子どもだって、学校で嫌なことがあったり、友だちとうまくいかなかったり、あるいは家庭に不満を抱いたりすることもあるでしょう。そんな時に、家と学校以外にもうひとつ、子どもが駆け込める場所があったら、小さな助けになるのではないでしょうか。
今回は、子どもたちにとってのサードプレイス「第三の居場所」についてお話します。
サードプレイスとは
サードプレイスは、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグが著書で「家庭や職場の役割から開放され、一個人としてくつろげる場」と定義しています。
サードプレイス「第三の居場所」、と言うからには「第一と第二の場所」がすでにあるわけです。
おとなにとっては、一般的に「家庭」そして「職場」が第一と第二の居場所です。家庭や職場で、わたし達は役割を担い、多くの時間を過ごします。
では子どもはどうでしょうか。
子どもにとって「家庭」と「学校」が1日の大半を過ごす居場所です。
職場が大きなストレスの要因になることもあるように、子どもにとって学校が決して「楽しい居場所ではない」こともあるでしょう。家庭も家族も、わずらわしく感じることもあるでしょう。
レイ・オルデンバーグは、社会学からサードプレイスに着目しているのですが、ここでは「子どもたちも、家や学校以外の“もうひとつの居場所”が必要なのかも」にフォーカスしていきます。
なぜ子どもにサードプレイスが必要なのか
子どもにとってのサードプレイスには大きく分けて、2つの役割があります。出典:令和4年度こどもの居場所づくりに関するヒアリング調査/豊中市 こども未来部 こども政策課 NPO法人 とよなかESDネットワーク
豊中市の説明がわかりやすいので引用させていただきました。上記ではサードプレイスの2つの役割を「ささえる場」と「すごし場」と表現しています。
ささえる場はターゲット型とも呼ばれ、何らかの支援が必要な、問題や課題を抱えている子どものためのサードプレイスです。いわゆる「子ども食堂」やNPO法人などによる「子どもカフェ」などもターゲット型の一種です。
子どものデジタル格差を解消したい。NPO法人キッズドアがIT&デザインプログラム『IFUTO』にかける思い
2022年7月17日より、貧困家庭の女子中高生を対象としたプログラム「IFUTO」が始動。経済的な理由で塾やIT教室に通えない女子中高生が半年間にわたって千葉大学墨田サテライトキャンパスに通い、デジタル格差を乗り越えるためにITやデザインを学びます。主催するのは認定NPO法人キッズドアです。
この記事をcoeteco.jp で読む >一方で、特に差し迫った事情はないけれど、子どもが家や学校以外の場所で過ごしたい時のための場所を提供しているのがユニバーサル型です。また、ユニバーサル型の居場所づくりの中で、サポートを必要とする子どもたちを支援するパターンもあります。
複雑な家庭の事情がある子や不登校の子に対する支援という側面で、学校や家以外にあるサードプレイスの存在は非常に重要です。
しかし、たとえ恵まれた環境にいても、子どもが家と学校以外の「居場所」を必要とする時はあります。
子どもが過ごす家庭をあたたかく穏やかな場所にするよう親がどれだけ尽くしても、学校にたくさんの仲間がいたとしても、子どもの心が揺らぎ、不安や怒りや言葉にできない焦燥感に駆られることもあるでしょう。そして「家も学校も嫌だ!」と思うこともあるでしょう。
そんな時こそ、気持ちが切り替わるような場所、とりあえずホッとできる場所、素直に自分のことが話せる場所、嫌なことが忘れられるような場所、安全で安心な「3つめの居場所」が必要です。
世の中の理不尽さや、よくわからないけどモヤモヤする気持ちを、子ども達は少しずつ、自分でどうにか折り合いをつけていく方法を学びながら成長します。その過程で「でも、うまくいかない」とすべてを投げ出したくなりそうな時に、家と学校以外にもうひとつ、逃げ込める、もぐりこめる居場所が必要なのです。
「家や学校以外に自分の居場所がある?」子どもの回答は
