プログラミング教育がわかる、プログラミング・ロボット教室がみつかる

合宿は本物の科学に出会い、自分の可能性を見出す場!「子どもの理科離れをなくす会」春合宿レポート

「ドローンと衛星画像分析に挑戦しよう!」が春合宿のテーマ

まだプログラミング教育という言葉が広まっていなかった15年以上も前から、ロボットを通して科学教育を行っている『子どもの理科離れをなくす会(以下、理科会)』。今では全国に60教室、約600 人の生徒さんが通う理科会では、春や夏に定期的に合宿を行っています。今回は4月4日から三日間に渡って滋賀県希望ヶ丘文化公園「青年の城」で開催された、同会の春合宿の様子をお届けします。

合宿でしか味わえない科学体験が満載

「はい、姿勢を正して! 目を合わせてあいさつしましょう!」「こんにちは!!」。不安と緊張を吹き飛ばすかのように大きな声を響かせたのは、全国から集まった小学校3年生から高校1年生まで32名です。この会の代表である北原達正先生は、毎年行っている合宿の意義をこう語ってくれました。

「通常の教室では、『C-cubic』という工場などでも使われるマイコンボードを搭載したロボットを使って、センサーの使い方や制御の方法などを段階ごとに学んでいます。合宿では普段の教室ではできないような科学の課題に、じっくり時間をかけて取り組むことができます。」

子どもの理科離れが深刻に叫ばれ出した2000年頃、京都大学などで宇宙物理学を教えておられた北原先生は、文部科学省事業として小中学校で出前授業をする機会を得ました。そこで先生が驚いたのは、研究現場で行っている「科学」と、義務教育の「理科」とが大きくかけ離れていることだったそうです。危機感を抱いた先生は、私財を投げうって2003年に理科会を発足、ロボットを通して本物の科学の面白さや魅力を伝える活動を行っています。

 「子どもの理科離れをなくす会」代表 北原達正先生

「当会の基本方針は『ゼロベース』です。単に電子工作やプログラミングなどの技術を教えるのではなく、本当の科学研究のように仮説を立て、データを測定し、結果の考察からプレゼンテーションまでを子どもたち自身が行います。もちろん、どのレベルのお子さんにも難しすぎず、また優しすぎることのないよう、課題や手順は周到に準備します。」

今回の合宿で行うのは、『メッシュ法による温度マッピング』です。大学生でも難しいと思われるような課題ですが、そこは「北原マジック」です。子どもたちが飽きることなく目標に辿りつけるよう、メリハリのあるメニューが用意されています。まず与えられた課題は「はんだ付け」。自分で赤外線センサーを作り、実際に動くようにするまでがミッションです。

「最近ははんだ付けを教える学校も少なくなりましたが、なんといっても電子工作の基本技術です。自分で作ったものが動く喜びを知ってほしいのはもちろんですが、たとえうまくできなかったとしても、その難しさを知ることで、普段何気なく使っている電気製品に対する意識も変わります。」
  
初めてはんだ付けに挑戦する子どもたちの目は真剣そのもの

参加者の中には、まだ教室に通い始めたばかりという子もいれば、ロボットの大会で活躍する子もいるなど、そのレベルは様々です。早くできた子は他の子を手伝うよう促されます。

「合宿の利点は学年もレベルも異なる子どもたちが集まるということです。初心者が上級者から知識や技術を学ぶことができるのと同時に、上級者は教える技術を学ぶことができます。どんなに上手な子であっても最初は初心者でしたから、教えてもらうことの大切さをよく知っています。できない子にも喜んで教えていますよ。」

自作の赤外線センサー、うまく動くかな?

合宿で自分の価値や居場所を見つける子も多い

まだ全国に教室がなかった設立当初、ホームページで理科会の存在を知り、遠くから合宿に参加してくれた小学生がいたそうです。彼はゲームを作ることが大好きでしたが、「オタク」とからかわれ、学校では塞ぎがちだったそう。合宿でそんな彼を待っていたのは、全国から集まったプログラミングが大好きな子どもたちでした。自分の居場所を見つけた彼はその後、自信を取り戻し、大学で工学を修め、立派に社会にはばたいていったそうです。

「野球やサッカー好きなお子さんなら活躍の場が得やすく、自分の存在意義や価値を見出す機会も多くあるでしょう。しかし、15年前にはまだ電子工作やプログラミングを教えてくれるところなどどこにもなく、その重要性さえ軽んじられていました。時代が変わりIoTが当たり前になりつつある昨今、これらの技術を持つ人はどんな分野でも引く手あまたです。今の子どもたちが大人になる頃には、さらに多くの分野でコンピューター化が進んでいることでしょう。

