しかし子どもの学びは誰にも止められません。親や学校や国全体で未来へつながる子ども達の成長を見守っていくことが大切ですね。
今回の記事では特に小学生に焦点をあて、あまり注目を浴びてこなかったキャリア教育を取り上げます。算数や英語といった科目と違いますが、ぜひこの機会に「自分のなりたいもの、やりたいことをできるようになる力」を育む学びについて考えてみませんか。
子どものキャリアデザインについて
キャリアデザインとは「自分の生き方や働き方について具体的に構想し計画をたてること」となっています。自分の生き方や働き方といっても、子どもには漠然としていますし、将来はずっと先のことでわかりづらいものです。
引用:goo辞書
しかし将来に向けて長い目で子どもを導くことの重要性を踏まえて、文部科学省では以下のようにキャリア教育を推進しています。
「今、子ども達には将来、社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実践するための力が求められています。この視点に立って日々の教育活動を展開することがキャリア教育の実践の姿です。子ども達の発達のが段階にふさわしいキャリア教育をそれぞれの学校で推進・充実させましょう」具体的に学校ではどんなキャリア教育が行われるのでしょうか。2020年度からスタートする(予定だった)キャリアパスポートについて、次でくわしく解説します。
引用:キャリ教育/文部科学省公式サイト
2020年スタート「キャリアパスポート」とは
引用:文部科学省/国立教育政策研究所キャリアパスポート(キャリアノート)は子ども達が小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる活動について記入し、記録を保管するポートフォリオです。小学校低学年でも「1がっきにがんばったこと」「やってみたいこと」「おおきくなったらなりたいもの」などを記入し、基本的には学年が変わるごとに記録を残します。
書き方や使い方は各学校に任せられているのでオリジナル教材に近い形になるのではないでしょうか。このキャリアパスポートの特徴は小学校で終わらないことです。小学校から高等学校まで継続して使うことで振り返りと将来の見通し=つまりはキャリア形成につなげていくわけですね。
引用:文部科学省/国立教育政策研究所
キャリアパスポートを作ることによって、子どもは1年を振り返りつつ
- 今、何を目標にしているか
- 何が一番好きか
- 今年1年間でがんばったこと
- これからやってみたいこと
- やりたいことを実現するためになにをすればいいか
そして学年や年齢に応じて記録の形はより具体的になり「やりたいこと、なりたいものを実現するためには、今、そしてこれから何をすべきか」とプロセスを考えるようになります。
キャリアパスポートは小中高を通じて利用し、たとえば引っ越しをしても転校をしても基本的に流用できる形になっています。これまで「小・中・高」とクッキリと区別されていた教育の点と点が結びつき1本の太い線になることを期待したいですね。
家庭でできるキャリアデザイン教育
学校でこうしたキャリア形成についての教育が進むなかで保護者も家庭で子どもの未来に向けて長い目で見たサポートをしていきましょう。そもそも親は意識せずとも、子どもの将来を常に考えて行動しています。たとえば習い事も「大きくなったときに役立つかも」と考えたり「小さいうちから学んでおけば後でラクになる」と思ったりして選ぶことがあるでしょう。
親ができる教育は、日頃のちょっとした会話や行動の中にもあります。小学生のうちから、たとえば次のようなことを少し意識して行ってみませんか。
親の仕事について話してみよう
子どもにとってもっとも身近な「キャリア」は親の仕事です。小学生くらいになると、子どもはパパやママが働いているからお金があり、そのお金でご飯を食べたり、ゲームが買えるということに気づきます。夕飯のときに父母の仕事について触れてみるのもいいでしょう。「ママが週3日働いているのは、サポートセンターよ。電化製品とか使い方がわからなかったり、壊れているのかわからないときに問い合わせがくるわけ。それに回答したり、修理センターへ電話を回してあげたりするのが仕事なのよ」と教えたり、「パパが作っている部品はすごく小さいんだけど大事なものなんだ。エレベーターが上下するのは、小さな部品がたくさんのものを支えているからなんだよ」と話してあげるといいですね。
