3年ぶりの開催となった今回はサスティナブルな社会を意識し、多くの子どもたちにAIやデジタル技術に触れてもらいたいという思いから、メインとなるアフレルスプリングカップの他、無料で体験できる「こどもワークショップ」や「指導者向けセミナー」も併催。「アフレル・スプリングフェス」として戻ってきました!
今回はこどもワークショップの中から、ハウス食品さんの協力を得て開催された「Scratchでつくって体験!食とAI」のワークショップの模様をレポートします。
アフレルSPRING FES(スプリングフェス)とは
アフレルスプリングフェスは2023年3月25日、26日と2日間にわたって3つのイベントが開催されました。
- アフレルスプリングカップ
- こどもワークショップ
- 指導者向けセミナー
アフレルスプリングカップは初心者向けのロボットコンテスト、こどもワークショップは親子参加型の無料体験会、そして指導者向けセミナーはプログラミング教育やSTEAM教育の教材体験や事例紹介などを行う講習会です。
今回の記事では、アフレルの新たな取り組みである「こどもワークショップ」にフォーカス!当日の様子をご紹介します。
ハウス食品×アフレルのこどもワークショップ
この日はあいにくの大雨でしたが、会場となった東京都立産業技術高等専門学校には、時間前から親子連れの姿もありました。広い学校のスペースはいくつかに分かれてスプリングカップの大会が行われ、ときおり、歓声や拍手が聞こえてきます。こどもワークショップ「Scratchでつくって体験!食とAI」も、教室のひとつで行われました。
最初に、今日のワークショップを担当する砂田先生からご挨拶があり、さっそくレッスンがスタート!とはいえ、参加者の皆さんもちょっと緊張気味……。そこで先生が「この動物、なんだかわかるかな?」とクイズを出題。見たことがない不思議な動物の写真が映し出されました。
「ネコっぽいかな」
女の子が小さめの声でつぶやくのを先生は笑顔で「そうそう、ネコっぽいね、他にはどうかな?」とみんなが発言しやすい雰囲気に導きます。すると「ミーアキャット?」なんていう声も聞こえてきて、「お腹にポケットがあります」のヒントに「え、カンガルー!?」とみんなが驚くような表情になりました。
「キノボリカンガルーっていう動物なんです」
先生は、こう続けました。
「みんなの頭の中にいろいろな動物が浮かんできましたよね?写真を見て、特徴と思い浮かんだ動物を紐付けて、どれが一番似ているかを考えて『ネコ』とか『ミーアキャット』という答えを出してくれました。つまり、無意識にいろいろな知識を分析して、たぶんコレだ!と答えを導き出してくれたわけです。実はこの流れは、AIのしくみとまったく同じなんです!」
短い時間でパッと生徒さん達の興味を惹き、あっという間にAIの話に結びつける砂田先生。生徒さんの理解が高まったところで、「AIも人と同じで、学んで成長することで、いろいろなことができるようになります」と、AIの「学習して賢くなっていく」機能をわかりやすく解説してくれました。
さらにはロボット掃除機やYouTubeのおすすめ動画などを例にだして、AIが実は身の回りにすでにたくさんあることも紹介。参加しているお子さまだけでなく、保護者の皆さんも大きくうなずいていました。
ScratchでAIの犬を育てよう!
さぁ、つづいてはScratch(ビジュアルプログラミング言語)を使用し、AIのワンちゃんを育てるミッションにチャレンジです。
ここでは、AIの犬に、おすわりやお手、ふせなどを教えます。上手にできたら骨のついたお皿のアイコンを押してご褒美をあげます。できなかった時にはからっぽのお皿を押すことで「間違い」だと教えます。これを繰り返すうちにだんだんとワンちゃんは学んでいきます。
画面にはAIボタンがあり、AIをオン・オフにできます。AIをオンにして学ばせた場合と、オフにしてAIが入っていないワンちゃんと、どちらがかしこくなったかを確認。みんなは「え〜!うまくいかない」「よしよし」と思わず声に出しながら、マウスを操作しています。
親子で話しながら共同作業する姿も微笑ましく、教室は和やかな雰囲気に包まれました。
涙の出ない・辛くない玉ねぎ「スマイルボール」誕生秘話を聞く!