この状況を受けて2020年から日本の小学校でもプログラミング教育が必修化するものの、残念ながら学校現場での対応は十分とは言えません。たとえば、Arduino注を搭載した電子工作を夏休みの自由研究として提出しても、先生が理解できないため、なんら評価されず悔しい思いをしているという話を、当会の子どもたちからよく聞きます。合宿は、そんな思いをしている電子工作やプログラミングの知識や技術に長けた子どもたちが、自分の存在価値を見出す場所にもなっているのです。」

注:Arduinoは電子工作から商業用にまで、幅広い分野で使われている汎用性の高いマイコンボード。
  
遠くに住む仲間に会えるのも合宿ならでは

ドローンを自由に触れるのも、本物を大切にする理科会だからこそ!

合宿2日目。今日の最初の授業は、子どもたちお待ちかねの「ドローン」です。今や小さいお子さんでも知っているドローンですが、実際に飛ばしたことがあるという子はまだそれほど多くはないでしょう。一人一人にドローンの操縦を体験させるのは、『本物をぶつけるからこそ、本物が育つ』をモットーとする理科会だからこそです。甲子園108個分という広大な敷地をもつ希望ヶ丘文化公園は、ドローンを飛ばすには最適な場所。桜やレンギョなど春の花々が咲き誇る広場で、子どもたちは思う存分ドローン操縦を楽しみました。


「私がここで教えたいのはドローンの操縦方法そのものではありません。子どもたちにドローンの可能性と限界を肌身で感じてもらうのがねらいです。運搬業や農業など、多くの分野で活躍が期待されるドローンの市場は、今後確実に大きくなるでしょう。実際に飛ばしてみることで、通信技術の限界や機体の不安定性などの問題点を知るとともに、無限の可能性も感じるはずです。この体験を通して、どんな使い道があるのか、もっと使いやすくするにはどうすればいいかなど、さらに高い次元でドローンについて考えてくれるようになることを望んでいます。」

合宿ではみんなで囲む食卓も楽しみの一つ

データの扱いからプレゼンテーションまで、本当の科学研究の厳しさを学ぶ!

楽しいドローンの授業の後は、いよいよこの合宿のメインイベント「科学研究」に移ります。まず子どもたちが受けたのは、画像解析の基礎講義です。実習では、太陽の黒点を数値化したデータをエクセルで色付けすることにより、視覚的に結果を表す方法を学習しました。大人であっても数字が苦手な人ならしり込みしてしまいそうな課題ですが、子どもたちはすぐに方法をマスターして、様々に色を変えながら楽しそうに行っていました。

数値データを色分けすることで視覚化する

そしていよいよ、野外での温度測定の実習です。 広場を格子状(メッシュ)に分け、各格子の温度を5分ごとに測定します。子どもたちは二人一組で班になり、それぞれの班が一つの格子を担当します。実際に行うのは、地面から5センチと1メートルの二か所に温度計の付いた棒を地面に立て、30分間測定するという地味な作業です。どうしてこんなアナログなことをするのでしょうか?

「科学研究でのデータの大切さを学んでほしいからです。科学ではデータは絶対的な存在です。たとえば天気予報を行うにも、全国の各地点で毎日、温度や湿度を読み取って記録している人がいるわけです。今では機械化していますが、昔は全て人が行っていました。科学研究では一人でも間違った測定をすれば、正しい結果を導き出すことはできません。データの扱いを誤ったために、重大な事故を起こすことさえあります。データがどこでどのように得られたのかを思い描くことができるようになれば、データを雑に扱うことはしないでしょう。それこそが科学研究の原点です。」

根気よく温度測定する子どもたち

「また、データを取ることがいかにたいへんであるかということがわかれば、今度はどうやったら楽に正確なデータが得られるのか、と考えるようにもなるでしょう。そういう気づきを与えるために、わざわざこんな手のかかる方法で測定をしています。」

プレゼンテーションは次世代に活躍する子どもたちにとって欠かせないスキル

温度測定の後は、データの処理について学習します。まずは各班が得たデータを皆で共有するのですが、これも一つ一つ手作業で行います。一人でも間違った報告をすれば全員に迷惑がかかるため、みんな真剣です。今回は16のメッシュごとに、上下二か所、6回分の温度データベースが出来上がりました。ここから必要な情報を抽出する方法として、マイクロソフトのエクセルの機能の一つである『マクロ機能』を学びました。

