各機関が今後に向けたカリキュラムや体制について模索する中、2019年度に2科入試・4科入試を廃止し、3種類の新たな入試方法に変更、また2020年度からはプログラミング入試を導入するという新たな試みを行う中学校が現れた。八王子実践中学校だ。
八王子実践中学校
八王子実践中学校は、有名な女子バレーボール選手を何人も輩出している八王子実践高等学校の中等部で、高校と同じく女子バレーボールの名門として知られている。
2019年から抜本的な教育・入試改革に乗り出し、ICTの活用推進、少人数制の個別進学指導、グローバル教育に力を入れており、スポーツだけではなく、教育業界でも今後の動向が注目されている一校だ。
今回、八王子実践中学校の入試広報部の部長である伊藤栄一郎氏と副主任の諸江吉則氏に、これから始まるプログラミング入試の詳細や新時代の一教育機関として目指す学校像についてお話を伺った。
学びの意味を問い直し、本当に必要な教育を実践するために
―2019年度入試から、これまでの2科·4科入試をやめ、適性検査I(作文)·適性検査II(総合)、自己表現入試、英語入試の3種類から選ぶ受験スタイルを開始されました。受験スタイルの変更に至った経緯を教えていただけますか。
伊藤氏:
私が本校に赴任した5年前、高校の入学者が減っていた状況を何とかしようと、高校改革が始まったんです。
まずは、「魅力ある高校をつくる」ということを目指して、具体的に目標を三段階に分け、中期計画を進めようと考えました。
第一次計画は、生徒数を増やして入学定員を戻し、経営を立て直す。第二次計画は、生徒の学力レベルを上げて、大学進学者数を増やし、学校の偏差値を上げる。
そして第三次計画の時にちょうど、主体性や多様性などを身に着けるためのアクティブ・ラーニングなどが注目され始め、世の中がこれまでの受験一辺倒の流れから変わり始めたんですね。
そうした時流の中で、「どんなにいい大学へ行っても就職ができない。じゃあ、何のために大学に行くのか」を考えた末、高校では国公立大学を目指す大学進学に特化した教育を行う一方、5年後、10年後の将来の職業観をしっかり考えることにも取り組んでいこうということになったんです。
具体的には、従来の「普通コース」をなくし、大学進学・専門学校・就職などの多方面への進路を目標に「新しい学び」が体験できる「総合進学コース」を2020年度から立ち上げることになりました。
高校でのこうした動きの中、中学校でも入学希望者が減りつつある現状があったのと、近年、受験のために好きな習い事を諦めてまで塾に通いたくない、というお子さんが増えてきているという話をよく聞くようになりました。
それで、習い事を続けながら、自分の得意分野をのばす教育を実践できないかと。「本校に入って、習い事を続けながら学力をしっかりつけて、世の中で活躍できる人間になりましょう。これから活躍できる人間になるために必要なのは、勉強だけではありませんよ」ということで、今年2019年度から2科4科をやめて、自己表現入試を含む新たな受験スタイルをスタートさせました。
中学受験にプログラミング入試という新たな試み
―2020年度入試からは、さらにプログラミング入試を導入予定ですが、入試科目としてプログラミングを採用した理由は何でしょうか。
伊藤氏:
刷新した受験スタイルの中でも最も革新的な自己表現入試では、学校側が、本校に来たいお子さんに直接会って話をしようということで、事前に記入してもらったエントリーシートによる発表と面接で評価する試験を実施しました。
面接では、歌、ピアノ、乗馬やダンスなど、自分の得意なことを持つお子さん達が来て、いろいろな芸を見せてくれました。しかも、入学してくれた20名の子ども達は、とてもいい子達なんです。
新たな試みである自己表現入試がとても面白いものだったので、これからますます需要が高まるAIも子ども達の得意分野になっていくだろうし、入試に取り入れるのはどうかということになりました。
ちょうど、高校で新設した「総合進学コース」でも、本校近くにキャンパスがある東京工科大学や日本工学院八王子専門学校との連携で、AI・ロボット・IoT探究学習の選択講座が実施され、AIに使われるのではなく、使う人間を作るための人材育成が始まった所です。
高校に連結し、なおかつ連携先の大学とのつながりまでもっていけるような教育を実践できればという考えもありますし、2020年度からは小学校でプログラミング教育が始まるということで、プログラミングは話題性のある分野でもあります。
これからの時代に合った教育分野として、また、本校への入学が子ども達のプログラミングをやるための目標の一つになればと思い、入試にプログラミングを導入することを決めました。
―プログラミング入試の試験概要を教えてください。
伊藤氏:
入試は、2月に4回実施しています。適正検査、自己表現、英語、そして2020年からはプログラミングを入れた4つの中から入試カテゴリーを1つ選んでいただきます。
