ちらしの説明は簡単なものでしたから、説得力があるほどではなかったのですが、そのことがずっと頭の中に残っていました。
本当に運動する子は学力も伸びるのでしょうか?今回はさまざまなデータをもとに、小学生の体力と学力の関係について深堀りしていきます。
「適度な運動と適切な生活習慣」が大事
結論から言うと、運動ができる・できないではなく、次の2つが学力に良い影響を与えると考えられます。
- 適度な運動
- 適切な生活習慣
運動と学力の相関関係についてはさまざまな論文やデータが出ています。まとめてみると、運動をしないよりは「している子」のほうが学力が高くなる傾向があるのは事実。そして十分な睡眠や朝食をしっかりとっている子のほうが学力が高い傾向があるのも事実なんですね。
では根拠となるデータを見ていきましょう。
運動と学力の関係「運動をする子は学力がアップしやすい」理由
スウェーデンでは2つの小学校で
- 毎日体育の授業がある
- 週2回体育の授業がある
すると、毎日体育の授業を受けている子どもは、体育の成績だけでなく、他の教科でも成績が良かったのだそう。
下記のグラフは、アメリカ「カリフォルニア州の体力と学力の相関関係」の調査をもとに作成されたものです。「運動能力が優れた子は学力テストの結果も同様にいい」という結果が出ています。
引用:DEPORTARE/スポーツ庁Web広報マガジン
フィンランドでは「歩数」がストレス耐性に影響する研究結果が出ています。日々たくさん歩いている子どもはストレスに強い、つまり勉強することが苦にならない、学力アップにつながると考えられます。
あれ?日本での検証結果はないの?
出典:スポーツ活動は学力を向上させるのか/青山学院大学・教育分科会
上記の結果を見る限りでは、体力テストの合計点が上がると、国語・算数の正答率も高くなっていることがわかります。
なるほど、実際に運動する子の成績が良いというのはどうやら当たっているようです。
睡眠や食事と学力の関係「適切な生活習慣は学力アップにつながる」その理由は
では、睡眠や食事といった生活習慣と学力の関係についても見ていきましょう。
和歌山大学教育学部が行った研究では、T校を実例として取り上げています。
T校は、全国体力調査の体力合計点が全国平均を下回っていました。3年間かけて、T校はさまざまな取組みを行い、特に「体力・健康づくり」では外遊びや集団遊びを推進したそうです。結果、体力テストも3年で大きく伸びました。すると、学力調査も同様に伸びていることがわかりました。
出典:体力づくりと学力向上を目指した学校経営と長期的な効果検証/和歌山大学教育学部
T校では体力強化だけでなく、「生活習慣の改善」にも力を入れてきました。
たとえば朝食をとる、睡眠時間を確保するといった生活習慣については、家庭の協力が必要なため、保護者へ懇親会等で呼びかけも行ったといいます。また、全国体力調査を全学年で実施しノートの記録。それぞれ「上体起こしが5回しかできなかった。次は10回にしたい」と目標を持つようになり、さらに普段から「目標を設定する」ようにしたところ、子どもの意欲が上がったそうです。
もちろん、これらは体力強化や生活習慣の改善だけでなく、教科指導等でもさまざまな工夫がされた結果ではあるのですが、いずれにしても、多くの生徒が生活習慣を整えたことで、全体的な学力を底上げしたと見てよさそうですね。
他にも以下のような報告があります。
睡眠時間の長い子どもの脳は、短い子どもに比べて記憶に関わる領域(海馬)の体積が大きいことが分かっています。(一部略)運動で体を動かすことや楽器演奏も脳の発達を促進することが分かっています記憶力がよくなれば、一般的に考えて学力向上の一助とはなるでしょう。なにしろ日本の教育は暗記ものが今なお多いですから、テストの点数がアップしそうな気がしますね。
引用:令和2年度宮城県検証改善委員会報告書/宮城県教育委員会
さて、生活習慣という視点で見たとき、今や子どもたちにとってスマホは生活の一部といっても過言ではありません。こちらは中学生の調査結果ですが、ちょっとグラフを見てみましょう。
出典:仙台市標準学力検査,仙台市生活・学習状況調査における小5~中3の詳細な分析結果から/仙台市
数学の成績で見るとよくわかりますが、スマホの使用時間が短い子ほど、テストの平均点が高くなっています。注目したいのは、勉強時間です。
