では実際に小学校ではどのようなジェンダー教育が実践されているのでしょうか?ジェンダー教育によって、子どもたちの「何が」将来的に変わるのでしょうか?
ママやパパも知っておきたい「ジェンダー教育」について深掘りしていきます。
ジェンダー教育とは
- 生まれつきの「性」だけではなく、さまざまな「性」があることを知り、尊重すること
- 性別による思い込みにとらわれずに考えること
- 自分を大切にし自分らしく生きる力を身につけること
ジェンダー教育では、子どもたちに性差による固定概念を植え付けず、多様な性があることを教え、それらを受け入れ尊重することを教えます。そして、自分を大切にして個性を活かして成長していけるよう導きます。
そもそもジェンダーとは?
出典:「性は虹色のグラデーション 多様な性のハンドブック~誰ひとり取り残さないみんながいきるまちへ~」/岡崎市ジェンダーは社会文化的性別を指し、生物学的な「性別」とは違うとしています。
「ジェンダー」とは、生物学的な性とは違い、社会的・文化的につくられている性のことを指します。つまり、男性と女性の役割の違いによって形成された性別のことです。例えば「料理は女がするもの」や「仕事は男がするもの」といった、「女らしさ」「男らしさ」という文化的につくられた意識のことを指します。こういった先入観から、ジェンダーの不平等は生まれます。生物学的な性とは、生まれ持っての性別で、生殖機能などにより決められます。お腹の中にいる時から赤ちゃんの体を見て「あ、男の子だね」と告げられる、あれが生物学的な性別なわけです。
引用:ジェンダー平等とは/泉大津市
一方でジェンダーは上記のとおり、「女性らしさ」や「男なら」といった、これまでの文化や社会が作り出してきた、性差の意識のことです。
性の多様性
少しだけ性の多様性についても触れておきます。「性」には男女という分け方だけでなく、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)をはじめ、男女関係なく性愛を感じないアセクシャル、男女どちらの性別と判断できないエックスジェンダーなどもあります。
また、性自認では、「わたしは女性だ」と認識していれば、生物学的な性別が男であったとしても「女性」になります。
いろいろな「性」があることを知り、尊重することがジェンダー教育では大切です。どのような性別あるいは性別が認識できない場合でも、だからといって、その人を排除したり、不利になるようなことをしたり、弾劾したりしてはいけないよ!ということを教えるのも、広い意味でのジェンダー教育です。
なぜ幼児期~小学生でジェンダー教育が必要なのか
では、なぜジェンダー教育が必要なのでしょうか?
社会的・文化的に作られる性というのは、私たちがもつ固定概念がベースにあります。固定概念のほとんどが、幼少期から小学校、中学高校といった時期に少しずつ植え付けられていくものです。
男の子がお人形遊びをしていると「男の子なんだから、ボール遊びにしたら」と言ったり、女の子が黒いランドセルを選ぼうとすると「女の子だから赤とかピンクとか、せめて茶色にしない?」なんて声をかけたり、考えてみると無意識のうちに親が「男の子はこうあれ」「女の子はこうあるべき」と導いてしまっていることはありがちです。
(男の子はお人形とかで遊ばない、クルマや電車が好きで体を動かすものだ)と親は無意識に思い込んでいるから「男の子なんだから、ボール遊びにしたら」となるわけです。
そもそも、親であるわたし達の多くがジェンダー教育は受けていません。それどころか昭和世代なら「男の子のくせに」「女の子なんだから」と言われて当然の環境で育ち、固定概念がガチガチにあるので、そうは簡単に意識を変えられません。
幼児期からおとなになる間に身についた固定概念を取り払うのは、非常に難しいのです。なぜなら、それが「当たり前」になっているからです。「アンコンシャスバイアス」と呼ばれる、過去の経験や体験に基づいた無意識の思い込みや偏見によって、知らずとジェンダー不平等になってしまっているのですね。
そこで今は、幼児期から小学校でもジェンダー教育を積極的に取り入れようという動きが活発化しています。ではどんな取り組みを行っているのかを見てみましょう。
日本におけるジェンダー教育の取り組み
日本では政府による「男女共同参画」がジェンダー教育の柱となり、各自治体や教育委員会によるジェンダー教育・ジェンダー平等の教育が行われています。ここではジェンダー平等教育の教材をふたつ、ご紹介します。
大阪府の取り組み(ジェンダー平等教育啓発教材)
