子どもの自己肯定感や自尊感情を豊かに高めていくためには、どのように育てればいいのでしょうか。
文部科学省による「21世紀出生児童縦断調査」では、平成13年に生まれた子どもと保護者2万人以上を、なんと18年間追跡!子どもが0歳から12歳の時期は保護者が回答し、それ以降は18歳まで子ども本人も回答した結果を分析、レポートしています。
今回の教育トピックは上記の調査結果をもとに、子どもの自己肯定感を高める「育て方」を探っていきましょう!
小学生の頃の「体験活動」がその後の成長に良い影響を与える!
令和2年度青少年の体験活動に関する調査研究結果報告の「21世紀出生児童縦断調査」では、次にあげる3つを体験・経験している子どもには、将来にわたって良い影響があったとしています。自己肯定感を高める「子ども時代の特徴3つ」 |
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「体験・読書・遊び」がもたらす好影響3つ |
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報告書には以下のような記載があります。
21世紀出生児縦断調査で回答されたデータを再分析したところ、小学生の頃に体験活動(自然体験、社会体験、文化的体験) や読書、お手伝いを多くしていた子どもは、その後、高校生の時に自尊感情(自分に対して肯定的、自分に満足している、など) や外向性(自分のことを活発だと思う)、精神的な回復力(新しいことに興味を持つ、自分の感情を調整する、将来に対して前向きなど)といった項目の得点が高くなる傾向が見られました。
引用:令和2年度 青少年の体験活動に関する調査研究 報告パンフレット(概要)/文部科学省
自己肯定感の低い子ども・高い子どもの特徴
引用:自尊感情に注目!/鹿児島県自尊感情、自己肯定感が高い子どもは「基本的に日々を楽しみ、落ち込んだり失敗しても立ち直りも早い」傾向があります。一方で自尊感情が低い子どもはその反対で、本人としては「生きにくさ」を感じることが多いと思われます。
親として、わが子がなるべく楽しく幸せを感じながら過ごしてほしいと願うもの。
そのためにも自尊感情・自己肯定感を伸ばしてあげることはとても大切です。
自己肯定感を高める「子ども時代における体験活動」とは?
調査結果では体験活動が多い子ほど、自分を肯定的に捉え、積極性や外交的な資質が伸びる傾向があるとしています。では体験活動とはどんな「活動」を指すのでしょうか?
体験活動は大きく3つに分けられています。それぞれが、違った「子どもの成長に良い影響」を与えている特徴があります。
①自然体験→自尊感情や外向性が育ちやすい
(例)キャンプ、登山、川遊び、釣り、海水浴、マリンスポーツ、ウインタースポーツなど
②社会体験→学生の時期に勉強が楽しいと思えるようになる
(例)農業体験、職業体験、ボランティア活動など
③文化的体験→自己肯定感/外向性/精神的回復力/肯定的な未来志向が伸びる
(例)動植物園・水族館・博物館見学、音楽・演劇・古典芸能鑑賞や体験、スポーツ観戦
18年間の追跡で、高校2年時のアンケート結果をまとめたグラフです。
小6のときに自然体験の機会が多い子は少ない子に比べて、自尊感情(自分に満足を感じている)の得点数が高くなっているのがわかります。
皆さんも子どもを連れて動物園に行ったり、潮干狩りを楽しんだりしたことはあるのではないでしょうか。子どもの笑顔が見たくて出かけること自体が、子どもの自己肯定感を育んでいるのです。
また小学校では遠足で動物園に行ったり、社会科見学に行きます。地域によりますが、職業体験や親の職場体験をしているところもありますね。ボランティアの体験は浮かびづらいかもしれませんが、「親子で地域のゴミ拾いに参加する」「老人ホームに手作りのカードを贈る」ことも立派なボランティア活動です。
こうした体験活動は、種類や内容によって伸びる資質が違う傾向があります。何かひとつに偏るよりも、小学生のうちはなるべくたくさんの新しい体験をさせてあげたいですね。
自己肯定感を高める「子ども時代における読書」とは?