この後に行う「苦手な野菜をおいしく!あたらしい野菜を作ろう」に関連して、ハウス食品グループ本社株式会社 アグリビジネス推進部 正村 典也さんが登壇しました。正村さんはなんと「涙がでない、辛くない玉ねぎ」を10年も研究して、スマイルボール(涙の出ない玉ねぎ)を開発した担当者の方です。
「玉ねぎを切ると涙が出るよね?どうしたら涙が出ないようになるかな?」
この質問に「冷やしてから切る」「水にさらす」といった回答に続いて「ゴーグルをする!」という答えに「それもいいアイデア!」と正村さんが笑顔になると、あちこちから笑い声が響きました。皆さん、楽しそうに正村さんのお話を聞いています。
涙が出る、玉ねぎは辛いという「当たり前」のことから、「辛くない、涙が出ない玉ねぎ」という当たり前ではない発想へつなぎ、研究開発に至ったそうです。
「その結果、アミノ酸、酵素1、酵素2が揃うと、涙の成分ができるとわかりました。つまり、この3つのどれかひとつをもっていない玉ねぎを作れば、涙成分は作られない、つまり辛くない玉ねぎができると考えたのです」
「丸のままの玉ねぎを手にしても涙は出ない、包丁で切るときに涙がでる」その仕組みを知り、次には新しい発想を生み出していったこと。1,500個の玉ねぎをたたいてジップロックにいれた実験など、苦労したスマイルボール(涙のでない玉ねぎ)研究プロセスについても具体的に話して下さいました。
試行錯誤しながら解決していく過程は、プログラミングの思考と同じです。正村さんは「大事なのは、『これは当たり前だ』と決めつけないこと。新しい考えや発想を持つことがとても大切です」と、参加者の皆さんに語りかけました。熱心に聞いていた参加者の皆さんにも響くものがあったのではないでしょうか。
ニガテな野菜をおいしく!「苦くないピーマンをつくろう!」
砂田先生が「辛い玉ねぎが苦手という人も多いですから、スマイルボールはまさに夢のような玉ねぎですね!では、皆さんにも苦手な野菜とかあるかな?」と質問すると、「苦いからゴーヤが嫌いです」「大根が苦手、辛いからです」「ピーマンが苦手です」と答えが返ってきました。
ここからは「苦くないピーマン」を作るプログラムを組み、AIの仕組みを利用することを学びます。
砂田先生に教えてもらいながら、Scratchで簡単なプログラムを組んでいきます。時にはお隣に座る保護者の方も一緒になって、指示ブロックを組み合わせていきました。
このミッションはゲームのようなスタイルで、スタート地点から①か②、さらにその下の③か④、⑤か⑥を選んで進みながら「甘くなる成分」を見つけていきます。
黄色いアイコンは甘くなる成分、青緑のアイコンは苦くなる成分、どちらが出てくるか最初はわかりません。何度か繰り返すうちに、甘くなる成分が見つかりやすいところと、そうでないところがわかってきます。甘くなるアイコンが見つかりやすいところがわかると、的中率が上がっていきます。
まず、参加者の皆さんが何度か挑戦。これをAIに学ばせることもできます。「わたしのほうがAIより賢いぞ、学べるぞ!という人はぜひ自分でチャレンジしてみてくださいね。先生はAIにやらせてみます」と砂田先生。
AIと人間のどちらが賢くなれるのか!? 参加者の皆さんがやってみて、AIボタンを押してAIにもやらせてみて、その結果を比べてみました。おお!人間は「苦いピーマン」は0個ですが、AIは3個。この時点では、人間のほうが賢い状態です。
でも、人間と違ってAIは長時間、膨大な量のデータを分析して学んでいけます。ハウス食品の正村さんが話してくださったように「当たり前のことを当たり前と思わずに新しい発想を考える」のは人の思考が勝っています。しかし、人には処理しきれない大量のデータを蓄積し、そこから学べるのがAIの強さです。
