この記事では笑顔の素敵な市川さんに、2,800以上のチームが参加したスペクタルな国際ロボットコンペティションの様子についてお話を伺いました!
また、はるさんが学んでいる自由でオープンなロボット・プログラミング教室「DOHSCHOOL」についても、たくさんの写真と共に校長先生のお話も併せてご紹介します。
VEX ROBOTICS WORLD CHAMPIONSHIPとは
VEXのロボット競技大会(小中学生向け)は、大きく分けて
- チームワークチャレンジ
- スキルスチャレンジ
チームワークチャレンジは、大会に出場しているチームからランダムにアライアンスが組まれ、ゲームエレメント(オブジェクト)を所定の位置に移動するなど、アライアンスで協力しあい高得点獲得をめざします。
スキルスチャレンジは、各チームがコントローラー操作によるドライビングの技術と、自律ロボットのプログラミング制御技術を競う内容に分かれています。
競技大会では、課題を解決してきた記録をまとめたエンジニアリングノートブックの提出が必須で、ジャッジ(審査員)がチームを回りながら質疑応答をします。ここでの対応なども評価された上で、最終的な順位が決まります。
参考:一般社団法人 青少年STEM教育振興会
世界36カ国2,800チームが参加した世界大会でディビジョン9位入賞!「市川はるさん」を直撃取材
―市川はるさん、VEXワールドチャンピオンシップ9位入賞おめでとうございます!はるさんは、いつからVEXを始めて、大会に参加するようになったのですか?
小学3年生の時から始めました。お父さんに誘われて一度ロボットを作ってみたらとても楽しかったので、親しい友だちを誘って一緒に始めました。
初めての大会は2人で出ましたが、何ヶ月かたって共通の友達がチームに入り、3人チームになりました。
―チーム内での役割分担は?
とくにそこまでしっかり分けているわけではないですが、ビルダー、プログラマー、ドライバーの中から自分が得意な分野を特にがんばっていました。チームによってはもっときっちり担当を分けているところもあるし、それぞれのメンバーがすべての役割を担当しているチームもあります。
―今回の大会では、1ヶ月前に作戦を変更したそうですね。聞くところによると、ロボットも組み直したのだとか。
そうなんです。最初に組み立てていたロボットは動きがあまり速くなく、正確性も今ひとつで、期待できる点数に限界があるなと感じました。問題点はすべて解決して世界大会に出場したいと思ったので、やり直すことに決めました。
―具体的には、どこを修正したのですか?
主にタイヤまわりのギア比などです。インプットのギアが小さく、アウトプットのギアが大きいと、スピードは遅いもののパワフルなロボットになります。逆もしかりで、インプットを大きく、アウトプットを小さくすれば、パワーは小さいけれどスピードが速いロボットにできます。
もちろん、理想はスピードもパワーもあるロボットですが、両方を同時に叶えることはできないので、理想のバランスを探りながら調整を加えていきました。
ハワイ在住Rinaさんとの出会いと世界大会出場へ
―世界大会への出場が決まった後には、予期せぬ出来事もあったと伺っています。はい。いよいよ世界大会出場という段階で、一緒にやってきた2名のメンバーは渡米が難しいことがわかり、サポートメンバーを新たに探す必要が出てきたんです。
1人でも出場できなくはないのですが、ルール上、持ち時間を有効に使うためにはセカンドドライバーが必要で。お父さんと相談して、お付き合いのあったハワイのVEXコミュニティに相談してみることにしました。
すると、Rinaちゃんというメンバーを紹介してもらうことができました。Rinaちゃんはもともと、VEXハワイ代表のプログラマーだったのですが、私のチームのドライバーとして協力してくれることになったんです。
―初対面の相手とチームを組むのは緊張しましたか?しかも、英語でコミュニケーションをとっていたのですよね。
もちろんチームワークのことも心配だったけれど、出国まであまり時間がなくて、細かいところまでプログラムを詰められていなかったので、そのほうが心配でした。Rinaちゃんに相談したら、彼女はプログラマーなので、いろいろ一緒に考えてくれてうまくいきました。
Rinaちゃんとのコミュニケーションは、翻訳アプリにも助けてもらいました。最初のほうはちょっと遠慮しちゃうところもありましたが、一緒にやっているうちに、ガッツポーズしたり、ハイタッチしたりするようになって。最終的には会場でふたりきりで話せるくらい、距離が縮まりました。
それから、英語への興味も高まりました。お父さんに通訳してもらったり自分で調べたりしているうちに、もっと英語で喋りたいなと思うようになったし、英語が好きになったんです。
まるでオリンピックのように盛大な世界大会で見事に入賞!
