掲載数No.1プログラミング教室・ロボット教室検索サイト

CATEGORY カテゴリー

学びの価値は競争ではなく創ること ― ジャズピアニスト・数学研究者 中島さち子

中島さち子さん記事アイキャッチ
Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとって名付けられたSTEM教育「A(Art / Arts)」の要素を加えたSTEAM教育へと進化しました。

STEAM教育では理工系科目だけでなく、芸術やデザインの要素、リベラルアーツまでもを含めた越境的な学びがめざされています。

今回は日本人女性唯一の数学オリンピック金メダリストであり、ジャズミュージシャンでもあるSTEAM教育家・中島さち子さんにインタビュー。

数学教育者であり、ジャズピアニストでもある中島さち子さん


内閣府STEM Girls Ambassador(理工系女子応援大使)、経産省「未来の教室&EdTech」研究員のみならず、未来の教室プロジェクト実証事業メンバーも務めるマルチタレントな中島さんに、STEAM教育の重要性や現状の課題、女の子への教育などについて幅広く語っていただきます。

インタビュー前編では海外と日本を比較しながら現状を語っていただきましたが、この後編では女性・女の子への教育、教員の過重労働、教育格差についてお伺いします。



男の子は「カッコいい」、女の子だと「変人」

—中島さんは内閣府STEM Girls Ambassador(理工系女子応援大使)を勤められていますね。女の子への教育について語っていただけますか。

STEAM教育の良さとして、女の子の抵抗感が比較的少ないことも挙げられます。

実際に心や手、身体も動かしながら、誰かを喜ばせたい、誰かの役に立ちたいと思いながら、誰かとの競争ではなく自身との戦いとして、ああでもないこうでもないと試行錯誤する。そこにはワクワクする STEM 要素だけでなく、アートやデザイン、社会や歴史などもダイナミックに関わる。

こうした STEAM 教育の特徴は、多くの女性にとって自然で大切なものと感じます。

中島さんは現在NY在住ながら度々日本に帰国し、講演会やワークショップなど精力的に活動されています


アメリカでも STEM / STEAM と性別の問題はよく議論されています。日本では「無言の無意識の圧力」型が多い。アメリカでは汚い言葉でストレートに罵る男性もいるけれど、課題がより認識されている分、問題解決も日本より進んでいるのが体感です。

日本では大学の学部選びの時点で理系進路をとる女性が少ない。男性発信だけだと女性視点での魅力も伝わりにくく、結果的に、本当はワクワクしていた多くの女性も離れていく。人数が少ないと、女性は女性視点での意見も言いづらくなり、途中でやめる人も多い。

だからこそ、女性が数学や研究女性がものづくりの面白さを積極的に語っていくのも大事と考えています。


—大学選択の時点でバイアスが生じるんですね。どのくらいの年齢からその傾向が明らかになるんでしょう。

OECD調査によると、小学校高学年から中学生にかけて算数や理系科目に自信をなくす女の子が多くなる。社会の無意識のバイアスの中で「私は向いていない……」と思い始めるようです。

男の子は数学ができると「カッコいい」イメージだけど、女の子で数学が好きだと「変人」になっちゃう。

女性の方が競争や失敗を好まない傾向も報告されていて、試験などで少しよくない結果をとると、女の子はそもそも避けたり自信をなくしたりしがちです。文化的な刷り込みも本当にもったいない。
 
学びの本当の価値は競争ではなく創ることにある。結果が人と違ってもいい。失敗してもいい。その試行錯誤は誰かの幸せに繋がる。女の子でも男の子でも何かが好きなことはカッコいいんです。

女性目線の『数理女子』サイト

—女の子への訴求として代表的な活動を教えてください。

『数理女子』と名付けたWebサイトに、主にワークショップ企画・実践などの担当者として関わらせていただいています。

東京大学の佐々田 槙子先生、慶應義塾大学の坂内 健一先生方により生まれたWeb サイトで、女の子や女性へ数学のおしゃれな魅力を伝えるのがねらいです。


強調しておきたいのは『数理女子』はあくまでもサイト名であること。「あなたは数理女子ですね」とか「数理女子をもっと増やそう」のように、人への呼称では使わないことにしています。
 
というのも「リケジョ」「数理女子」などと呼ばれると、レッテルを貼られるような気持ちになると伺い……。あくまでも私たちは「私は私」で良いと思っているので、この方針を決めました。

「リケジョ」として描かれるイラストも、白衣を着てメガネをかけて……とアニメっぽい、キャラクター的な造形がなされることが多くモヤモヤしていました。

『数理女子』では既存イメージでなく、女性目線で素敵な(私たちにとって)自然なイメージで作ろうと話しました。デザインもファッション誌を意識して。普通の女の子がおしゃれに数学を楽しめば良い!と。

