2020年、小学校でのプログラミング学習必修化に向けて準備が進む教育界に波紋を呼ぶニュースといえるでしょう。
参考記事:学校PC1人1台、安倍首相「当然」 経済対策に盛り込まれる公算
教育界には、この発言を歓迎する声と同時に、実現を疑問視する声も聞かれました。
「1人1台の環境は理想的。でも、本当に実現可能なの?」
その実現性をさぐるため、小学校教室のパソコン環境の現状を調べてみました。
文部科学省の調査より|端末導入は進んでいるが、1人1台にはまだ遠い
最初にご紹介するのは文部省の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」 です。調査対象は全国の公立学校(小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校)、各教科等の授業を定期的に担当している教員(臨時教員は含まない)となっています。カッコの中は昨年度(平成29年度)の数値となっており、少しずつではありますが整備が進んでいることがわかりますね。
参考ページ:学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果【速報値】について
※読みやすいよう、いくつかの項目に編集側でハイライトを加えています
2.調査結果の概要 ( )は前回調査(平成29年度)の数値それぞれについて見ていきましょう。
1 学校におけるICT環境の整備状況
・教育用コンピュータ1台当たり児童生徒数 5.4人/台 (5.6人/台)
・普通教室の無線LAN整備率 40.7% (34.5%)
・(参考)普通教室の校内LAN整備率 89.6% (90.2%)
・インターネット接続率(30Mbps以上) 93.4% (91.8%)
・(参考)インターネット接続率(100Mbps以上) 69.1% (63.2%)
・普通教室の大型提示装置整備率 51.2%
・教員の校務用コンピュータ整備率 120.6% (119.9%)
・統合型校務支援システム整備率 57.2% (52.5%)
2教員のICT活用指導力
・教材研究・指導の準備・評価・校務などにICTを活用する能力 86.2%
・授業にICTを活用して指導する能力 69.7%
・児童生徒のICT活用を指導する能力 70.2%
・情報活用の基盤となる知識や態度について指導する能力 80.5%
その他の主な結果は、「平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)〔速報値〕」のとおり。
コンピュータ台数は微増
「教室用コンピュータ1台当たり児童生徒数」は昨年の5.6人/台から5.4人/台へ状態は改善。1年間でわずかに数字は減少しているものの、「1人1台」にはまだ遠いように見えます。
ネットワーク整備、授業環境は急速に進展
これに対して、順調なのがインターネット環境の整備。すでに93.4%の学校が30Mbps以上のインターネット接続環境を整え、昨年よりも1.6%上昇しました。「普通教室の大型提示装置設備率」=授業用の大型ディスプレイの整備率も51.2%になり(前年データなし)、プラグラミング授業のための環境は着々と整っているようです。
校務支援システムには遅れ
気になるのは「統合型校務支援システム整備率」。「統合型校務支援システム」とは、成績処理や出欠管理、健康診断票の管理などを統合したシステムのことです。これまで紙でやりとりしていたものをデータで一元管理することにより、教員の負担を減らし、他の教員や保護者とのコミュニケーションを円滑にするねらいがあります。
教員の過労と人手不足が社会問題化する中、注目を浴びている技術といえるでしょう。
ところがこの「統合型校務支援システム整備率」、昨年度の52.5%から57.2%へと数値は上がっているものの、いまだ6割を切る状況です。
限られた予算を生徒用コンピュータに割かなければならないため、先生たちの環境改善は後回しになっているのが現実かもしれません。
教員自身はICT活用○。だが指導となると……
また、教員のICT活用指導力に関しても「教材研究・指導の準備・評価・校務などにICTを活用する能力」を86.2%の教員が持っている(前年データなし)という結果が出ています。一方で「授業にICTを活用して指導する能力」「児童生徒のICT活用を指導する能力」に関しては7割前後と、やや自信のない雰囲気がうかがえます。
先生自身の業務に使用する能力は問題ないが、子ども達に指導するのはちょっと……なのかもしれません。
都道府県別、学校ICT整備率ランキング
プログラミング教育は各地の小学校にとってもはじめての試みです。それだけに、教育用コンピュータの導入やインターネット環境の整備に関しても、教育委員会ごとに手さぐりで行っているのが現状です。