―そして見事にディビジョン9位入賞!そのときは、どんな気持ちでしたか?本当にビックリしました。Rinaちゃんと組むまでは、「1人で最終ラウンドに出られるのかな」という心配が大きくて、正直なところ、順位や入賞のことなんて到底考えられなかったんです。
まさか入賞という結果を残せるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。
―今回の大会を通じて、一番印象に残っていることを教えてください。
ネイションパレードがとても印象に残っています。
これは、大会のはじめに各国の代表が国旗を持って入場するパレードで、何十カ国ものチームがたくさんの国旗を掲げて歩くことになります。1万人が入れるスタジアムで、国旗を手に1人で歩くことになって、とても緊張しました。
―まるでオリンピックの入場行進みたいです!大会入賞はもちろんですが、世界中の人と交流できる貴重な体験でしたね。では最後に、はるさんの将来の夢を聞かせてください。
私はもともとものづくりが好きで、VEXを始めてからはプログラミングやロボットを作ることに強い興味がわいてきました。まだ将来の夢を明確に持っているわけではありませんが、何らかの形でロボットやプログラミングに関わる仕事に就きたいなと思っています。
—はるさん、ありがとうございました。
DOHSCHOOL校長 市川 晋也さんにお話を伺いました
はるさんはDOHSCHOOLのロボコンコースで学んでいます。そしてこのDOHSCHOOLは、実ははるさんのお父様が「㈱アザイコミュニケーションズ」と共同で運営している教室だそう。作ることで学ぶ、新たな教育メソッドについてDOHSCHOOL校長 市川 晋也さんにお話を聞きました。
―今回、はるさんが参加したワールドチャンピオンシップとはどういう大会なのでしょう?
VEXワールドチャンピオンシップは、毎年1回、アメリカで開催されている国際的なロボットコンペティションです。2022年は感染症の影響もあって規模が縮小されましたが、国や地域の予選を勝ち上がってきた2,800チームが参加しました。
大会には小学生から大学生まで、1万人以上の子どもたちが世界中から集まってきます。ここまで大規模な大会は他になく、過去に二度ギネス記録にも認定されているそうです。
とくに盛り上がるのは、世界大会の最終日ですね。各カテゴリーごとにファイナルと閉会式が1万人収容のアリーナで行われます。世界一が決まるファイナルは、MC、ライティング、音響などが観客を盛り上げ、会場がもの凄い熱気に包まれます。また、閉会式では次のシーズンの「お題」が発表され、大歓声が巻き起こります。毎シーズン、新しい課題にチャレンジしながら試行錯誤を重ね、ロボット工学やプログラミングスキルを身につけられるのがVEXの魅力なんです。
―ロボットの世界大会といえば、FLLやWROもありますが、VEXならではの特徴とは。
VEXのカリキュラムは、未就学児から大学生まで一気通貫です。競技大会は小学生から参加できますが、どの年齢からVEXを始めても、大学生までずっと継続することができます。VEXコンティニューアムと呼ばれ、VEXの大きな特徴のひとつです。
また、大会では競技の点数だけでなく、デザインアワードやスポーツマンシップアワードなど、様々な視点で評価を受けられるのも特徴です。最も栄誉あるアワードはエクセレンスアワード(最優秀賞)になります。
たとえばデザインアワードではロボット制作のプロセスを重視しており、エンジニアリングノートブックの記録やジャッジが行うインタビューのやり取りが評価されます。日本代表選考競技大会でのエクセレンスアワードとデザインアワードは、そのまま世界大会出場権獲得へと繋がります。この2つのアワードの審査にはエンジニアリングノートブックの提出がマストとなっています。
エンジニアリングノートブックでは、単に記録や感想を残すだけでなく、問題の発見、解決策の計画、実行、評価、改良といったサイクルのプロセスの記載が評価されます。
純粋にロボティクスについて語るならば、ロボットならではの難しさや面白さを楽しめるのも魅力ですね。
たとえば今回の大会でも、実際に現地に行くと、競技で使う黄色いボールが想定よりも少し柔らかいことが判明しました。となると、その場で微調整を行わなくてはなりません。このように、さまざまな状況や環境に合わせて柔軟に対応する力も養われるのがVEXの魅力なんです。
―市川さんははるさんのお父様でもあり、DOHSCHOOLの校長でもありますが、VEXを知ったきっかけや、DOHSCHOOL開校までの経緯を教えていただけますでしょうか?