「本をよく読む子は賢い子に育つ」と昔から言われてきました。ここでは読書も「体験のひとつ」としており、良い影響として次の3つを挙げています。
子供時代の読書体験が育む力
- 新しいことに興味をもつ
- 自分の感情を調整できる
- 将来に対して前向きに考えられる
授業が楽しい、もっと知りたい、もっと学びたい!と考えられる子どもは、目標が見つかれば大きな力を発揮します。
幼児期に絵本の読み聞かせをしたことがある方も多いでしょう。
本は読むだけで、違う世界に連れていってくれます。見たことや聞いたことがない世界、想像の世界に入って、子どもはさまざまな感情を持ちます。これからどうなるんだろうとワクワクしたり、主人公の行動から勇気や知恵をもらったりします。
怖い話を読んで思わずパパやママに体を寄せてきたり、枕を抱えてこっそり親のベッドにもぐりこんできたりする経験も、子どもが本を通じて「何かを感じて体験している」からこそです。
本を苦手とする子どもも少なくありませんが、無理強いするのではなく、子どもが興味や関心を持つ本を否定せずに選んであげるのがポイントです。
うちの息子はわたしが選んだ「伝記モノ」は目もくれず、「残念ないきもの図鑑」から本を読むようになりました。これがいい!と言ったら、子どもの気持ちを優先してあげた方が結果的に本好きになるようですね。
歴史マンガは実際に中学・高校生が読んで「それで学んだ」という人も多くいます。最近はドラえもんやキャラクター系の学習まんがも多く出ていますから、まずはそこからスタートしてもいいと思います。
課題図書ばかりでは子どももなかなか興味を持ちません。本屋さんや図書館をぶらぶらしながら、子どもが何に興味を示すかを親は楽しむくらいの気持ちで、本を選んでみてはいかがでしょう?
自己肯定感を高める「子ども時代における遊び」とは?
子どもにとっては何でも遊びになるものですが、この調査結果では特に「異なる年齢の人と遊ぶ」「家族以外の大人と遊んだことがある」といった体験が多いほど、自己肯定感や外向性に良い影響があることがわかりました。
社会性や幅広い視野、協働の力は、さまざまな「人」と関わり合う体験の中で育まれます。
下記は小学校1年生の時にさまざまな年齢・いろいろな人と「遊んだ体験がある」と「自尊感情の高さ」をあらわしたグラフです。
さまざまな人と遊んだ体験が多い子のほうが、自尊感情の得点が高くなっていますね。くわえて、調査結果の分析を見てみましょう。
「多くの大人とかかわることで社会には様々な人がいることを知る」要するに、今よく叫ばれている「多様性」ですね。異なる年齢や家族以外の大人と「遊ぶ」のは、たとえば地域活動やお祭り、学校なら縦割り学級などで体験します。
「異年齢の、多様な人たちと生活をともにすることで他者との違いや共通点を見つけ出す」
引用:青少年の体験活動の推進に関する調査研究/文部科学省
公園でも年齢が違う子同士が交わって遊んでいることもあります。またスポーツやダンスといった習い事でも、学校が違ったり年齢が違ったりする子どもと出会い、先生やコーチといった家族以外の大人との交流があります。
私たちが暮らす社会には、いろいろな人がいます。自分とは違うかもしれないけれど、その違いを受け入れたり、違いはあっても共通することを見つけようとする気持ちを持つことが、真の社会性を育てます。
社会性が身につくことで、外部との関わりにも積極的になり、いわゆる「外向性」が育まれます。また、相手を認めることは、自分を認めることにもつながります。
自己肯定感を高める「子ども時代におけるお手伝い」とは?
お手伝いをして、親に褒められたら子どもはとても嬉しくなります。誰かの役に立っていることは、自分を肯定的に捉えられることにつながります。また、褒められて自信がつき、自分は価値ある行動をした価値ある人間だ、と無意識のうちに自尊感情が育つでしょう。
お手伝いは、さまざまな資質を伸ばす最適な体験です。次のグラフは、小学校3年生のときに「お手伝いをしている量」と「外向性の高さ」をあらわしています。
たくさんお手伝いをしている子どもの方が、外向性の得点が高くなっていますね。
お手伝いといっても特別なことはありません。
- 食器を並べる
- コロコロ(カーペット掃除用)をかける
- 洗濯物をたたむ、運ぶ
- 買い物の荷物を持つ
- テーブルを拭く
- 洗面台の鏡をみがく
お手伝いは自尊感情や外向性を始め、精神的な回復力、向学校的な意識など、いろいろな意識に良い影響を与えるそうですよ!