出典:こども・若者へのアンケート集計結果概要/こども家庭庁「あなたは家や学校以外に、ここにいたいと感じる居場所がありますか?」の問いに、居場所がないと回答した子どもは年齢が上がるにつれて少しずつ増えているのがわかります。
小学生でも高学年になると36%が「家と学校以外に、いたい居場所がない」と回答。これは、学童や児童館が主に低学年から中学年を対象としており(現在は6年生まで通えるスタイルになりつつありますが)、それに代わってひとりで家庭で過ごすことが多くなるからでしょうか。
普段は気にならなくても、気持ちが落ち込んでいる時にはひとりで家にいるのが嫌な時もあるでしょう。
無邪気な子ども達も成長するにつれ、次第に複雑な感情を抱くようになり、その分、深い思考力を持つようになります。成長の過程では、誰にだって「何もかも嫌になる」ことはあるのです。
子どもの居場所に関する13の要素とは
- 子どもが安心して休息できること、安らげること
- 子どもがありのままの自分でいられること、受容されること
- 自分の気持や意見を表現できること
- 自己肯定感を抱けること
- 自分の役割を感じられること、自己有用感を抱けること
- 自分の存在を認識できる、生きているという感覚を抱けること
- 人と人との関係性が開かれていくこと
- 自分さがしの学びが生まれること
- いつでもある、戻れる場所であること
- 子どもが主体であること
- いつでも自由にひとりで行けること
- 過ごし方を選べること
- 子どもの味方である大人がいること
上記は子ども・若者の居場所に関する要素をまとめたものです。これらのいくつかは学校で、あるいは家庭にあてはまります。
とはいえ、子ども達に必要と思われる「居場所」が持つべき要素をすべて兼ね備えていることは難しいですね。
でも、家や学校以外にもこうした要素を与えてくれる環境があるはずです。
子どもたちが「家と学校以外で」居場所と感じているのは
出典:こども・若者へのアンケート集計結果概要/こども家庭庁家と学校以外のサードプレイスとして、もっとも多いのは祖父母や友だちの家です。ほかにも公園や児童クラブ、習い事などの他に、オンライン空間とショッピングセンターやファーストフードのお店をサードプレイスとしている子どももいますね。
確かにショッピングモールのフードコートに、ゲームを手にした子どもたち数人がいるのはよく見かけます。周囲や店舗への迷惑行為になることに加えて、安全面を考えても良い選択肢とは言えません。それでも「他に行く場所がない」子どもたちが、ファーストフードやショッピングセンターなどで、いわゆる「たむろする」現象はなかなか減らないのが現状です。
次では、子どもにとっての「もうひとつの居場所」となり得るサードプレイスを3つ、そして最近特に増えいているデジタル空間(オンライン)というスペースについて深掘りしていきます。
【子どもにとってのサードプレイス①】祖父母の家や親戚、友だちの家
子どもにとって同居する家族や学校の先生以外に身近な存在といえば、祖父母や往来のある親戚、また家族ぐるみの付き合いがある友だちの家でしょう。日頃から行き来のある祖父母や親族は、何かちょっとした時にも気軽に会いに行けます。祖父母は年代も大きく違うだけに、子どもからすると話しやすく、甘えやすい面があります。
「友だちの親」には案外と本音を言えたり、相談しやすかったりすることもあるでしょう。
祖父母や友だちの親はとても身近で親しいのと同時に、親ではない第三者の立ち位置です。第三者は少し距離がある分、冷静に話を聞いてくれるし、「うん、わかるよ」と共感を示してくれることがよくあります。
世代が開いている祖父母は、子どもの気持ちにとことん寄り添ってくれることもよくあります。そんな存在が時に子どもにとって、ひと息つける居場所になります。
【子どもにとってのサードプレイス②】習い事
スポーツやお絵描き、工作、音楽、子どもが興味を持っていることを思いっきり満喫できる場所は、大人が「好きな趣味に没頭して嫌なことを忘れる」のと同じように、あるいはそこで仕事以外の仲間を見つけて楽しく過ごせるのと同じように、「第三の居場所」として貴重です。たとえ塾であっても、子どもによっては「塾の先生とは話しやすい」というケースもあります。学校と家以外に自分が属していると感じられる“もうひとつの居場所”という役割も担っています。