出典:おおさか男女共同参画プランの子ども向け教材/大阪府
ジェンダー平等でもっとも身近でわかりやすい、「女の子」「男の子」の固定概念(固定的なイメージ)について、学ぶワークシートです。
こうしたテーマをもとに、子どもたちが活発に話し合うことで新たな意識も生まれます。
豊中市の取り組み(ジェンダー平等教育啓発教材・小学生高学年~中学生)
出典:男女共同参画/豊中市
こちらは小学校高学年から中学生向けジェンダー教育の教材です。
「性」について教えるのは難しい面もあります。特に「男なのか女なのか」と男女とふたつに分けられない考え方や、ひとりひとり違った「性」に対する認識を持っていることを理解するのは難しいですね。
恥ずかしながら、わたしはLGBTQでよく虹色を使っている意味をこれまで考えたこともありませんでした。グラデーションが多様性を表していることも初めて知りました……。
子どもの頃から知ること・学ぶことの大切さを改めて思うところです。ジェンダー教育ではこうした教材を活用し、さまざまな「性」を知り、社会的文化的な性について、刷り込まれたイメージを拭い、自ら考えていく授業を展開しています。
少しずつ広まっている学校におけるジェンダー平等
授業としてのジェンダー教育だけでなく、たとえば、出席簿が男女混合になったり、整列する時も男子・女子と分けないといった取り組みは広く行われています。子どもたちは長い時間を小学校で過ごします。ジェンダーを意識した学校環境が整うことで、私たち親が小さな時からなにげなく「それが当たり前」と思っていた男女の思い込みを少しずつ変えていってくれるかもしれません。
小さなジェンダーの取り組みが、子どもたちの意識に浸透していくことでしょう。
海外におけるジェンダー教育の取り組み
日本でもジェンダー教育は進みつつあるわけですが、現実を見るとまだまだ世界の標準には追いついていません。
出典:共同参画/内閣府男女共同参画局
上記はジェンダーギャップ指数の表です。
指数は「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示しています。2022年の日本の総合スコアは0.650、順位は146か国中116位と残念ながら、かなり意識が低いと言わざるを得ません。
では上位層にある世界の国々はどのようなジェンダー教育・取り組みを行っているのでしょうか。
アメリカの「Title Ⅸ(タイトルナイン)」とは
最初にアメリカの例を見てみます。アメリカでは1972年に「公的高等教育機関の教育プログラムや活動等での性差別の禁止について定めた教育改正法第9編」が成立しています。通称「タイトルナイン」と呼ばれ、内容としては当初は主に学内でのスポーツの参加率が男女均等ではないことによる弊害をなくすためのものでした。
上記を守れなかった場合には、政府からの補助金打ち切りといったペナルティがつけられています。
2011年には、性暴力等について、さらに2016年にはトランスジェンダーや性自認における差別があった場合にも、学校への財政支援が打ち切られるとしています。
タイトルナインは一概にそのまま日本で活用できるかは別にしても、法律で規制してでも教育現場におけるジェンダー平等を推進する必要があるのかは、日本でも議論が重ねられているところです。
参考:Title Ⅸ(タイトルナイン)/公益財団法人日本女性学習財団
スェーデンにおけるジェンダー平等教育
北欧はジェンダー意識が早くから高い傾向にあり、スゥエーデンでは1998年には法改正によって「男女区別ないように平等に教育すること」が定められています。「男の子だから」「女の子だから」という前提での教育を行ってはいけないとしており、実際に幼児期から(プレスクールなど)男女を区別せずに遊ぶよう導いています。また、多くの学校にジェンダーアドバイザーがいて、子どもたちが自身の性に悩んだ時の支援を行っているそう。
さらにスェーデンでは、2012年から「彼(han)」「彼女(hon)」のほかに、「彼や彼女と特定しない代名詞(hen)」が加わりました。男性にも女性にも、あるいはそのどちらでもない場合でも、henという性別に関わらない単語が一般で使用されるようになったのです。
henの話は教育とは少し違いますが、このようにスェーデンでは社会全体がジェンダーを意識していることがわかります。
ジェンダー意識が低い日本の課題
ここまでジェンダーについて取り上げてきました。日本は世界でもジェンダー意識が低いこともわかりましたが、そのためにどのような問題・課題があるのでしょうか?