1度の言葉が大きな影響を与えなくても、何度も何度も繰り返すうちに子どもは自然と「自分は認められている」「自分は価値ある人間なんだ」と無意識のうちに自己肯定感の芽が伸びていくはずです。
大きな体験ばかり考えがちですが、こうした小さな体験こそ、家庭でも今すぐに実践でき、結果として子どものさまざまなな力を伸ばすことにつながります。
さまざまなことを、いろいろな人と体験するのが大事
この調査では、経験した内容によって得られる影響や意識が違うことが指摘されています。たとえば、読書は「新しいことに興味を持つ」「自分の感情を調整する」力が養われます。一方で遊びでは、外向性などに良い影響があるとされています。
つまり、体験とは「これさえやれば、自己肯定感が伸びる!」ではなく、さまざまなことを、いろいろな人と一緒に行うことが大事なのです。
たくさんの「ワクワクどきどき」が、子どものいろいろな感性を動かします。
「家庭環境・親の収入・学歴」と体験活動の関係性
この調査では、家庭の収入や親の学歴などが、こうした体験の好影響に関係するかどうかも分析しています。調査結果では「収入の水準が低い家庭であっても、体験の機会が多くあった子どもは自己肯定感を含め、意識の水準が高い傾向にある」となっています。つまり、収入による格差ではなく「体験の機会の格差」が子どもの心身に影響を与えているのです。
とはいえ、親の収入や、あるいは学歴などによって、体験の機会が失われることがあるのも事実です。スキーをするとか、美術館に行くとなればお金がかかります。教育への意識が高い家庭なら、博物館に行ったり外部が行うキャンプへの参加も検討しやすいのも事実です。
実際に調査でも、親の収入や学歴が高い子のほうが、充実した体験を多く得ているとされています。一方で、たとえ経済的な水準が低くても、体験の機会が実際に多かった子どもは、同じように肯定的な意識が高い結果も出ています。
体験の機会はあちこちにあります。お金をかけなくても、おうちでお手伝いをしたり、自治体のワークショップに参加したり、大きな公園で親子で自然観察をしたりすることもできます。
ちなみに、高学歴・高収入だからこうした体験のすべてをしているかといえば別なようで、いわゆるハイスペックな家庭は「似たような環境の人とつながる」傾向が強く、異なる年齢やさまざまな人と遊ぶ体験は相対的に低い傾向があるそう。
要するに、お金をかけようがかけまいが、親が意識して子どもにさまざまな体験をさせてあげよう!と思うことが大事なのかも。
学校だけでなく、自治体や企業が率先して子どもたちの体験を増やす取組みを推進してくれたら、たとえば家庭環境が難しい子どもたちも含めて、多くの子どもたちに「体験の機会」を与えることができるでしょう。
活動や行動範囲が狭まった2020年からの影響は?
調査結果を見ていると、「子供時代の体験がいかに大切か」がわかります。
そうなると、感染症の影響から休校、外出自粛の生活、ある程度おさまった今でも学校行事の縮小や地域行事の中止などが断続的に続いている今の環境で育つ子どもたちの今後については心配も残ります。
子ども時代はあっという間です。
私たち親も小さいときに家族で行った動物園や、ハイキングしたことや、友だちとの修学旅行や臨海学校といった楽しかった思い出を浮かべることはありませんか?調査結果が示すように、体験活動は子どもの資質を伸ばす効果があります。でもそれだけではありません。
子ども時代の懐かしい体験を思い出し、ふと心があたたかくなったり、ささくれだった気持ちが和らぐこともあるでしょう。もっと歳をとってからは、思い出によって人生が支えられることもあります。
子どものずっとずっと先の将来まで見据えれば、幸せな記憶や楽しかった思い出、失敗から立ち直った経験など、たくさんの引き出しを子どもに残してあげたいですね。
これまでと同じような大勢で集まる体験が難しいこともあるでしょう。それでも家庭や学校、地域で協力しながら、子どもの体験活動の機会を増やしていきたいものです。
今、私たち「大人」が子どもたちのためにできることは
子どもはたくさんの体験を通じて成長します。今日のひとつの体験が、10年後の「自信」や「前向きさ」を形成する種となるかもしれません。
子どもは、家庭で、学校で、地域で、社会で、友だちと、地域の大人と、年上や年下の子どもたちと、さまざまに交わりながら、有形無形の恩恵を受け、健やかな成長を遂げることでしょう。
この調査では「家庭・地域・学校が連携し、社会全体で子どもたちの成長 を支えていきましょう」とまとめています。子どもたちがさまざまな体験の機会を得られるように、私たち大人は、「親として」だけでなく、社会の一員として意識していけるといいですね。
参考:令和2年度 青少年の体験活動に関する調査研究 報告パンフレット/文部科学省
令和2年度 青少年の体験活動に関する調査研究 報告書(本文)/文部科学省
令和2年度青少年の体験活動に関する調査研究結果報告 ~21世紀出生児縦断調査を活用した体験活動の効果等分析結果について~/文部科学省
おお!いろいろな体験やお手伝いをしている子は、自己肯定感や精神的な回復力が高いわけですね。いったい、どんな体験をさせればいいのかな?