『数理女子』サイトのトップページ。カラフルでおしゃれ


—中島さんはワークショップを担当されているそうですが、どのような点に配慮されているのですか。

『数理女子』のワークショップは女子・女性対象* にしています。

* 身体の性(セックス)心の性(ジェンダー)いずれかが女性ならば参加可能

そして、お母さんにも来ていただくようにしています。

私が娘さんのワークショップを担当し、隣の部屋では佐々田先生がお母さんとまったく同じ内容をやる。

見学に来たつもりだったお母さんは「そんなのできない!」と超にぎやかです(笑)。でも、やっている間にどんどんアイディアが出てきて、一つひとつがすごく面白いんですよ。

「こういうのが数学なんだ!」「私、才能あるかも」なんて。


—「才能あるかも」っていいですね。これまで閉じ込めていた好奇心が開いたような。女性限定だから萎縮せずにいられるのかな。

女性限定にせず開催したこともあります。ところがあるチームで、男性はおひとりにも関わらず、お母さん方が発言も決定も「どうぞどうぞ」と彼任せにし始めてしまい……。

いつもならばお母さんたちは自由に発言されているのに、この状況はよくないなと。

女性限定にすることで、男性を排除しているんじゃないか?と批判があるかもしれません。そこは本当に申し訳ないなと思いつつ、現在の形にさせていただきました。

— うーん、歯がゆい事態ですね。お父さんも、話したい方も多いのでしょうね。大人の意識がまず変わっていってほしいですね。

そうですね。せっかく娘さんが興味を持っても、お母さんが止めるケースも多いとか。そんな道に行っても仕方ないよ、難しいよって。

ちょっとでも好きになったら、どんどん「好き」を伸ばしてほしいのに……。

「忙しい」「分からない」が2大課題

—新たな学びが必要とはいえ、現場には課題が山積です。この現状をどう捉えますか。

大きな課題が二つあります。

ひとつは、先生が忙しすぎること。

小学校の先生は、朝は5時や6時、夜は10時や11時まで働かれている方も多いとか。そうすると、お子さんがおられたとしても、向き合う時間も全然ないですよね。

これは民間や官庁、ITがどんどん入って変えていくべきです。「なぜ先生はこんなに働いてるの?」を調査して、無駄な作業はどんどん効率化していく。手書きをやめたり、重複した仕事を統一したり、できることはいっぱいあるはずです。


忙しさ解消は大前提として、もうひとつ解決すべきは「中身がわからない」です。

今後、学びの形は学習者中心へ移り変わります。子ども自身がやりたい、興味を持ったことに打ち込んで学ぶ形態です。

そうなると先生はファシリテーションやガイドの役割になるので「教えなきゃいけない」スタイルから脱却できる。自然と負担も減っていくでしょう。

ただ、現時点で負担が大きいのは事実です。そもそもファシリテーョン役なんかやったこともない、受けたこともない先生がほとんどなので……「プログラミングなんか知らない」「横断的な教育って何?」「アクティブラーニングとか言われても困る」と混乱されている。

結果として、未知への挑戦をすべての先生がしなければならない状況にあり、非常に負担が大きいんです。

不安をなくすのは思想の研磨と豊富な事例

—実践例が少ないのは感じますね。Googleの検索ワードを見ていても「STEAM教育 実践例」などがあって、先生が探されているのかな、と。

ゆとり教育でも「『総合』って何をやればいいの?」という反応はありました。せめて実践例が豊富にあればいいのですが、まだまだ少ないし、動画も実際に体験できる場も相談できる場も少ない。

新しい学びを始めるには、中心的な思想を磨き上げることと同時に、こんなのもあんなのもあるよ、と具体の形を示すのも大切です。思想と具体を行ったり来たりしながら、変革は深まる。そして、図書館でワクワク検索するように、先生ご自身が興味を持てる題材を探せるようになったら面白いですよね。

たくさんの実践例を見ると「ファシリテーションってこんな感じなんだ」と具体が見えてくる。不安も解消されます。

新たな学びを一から自分だけで創り出すのは難しい。先生方が自由にオリジナリティを発揮できるようになるためにも、考え方やモデル、具体例をできるだけ準備できるよう、いろんな専門家が一緒になって頑張っています。



—具体が見えるのは大事ですよね。

子どもに何か聞かれたとき「正しい答えを教えないと」と考える先生は多いんです。先生は正しくあるべき、答えを知っているべき、と規範にとらわれていて。

でもこれからの学びは「答え」を教えなくてもいい。調べ方や正しいソース(情報源)に当たる姿勢を示し、一緒に考えてあげればいいんです。

具体を見ていただくために、先生方への研修の機会も増やしたいですね。受けたことのない授業をするのは誰だって不安なので。

先生自身がワクワクして「自分ならどうやるかな?」と考えていただきたい。それこそが新学習指導要領に示されたカリキュラム・マネジメント* ですから。

* 学習指導要領の内容を踏まえつつ、実際の子ども達や地域の実情を鑑み、各学校で教育内容を検討・アレンジすること。新学習指導要領におけるキーワードの一つ。

民間の力も入れていきたい

—豊富な事例以外に、解決の糸口はありますか。

カリキュラムに多様性の余白を残し、民間の力を借りることですね。

アメリカのSTEMコースにはNASAやボーイングが協力することも多いんです。優秀な人材を確保する側面もあるだろうけれど、社会貢献の意味合いも強い。日本だとSONYの取り組みが代表的ですね。

