STEM教育は、子どものうちからロボットやIT技術に触れて「自分で学ぶ力」を養う新しい時代の教育方法といえるものです。
アメリカや新興国では何年も前から導入され、国主導の教育カリキュラムとして実践されているSTEM教育。具体的にはどのような教育方法なのでしょうか?また、似たような言葉のSTEAM教育(スティームきょういく)とはどう違うのでしょうか。そして、海外と比べた日本のSTEM教育の現状は?
くわしく解説していきます。
STEM教育とは?
S:Science
T:Technology
E:Engineering
M:Mathematics
それぞれの頭文字を取った言葉で、科学・技術・工学・数学の教育分野を総称した言葉です。
STEM教育はこれら4つの学問の教育に力を注ぎ、IT社会とグローバル社会に適応した国際競争力を持った人材を多く生み出そうとする、21世紀型の教育システムです。
とはいえ、単に「科学技術」や「IT技術」に秀でた人材を生み出すことだけが目的ではありません。STEM教育の根底には「自分で学び、自分で理解していく子ども」を育てるねらいがあります。
これまでの「先生が教え、生徒は覚える」スタイルの学びでは、人工知能(AI)を使いこなせる人材には育ちません。新たな時代に必要とされる自発性、創造性、判断力、問題解決力を養う。それがSTEM教育の本質的なねらいなのです。
現代ではインターネットやアプリを使い、「子どもが自分で学び取る」ことが可能になりました。
子どもの頃からタブレットに触れる、パソコンでプログラミングをする、ロボットを組み立てるなど、実践的な経験の中で成長し、より専門性の高い人材を増やすこと、国際社会および労働市場において価値の高い人材を生み出すことがSTEM教育の本質ともいえるでしょう。
自発的に学ぶ、自分で理解する、自分で発見していく力をつけておけば、やがて独自の創造性(クリエイティビティ)を発揮することにもつながります。
テクノロジーを使いこなすだけでなく、クリエイティビティを発揮するほうがより現代に求められるという視点から、最近ではSTEMにA(Art(芸術)、もしくはArts(リベラルアーツ、教養))を加えたSTEAM教育を提唱するスクールも増えてきています。
STEAM(スティーム)教育って?STEM教育のバリエーション
STEM教育には、似た言葉で「STEAM教育」「STREAM教育」などがあります。「一体どのような違いがあるの?」と戸惑う方も多いですよね。
ここではSTEM教育から派生した教育方針を順番に紹介します。
STEAM(スティーム)
STEAM(スティーム)教育は、STEM教育にA(Art(芸術)、もしくはArts(リベラルアーツ、教養))を足したもので、化学・技術・工学・数学に芸術や教養を足した教育方針になります。
芸術や教養と一言で言っても、単純に絵を描くとか、楽器を演奏することではありません。芸術の本質である「何を美しいと思うのか?」「何が幸せなのか?」といった哲学をテクノロジーと融合させる。それがSTEAM教育です。
今や、われわれの生活はテクノロジーにあふれています。いろいろなモノやコトがスピードアップし、便利になってきました。
「でも、本当にそれだけでいいの?もっと人間が幸せに、心まで豊かに暮らす方法はないのかな?」
こんな風に考え(哲学)、テクノロジーを生かしていく。それがSTEAM教育の本質なのです。
STEM教育では、学んだことを現実社会の問題に生かし、解決する力が期待されています。
STEMは20世紀的(工業的)、STEAMは21世紀的(幸せ追求的)なスキルだと主張する人もいます。
STREAM(ストリーム)
STEAM教育に「R(Robotics、ロボット技術)」を足した言葉です。これからの時代にはロボットを設計したり、使いこなしたりするスキルが必須!という考えから提唱されています。
eSTEM(イーステム)
eSTEM教育は、environmental STEMの略称で、STEM教育に環境教育を足したものになります。環境教育の分野は多岐にわたっています。異常気象や森林破壊など自然環境、近代化による公害問題など産業環境に関する分野や、人間関係や生きがいなどの生活環境の問題、IT社会におけるネット環境など、身近なものから地球規模の環境まで、あらゆる分野に広がっています。
技術の向上だけでなく、環境に配慮したよりよい社会を作れる人材の育成を目的としています。
GEMS (ジェムズ)
GEMS(ジェムズ)はGirls in Engineering Math and Scienceの略称です。女性をSTEM分野に進出させるためのプログラムとなっています。女性の社会進出や男女平等の社会づくりが求められる中、世界的にSTEM分野に進出する女性の割合が少ないことから、このような取り組みを行う国や機関が増えています。
またGreat Explorations in Math and Scienceの略称としても使われており、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校で始まった取り組みで、数学や化学の分野における参加体験型のプログラムで、子供たちが自分で実験などを企画し行います。日本でも現在多くのプログラムが実施されています。
