しかし、わたしたち保護者はあまりこのニュースを知りません。高学年限定とはいえ、中学校と同じように教科ごとに先生が替わり学ぶことになるのは大きな変化であるのに、どのように導入されるのかもわからないのが現状です。そこで今回は小学校の教科担任制について取り上げ、実施している小学校の実例やクラスの担任はどうなるのか、小学校での教科担任制のメリット・デメリットなどについても深掘りしていきます。
教科担任制と学級担任制とは
■教科担任制とはひとりの教員が特定の科目を担当し、複数の学級で指導します。簡単にいえば現在の中学校のような仕組みですね。
■学級担任制
ひとりの教員(担任)がほとんどの教科を指導します。今現在、多くの小学校は学級担任制です。
2022年度「小学校で教科担任制の本格導入」について
現時点では、文部科学省は以下のように資料を公表しています。小学校高学年からの教科担任制の導入(以下、抜粋)正直なところ、全文を読んでも細かい取り組みまでわかりかねたのですが、とにかく2022年度から本格的に教科担任制を導入すること、対象としては外国語や理科、算数をひとりの先生が教科担当として教える方向性のようです。
・小学校高学年からの教科担任制を(令和4(2022)年度を目途に)本格的に導入する必要がある。
・専科指導の対象とすべき教科については、系統的な学びの重要性、教科指導の専門性といった観点から検討する必要があるが、グローバル化の進展やSTEAM教育の充実・強化に向けた社会的要請の高まりを踏まえれば。例えば、外国語・理科・算数を対象とすることが考えられる。
引用:新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会(第12回) 会議資料(2020.8)/文部科学省
小学校で教科担任制ってどういうこと?
具体的にどのような授業体制になるのかをまず探っていきましょう。「教科担任制」では、クラスに担任の先生がいなくなるわけではありません。既に導入している小学校でもやり方は様々ですが、一般的には、算数や理科、英語といった教科を専門にうけもち、クラス担任は自分の教科の他に、いわゆる道徳とか総合といった時間を担当する方法が多いようです。小学校なので給食があると思いますが、たとえば給食とか朝の朝礼タイムなどは学級担任がクラスに入ります。
1日6時間の授業があるとして、そのうち半分程度が教科別の先生が授業を行い、残りは担任の先生が受け持っているようなイメージが一番近いかもしれません。
実は公立小学校での教科担任制、すでに実際に導入している学校がけっこうあるのです。有名なのは兵庫県で2018年度では469校が実施しています。兵庫県にお住まいの方にとっては「小学校高学年になったら、理科は○○先生、社会は××先生」というのが当たり前になっているのかもしれませんね。ただ、わたしは全く知らなかったので、これほどすでに教科担任制が浸透している地域があることに正直驚きました。
ところが調べてみると、他にもいくつもの学校が出てきます。そこでまずは具体的にどんな授業が行われているのか実例で見ていきましょう。
北九州市のチャレンジ「一部教科担任制」
北九州市教育委員会の資料がとてもわかりやすかったので引用させていただきます。6年1組を例にしていますが、1組の担任の先生は自身が担当する教科・国語の授業以外は、それぞれ専科あるいは専門とする教科の先生が授業を行う形です。
注目したいのは中学校の教員が小学校に異動し学級担任をもったり教科を教えるという仕組みです。6年生は翌年には中学にあがります。中学との連携という意味でも、中学校教諭が小学校で授業を受け持つのは大変興味深い取り組みではないでしょうか。
兵庫県型教科担任制の実績
このように現在すでに「教科担任制」を取り組んでいる小学校でもやり方はまちまちです。そうなると気になるのが「うちの学校はどうなるんだろう」ってことですよね。
その前に小学校での教科担任制をより深く知るために、メリット・デメリットについて解説します。
小学校教科担任制のメリットとは
教科担任制のメリット|多くの教師が生徒と関われる
教科担任制になると、たとえば5時間授業で、3時間は他の先生が教えることになり1日の間に2~4人の先生と接点を持つことになります。子どもも多くの先生とより密接に関われます。実際に教科担任制を導入している兵庫県で児童に行ったアンケートの回答を見てみましょう。【複数の教員と関わることへの児童の意見】おおむね子ども達は「担任以外の先生と関わり合うこと」に良い印象を持っているようです。実践校の成果を見ると、教科担任制の良さがよく見えてきますね。
○自分に合う先生が見つかり、気軽に話ができるようになった。
○いろいろな先生に相談できるので、気持ちが楽になった。
○校内で出会うと、声を掛けられたり励ましてもらえたりするようになった。
引用:兵庫型教科担任制リーフレット/兵庫県教育委員会
「担任とあわない」つい思ってしまう不満も解消?