「とても便利な機能ですが、大人でも知らない人が多いでしょう。この場で完全に使えるようにはならなくても、こういう機能があるということを知っていれば、将来、学校のレポート提出や、仕事での報告書の作成に生かすことができます。」
  色分けした測定結果をGoogleマップに重ね合わせて考察を行う

さて、科学研究で大切なのはここからです。まず子どもたちは班ごとに、広場の地形や高低差からどのような温度分布になるかを考えて、仮説を立てました。その後、実際に得られた結果と照らし合わせ、自分たちの立てた仮説の検証を行い、結果を考察しました。そして、合宿の最終日に、班ごとに研究発表をしました。

堂々と発表する子どもたち。原稿を読まないのが理科会の鉄則

北原先生は同等の内容の講義を、今でも奈良女子大学などでされているそうです。
「私が評価するのは、もし得られた結果が仮説と異なっていた場合に、次にどのような研究を行えばよいのかといった、展望があるかどうかという点です。また、大学入試に面接を取り入れるところも増えており、自分の考えを明確に他人に伝えるスキルはこれからの社会ではとても重要になってきます。合宿で様々なプレゼンテーションを見て、よいと感じたところはぜひ自分の発表にも取り入れてほしいと思います。」

理科会を支える優秀な若きサポーターたち

この大がかりな合宿を成功させるために、欠かせないのが「サポーター」と呼ばれる先生方の存在です。理科会でサポーターを務めるのは、京都大学を中心に東京大学、北海道大学、東北大学など、全国の優秀な大学で工学や教育を学ぶ学生さんたちです。北原先生にとっては、若きサポーターたちの人間教育も大事なライフワークの一つ。コミュニケーションの方法や指導方法まで、厳しい訓練を経たサポーターの皆さんは、一概にアルバイトという括りでは語れないほど、献身的に子どもたちの科学教育に取り組んでいます。

京都大学大学院でロボット研究を行っている上村知也先生

今年でサポーターを卒業する上村知也先生もその一人です。現在、京都大学の大学院でロボット工学を専攻する上村先生は、自らも理科会のご出身です。子どもの頃から大好きなロボットを作り続け、本物のロボットの専門家として巣立つ先生は、子どもたちの憧れの存在です。

北原先生はサポーターについて次のように語ってくれました。
「当会の活動が続けられるのも優秀なサポーターたちのおかげです。毎年11月に開催している『スペースロボットコンテスト』では、子どもたちがあっと驚くような仕掛けを毎回用意しています。とても実現しそうにないような無理難題を私が投げかけても、サポーターたちは若い頭脳と豊富なアイデアで確実に形にしてくれる心強い存在です。」

合宿最終日に上村先生が子どもたちへ送ったメッセージ


目指すのは『科学を通した人間教育』

最後に、北原先生が科学教育にかける思いについてお聞きしました。
「技術を得ることはとても大切なことです。しかし、それだけならロボットにもできます。子どもたちには、その技術をどのように人のために役立てるのかを考えられる人になってほしいと思います。科学は人を幸せにするためのものであって、傷つけるものであってはなりません。科学教育とは、そういう人間を育てるためのものだと私は信じています。

理科会では基礎、応用課程に加え、昨年新たに専門課程としてプロフェッショナルコースを開設、全国37都道府県に継続教室を展開して、科学を通した人間教育を行っています。また、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や企業、大学などの支援を得て、宇宙ビジネスで活躍する人材の育成を行う計画が進んでいます。来年には、モンゴルで気球を上げて、成層圏の塵や温度の観測を行う予定です。これ以外にも、潜水艦ロボットの開発も予定しています。このような活動にチャレンジしたいというお子さんや、ご興味がある保護者の方は、ぜひ私たちのホームページにアクセスしてみてください。」

理科会の継続教室カリキュラム


子どもの理科離れをなくす会 
http://e-kagaku.com/
連絡先:science.labo008@gmail.com

国際科学教育協会 
http://global-science.or.jp/


春合宿に参加した子どもたち、お疲れさまでした!

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この記事を書いた人


工樂真澄

国立研究機関での研究生活を経て、現在は小中高生の理科に関するお仕事と、サイエンスライターとして活躍中。『最新の科学を誰にでもわかりやすく!』をモットーに、日々研鑽しております。博士(理学)。

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