それぞれの分野の設備投資・教員育成などのベスト3、ワースト3の都道府県を紹介します。
参考:平成30年度学校における教育の情報化の 実態等に関する調査結果(概要)
コンピュータ1台当たりの生徒数は「佐賀県」が1位
ベスト5 (人/台)
1.佐賀県 1.82.鹿児島県 3.3
3.高知県 3.6
4.鳥取県 3.7
5.徳島県 3.7
ワースト3 (人/台)
45. 埼玉県 7.446. 千葉県 7.4
47. 愛知県 7.5
全国平均: 5.4
「コンピュータ1台当たりの生徒数」に関しては、「ICT利活用教育」をテーマに小中学校での情報教育を進める佐賀県がダントツの1位となりました。
こうして見てみると、上位県は人口減少に悩んでいる地域が多いように思います。1人の子どもに予算をかけられること、ICTで町おこしをしようとしていることなどが理由と考えられます。
一方で、ワースト3に大都市名古屋を擁する愛知県や、東京ドーナツ県の千葉、埼玉が入っているのは、児童数が多いところでは急速なパソコン端末導入が困難なためと思われます。
普通教室の無線LAN整備率は「静岡県」が1位
ベスト5
1. 静岡県 73.6%2. 鹿児島県 70.2%
3. 島根県 65.2%
4. 鳥取県 65.0%
5. 徳島県 63.4%
ワースト3
45. 福島県 16.6%46. 福岡県 14.5%
47. 新潟県 13.3%
全国平均: 40.7%
タブレット端末を授業に使う場合、無線LANの整備が不可欠となります。
ここに大きな力を入れているのが1位となった静岡県で、すでに73.6%の小学校で整備完了。
中学校でも全国1位となり、将来的なタブレット端末への切り替え準備は万全というところです。
ワースト3のなかで、新潟県は100Mbps以上の高速回線接続率においては全国7位(79.6%)と上位を占め、たんなる取り組みの遅れではなく、むしろ考え方の違いが順位に現れたともいえます。
高速回線(100Mbps以上)1位は「大阪府」が1位
ベスト5
1. 大阪府 91.3%2. 群馬県 89.9%
2. 神奈川県 89.9%
4. 兵庫県 87.0%
5. 東京都 84.1%
ワースト3
45. 島根県 42.1%46. 高知県 40.2%
47. 熊本県 36.6%
全国平均: 69.1%
100Mbps以上の高速回線の接続。その前提となるのは社会インフラのなかでの光ファイバー網整備が進んでいるということです。
このために、大阪、群馬、神奈川、東京という大都市圏が上位を占めています。
ワースト3に関しては、光ファイバー網の遅れということが考えられます。
インターネット接続の主流が光ファイバーになるか、地域無線LANになるかの判断を含めたICT戦略が求められているといえるでしょう。
授業環境の先進度はまたしても「佐賀県」が1位
ベスト5
1. 佐賀県 87.1%2. 岡山県 73.8%
3. 熊本県 72.8%
4. 沖縄県 69.5%
5. 京都府 68.3%
5. 大阪府 68.3%
ワースト3
45. 福島県 29.2%46. 岩手県 22.8%
47. 秋田県 17.3%
全国平均: 51.2%
プログラミング教育の児童への浸透度を高めるためには、黒板やホワイトボードを使うよりも大型ディスプレイを利用した方が有利といわれています。
大型ディスプレイは高額になりますが、授業の効果を考えると有意義な投資といえます。
ここでも1位は佐賀県。
ICT教育に関する積極的な取り組みが現れています。
ICT教育への教員育成も「佐賀県」が1位
ベスト5
1. 佐賀県 94.2%2. 愛媛県 93.0%
3. 岡山県 92.9%
4. 徳島県 92.7%
5. 熊本県 91.7%
ワースト3
45. 福島県 81.5%45. 宮崎県 81.5%
47. 滋賀県 81.4%
全国平均: 86.2%
どんなに設備が整っても、児童に教える教員が十分な知識を持っていなければ、効果的な学習は困難になります。
なんとここでも、佐賀県は全国1位!
2020年4月、小学校でのプログラミング学習必修化に向けて準備は万全ですね。
まとめ:パソコンを配るだけではなく、総合力に期待したい
「仏つくって魂入れず」という言葉があります。仏像をつくっても、それを生かす努力がなければ、ただの石や木と同じというたとえです。
プログラミング教育に関しても同じことが言えるかもしれません。
パソコンも大事、無線LANや高速回線も大切。
でも、それを使いこなす教員の知識が十分でなければ、1人1台環境が実現しても、十分な学習効果は上がらないでしょう。
いまはまだ、各都道府県でも試行錯誤の段階。
それぞれに議論を重ねながら2020年4月に向けての準備を重ねています。
文部科学省や各都道府県の教育委員会には、今後もさらに研究を進めていただいて、文字通り「未来を拓く」プログラミング教育を実現するよう期待したいところです。