プログラミング入試では、Scratchを使ったプログラミングの実技試験とプレゼンを行います。入試問題は、ジュニア・プログラミング検定を実施されている株式会社サーティファイ監修の下、現在作成中ですが、検定試験を踏襲したものになる予定です。
検定試験のように、与えられた課題通りにプログラミングを作成した後に、自分の自由なアイデアでアレンジを加え、どんなアレンジかを紙に書いて、作成したプログラムとともに提出する、というものを考えています。
難易度としては、日頃、Scratchを使って学んでいるお子さんでないとクリアできないレベルのものを想定していますが、事前にサーティファイのジュニア・プログラミング検定試験に合格していれば、試験が免除される試験免除制度も取り入れます。
プログラミング入試の説明や在学生から話を聞くことのできる説明会も実施
―プログラミング入試を通して、どのようなお子さんに入学してもらいたいですか。
伊藤氏:
プログラミングができるだけでなく、基礎学力があり、考えたものをしっかりプレゼンできるお子さんに来ていただきたいですね。
入試もプログラミング技術は検定で測り、書く、話す能力はプレゼンをしてもらい、こちらで作った評価軸を基に入学者を決定する予定です。
プログラミングは目的ではなく、あくまでもツールなので、最終的にAIやプログラミング関係の仕事に進んでいくのであれば、まずはしっかりとした人間性を身につけていなければいけないと思いますし、エンジニアのような専門性を身につけるというよりは、表現力豊かに物事に取り組めるお子さんが理想かなと。いろいろな可能性を持ったお子さんに来ていただきたいですね。
入試本番までに、説明会、体験会、模擬授業などを実施して、本校が求める生徒像について詳しくお伝えする機会も設けているので、興味のある方に是非参加していただければと思います。
多様性に富んだ環境で、子ども達の可能性を伸ばす
―入学後は、学校ではどのようなプログラミング教育を行っていくのでしょうか。伊藤氏:
いろいろ模索中ですが、1・2年生で、Scratchを使った「プログラミング的思考」・「好奇心」・「創造力」を形にするような教育を実施しようと考えています。
東京工科大学・日本工学院八王子専門学校との、中・高・専・大の連携により、専門的な知識を中学から学べるような環境を作れるといいなと思っていますが、決定ではありませんよ(笑)。
2科4科を軸とした偏差値教育を行う、東大や有名校を目指すような受験校は、大学進学のためにプログラミング教育を行っている所もありますが、プログラミングは進学のためにではなく、自分の目標のために使うものであればいいと考えているので、この点が他校のプログラミング教育とはまったく異なるのではないかと思います。
現在中学校では、Pepperを使ったプログラミングの授業をトライアルとして実施
―今後、中学入試において、プログラミング入試は広がっていくと思いますか。
伊藤氏:
プログラミングがいつの間にか社会に浸透して、プログラミングがベースになって、何か新しいものを始めるという世の中になっていくのではないでしょうか。
もしかすると、本校のように入試も2科4科がすべてプログラミングに替わるという状況になっていくかもしれませんね。
―プログラミング入試をはじめ、新しい試みを実践していく中で、八王子実践中学校が目指す学校像を教えてください。
諸江氏:
プログラミング入試や自己表現入試などの新しい取り組みに関しては、どんなお子さんが入ってくるのか我々も楽しみにしている所ではありますが、現状はまだ手探りの状態です。
また、ようやく中学校のプログラミング教育がスタートする社会情勢の中で、学校としてどう対応してこうかと見切り発車した部分もあるので、想定するカリキュラムはあるものの、入学してきたお子さん達にどれくらいものを提供できるかは、まだ分かりません。
中学校卒業後は、そのまま高校にエスカレーターで上がる、もしくは他校へ進んでもいいと学校側もうたっているので、外へ出た時に最低限恥ずかしくないレベルのカリキュラムはやらなければいけませんが、さらにプラスになるようなものがあると、高校へ進学してからも本人の成長につながると思うので、入学後にお子さんをよく見て能力を知り、本人が何を目指していくかという所も、こちらで聞きつつ、実現するためのサポートができればと思っています。
伊藤氏:
学校の教員にはいつも、「子ども達にとって、学校が楽しくなければいけない」と言っていて、楽しく学べる学校にするために、いろいろなお子さんに入ってもらいたいと考えています。
中学でさまざまな人や物事に触れて、今持っている可能性を伸ばし、本格的に進んでいくためにはどんな勉強が必要かということを学び、高校へ進んでもらう。
自己表現入試やプログラミング入試もゴールではなく、子ども達一人ひとりが目指す専門性というゴールへ進むためのスタートだと考えています。
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