そして時にはなぜその仕事に就いたのか、あるいは他にやりたいことがあったけど今の仕事をしている理由なども話してみてください。こう書くと堅苦しいのですが、子ども時代の思い出話として「パパが小学生の頃は野球選手になりたかった」から、「野球が大好きで成績はいまいちだったんだけど、理科だけは良かったんだよ。実験が大好きだったんだ」「それでもっと大きくなった時、理科をいっぱい勉強できる学校に進んだんだよ」と親が通ってきた道がどんなだったかを話してあげてください。
子どもにとって一番そばにいる人が「どんな風に大きくなってきたか」を知ることは何よりの道しるべになるでしょう。成功だけでなく、失敗や挫折した経験こそ、子どもの年齢に応じてわかりやすく、楽しく、話してあげられたらいいですね。
子どもの夢を否定せずに聞いてみよう
親が話すのと同時に子どもの話にきちんと耳を傾けるのもとても大切です。親なら誰でも一度は口にするのが
「○○ちゃんは大きくなったら何になりたい?」
という質問です。幼いうちは可愛い返事をして微笑ましいものですが、小学生にもなると
「アイドルになりたい」
「YouTuberになるんだ!」
なんて言うわけで、聞いている親はつい「そんなムリムリ」と決めつけたり「もっときちんとした仕事のほうが安心よ」などと自分の価値観を口にしてしまいがちです。
それでも夢を語るうちはまだよくて、そのうちに「べつに~」「とくにない」なんていうもっとも親がガッカリする返答が返ってきます。
それも当たり前でなんとなく「何が好きか」を親に話すのは秘密を打ち明けるようでイヤになる時期があるからです。しかもこの年代の子どもは周囲の影響を受けやすく、友だちが話していたからとか映像で見てカッコイイと思ったとか、コロコロと気分が変わります。
それでも「どうせまた誰かから聞いたんでしょ」では親子の会話になりません。7歳には7歳の、12歳には12歳のプライドがあり、夢があります。あるいはやりたいことが見つけられないことも含めて、親が否定せずに受け止めてあげましょう。
「やりたいことがわからなくてもいいんだよ」と教え、「今いちばん夢中になっていることはなに?」と質問を変えていけばいいのです。ゲーム!と返ってきたら、そのゲームを作る人がいるんだよ、ゲームってどういう風に作られているんだろうねと一緒に調べてみてもいいかもしれません。
親子の会話でほんの少し「キャリア」「仕事」を意識してみれば、週末など時間があるときにより深い話ができます。習い事を勧めてみてもいいですね。
参考:子どもの習い事ランキング
子どもの教育は3つの視点で
- 系統立てた学校での教育
- 体験から学ぶ教育
- 親や身近な人から学ぶ教育
加えて、子どもの興味を考え、あるいは必要であるものを親が考え、習い事や教室で学ぶものもあります。キャンプに行ったり、博物館に行ったり、一緒に虫取りをすることも、料理をしてみることも、記憶に残りやすく知識として身につきやすい「学べる体験」です。
そして子どもにとって「見ているだけで学べる」のが親の背中です。親の行動、親の言葉は、毎日子どもに刺激を与え、何かしらのヒントとなり、励ましとなり、そこから日々学んでいることは大きな糧になっていくことでしょう。親だけではありません。子どもを取り巻く周囲の身近な人たちから子どもは感じ取り学び取っています。
だから親は子どもを孤立させてはいけないのです。そこにいるだけで学べる、生きた教科書、それは親であり、子どものそばにいるわたしたち、ひとりひとりです。
キャリアパスポートで子どもが望む将来をつかめるように!
最近では「勉強をし、がんばって良い学校へ進み、有名大学に合格し、そして大手企業に就職する」いわゆる成功のスタンダードが崩れつつあります。コロナ禍のような出来事を経験すると、自分の生活や人生そのものについて「これでいいのか」「これから先、自分はどうありたいのか」と改めて考えた人も多いことでしょう。
その気持ちを「子どもだからわかるわけがない」と決めつけずに親子で語り合う時間があるといいのではないでしょうか。何事にも達成するにはプロセスが必要で、そのために逆算して考えること。でも、逆算した通りにはいかないこともたくさんあること。
そんな時にパパやママはどうやって乗り越えてきたのか。やりたいことを実現するために何を頑張ってきたのか。一番したいことは叶わなかったとしても、二番目にやりたいことができていて満足していることや、逆にやっておけばよかったなと思うことを、率直に話してみませんか。
あなたのお子さんはあなたが思っている以上に、きっと大人の話を理解しています。
キャリア教育はその言葉ほど難しいものではありませんし、もっともっと身近にあるものです。