ジャパンGEMSセンター公式HP
STEM教育がなぜ必要なのか
従来の教育では、ひとつの分野を深く掘り下げていくような取り組みが主となっていました。しかしSTEM教育では、科学・技術・工学・数学を横断的に学んでいきます。分野の垣根を超えて学ぶことにより、それぞれの分野に跨るような問題を発見し、それを解決するような力を養うことを目指していくのです。複雑化・多様化する現代社会の中で、このように広い知識と視野を持つことは、仕事や研究を行う中で非常に重要な力になってくるでしょう。また、そうした仕事や研究には、主体的に問題を発見しにいこうとする力が欠かせません。STEM教育で行われる体験的・創造的な学習によって、そうした力も鍛えられていきます。あらゆる仕事・研究は「気付き」から始まります。問題が発見されていなければ、それを解決することもできません。STEM教育では、問題を探したり、問題に気づいたりする能力が養われます。そしてそれこそが、人工知能(AI)に代替不可能な仕事であるといえるでしょう。
STEM教育は、お子さんが今後の進路を文系とする場合でも有効です。私たちの生活や仕事は、科学技術抜きにしては回っていきません。自分では直接それを取り扱わないにしても、どのような仕組みで世界が動いているかを知っているとことは、複雑化・高度化する現代社会を生き抜く上で重要な武器になることでしょう。
海外のSTEM教育事情はどうなっている?

アメリカではオバマ大統領の就任後にSTEM教育が本格化しました。
年間で数十億ドルという予算が投入され、STEM教育を中心に科学技術に優れた人材をより多く育成しようという国家的な戦略が進められているのです。
STEM教育を受けた子どもたちがやがて社会に出て表舞台でリーダーとして活躍していく、そのような人材を多く輩出することはアメリカが国際競争力を維持することにもつながります。
子どもの頃からSTEM教育を実施する取り組みが積極的に行われており、小さい頃からパソコンを使う、タブレットを使う、研究用のロボットを組み立てる、さらにはプログラミングの授業まで導入するなど、ITや先端技術に触れることが可能な環境や施設が整いつつあります。
シンガポールやインドといった新興国でもSTEM教育が盛んです。シンガポールには国営のSTEM教育施設があり、インドでも2015年から6歳~18歳の子どもたちを対象にした科学技術を学べるプロジェクト「Rashtriya Avishkar Abhiyan」がスタートしています。
どちらも国が主体となって早い時期から子どもにSTEM教育を受けさせることで、より魅力的な人材育成につなげる施策が行われているのです。
日本のSTEM教育の現状は?

日本でのSTEM教育は、海外に比べるとかなり遅れているのが現状です。
文科省は2016年4月に「小学校でのプログラミング授業の必修化を検討する」と発表しました。しかし実際に導入される時期は2020年度からとなり、かなり時間がかかってしまった印象です。
学校のICT(ネット)環境整備にも遅れが指摘されており、日本の国際競争力低下を懸念する声もあります。
国家レベルでのSTEM教育の導入は遅れていますが、民間では様々な会社や機関がSTEM教育を念頭においたサービスや活動を開始しています。さらに、STEM教育を専門に研究を行っている機関として、埼玉大学「STEM教育研究センター」があります。
このセンターは2002年に開設され、STEMのワークショップ、他学校と連携した出前授業・講演、ロボット教材開発、指導者の育成など、様々な活動が行われています。
その他にも、プログラミング教室や体験イベントの数は日に日に増えています。このような波に乗り遅れないためにも、今のうちにSTEM教育についての理解を深めていくことが大切です。
日本で実施されているSSHについて
日本では、2002年よりスーパーハイスクール(SSH)という取り組みが行われています。これは未来を担う科学技術系人材を育むことを狙った施策で、2021年度には全国で218の学校がSSH指定校となっています。SSH指定校では、学習指導要領の範囲を超えた活動を行うことが可能です。そのため、受験勉強に使うための詰め込み教育ではない、実践的で体験的な教育を受けることができるのです。
SSH指定校はすべての都道府県に設置されており、その多くが公立校となっています。お住まいの地域から通える学校があるかどうか、SSH指定校一覧のページから確認することが可能です。
SSH指定校一覧:https://www.jst.go.jp/cpse/ssh/school/list.html
SSH指定校は年々増加傾向にありますが、一度指定校になった後に指定校ではなくなるケースもあります。進学先を考える際は、最新の情報を参照するようにしましょう。
また、以下の記事でSSHについて詳しく解説していますので、興味のある方はあわせてお読みください。
STEM教育を受けるにはどうすればいい?
