首都圏では特にその傾向が強く、都立中高一貫校では倍率が平均でも約6倍にのぼるほどの激戦* となっています。
都立中高一貫校は学校ごとに独自の入試問題を作成し出題しますが、「プログラミング教育必修化」の背景もあり、「プログラミング的思考」を入試問題に採り入れる学校も現れています。
この記事では、都立中高一貫校の入試問題と、「プログラミング的思考」を問う問題とはどのようなものか解説していきます。
都立中学入試の概要
都立中高一貫校に入学するためには、小学校5・6年生での成績をまとめた「報告書」の提出と、2月初旬に実施される「適性検査」を受ける必要があります。「報告書」と「適性検査」、それぞれのスコアを組み合わせた「総合成績」として点数化され、入学者を決定しています。
「報告書」と「適性検査」の評価割合は学校によって異なるものの、主に適性検査は70~80%の割合で総合成績に反映されます。
したがって、学校での成績はもちろんのこと、適性検査の対策は必須です。
適性検査とは
適性検査は、適性検査Ⅰ(45分)、Ⅱ(45分)、Ⅲ(45分)と3種類で構成され、それぞれ小学校で習う学習指導要領にのっとった範囲での出題がなされます。各適性検査の内容は以下の通りです。
適性検査Ⅱ:算数・理科・社会の問題
適性検査Ⅲ:理系の問題(主に独自問題)
2015年入学者決定より、適性検査は共同作成問題(すべての都立中高一貫校で共通の問題)と各校独自問題を組み合わせて実施されています。
適性検査の特徴として、思考力や判断力、表現力等、小学校の教育で身につけた総合的な力を問う問題が出題されます。例えば、社会問題についてのグラフを読み取った上で自分の意見を書くような記述問題、データを読み解きながら計算・場合分けを考える問題など、算数・理科・社会・国語といった単一教科だけでない、各教科をまたがった問題が出題されます。
都立中高一貫校の適性検査対策としては、偏りの無い全教科の基礎的な知識を身につけること、及び、与えられた課題を理解して、自分の言葉で論理的に語ることができる力が必要だと言われています。
プログラミング的思考と適性検査
プログラミング的思考とは?
2020年度より小学校で必修化となるプログラミング教育では、「プログラミング的思考」の育成が目的とされています。「プログラミング的思考」とは、文部科学省によれば以下のように定義されています。
自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力
引用:文部科学省「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」
小学校でのプログラミング教育必修化を前に、必修化のねらいである「プログラミング的思考の育成」という言葉が浸透してきました。どんな内容?なぜ必要?家庭では?そんな疑問ポイントをわかりやすくまとめました。
この記事をcoeteco.jp で読む >要するに、問題を解決するために打ち手やその組み合わせを考え、どのように改善していけば問題解決に近づけるのかを論理的に考える力のことです。
適性検査に関係あるの?
適性検査で主に見られている力は、問題を解釈して自分の言葉で解答を出す論理的思考力です。この観点では、「プログラミング的思考」と適性検査で求められる力は同じであるといえるでしょう。実際には、2019年の都立中高一貫校入試を見ても、プログラミングに関する問題がダイレクトに出題されているケースはありません。ただし、立川国際で検査Ⅰ(文系問題)でAIやロボットについての内容に触れているのは、背景にプログラミング教育などの重要性が意識されていると思われます。
例えば、与えられた条件を考えながら手順の流れや組み合わせを考えていく問題は、まさに「プログラミング的思考」を取り入れたものです。実際の問題を見ていきましょう。
都立中学適性検査Ⅱ 共通問題
次の問題は、都立中高一貫校で出題された適性検査Ⅱ(共通問題)です。この問題では、与えられたカードの動き(条件)を考慮しながら、おもちゃを動かして目的の場所に行くためにはどのような手順が必要か、という問題です。
カードの動きを理解しながら、指定されたお題(カードを10枚使う)に沿う解答を作る、という問題は、プログラミングでもよく与えられるお題です。
例えばこの記事では、プログラミングで三角形・四角形といった図形を書くにはどういう動き(条件づけ)が必要かということを実践しています。
プログラミングの授業を成功させるポイントとは | Scratchで実践(阿部和広)
プログラミング教育必修化を目前に控え、効果的な授業実践の方法を求める方が増えています。今回は『Why!? プログラミング』監修の阿部和広先生にお伺いし、実際にScratchを動かしながら授業を成功させるポイントをまとめました。
この記事をcoeteco.jp で読む >都立中高一貫校 独自問題|大泉高等学校附属中
東京都立大泉高等学校附属中学校の適性検査Ⅲにも、与えられた条件を元に、組み合わせや手順を考え、答えをまとめる問題が出題されています。こちらの問題も与えられた条件を考慮しながら、解答を論理的に組み立てる必要があります。
問題を見るに、直接的にはプログラミング・ロボットには関連していないとはいえ、「プログラミング的思考」と同様の思考が必要であると考えられるでしょう。
今後の動向について
受験生の「総合的な思考力」を問う適性検査型入試は、公立中高一貫校だけでなく私立中学入試にも採用されはじめています。このタイプの入試を実施する私立中高一貫校は、この5年間で38校から147校に増えています。*
適性検査型入試がなぜ増えているかというと、倍率の激化する公立中高一貫校受験の併願校として受験生を増やす目的。及び、大学入試改革により「思考力・判断力・表現力」といった新しい学力に対する世間の関心が高まっていることが挙げられます。
適性検査型入試だけでなく、私立中学入試では相模女子大学中学部の「プログラミング入試」、順天中学校の「プレゼンテーション入試」、聖学院中学校の「思考力ものづくり入試」など、子供を様々な観点で評価する新型入試が登場しています。
プログラミング的思考を学ぶポイントとは?
