この記事では、Mind Renderを授業に取り入れている聖光学院 数学科教諭の名塩隆史(なしお たかし)先生にお話を伺うとともに、聖光学院で行われた「情報講座」授業の様子を取材しました。全国屈指の進学校における先進的なIT授業の様子をぜひご覧ください。
Mind Render(マインドレンダー)とは
- (株)モバイルインターネットテクノロジー(MIT)が開発したプログラミング教育用ツール
- プログラミングを学ぶためのプラットフォーム
- 命令ブロックを組み立てるだけで3Dゲームやショートムービーが作れる
- わかりやすいチュートリアルで生徒が自ら学べる
- 拡張性が高い(micro:bit・レゴ® SPIKE™・Pythonでレゴ® SPIKE™を制御)のでレベルアップしたプログラミング授業が可能
Mind Render(マインドレンダー)でプログラムを2日で作る聖光学院の情報講座
聖光学院といえば、中学受験における“神奈川男子御三家”のひとつであり、東大・京大をはじめ多くの生徒を難関大学へ送り出している有名な中高一貫校です。
その進学実績を見れば、生徒はひたすら勉強ひとすじ?と思いきや、名塩先生曰く「部活動も盛んですし、ホームステイや語学研修などさまざまな体験ができる学校です」とのこと。今回の特別授業では、なんと通常授業を止め、2日間まるまる情報講座を行うのだとか。
なんとも大胆な時間割ですが、プログラミングやITスキルを学び、プレゼンテーションまで行うといい、学習から発表までが一貫している印象を受けました。
教室に足を踏み入れてみると、先生がいない時間にも関わらず、生徒さん達はそれぞれパソコンを開いてプログラムを組んでいる最中でした。
友だちと肩を組みながらモニターを前に作戦会議をしている二人組もいれば、ひとりで黙々とキーを打つ子、隣の子が作ったゲームを試して「すげー!」と手をたたき、「ここはどうなってるの?」と聞いている子もいます。
しっかりと授業の目的を捉えているためか、自由に行動しながらも、全員がプログラミングに集中!子どもたちの意欲が伝わってきます。
マインドレンダーは、いわゆるビジュアルプログラミング(見ただけでわかる、命令ブロックを組み合わせるプログラミング手法)ですが、変数や関数、座標軸などをしっかりカバーしており高度なプログラムも可能。まさに中学生・高校生(あるいはプログラミングに触れてきている小学生も!)にピッタリのプログラミングツールです。
マインドレンダーで制作するコンテンツは3Dなので、エフェクト(効果)も迫力があります。本格的なゲームが短時間で作れるとなれば、生徒さん達が夢中になるのも納得です。
聖光学院では、高校でデータ分析やPythonの基本を徹底的に学ぶそうです。今回の特別授業はその前段階という位置付けで、「夢中になれる」教材で、楽しくテクノロジーに触れることに主眼を置いているそうです。
では、生徒さんたちは、マインドレンダーをどう楽しんでいるのでしょう?1時間後に発表が迫る中、何人かの生徒さんにお話を伺うことができました。
僕はサッカーのゲームを作りました。背景や細かいところを再現したり、キーパーの動きを考えたりするのが大変でした。
マインドレンダーは3Dだから、エキサイティングなゲームが作れるのが面白いです。
マインドレンダーの作品を堂々プレゼンテーション!
ここからは、情報講座を受けた生徒さん達のプレゼンテーションから、いくつか作品をピックアップしてご紹介しましょう。いずれもマインドレンダーを使いこなして作成した、個性豊かな作品たちです!「ボールを蹴る」プログラムを工夫したサッカーゲーム
最初に発表を行ったのは、先ほどサッカーゲームのプログラムを一生懸命に調整していた生徒さんです。
「ボールを蹴る」命令ブロックはないので、「ボールに触れる」+「押し出す」を合わせて「蹴る」動作をプログラミングしたそう。他にも、少年の視点移動やランダムに動くキーパーについて、熱くプレゼンしてくれました。
ゴールパフォーマンスでは手をつきあげるポーズ! オーディエンスである他の生徒さん達から、「いいぞ!」なんて声もあがり、元気でパワフルな発表でした。
変数の使い方を工夫したRPG風ゲーム
この生徒さん達がマインドレンダーで作成したのは、スライムに似たキャラクターが活躍するロールプレイングゲームです。
ゲームには宝箱が登場し、経験値の変化によって、宝箱の中にある刀のデザインが変わると言います。この仕様には、変数を使用しているそう。スライムが倒されたあと、画面から消えるしくみがうまくいかず、ひとまず「遠くに飛ばす」処理で対応したと話していました。
限られた時間内でプログラムを組むためには、ちょっとした発想の転換も必要。柔軟な対応力が、プログラミングにも活かされていますね。
ゲームを勝手に攻略するゲーム!?
