「将来の夢は？」「何になりたい？」に『わからない』と答える子への接し方

なぜ子どもは「将来の夢は」に「特にない」と言うのか？

子どもが「将来の夢がない」と答える背景には、いくつかの理由があります。

まず、子どもにとって「夢＝職業」という概念は、まだ実感を持って理解しにくいものです。大人が思うほど、職業の具体的な内容や社会での役割を理解していないことが多いのです。

そもそも、周りの大人自身も「夢を持ちなさい」と言いながら、実は明確な答えを持っていないケースも少なくありません。子どもは大人の言葉と現実のギャップを敏感に察知します。

小学校の中学年から高学年になると、親からの質問が煩わしく感じられることがあります。

彼らなりの自我やプライドがぐんぐん伸びようとしていて、これまでのように親にピッタリとくっつくのが、何か「カッコ悪い」と感じたり、自分のことをわかったように言われると反抗したくなったりします。

子どもは無意識に“あまのじゃく”になり、「大きくなったら何になりたい？」と聞くと、逆に「別に〜」「わかんない」と肩をすくめ、親の関心をはぐらかしたくなるわけです。

しかも、この「将来の夢」「大きくなったら何になりたい？」は、実によくある質問です。

学校や家庭で、あるいは親戚に会ったり親の友人が来たりしても、頻繁に将来について問われる。しかし、明確な将来像を求めたがる大人からの期待が強すぎると、子どもたちは『夢探しのプレッシャー症候群』とも呼べる状況に置かれてしまいます。

本来なら『まだわからない』が自然な年齢なのに、早く答えを出すことを求められているのです

子ども自身が「間違えたくない」「否定されたくない」という気持ちを抱いている場合もあります。

安易に答えて「それは無理だろう」「もっと現実的に考えなさい」と言われた経験があると、「わからない」と答える方が安全だと感じるのです。

「わからない」と答える背景は、実はとても複雑です。

夢の芽は「好き・面白い・気になる」から始まる

夢の種になるのは、特別な才能や能力ではありません。日常の中で子どもが「好き」「面白い」「気になる」と感じることから始まります。

たとえば、こんな場面はありませんか？

• 恐竜の図鑑をずっと眺めている
• 絵を描いている時間が一番楽しそう
• 友達に何かを説明している時が生き生きしている
• 料理のお手伝いを喜んでする

これらの「好き」は、すべて将来の夢の芽になる可能性を秘めています。重要なのは、「好きなこと」を無理に「職業」に結びつけようとしないことです。

体験談：「車博士」を否定したわたしの失敗と、その後の気づき

エピソード：親の焦りが生んだ誘導

息子が6年生の時、「将来の夢」を書く宿題で起きた出来事を思い出します。

息子はサラサラと「車博士」と書きました。

わたしは「車博士なんて仕事はないから、エンジニアとかメカニックとか、ちゃんと書きなさい」と言いました。

と、同時に、他のママから聞いた「子どもが書いた将来の夢が卒業文集に載るし、お祝いの会でも発表される」という情報が頭をよぎったのです。
「何かすごくちゃんとしたことを書かせなくては！」と勝手に焦ったわたしは、結局「ロボットプログラミングの教室に行ってたじゃない！プログラマーはどう？」と迫り、あまり乗り気でない息子を急かして書かせてしまいました。

対照的なエピソード：「虫博士」の成功

その後、お祝いの会で、Ａくんは堂々と「虫博士になりたい」と発表していました。

「うちの子は虫が大好きだから、昆虫展に連れて行ったり、本格的な図鑑を買ったり。私は虫が大嫌いなのに、一緒に楽しんでいるうちに面白くなってきて」と笑顔で話していたＡ君のママ。

数年後、「虫博士」と書いた子が大学の農学部で昆虫研究をしていると聞いて、「はぁ〜、そうかあ」とわたしは思い返しました。

子どもの好きなことを親も一緒に楽しんでみたら、そうやって突き進んでいけるのだなぁ。

わたしは無意識か意識的かはわからないけど、いっときの感情で、子どもを自分の思うとおりの方向へ誘導しようとしていた、自分勝手な親だったなぁと改めて思っています。

息子のその後と私の気づき

息子は今もやっぱり車が大好きです。

「ロボット教室はさ、壁にぶつからないで走るようにプログラムするんだよ、それがさ、車の自動運転につながると思って面白かった」と言っていた息子に、「車博士」をそのまま「いいねぇ！」と認めてあげていればよかったと思います。

それ以降も、子どもが「YouTuberって面白そう」と言ったときも「何言ってるの、あれで一生食べていけるわけないじゃない、無理無理」と言いました。

子どもの純粋な「好き」には、大人が想像する以上の可能性が詰まっているのかもしれないのに、大人の目線のままで「子どもの目線になったつもりで」最善策かのように提示してしまった。