プログラミングを通して何が学べるの?
実際にプログラミングを行っていくときに、よくある課題を例に考えていきましょう。例えば10㎝×10㎝くらいの大きさの走行ロボットを、白い路面上にある5㎝くらいの黒い線に沿って走らせようとするとき、ロボットの両端にセンサーを付けておきます。これで走路面の「黒さ」を測ります。
ご存知のように黒い色は光を吸収します。「黒さ」というのは、つまりロボットが自ら発した光がどのくらい反射して返ってくるのか、というセンサーの数値を測定することによって行われます。
最初、ロボットは黒い線をまたいで出発しました。そのとき車輪は白地を踏んでいますから、センサーは自ら発した光を、白地からたくさん反射され、センサーの値は高いでしょう。
次に、ロボットの左車輪が黒線を踏みそうになったり、黒線を踏んでいたりすると、左側のセンサーの値が低くなります。(車が右に曲がっているのか、走路が左に曲がっているような場合)そうすると、左の車輪の回転数を上げるか、右の車輪の回転数を下げるかして、ロボットを元の黒線を跨ぐ状態に戻さなければなりません。
プログラミングを行うということは、センサーの値がいくつくらいになったら、ロボットにそのときどのような、動作をすればよいのか、命令を伝える、ということになります。
ロボットに行わせたい動作の、何処に着目し、どういう手順で考え、センサーがどのような値になればどのような動作をするのか命令する、というような一連の手順がプログラミングをする過程で考えられるわけです。
身近な生活で考えてみる
これは何も走行ロボットの走らせ方に限らず、似たような思考は生活のあらゆるところで既に行われている、ということにもお気づきかと思います。室内が寒いので、暖房機を作動させる。温度センサーがある程度の気温を示せば、暖房運転は一時停止。また寒くなってくれば再び暖房機を運転するなどです。
洗濯機や、冷蔵庫、風呂の温度設定など、今の電化製品を見れば、ほとんどがそのような機能を持っていますね。
電化製品に限らず、身の回りの出来事に対してもこの一連のプロセスを考えることは、「プログラミング的思考」の応用、論理的思考力を身につけるトレーニングになるでしょう。
「手続的知識」の大切さ
「知識」には、「宣言的知識」と「手続的知識」の2種類があります。「宣言的知識」は、「知識」と言われてすぐ思い起こすような知識になります。「『人間失格』の作者は太宰治である」、「grapeは日本語に訳すとぶどうという意味である」などが宣言的知識ですね。
一方で「手続的知識」は、ある問題をどのように処理するのかに関する知識です。これは、言語化できないことが多いのが特徴です。たとえば「ハンバーグを作りたい」と思った時に、慣れている人であれば問題なく作ることができますよね。これは、ハンバーグ作りに関する手続的知識を持っているからです。
手続的知識は単なる暗記ではなく、様々な問題を何度も繰り返し解くことで自然に習得できるものです。プログラミングにももちろん宣言的知識が必要な部分がありますが、それよりも手続的知識の占める割合が大きいといえるでしょう。
まとめ|これからの公立中高一貫校入試で求められる力
激化する公立中高一貫校入試を背景に、私立高校でも思考力型入試が採用され始めるなど、受験生の思考力・判断力・表現力等、総合的な学力を問う入試問題が今後ますます広がってくるように見受けられます。暗記するだけでは対応できない「考える力」を養うために、まずは身の回りの生活に「なぜ?」と関心を持つことから始めてみてはいかがでしょうか?