同じく2時間以上勉強する子どもでも、スマホの使用時間が長いと成績が低い傾向にあります。2時間以上勉強する子と30分~2時間未満の子はスマホの使用時間が1時間未満の場合、2時間以上勉強した子のほうが点数が良いのですが、スマホを3~4時間使用している場合、どちらの平均点も同じになっています。
つまり、いくら勉強してもスマホの使い方が適切でないと成績が落ちてしまう傾向が強いことがわかります。
こうして見ていくと、やはり、ある程度の規則正しい生活と、特殊なスポーツではなくとも、外遊びをはじめとした「体を動かす」機会が多い子どもは、結果的に「学業でも良い結果を出しやすい」と言えそうですね。
でも!子どもの体力は低下している
では日本の子どもたちの体力はどうなのでしょうか。
出典:令和3年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果/スポーツ庁
残念なことに、子どもたちの体力は低下しています。もちろん、世界的に蔓延し、行動を規制された感染症の影響もあるでしょう。
体力と学力の関係だけでなく、そもそも「体力がどんどん低下している」のは親としては少々不安な材料ですね。
しかし、学校の体育の授業以外となると、体を動かす機会は減っています。スポーツ系の習い事が常にトップ10にランクインするのも、ひと昔前のように「子どもは放っておいても、元気に外で遊び体力をつける」わけにはいかなくなっているからかもしれません。
では次に、各家庭が「子どもの体力アップ」や「生活習慣の改善」について、どのような工夫をしているかを見ていきましょう。
新しい生活習慣の中で「外遊び」「体力増加」「生活習慣の改善」をどう行っているか
体力低下を防ぐためにどんなことをしている?それは成績アップにつながってる?
外遊びについては、やはり最近は機会が減りました。その代わり、なるべく週末で天気が良い日には家族で少し遠くの公園まで散歩したり、夫がなわとびに付き合ったりしています。
私は派遣で働いているので夏休みは仕事を入れていませんでした。ひさしぶりに子どもと過ごして思ったのは、運動したほうが学力が上がるというよりも、メリハリのきいた生活が大事なのかなということ。
で、メリハリをつけるには、子どもが思いっきり体を動かす時間があって、それから勉強に集中して、好きなゲームも楽しみにやれて、みたいな場面転換が必要な気がしました。ずーっとゲーム、ずーっと勉強、ずーっと○○……みたいに極端な生活をしない程度に気をつけていればいいのでは?(Nさん/子ども・小1と小4)
感染症の影響で外出もままならなかった時は、ゲームで運動ができるフィットネス系をよく家で子どもと競争していました。今はスイミングスクールも普通に通っています。
でも自分が子どもの頃と比べると、体を動かすことが減ったなぁと思います。ただし、よく動いていたからといって、当時のほうが勉強できる子が多かったとも思えない(笑)(Kさん/子ども・小2)
どうしても部屋でゲームをして過ごしがちなので、スイミングとかサッカーとかスポーツ系の習い事に行かせています。
知り合いは「30分勉強したら、10分程度の軽い運動(ストレッチとかゲームのフィットネスとか)して、また次の勉強をやらせている」と言っていました。
そのママいわく、運動を間にいれたほうが集中力が高まるからと。それだけが理由だとは思いませんが、娘さんの成績は良いらしいので、効果はあるのかな?うちの子は「合間に運動しなさい」と言ったところでやらないだろうけど。
素直にお母さんの言うことを聞くところが、つまりは成績が良い理由であるような気もするけど……(Oさん/子ども・4歳と小5)
夫が行動的なので、子どもとサイクリングしたり、ジョギングコースを回ったり、休みにはハイキングに連れて行ったり、雨がふれば隣町の体育館まで行き卓球したりしていますよ。やろうと思えば、子どもと一緒に運動することはできると思う。
ただ、親が忙しくて、あるいは疲れ切ってしまって、その時間が作れないだけ。
夫は「身体能力が高い子どもは知力も伸びる」と信じて疑っていませんが、正直なところ小学生ではその効果は直接的にはわからないですね(Uさん/子ども・小3)
生活習慣はどう整えている?それは成績アップにつながってる?