教室を子どもたちのサードプレイスに
コエテコで以前取材させていただいた「DOHSCHOOL」校長の市川さんはこう語っています。
やってはいけない事とやらなくていけない事に囲まれている今の子供たちはとても忙しく、好きなことを見つけたり、それに没頭する時間と場所が足りません。DOHSCHOOLは子どもたちにとって、家と学校以外の居場所、いわゆるサードプレイスでありたいと考えています。
何かうまくいかないことがあっても「他に楽しいこともあるもん」と思える習い事が見つかるといいですね。
【子どもにとってのサードプレイス③】図書館・児童館・プレーパークなど
児童館、図書館、公民館、児童クラブや放課後子ども教室など、公的機関や自治体による居場所づくりも進んでいます。こうした公的な場所は、子どもの様子を見守る専門的な知識を持つ大人が常駐していたり、状況に応じて、より必要な支援を得られる機関と連絡をとったりすることも可能です。
校庭開放でいつも本を片手にピロティ下のスペースで本を読んでいる子がいました。当番の親や地域の方が話しかけても、肩をすくめるだけ…。
その子にとって、ただ単純にピロティ下は家より落ち着く場所だったのかもしれないし、あるいは家にいられない、いづらい事情があったのかもしれません。でもとにかく、行く場所があるということがまず大事なのです。
教育委員会・自治体・地域が一体となって子どもの居場所づくりを行っているところは多いです。たとえば、学校の図書室・自治体のスペースを開放していたり、無料のワークショップを開催したりしています。自治体の公式サイトやお住いの地域限定情報誌などを確認してみましょう。
いくつか場所を調べておいて、子どもに「こんな場所もあるんだね」となにげなく話しておくのも良い方法です。
「デジタル空間」は今の子どもたちにとって大切な居場所のひとつ
正しく「居場所」と言えるのかは微妙ですが、今の子どもたちにとってはインターネット空間でのつながりが「自分らしくいられる場所」となっていることも多いのは事実です。オンラインゲームやSNSでつながり、そこでは自由に振る舞える、話せるという子もいます。
オンラインやSNSつながりは、匿名性が高く、トラブルに巻き込まれるリスクもあります。
とはいえ、デジタル空間での「つながり」は、子どもにとって生命線のように大切になるケースは珍しくありません。
孤独や孤立の苦しさを抱えている子どもが、デジタル空間で「ひとりではない」と感じ、思いを共有でき、息苦しさから開放されることもあります。一概に反対せず、使い方や注意すべきことはしっかり教えてあげるようにしたいですね。
誰でも必要としている「サードプレイス」
残念ですが、親の言葉が子どもに届かないことはあります。親に弱みを見せまいとする子どももいます。学校も状況によっては子どもにとって苦痛の種になることもあるでしょう。多くの時間を過ごす「今いる場所」が決して居心地が良いとは言えないことは、子どもに限らず、誰にでもありえますよね。
居場所がないとさまよう子どもの姿はとても淋しい。だから、それが「場所」であっても「人」であってもいいから、子どもにとってあたたかく、やさしい居場所がどこかにあることを願います。
そしてわたし達「親」も、親であったり妻や夫や職場の◯◯といった肩書にもとらわれない、ひとりのわたしとして過ごせる場所を見つけましょう!
サードプレイスがあることで、ひとつめの居場所であるわが家が「やっぱりウチはウチで落ち着くな」なんて思えるようになれるといいなと思います。
参考:
サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」レイ・オルデンバーグ著/みすず書房
こどもの居場所づくりに関する指針/子ども家庭庁
「家にいると親とすぐケンカになるし、学校には友だちはいないし。でも、塾にはいろいろ話せる友だちもいるし、先生とも話せるし、ここにいた方が落ち着くから毎日来てる」と話してくれた子がいたのを思い出しました。
塾の自習室が落ち着く子もいるのですね。