こちらの作品では、スタートすると同時に戦車がバンバン出てきます。いったいどうなっているの?と思ったら、「この戦車を攻撃して倒すのがゲームの目的です。でも、ゲームってひまつぶしですよね。ひまつぶしは短い方がいいですよね。それなら、ゲーム自体が勝手にゲームを進めてくれればありがたいなと考えました」
一体、どういうことなんでしょう?取材班が疑問に思っていると、画面にはおびただしい量の戦車が。それだけでなく、ゲームがひとりでにレーザーで敵を見つけて攻撃し、戦車を撃退しはじめたではありませんか。つまり、ゲーム全体が「全自動」なんです!
「内容がないよう〜、なんですよ」
ひょうひょうと話すプレゼンに、会場は大爆笑!
「ただ、マインドレンダーのサーチエリアが180度までだったので、そのままでは全方角に攻撃できないことが分かりました。すると全自動にはできなくて、やられちゃうんですよ」
プログラムのピンチに会場から「ダメじゃん!」という声が上がりますが、生徒さんは「いやいや、聞いてください」と堂々たる様子。「180度のサーチエリアを回転させるプログラムを作れば、360度全方向に攻撃ができる」と気づき、無事にゲームを完成させたそう。題材も、プログラムも、とても興味深いプレゼンテーションでした!
マインドレンダーとレゴ® SPIKE™による高度な作品も登場
この作品は、マインドレンダーでプログラムを組み、レゴ® SPIKE™でハンドル(コントローラー)を作った「カーレース」ゲームです。
レゴ® SPIKE™で作ったハンドルとマインドレンダーのプログラムを組み合わせたゲームは、3Dの背景もあいまって完成度がすばらしい!ちなみに、苦労したのはアクセルとブレーキだそうで、輪ゴムを使い、バネのように戻るギミックを考え出したとのこと。
プレゼンでは実際にレースも行われたのですが、作品自体の完成度は見事ながら、ドライバーとしての腕が少々物足りないようで(!)壁に何度もぶつかっていました。そのたびに会場では笑い声が広がり、「がんばれ〜!」「ぶつけるなー!」なんて応援の声が飛び交っていました。ここまでの盛り上がりが見られたのは、生徒さんたちの実力はもちろん、マインドレンダーの教材としてのポテンシャルが高いためもあるでしょう。
そのほか、ここでは紹介しきれませんでしたが、実にさまざまな興味深い作品がありました。
聖光学院・名塩先生に伺いました
大興奮の発表会後、見事な特別授業を展開された名塩先生にお話をうかがいました。数学や物理の領域にも触れられるマインドレンダー
―御校はスーパーサイエンススクールの認定も受け、ICT教育に積極的だと伺いました。マインドレンダーを活用する授業に至った経緯と、その位置づけについて教えてください。感染症の影響を受ける前から、本校ではGoogle Chromebookを導入していました。当初は英会話レッスンやアジア圏の人と交流する授業を行っていましたが、その後、総合学習をさらに発展させた「探究学習」を展開する方向へと舵を切り、SSH(スーパーサイエンススクール)の認定も受け、5年間活動してきました。
しかし、最初からうまくいったわけではありません。
課題を見出し解決して発表する学習を行おうとすると、生徒たちはテーマ立ての時点でつまずいてしまうのです。読書習慣がなかったり、ネットの検索能力が思っていた以上に低かったり……。やっとテーマを見つけても、理科などの知識が追いつかないこともありました。
プログラミングを導入しはじめたときも、決して道のりはスムーズではありませんでした。「さぞパソコン慣れしているだろう」と思われがちなデジタルネイティブ世代ですが、実際に教えてみると想像以上にできないことが多いのです。「これはまずい」とスプレッドシートを使用した表計算から教えて、データ分析を体験させ、Pythonも基礎から学ぶようカリキュラムを修正し、なんとか今の状態にまで作り上げてきました。
このように一筋縄ではいきませんでしたが、自分でコードを打ったり、グラフを書いたりする能動的な活動は、生徒たちの主体的な学びにつながっている実感もあります。本日のような特別授業も、まさに探究学習の好例であると捉えています。
―さまざまなICT学習用ツールがある中で、マインドレンダーを選定されたのはなぜでしょうか?