小5になってスマホをもたせました。スマホやタブレットで動画をずっと見ていると、まったく体も動かさないし、「そろそろ宿題やりなさいよ」と声をかけても「これ終わってから」と言いながらいつまでもやらないので親子喧嘩になる最悪のパターンになりがち。
何度か喧嘩した末に夫がついに「2時間まで」と制限をかけました。
スマホが悪いのではなく、スマホの使い方と同時に時間の使い方を本人に考えさせるようにしないと、生活習慣は整わないと思う。
そして、生活習慣が乱れていると、勉強に対する集中力もなくなるし、結果論として学力低下につながるのかなと感じます(Aさん/子ども・小5)
フルタイム共働きで、子どもふたりですが、下の子の保育園もあり、朝は本当に大変です。
パンとヨーグルトに目玉焼きor納豆かけ卵ご飯+お漬物、2パターンに絞ってしまえば私でもパパでも準備できるので、朝食はワンパターンならぬツーパターン。やはり朝食べないと、体力が持たないと思うし、授業にも集中できないと思うからです。
それと、上は小3ですが必ず9時には寝るように注意しています。あとはもう、しょうがない。学童から戻ってきて、宿題は適当で動画見るようなこともよくあるけど、叱り飛ばしている時間もない。
とにかく、「朝食は抜かない」「9時に寝る」だけは死守しています!健康第一、勉強はいずれついてくると信じるしかない!(Kさん/子ども・3歳と小3)
夜9時には寝て朝は早く起きて、パパと軽いウォーキング(少し走る)、それからドリルをする、という生活を続けてきて、とてもうまくいっていました。上の子は常に成績も良かったです。
ところが夫がリモートワークになってから、夕方に歩くようになり、朝の親子ウォーキングは自然消滅。
夫は週に何日か変則的に出勤、リモートワークも9時5時ではなく、夕方から休憩してて夜9時くらいからまたリモートしたり、やたら遅い時間にご飯を食べて寝ることもあれば、夕方から飲んでるときもある。
休憩タイムと子どもの帰宅時間が重なると、ちょっかいを出して遊んでしまうし、逆に勉強も終わって兄弟でワイワイやりたい時にリモートで静かにさせなくちゃならないとか、予定が毎日ハッキリしなくて本当にやりづらい。
一度、家族全体の生活パターンを見直さなくちゃいけないなと思っているところです。生活習慣というか、生活スタイルも子どもの学力に影響すると思います!(Fさん/子ども・小4と小6)
健やかに育ってほしい!たくましく生き抜く力をつけてほしい!
健康な体には健やかな精神が宿るとはよく言われることです。スポーツでめざましい成績をあげることが重要なのではなく、運動をし、適切な生活習慣を続けることで、体の状態が常に良くなり「やる気」「集中力」が増すので、勉強の成果も上がると言えそうです。
ただ、確かに成績アップは期待したいし、たとえば将来の学歴とかも重要ですが、何か漠然とした子どもの将来に対する「大丈夫かな?」という気持ちが芽生えることもありませんか?
たぶん、この数年に起きたさまざまな出来事のせいでしょう。私たちの生活は一変し、今また元に戻りつつあるけれど、かといって「これから」はあまり見えてきません。
「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」
1970年代のCMで流れた言葉を、ふいに思い出しました。体力・知力を伸ばし、どんな世の中であっても、たくましく生き抜く力を育んでほしい。いろいろな意味で「底力」を身につけてほしいなと思います。
参考資料:
一流の頭脳(アンダース・ハンセン)/サンマーク出版
そう言われると、運動と規則正しい生活は健やかな生活の基本だし、当たり前のようにも思えるんだけど