ジェンダーと理系に女子が少ない理由
ジェンダーによる影響があることのひとつとして、理系に進む女子が少ないことはよく挙げられています。ハフポスト(2021年10月)は記事内でSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に進学する女性が少ない原因として、日本に古くからある「男子は理系、女子は文系が得意」といった言い伝えや、教師や保護者、メディアから植え付けられるジェンダーの固定観念が無意識の思い込みとして進路選択をする中高生に影響を与えてしまっていると記している。「男子は理系、女子は文系が得意」というのは、すでに薄れてきているとはいえ、現実的になかなか理系に進む女子が増えていないのですね。
引用:日本の高等教育における教育格差/中川里奈
数々の調査結果が示すように、子どもの進路選択に与える母親の影響は多大である。ちなみにこの論文では、その他にも理科に関心がある理由として、男子は「入試や仕事に役立つ」と考えるが、女子は「自然を理解することは大事」という傾向があり、「日本の女子は、他国に比して理数系の学習に対する忌避感や不安感が大きい傾向がみられ、科学的探究の本質的な意義に理科を学ぶ価値があると捉えていても、それが自分の進路や職業に関わると感じていない」としています。
しかし、現在の中高生の母親で理系の専攻や職業であったものはきわめて希少なため、理系女性のロールモデルになりにくい。また、理系に対する十分なイメージを持てていない母親が少なくない。
引用:理系進路選択とジェンダー-日本の現状を中心として-河 野 銀 子 (山形大学)
なるほど、いざ進路となると将来の仕事につながるとは思えない、だから理系に関する関心が深まらないということかな。
日本の女性教員は小学校では男性より多いのですが、中学・高校さらには大学とあがるにつれて女性教員・女性教授等は少なくなります。なおかつ、理数系の教員に占める女性割合がとても低い現実があります。
子どもたちは理系教員の多くが男性であることを目の当たりにしているうちに、あるいは身近に理系に進んで活躍している女性を見ることがないために、なんとなく(物理は好きだし数学も得意なんだけど、まぁとりあえず文系にしておこうかな)と勝手に思い込んでしまうケースが多いわけです。
出典:学校教育における男女共同参画の現状と課題 教育選択のジェンダー公正を目指して/中西 祐子
女子の進路を見ると、理学・工学など理工系の分野はやはり少ないのがわかります。理工系の分野は英語では「Science・Technology・Engineering and Mathematics」と呼ばれており、この頭文字をとったのが「STEM」です。
コエテコでもさまざまなプログラミングスクールやロボット教室などをご紹介していますが、その多くが「STEM教育」を重視しています。
ジェンダー教育とは直接の関係はありませんが、ジェンダーによる教育の性差をなくすためには、まさに幼児期からSTEM教育に触れることも、とても大切なのではないでしょうか。
小さい時から楽しくSTEM分野に触れることで、理工系分野を自分の意思で選び学ぶ女子生徒が増えることに期待したいですね。
「え?ロボット工学?それは男子ばかりで女子には難しいんじゃないの?」と親としてはつい首をかしげてしまいたくなるかもしれません。その発想じたいを変えるためにも、親である私たちが、STEM教育に関心を寄せることも大切な気がします。
STEM(ステム)教育とは?日本と海外の現状をわかりやすく解説
21世紀型の新しい教育「STEM(ステム)教育」が世界各国で導入され始めています。その具体的な内容は?STEAM(スティーム)教育とは何が違う?日本のSTEM教育の現状は?くわしく解説します。
この記事をcoeteco.jp で読む >【参考】
学校教育における男女共同参画の現状と課題 教育選択のジェンダー公正を目指して/中西 祐子
理系進路選択とジェンダー-日本の現状を中心として-河野 銀子 (山形大学)
日本の高等教育における教育格差/中川里奈
ジェンダーバイアスとは/第二東京弁護士会
「男性はこうあるべき」有害な男らしさの問題
ジェンダー教育では、女性の立場を対象としているテーマが多く扱われています。これは上記にもあるように、実際に女性蔑視の時代は遠くなった今でも、なかなか男女平等が実現しづらい環境にあるからです。しかし、実際には男性にもジェンダー不平等はあります。
