を生み出しているemimi27ちゃんですが、彼女はけして特別な子どもではない、と新妻さんは言います。彼女の存在は、自分のやりたいこと、好きなことに没頭できる環境と周囲の適切なサポートがあれば、子どもはいくらでも伸びてゆく可能性があることを教えてくれました。プログラミングは、これからの子どもたちにとって、自分の思いを自由に表現できる手段のひとつ。本人が触れたい、使ってみたい、と望んだときは、ぜひ積極的にその場を設けてあげたいですね。


CoderDojo ひばりヶ丘
CoderDojo ひばりヶ丘は、2012年に誕生し、主にひばりヶ丘駅周辺地域(西東京市、新座市、東久留米市、練馬区他)を対象として毎月2回定期的に活動しています。今後の開催予定日など、詳細は下記サイトにてご確認ください。
https://coderdojo.hanare-hibari.info/

Scratch
Scratchは MITメディア・ラボのライフロング・キンダーガルテン・グループによって開発されました。詳しくはhttp://scratch.mit.eduをご参照ください。

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