—民間の力を借りると、より実践から学びやすそうですよね。

そうなんです。海外で暮らすと、日本のものづくりってやっぱりユニークだなあと感じます。たとえば伝統工芸にもたくさんの STEAM 要素がありますよね。化学、植物、ものづくりの技術、デザイン、アート、文化、社会、数学……。
 
とにかく学びを学校の中に閉じず、どんどん社会とリンクさせていくのが良いと思います。

子どもが荒れるのは「うまく表現ができない」とき

—もうひとつ、STEAM教育への批判として「上位校しかやらないのでは?」があります。「教育困難校(いわゆる底辺校)でこんなのできない」とか。

教育格差について、中島さんはどうお考えですか。


子どもがどんなときに荒れるか?を考えると、自分の気持ちをうまく表現できないときだと思うんです。

私がワークショップをした中にも「数年前までは荒れていた」とおっしゃる学校がありました。その学校は、音楽の力で変わったそうです。

ジャズミュージシャンでもある中島さん


—音楽の力ですか。

そう。合唱と、あいさつ。ちょっと規律も感じさせますけど、音楽が心を和ませたのかなあ、なんて。

合唱というポジティブな表現方法を見つけたことで、モヤモヤした気持ちを昇華する先が見つかったのかもしれません。

—押さえつけるのではなく、昇華すると。

以前であれば、勉強する理由の一つに「我慢を覚える」があったと思うんです。それは本来自然ではなくて、それぞれの子どもが楽しいと感じる方法で学べばいい。

学校もいろいろ、家庭もいろいろな時代です。学びのオプションは増えれば増えるほどいい。N高や明峯館高校のような存在もそうですし、とにかくいろんな素敵な学びの場・環境があると良いですよね。

その人がその人らしく生きる時代

—お話をしていて、穏和なお人柄でありつつ、芯の強さを感じました。読者へのメッセージをいただけますか。

ちょっと熱いこと言っちゃうんですけど(笑)、今の社会は、本当に大きな変革期を迎えていると思います。

学ぶ、働く、生きる、すべてが同時に変わろうとしている。その人がその人らしく生きるには?がすべての中心になりつつあります。

たとえば、職業が固定されたのは割と最近の話ですよね。だったら、私みたいに職業が複数あってもいい。

「ワークライフバランス」だってそう。「ワーク」と「ライフ」は対立させなくていい。

「遊び」と「学び」も同じです。

大きなものを発見・創造した方々は、まるで遊んでいるような「夢中」の状態で道を究めている。これからは、誰もが何かを共に創りながら生きる時代です。誰もがアーティストとしての(生まれながらに持つ固有の)生きる力を磨き、育てていく時代。

いろいろな考え方の前提が根本から変わりつつあるんです。プレイフルに学ぶ環境をどうやったら作れるか。多様な人たちにとって楽しいもの、それぞれのペースで生きられる・学べる環境をどう作っていったらいいか。

私自身も自分を磨きつつ、社会の変革にも尽力できるよう、微力ながらさまざまなことを進めています。みなさんの間にも「A」の力の意味、可能性がより伝わり、より多彩な未来が描かれていくと嬉しいです。

—中島さん、ありがとうございました。

中島さんからのお知らせ

私は現在、一般社団法人「follow your MUSE(フォロー・ユア・ミューズ)」の共同代表を務めています。MUSEは学習建築家集団として2019年5月1日を本格始動日と位置付けています。


「ミューズ」はギリシャ神話で音楽や芸術を司る女神ですが、英語ではより広くリベラル・アーツ的な女神、好きなもの、などのニュアンスもあり、自分なりの「好きなもの、好奇心、美学」(your MUSE)を追い求めて(follow)して欲しいという想いが背景にあります。

MUSE の活動の一つとして、横浜駅直通の「アソビル」(アカツキライブエンターテイメント)4階にオープンしたキッズテーマパーク『PuChu!(プチュウ)』の監修・スタッフ(PuChuジン)育成に携わりました。

PuChu!は、ULTRA JAPANなどでも著名な、俳優の小橋賢児さんがプロデュースされた、これからの時代に必要なアートセンス・ハートセンスを鍛える、とてもステキな遊び場です。アートとテクノロジーが色鮮やかに融合した、細部まで丁寧にこだわり抜かれた世界。小学生以下のお子さんがいらっしゃる方は、ぜひご家族で、PuChu!(プチ宇宙:一人一人の心の中に広がる小さな宇宙)へワクワクドキドキの冒険にいらしてください!


MUSEでは今後もさまざまな場で、いろいろな専門家が一緒になって新しいプレイフルな遊び・学び・未来を(比喩的な意味で)建築していけたら……と考えています。
 
MUSEを筆頭に、私が別途代表を務めるsteAm、取締役を務めるSTEAM SPORTS LABORATORYなどでも、一個人(アーティスト・研究者)としても、希望や光に溢れるプレイフルな未来を描いていけるよう、引き続き精進していきます。

—中島さん、ありがとうございました。

公開日:2019.06.06

この記事を書いた人


関連記事