「男の子でしょ、泣き止みなさい」とは、ひと昔までよく親から言われた言葉です。この言葉にさほど重い意味はないとしても、そこからどんどん「男たるもの、こうあるべき」的な概念が生まれます。
結果として、「表面的なたくましさ」や「ある種の暴力性(力が強いことで相手をコントロールする」、女性へのDVだけでなく、「男らしくない行動をする人への侮辱」といった弊害が育つと言われています。これをトキシック・マスキュリティ「有害な男らしさ」と言います。
男らしさそのものが悪いのではないけれど、幼児期から「男は強くあるべし」「たくましくなれ」と刷り込まれていくうちに、どこかで軌道がずれてしまうと、有害な男らしさへと変換していってしまうこともあるわけです。
あるいは、先程の進路を見ると、家政や看護では圧倒的に女性が多くなっています。しかし医療現場では男性看護師が活躍していますし、家事のスペシャリストとして働く男性もいます。
ところが、手作りのバッグを持っている女の子が「これ、パパが作ってくれた」と言うと、思わず周りは「え?お母さんじゃなくて?パパが作ったんだ!」と驚きます。
男性同士が同居し、ひとりが家事を担うようなカップルを「そういうパターンもあるよね」とさらっと受け止められる人は実際には少なくて、「えーと、あの人って男性と暮らしているの?ゲイってこと?」みたいな話になりがちです。
ジェンダー教育とは、単に「女性活躍」を推進するものではないことも念頭に置いておきましょう。
少しずつ広がっているジェンダーの意識
ジェンダーへの関心が高まるにつれ、日本でも変化は起きています。
たとえば洗濯や料理のCMでは、ひと昔前なら女優さんや女性モデルさんが演じていました。今では多くのCMで、お父さんらしき男性が料理をし、仕事から帰宅したらしいママと一緒に家族で御飯というシーンが流れています。
自動車のコマーシャルでも、ママが運転してパパが助手席(そもそも、この助手席という言い方はどうなんだろう?)で後ろに座っている子どもたちと歌をうたっているなんていうのもよく見かけます。
書類を見ると、男女という性別以外にチェックできる項目が増えています。
学校の制服も女子はスカートという一律の決まりから、パンツスタイルなどを選べるようになってきました。
東証は、プライム市場上場企業において「2030年までに女性役員30%以上に」という具体的な数値の目標を出しています。
ここでは理系の女性教員が少ないことにも触れましたが、東北大学工学部・工学研究科では、2023年春に3人の女性の教授が誕生、東京大学でも2027年度までに女性の教授・准教授を約300人採用するとしています。
それに、男性が家庭を担い、女性が働くパートナーシップもまだまだ少ないとはいえ、ひどく珍しい事でもなくなってきました。
企業のジェンダーに対する取り組みも増えている今、ジェンダー教育がより充実していけば、今の子どもたちがおとなになった頃、あるいはおとなになって次の世代を育てる過程で変化していくのではないでしょうか。
参考:広がる理系の“女性枠” 多様性が研究発展につながる!/NHK
家庭から始めたい「ジェンダー教育」
日本では女性活躍の場が少ないために、ジェンダー教育も男女に限定したものが多くなりがちです。
でも、もっと大切なのは、男の子だから、女の子だから、男のくせに、女のくせに、という「思い込み」がなくなり、性別や年齢や生まれついた環境や肌の色や、とにかく、あらゆる「違い」を受け入れ、受け入れるのが当たり前になるような教育を行うことです。
教育は学校現場だけではありません。もっとも身近なロールモデルが親である以上、家庭での「ジェンダーへの意識」も大切です。身についている固定概念はなかなか消えませんが、子どもが小さい時から家庭でもジェンダーについて話したり、あるいは自分の性を守るために注意すべきことを教えたりはできます。
違いを受け入れ、自分を大切にすること。性による区分けではなく、それぞれの個性を大切にすること、自分を大切にし周りの人を大切にすることを学んでいくジェンダー教育がもっと広がっていくといいですね。
【参考】
性差:ジェンダーとセックスの違い/内閣府
共同参画/内閣府男女共同参画局
「社会文化的な性別?」全然わからないので、とってもわかりやすい泉大津市の解説を引用します。