STEM教育は難しい勉強ばかりではありません。
初めはゲーム感覚で遊びながら学べるものや、物造りや実験など様々な体験をするものなどが主流となっています。具体的な教材と、おすすめの子ども向け教室を紹介します。
自宅で自由研究をするなら!おうちでできるSTEAM教材『Groovy Lab in a Box』

自宅でできるSTEAM教育なら、アメリカで大人気のSTEM教材『Groovy Lab in a Box(グルービーラボ イン ア ボックス)』がおすすめ!
『Groovy Lab in a Box』は入会金無料、月額2,980円のサブスク型STEAM教材で、毎月送られてくるさまざまなミッションにチャレンジしながら、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics) の素養を身につけられます。
2020年には、世界のイノベーティブな研究者・商品に対して贈られる「エジソン賞」の2020年ファイナリストにも選出。風船で静電気を起こしたり、アインシュタインの目を光らせたり、ミニサイズのジェットコースターを作って物理を学んだり……6歳以上のお子さまなら、きっと科学の世界に興味を持つきっかけになるでしょう。

『Groovy Lab in a Box』は入会金無料、いつでも解約OK!期間の縛りがないから、「とりあえず1ヶ月だけ」トライアルも可能です。詳細は『Groovy Lab in a Box』のサイトでチェックしてみてくださいね!
将来はITエンジニア?プログラミング教室
まずは小学校での必修化が決まっている、プログラミング。子ども向けの教育では、画面上のイラストやアイコン、画像などを並べて簡単にプログラミングを楽しめる「ビジュアルプログラミング」と呼ばれるアプリなどを使い、ゲーム感覚でプログラミングの基礎を学びます。
富士通などパソコンメーカーが主催するものや、サイバーエージェントなどIT企業が主催するもの、ヒューマンアカデミーなどの学校が主催するものと様々なスクールがあります。
おすすめはTech Kids Schoolです。こちらの学校では目的やスキルに合わせて4つのコースがあり、少人数制のため細やかな指導を受けることができ、また奨学金制度もあるので本格的に学びたい子どもにもおすすめです。
Tech Kids School
富士通ラーニングメディア ファイトキッズクラブ
ヒューマンアカデミーこどもプログラミング教室
世界大会出場も!モノづくり系教室
子どもに人気のロボットプログラミングなど、コンピューターを操作するだけでなく、物づくりから行う教室です。STEM教育でのモノづくりは、自分で考えてつくり、出来上がったものを動かすまでが含まれます。
自分で考え組み立てから動かすまでの全工程を体験することにより、問題解決のための思考力や行動力など様々な技術を身に着けられます。
STEM教育専門の教室のSTEMONでは、モノづくりを通して機械などの仕組みやプログラミングを学び、理系ITに強い人材育成を行っている教室で、子どもの成長に合わせて様々なコースが用意されています。
他にも最先端の物造りが体験できるLITALICOワンダー、ロボットプログラミングの専門教室のアーテックエジソンアカデミーなどがあります。
STEMON
LITALICOワンダー
アーテックエジソンアカデミー
他にもたくさん!科学実験教室など
不思議な体験や経験を通じて科学への理解を深めることができる科学実験教室。大人が見ても楽しめるものが多く、楽しく科学を勉強することが出来ます。
科学実験教室のパイオニアと呼ばれるサイエンス倶楽部では、幼児から中学生までを対象に様々なプログラムがあり、野外実習なども行われています。
他にはSTEM教育の基礎となる算数などの教室などもお勧めです。算数といっても学校の授業とは少し違っており、遊びを取り入れて楽しく学ぶことが出来ます。
算数オリンピックの数理教室であるアルゴクラブでは、パズルやブロックやカードゲームを使い、楽しみながら数理的思考力を磨くことが出来ます。
まとめ:子どもの先取り学習は早めを意識!
「子どもにプログラミングをさせるなんて、まだ早い!」と考える方もいるかもしれません。難しそうなイメージもあるし、「うちの子には無理なんじゃ……」と不安に思うかもしれませんね。
しかし、ブロックを使って創造力を養ったり、タブレットで簡単な操作をさせたりと、小さいうちからできることもたくさんあります。
重要なのは、子どもが「自分で学ぶ能力を養う」ことです。自分で触れて、自分で操作して、自分で考える。そのような能力を育むことで創造力や独創性を開花させ、日本だけでなく世界で活躍する人材として成長できるのではないでしょうか。
コエテコでは今回紹介した以外にも多くの子ども向けプログラミング・ロボット教室を検索できます。お住まいの近くから探すこともできますので、お子さんにピッタリな教室をぜひ探してみてください。
STEAM教育がまるごとわかる!解説記事一覧
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