もともと、マインドレンダーを導入する前に、Scratchとロボットを組み合わせた授業を実施したんです。すると、生徒たちの反応が非常に良くて。コンビニの模型を作ったり、UFOキャッチャーを作ったり、夢中になって取り組んでくれました。
手応えを感じた私は、さらにレベルの高い教材を導入することに。どのようなものが良いかと検討していた際に、以前より交流のあった石原正雄さん、MIT社の白土さん(いずれもマインドレンダー開発関係者)から紹介され、私自身も教材としての魅力を強く感じたために、導入することにしました。
―具体的にマインドレンダーのどこが中学生や高校生が扱うプログラミングツールとして良いと思われたのでしょうか?
決して簡単すぎないけれども、手が出ないほど難しいわけではない。なおかつ、機能性が高い点です。
分かりやすい特徴としては、3次元の作品が作れるところがあります。Scratchのように2次元の作品をつくる場合は、2次元の座標(X軸・Y軸)だけを考えれば良いですが、3次元空間ではZ軸も意識しなければなりません。おのずと難易度の高い思考を求められますし、根気も要ります。
なおかつ、ゲームなどを制作するなかで、しっかりと学びにつながるところも評価しています。たとえばカーレーシングのゲームを作るには、重力加速度や三角関数が必要になりますので、ちょうど高校1年の数学や物理に触れる機会にもなります。「中学生には少し難しいけれど、楽しいから乗り越えられる」ところが、教材としてすぐれている点なのです。
面倒なことから逃げずに失敗から学んで大きく育ってほしい
―生徒の皆さんによる作品で特に印象に残っているものはありますか?
ゲームをつくる生徒が多いなかで、新幹線の始発シミュレーションを作った生徒がいました。通過する都市の高度をデータ化し、新幹線が点として動いていくようすを表現した作品です。分かりやすい派手さを備えたゲームではなく、こうした作品に昇華する生徒がいたことは感慨深かったですね。
―本日の発表会で見た作品はいずれも非常に高度でしたが、指導はなかなか大変なのでは。
もはや指導が追いつかないほどです(笑)。場合によっては生徒のほうが機能をよく理解していることもあるため、こまごまとした作り方までは指導せず、参考例を示したり、バグ発生時の対応をしたり、といった指導に留めています。私では解決しきれない場合は、MIT社に問い合わせながら解決しています。
―授業を通じて、生徒の皆さんにどんなことを学んで欲しいと願っていますか?
プログラミングを通じて、自ら手を動かし、考え、達成する体験を重ねてほしいですね。
今や私達は当たり前のようにデジタル技術に囲まれながら暮らしています。しかし、それぞれのテクノロジーがどのようにつくられ、利用されているのかについて知っている生徒はどれくらいいるでしょうか。
本校の生徒たちに限ったことではありませんが、今の子ども達は、与えられた知識や課題はよく消化できます。その反面、何かに疑問を持ったり、問いを立てたり、ときには本を読みながら気づきを得たりする機会が失われつつあるのも感じます。さらに言えば、面倒くさいことから逃げたがる生徒が多いことも懸念点です。
プログラミングは思い通りにいかないことも多く、自分で調べたり考えたりしながら解決法を模索しない限り、作品を完成させることはできません。まさに面倒な作業と失敗の連続ですが、そこから得るものは大きいはずです。
マインドレンダーという素晴らしい教材の力を借りながら、本校の生徒たちがテクノロジーに関心を持ち、粘り強くものごとに取り組む力を身につけてくれればと願っています。
Scratchを触った経験があるので、マインドレンダーにもすぐ慣れました。ゲームをプログラムするのは面白くて夢中になります。
でも、思ったとおりにいかないことも多くて、試行錯誤の連続です。その分、うまくいったときには『やった!』と達成感があります。