「人間がやるべきか、AIがすべきか」と判断され、仕事が分けられていく近未来の姿が、参加者の皆さんにもなんとなく伝わったのではないでしょうか。
最後は人間vsAIで大いに盛り上がりました。今日の体験会は、サスティナブルな社会をAIやデジタル技術で実現するための「学びの体験型ワークショップ」として、今回、新たにアフレルがハウス食品さんの協力のもと、取り組んだイベントです。
ハウス食品・正村さんにインタビュー
—スマイルボール(涙の出ない玉ねぎ)のお話には、コエテコ編集部も聞き入ってしまいました!開発のウラ話をぜひ聞かせてください。スマイルボールの開発につながったのは、ハウス食品のレトルトカレーの製造時に、玉ねぎを炒めるとなぜか「アメ色」にならず「緑色」になってしまう現象が発生したことでした。「なぜ緑色になるのか?」と原因を探るうちに、辛み成分が生成される仕組みがわかったのです。
辛み成分の正体がわかれば、成分を取り除けるようになります。そこから、辛くない玉ねぎが作れるかも!という発想が生まれました。
やがて、玉ねぎを切ると涙が出るのは、そもそも玉ねぎに催涙成分があるのではなく、包丁でカットすると涙が出る成分が作られることがわかりました。この成分が辛味のもとでもあることから、ハウス食品グループでは研究を進め、10年以上の歳月をかけてスマイルボールを開発したのです。
この研究は科学誌「Nature」にも論文が掲載されました。「当たり前のことを当たり前と決めつけないこと」「探求しつづけること」が成果に結びついたといえます。そしてこの姿勢は、ロボット・プログラミングにも共通する思考力です。今回のワークショップを通じて、常識を変える仕組み、新しい考えや発想を持つこと、そして問題解決にAIツールの活用が有効なことを少しでも感じていただけたら嬉しいです。
砂田先生にもお話を伺いました!参加者アンケートも抜粋して紹介
—本日は参加者の子ども達がとても楽しそうに取り組んでいたのが印象的でした!今回のワークショップには、どのような思いが込められていたのでしょうか?今回のワークショップでは、「AIやプログラミングは『やりたいこと』を実現するためのツール」という思いのもと、昨今ますます存在感が高まっているAIを取り上げました。ただしAIの知識をただ詰め込むような内容ではなく、お子さまにとって楽しく学べることを第一に考えました。
終わった後のアンケートでは、お子さまたちが楽しく、そしてたくさんのことを学んでくれたことを知り、とてもうれしく思いました。また親子参加型ということで保護者の方にもさまざまなお声をいただけたのも励みになりました。
このワークショップでAIに少しでも触れたことをきっかけに、さらにプログラミングを学んでいたただけたらと願っています。
参加者の皆さんによるアンケートの一部
ライターコメント
ロボットプログラミングを学び始めると、コンテストや大会に出たいなぁと思うものです。しかしいきなり大きな大会に出るのは大変ですし、まったくうまくいかずに周囲の雰囲気に押されてしまうこともありがちです。アフレルスプリングカップは、これからWRO大会をめざす皆さんにとって力試しができ、大会の雰囲気を経験できる貴重なチャンスです。
さらに加えて、今回はプログラミングをより多くのお子さまに知ってほしいと、無料の親子参加型ワークショップが行われました。1時間という短い時間でしたが、クイズやゲーム形式で子どもたちは楽しそうな様子でした。ギュッとAIやプログラミングのエッセンスが詰まっており、さらに農業や研究開発についても知ることができる「学びと気づきと楽しみと」がたっぷり詰まった1時間でした!