そのことは、今も時折よみがえり、子どもが進路について話し出すと、わたしは（また、あのときと同じ間違いを繰り返していないか？）と、ふいに不安になることもあります。

豊かな可能性を安易な言葉で摘んでしまうことないように、子どもの「好き」を否定せず、一緒に楽しみながら広げていく対話を心がけたいと思うのです。

親は"レールを敷く"のではなく"並走する伴走者"

わたしの体験談のように、親が「こうあるべき」という思い込みで、子どもの興味を方向転換させてしまうケースは少なくありません。

子どもの将来を考える時、つい「この道が安全」「こうすれば将来安泰」と大人が先回りして道筋を決めたくなります。それが親心でもあるからです。実際に、大きな岐路や重大な選択時には、親の助言は大切です。

しかし、親が一方的にレールを敷いてしまうと、子どもの内発的な動機は育ちません。虫博士も車博士も、あるいは「わかんない」が回答であっても、いいのです。

子どもが自分で考え、選択し、時には失敗も経験しながら、自分なりの道を見つけていくプロセスこそが重要です。親の役割は、子どもの歩みに寄り添う「伴走者」になることです。

子どもの伴走者となるためのポイント4つ

では、具体的にどのような関わり方がいいのか、ポイントは4つあります。

• 問いかける: 「それ、面白そうだね。どんなところが好きなの？」
• 共感する: 「なるほど、そういう見方があるんだ」
• 情報を提供する: 「そういえば、こんなことをしている人もいるよ」
• 背中を押す: 「やってみたいと思う？一緒に調べてみようか」

たとえば、お子さんが「友だちに何かを教えるのが好き」と話した時、すぐに「先生になりなさい」と言うのではなく、「教えるのが好きなんだね。どんな時が一番楽しい？」と問いかけてみましょう。

そこから「教える」という行為の奥にある子どもの価値観や興味を一緒に探ることができます。

親が「コーチ」や「応援団」のような存在になることで、子どもは安心して自分の興味を探求し、主体性を育むことができるのです。

子どもの「好き」を見つけるために

子どもの興味を育むために、日常生活の中でできる工夫もご紹介しますね。

対話の工夫

• 選択肢を提供する: 「何がしたい？」より「AとB、どっちが面白そう？」
• 過程を大切にする: 「結果」より「どんなことを考えたか」を聞く
• 失敗を恐れない: 「うまくいかなくても、挑戦したことが素晴らしい」

大切なのは、子どもの話を「聞く」こと。親の気持ちや期待を「話す」のではなく、話を楽しく聞きつづけることが重要です。

会話の中で、子どもがなにかに興味を示したら、それをきっかけに深堀りしていきましょう。

体験の機会を増やす

• 多様な体験: 博物館、図書館、工場見学、自然観察など
• 人との出会い: いろいろな職業の人の話を聞く機会を作る
• 創作活動: 作る、描く、演じるなどの表現活動

百聞は一見にしかず、と言いますが、体験することは子どもにとって大きな刺激にもなり、経験という財産として残ります。体験は身近なところでもできるし、もちろん学校という社会も体験のひとつですし、習い事やお出かけも体験です。

環境づくり

• 本や図鑑: 子どもの興味に合わせた本を身近に置く
• 質問しやすい雰囲気: 「どんなことでも聞いていいよ」という安心感
• 待つ姿勢: 答えを急がず、ゆっくり考える時間を与える

子どもは自然と自分の興味や価値観を発見していきます。重要なのは、親が焦らず、子どもの歩みに合わせて寄り添うことです。

まとめ

「将来、何になりたい？」に対して、「わかんない」と答えることは、決して問題ではありません。

子どもには『興味の潜伏期間』があります。表面的には『何にも興味がない』『ぼーっとしている』ように見えても、実はいろいろな情報を吸収し、自分なりの価値観を育てている大切な時期です。

この期間を『無駄な時間』と焦るのではなく、『将来の芽を育む土づくりの時間』として温かく見守ることが重要ではないでしょうか。

子どもたちには、これからの長い人生で「なりたいもの」が何度でも変わるチャンスがあります。

大人が「夢」を急かすのではなく、子どもの「好き」を一緒に楽しみ、探求する姿勢を持てたらいいですね。

今日の「楽しい！」「面白い！」「もっと知りたい！」という気持ちの積み重ねが、やがて子どもの未来を照らす大きな光となります。答えが見つからない今この瞬間も、子どもの可能性を育む貴重な時間です。

保護者の皆さんは、子どもの最高の伴走者として、その成長を温かく見守り続けてください。わたしはうまくできなかった。

でも、「ふんふん、それで？」「へぇ〜、面白そうだね〜」と共感するだけでも、何かひとつ、子どもの心に刺さると思います。

子どもの『わからない』は、実は『まだ決めたくない』『もっと可能性を探りたい』という積極的な姿勢の表れかもしれません。その気持ちを大切に、今日という日を一緒に楽しみましょう！