「○○先生は悪くないんだけどウチの子とはあわなくて」「担任はわが子のようなおとなしいタイプはあまり評価してくれない」
親の勝手な意見と言われればそれまでですが、実際にこんな会話はよくありますね。保護者の視線で見るとどうも他の子をえこひいきしているような、わが子は正しく評価してもらえてないような気持ちになることって、小学校では多くの親がチラっと考えてしまうこと……。
この考え方が正しいかどうかの問題ではありません。子どもも高学年になるとそれぞれの性格や人柄が強く出てきますし、中には担任の先生と相性が悪いと感じる時もあるでしょう。
教科担任制になると、クラスに複数の教員が入ることになります。そうなれば、子どもにとって話しやすいタイプの先生や相談しやすいと感じる先生との接点が増えます。
また、ひとりの先生しかいないと「その先生の考え方」がクラス運営のポイントになりがちです。でもクラスに複数の先生が入ることで、ある先生にとっては「よけいな質問ばかりして落ち着きがない」なんて思う子どもも、別の先生は「好奇心旺盛で面白い子だ」と思うこともあるわけでわが子を多面的に見てもらえることは保護者にとっても安心ではないでしょうか。
先生も人間ならば親も人間ですから、時には担任とうまくいかない感覚を持つことはあるでしょう。他の先生にもわが子の様子を聞くことができ、時には相談をすることも可能であることもメリットのひとつかなと感じます。
教科担任制のメリット|授業内容の向上
小学校の教師は全科目を教えられますが、当然ながら得意不得意はあるでしょう。専門としている教科を教えるほうが授業内容も良くなると考えられます。また、受け持つ教科に専念できるので、より集中して教材作成等ができるメリットもあります。5科目、8科目を教えるとなれば、それぞれの学習計画や教材の準備をしなくてはなりませんが、受け持つ授業が絞られるとそれだけ授業の準備にあてる時間が増えます。教科担任制のメリット|クラスごとの「差」が減る
5年生の算数をひとりの先生が教えるとしましょう。すべてのクラスをひとりの先生が教えるわけですから、授業内容に「差」がありません。学年で教える内容は最終的に同じはずですが、教え方や宿題の出し方などはクラスごとにまるで違うケースもよくあります。「プリントは全クラス同じだけどウチのクラスは間違ったところは翌日直して提出するようになっている、2組の先生はプリントは出すだけでチェックもしないんだって」
「3組の先生はベテランで教え方がうまいんだってね。ドリルも一番進んでるみたい」
こんな会話も保護者会や親同士の立ち話で時々耳にしませんか。子どもの学習内容が気になって親同士が情報交換をするのは珍しいことではありません。クラスごとに学習量の違いが見えてくると、少ない所は不安に感じるし、逆に多すぎて大変だと感じる場合もあるでしょう。
ひとりの先生が「1組から3組までの算数すべてを見る」ことで、多少の学習進度の差こそあれ、宿題の量などは統一され、クラスや先生による「差」「違い」がなくなるのはメリットのひとつと言えそうです。
教科担任制のメリット|先生の負担が減る
教科担任制にすると、ひとりの先生が受け持つ授業数が減り、準備も減りますから多少なりとも時間の余裕ができます。先生の負担が減ることは働き方改革として必要なことでもありますが、親の立場からしても「余裕のある先生」のほうがいいに決まっています。小学校教科担任制のデメリットとは
教科担任制のデメリット|子どもの変化に気づきにくい?
