インクルーシブ教育とは
インクルーシブ教育とは、障害の有無や、国籍・人種・言語の違いなどに関わらず、ともに学ぶ教育方法です。これまでの日本の教育現場では、障害のない子どもは「通常の学級」、障害のある子どもは「特別支援学級」といった具合に、分かれて学ぶ「分離教育」が進められてきました。
そのため、障害のある子どもは「どこで学ぶのか」を教育委員会と相談することとなっています。
【例】
- 通常学級に在籍しながら科目によって通級指導教室を利用し、個別支援を受ける
- 特別支援学級に通う
- 特別支援学校に通う
本人と保護者の意見は尊重されることになっていますが、最終的な決定は教育委員会がおこなうので、「通常の学級に通いたいのに通えない」「特別支援学校に通わざるをえない」ケースがあるのが現状です。
こうした分離教育が障害者権利条約における排除・制限にあたるとして、2022年9月、国連は日本政府に対して分離教育をやめるよう勧告しました。
今後は、障害の有無を問わず、みんながともに学ぶ共生社会の実現に向けたインクルーシブ教育が求められます。
インクルーシブ教育と特別支援教育の違い
インクルーシブ教育と特別支援教育は、目的や支援方法が異なります。インクルーシブ教育は、障害の有無を問わず、ともに教育を受けることで「共生社会」の実現を目指す教育です。障害がある子もない子も、お互いを認め合いながら一緒に活動します。
一方、特別支援教育は、対象の子どもが学校や生活で抱えている困難さを軽減し、改善するための適切な指導や支援をおこなう教育です。「どのような困難があるのか」、一人ひとりのニーズを把握して、自立と社会参加をするための取り組みを目的としています。
「どちらが必要」ではなく、インクルーシブ教育を進めていくには、まずは特別支援教育の発展が欠かせないといえるでしょう。
インクルーシブ教育の魅力
インクルーシブ教育の魅力には、多様性を実感できるところや、負担の軽減が見込める点があげられます。多様な人と関わることで自分の成長につながる
インクルーシブ教育では、障害のある子どもをはじめ、国籍や言語の異なる子どもなど、さまざまな子どもと関わります。お互いを受け入れ、尊重したり思いやりをもって接したりできることは、自己の成長にもつながります。「みんなと同じが正しい」「周りと外れることは悪」とされる風潮は薄れ、考え方や取り組みも柔軟に対応できるようになれば、一人ひとりがより積極的に社会参加したり、貢献したりできるようになるでしょう。
障害のある子どもや保護者にとって負担軽減につながる
施設が限られた場所にあることによって、通学手段のハードルが高くなっているケースも少なくありません。インクルーシブ教育が実現されると、自分が生活する地域の学校に通えるようになったり、スクールバスに乗って通学できるようになったりするため、保護者の負担も軽減されるでしょう。
また、地域の理解が得られるようになり、差別や偏見の解消にもつながる可能性があります。
インクルーシブ教育の課題
インクルーシブ教育の「共生社会の実現」は、非常に魅力的ですが、実現が難しい側面もあります。環境整備が追いついていない
インクルーシブ教育を実現するためには、以下のような人的環境・物的環境の整備が必要不可欠ですが、追いついていない現状があります。【例】
- 教員や支援員の確保
- 施設や設備の整備
- 個別の教育支援や教材などへの配慮
たとえば、日本の小学校は「児童40人に対して教員1人」といった設置基準が定められています。そのため、障害のある子どもを通常学級で受け入れる場合、担任の業務負担が重くなる可能性があります。場合によっては、専任の教員の配置が必要になることもあるでしょう。
そのほか、車いすの子どもが移動できるようスロープを設置したり、盲目の子ども向けに点字を使った教材を用意したりと、物的環境の整備も必要です。
現時点での日本の教育現場では、こうした人的・物的環境が十分に整っていないため、とくに程度の重い場合には、地域の学校に受け入れてもらえず、特別支援学校への入学を要請されるケースもあります。
教員の専門性が不足しがち
教員の専門性が足りない現状があるのも、課題といえるでしょう。インクルーシブ教育を実現するためには、すべての教員に、特別支援教育に関する知識や技術が求められます。さまざまな障害を抱えた子どもたちも、クラスの1人として同じ教室で学ぶからです。たとえば、「教室内で“てんかん発作”が起きてしまった」、「授業中に座っていられずクラスを飛び出してしまった」「授業についていけない」といった事態が起きたときの対応は、一定の知識や技術がなければ難しいものです。
適切な支援をおこなうためには、研修などを通じて障害の理解を深める必要も出てくるでしょう。
とはいえ、教育現場は今、教員不足や業務負担の重さが深刻化しており、さらなるニーズへの対応は難しいのが現状となっています。
インクルーシブ教育を普及させていくために意識したいこと
インクルーシブ教育の実現には、大人の行動や意識を変えることも重要だといえるでしょう。【例】
- さまざまな人の話を聞く
- 子どもたちへの見方を変える
- 子どもたちに、さまざまな人がいることを知る環境を用意する
保護者との関わりによって、子どもの育ちは変わってきます。たとえば、暴力を受けて育った子どもが大人になり、自分に子どもができたとき、その子どもに同じように暴力をふるってしまうケースがあります。
障害についての理解がないがゆえに、障害者に対して「怖い」「近寄れない」と感じて避けてしまうこともあるかもしれません。
まずは大人が、子どもたちへの見方を変えたり、子どもがさまざまな人と関われる環境を用意したりすることも、インクルーシブ教育を進める第一歩となるでしょう。