複数の先生が子どもを教えるメリットの裏返しになってしまいますが、1日中クラスの子どもを見ているわけではなくなるので、もしかしたら生徒の様子や変化を見逃すこともあるのではないかと懸念されています。教科担任制のデメリット|行事等による時間割の問題
ひとりの先生が5年と6年の「理科」を見た場合、もし6年生の修学旅行に付きそうとなると、その間の授業を誰が見るのかといったスケジュールの管理は難しくなりそうです。他にも運動会等のイベントで変則的な時間割になった時など柔軟な対応がしづらくなります。たとえば、雨で体育の授業が中止になった時、学級担任制であれば担任の裁量で「遅れている算数の授業をやる」「総合の時間に終わらなかった調べ学習をやらせる」といったことができますが、教科担任制では融通がきかない部分はあります。徹底的な問題は教員の不足
デメリットとは少し違うかもしれませんが、実は一番の問題点は先生の数が足りないことです。学級担任制の今でも教師不足が叫ばれる中、教科担任制にすることでより多くの教師が必要となるのですから、結局「やりたくても教師がいない」なんてことにもなりかねません。保護者とは直接関係がありませんが、教科担任制導入のため教員免許制度等の見直しも必要と言われています。
なぜ小学校「高学年から」教科担任制なのか
小学校での教科担任制は高学年から導入となっています。そもそも小学校は6年間あり、1年生と6年生では体力はもちろん、精神的な成長をみても大きな差があります。低学年のうちはクラスの子どもを丹念に見守れる「学級担任制」で、教科によっては難易度が高くなり、先生との関係作りも難しくなる高学年から「教科担任制」というのは、理に叶っているように思いますが、いかがでしょうか。
小1ギャップと中1ギャップの問題
このことは、いわゆる「小1ギャップ」「中1ギャップ」ともつながります。保育園や幼稚園から小学校へ入学するときの落差についていけない子どもの問題、あるいは小学校とはまるで違う指導方法の中学に入学当初なかなかなじめずにうまくいかない問題が指摘されています。つい先頃まで保育園でわぁわぁと遊んでいた子どもは、まず小学校に入って「椅子に座り、先生のお話を聞いて指示のとおりに教科書を開く」ことからスタートします。毎時間、教科ごとに先生が入れ替わり立ち替わり入るよりも、ひとりの先生が1日の時間割を通して子どもの様子を見守るほうがクラスとして早くカタチができあがるのは言うまでもありません。
教科担任制を小学校高学年で採用すれば、中学校での指導スタイルに近く中学進学時にも早く学校に慣れることができるでしょう。北九州市のように中学校の先生が一部の教科を担当することで、小学校と中学校の連携がよりスムーズにいく可能性は高いように思えます。
プログラミングや英語こそ専門の先生が教えてほしい!
小学校には「専科」があります。音楽や家庭科は専門の先生がいませんか? こうした「1教科の専門的指導を受け持つ」ことを専科と言います。専科の先生は一般的に担任を持っていません。担任を持っていないということは、たとえば給食の時間は教室にいない、職員室で給食を食べているわけです。行事などでは専科の先生もそれぞれ担当することがありますが、基本的に学級運営そのものには関わりがないことがほとんどです。教科担任制はすべての先生が「専科」になるわけではありません。
高学年の英語は専門の先生に学びたい
小学校でも英語の授業は必修化されました。低学年のうちは英語の挨拶を覚えたり、歌をうたったりして「外国語になじむ」ので充分かなと思います。しかし高学年になったらより系統だてた英語の授業をぜひ実現してもらいたいですね。中学に進学すると多くの子どもが英語に苦労します。高学年で中1の授業の一部を先取りとまでは言わなくても、きちんとアルファベットが書けて、簡単な文法や英単語を暗記し、ヒアリングやスピーキングも体験させてもらえたらと思いませんか?
教科担任制が実施されるのであれば、ぜひ外国語(英語)こそ、専門の先生に中学を見据えた学習計画をもとに指導してもらえたらと思います。
パソコンの授業は外部の専門家でもいい!
2020年にはプログラミングも必修化となりましたね。コエテコでも小学校のプログラミング必修化については何度も取り上げてきました。文部科学省ではプログラミング必修化にともない、小学校でどのように授業に取り入れるかモデルケースを紹介しています。リズムを組み合わせて音楽を作りながらプログラミングを学ぶ
プログラミングで行う算数の授業モデル
これを担任の先生や音楽の先生が教えるのって大変そう!
いわゆるScratchのような見てわかる、使いやすいプログラミング言語を利用した授業のようです。プログラミングは「教科」ではないので、教科担任制になっても専門の先生がつかないということでしょうか。
パソコンやプログラミングの知識は、先生によってかなり違うはずです。ICT(情報技術)のツールを使いこなせる先生と苦手とする先生では、授業内容や進行に大きな差がでそうです。専門性が必要となるプログラミングに関わる授業も専科と同じ扱いで専門の先生がいればいいのに、と思います。校内のパソコンや通信環境のトラブルにも対応できるプロフェッショナルがひとりいれば、先生方の負担も減るのではないでしょうか。
子ども向けのプログラミングスクールはたくさんありますし、パソコンやソフト開発の大手企業が協力することもできるでしょう(実際に行っている学校もあります)。パソコンやプログラミングに関するノウハウや教える技術をもっと広く公立小学校で活用してほしいですね。
学校の授業に保護者ももっと関心を持とう!
教科担任制になることは、どうやら実際に行われるようですし、実はすでに独自の方法で教科担任制を導入している小学校があることもわかりました。教科担任制についてはメリットも多いようですね。保護者からすれば、一番の問題は「知らないこと、わからないこと」です。
少人数学級や、習熟度別クラスなど、各学校でも学びの工夫をしています。ところが親は実際にわが子がどのように学んでいるのか、せいぜい参観日や学校公開日に見るだけで、実際のところはよくわからない、知らないことが多くありませんか?
わが家ではこんなことがありました。
次男が5年生になってしばらくすると算数が「レベル別クラス」になったと言うのです。レベル別とは子どもが言った言葉です。実際には(たぶん)習熟度別クラス、あるいは少人数学習だったのでしょう。子どもに問いただすと、クラスごとではなく、学年全員が「算数がとってもできる子」「普通に算数の授業を理解している子」「算数が苦手な子」と3つに分かれて勉強するのだというわけです。
なるほど、テストや成績で分けられているのかな、と思ったら、次男が「オレ、算数がとってもできる子のクラスにしといたぜぃ」と言うからビックリです。
ちょい待て、算数のテスト58点だったお前がなぜ……
授業内容そのものについてはともかく授業の仕組みや学校のシステムが変わるときには、やはりもっと情報を知りたいと感じます。
まして、いきなり「中学のような教科担任制になりますよ」と2022年の春に言われたらビックリします。しかも教科担任制もこれまでの導入校を見ていると、やり方は千差万別です。わが子が通う学校ではどう取り組むのか、少なくとも該当する現在の3年生以下の保護者には、具体的に話をしてくれたほうがいいような気がします。
教科担任制になる具体的な見通しと共に、この仕組みを利用することによるメリットや課題点なども教えてくれたら、安心するでしょう。
わが子の学校や学習に対しての関心度は人それぞれ大きく違いますが、だとしてもぜひ学校現場から、あるいは学校にそれだけの余裕がないのであれば、せめて地域の教育委員会等から関心のある保護者に向けて積極的に情報を発信してほしいですね。また保護者のほうから「このようなニュースをみたが、うちの学校ではどうなるんですか?」と疑問をぶつけてみてもいいと思います。
教育トピックではこれからも「保護者が知りたいこと」の視点を大切にして、記事をお届けしていきます。
うちのクラスって遅れてない?なんてママ同士でよく話しますよね