VEXを友人から紹介されたのは2018年頃のことでした。VEXという教材はハードウエア・ソフトウエア・カリキュラム・競技大会の4要素から構成されており、単にプログラミングを学べるだけでなく、ロボット工学やSTEAM教育にもつながるロボティクス教材としてすばらしいと感じました。
そこで世田谷ものづくり学校の会議室を借り、娘や娘の友だちを誘って週に1回のVEX教室を開講していたところ、同じ世田谷ものづくり学校で「世田谷ハツメイカー研究所」というプログラミング教室を運営されていいたAzhai Communicationsの久木田先生が声をかけてくださったんです。その後色々とお話をすると、子どもや教育に関する考え方、興味関心、今後やりたいことなどの共通点が数多く見つかり、世田谷ものづくり学校が閉館となることもきっかけとなり協業する形でDOHSCHOOLを開校しました。
―DOHSCHOOLの特徴は?
DOHSCHOOLの特徴はいくつか有ると思いますが、大きくは2つでしょうか。まず、1つ目はオープンな空気と人。教室のスペースも仕切りがなく、用途を限定しない開放的な空間です。通ってくれている生徒たちの層も幅広く、小学生から中学生までの生徒に加え、高校生メンター、大学生、大学院生の講師もいます。異学年との交流、学び合いがとても盛んなのも特徴です。
明るく広々としたスペース。VEX規定のコースも2つ設置されている。
もう1つの魅力は先生方ですね。DOHSCHOOLには大学生やデザイナー、パソコンにくわしいおじいちゃん先生、VEX世界大会に出場した高校生メンターなど、さまざまなバックグラウンドを持つ先生方、メンターが集まってくださっています。
教材もVEXに限らず、mBotやScratch、マインクラフトもある。よく保護者の方から「Scratchはできるようになった。でもその次にすることがない」と相談されるのですが、DOHSCHOOLならテキストコーディングも学べるし、デザインに進んでみてもいいし、よりハイレベルなロボット工学を試してみることもできます。
つまりDOHSCHOOLは、いろいろな仲間と出会い、いろいろな教材に触れ、作ったり壊したり、見たり聞いたりできる場所なんです。
―DOHSCHOOLでは生徒さん達がとても自由に動き回って、楽しそうです。いろいろな道具や機材もあって、ちょっとしたガレージみたいな雰囲気が印象的ですね。
やってはいけない事とやらなくていけない事に囲まれている今の子供たちはとても忙しく、好きなことを見つけたり、それに没頭する時間と場所が足りません。DOHSCHOOLは子どもたちにとって、家と学校以外の居場所、いわゆるサードプレイスでありたいと考えています。
一応、小学校低学年と高学年で時間帯を分けてはいますが、別に長時間いてもいい。図書室で本を読んだり、宿題をやったりと、自由に過ごしてもらっています。
DOHSCHOOLは、子ども達が好きなことにどんどん挑戦できる秘密基地のようなものです。
Learning by Doing、「なすことによって学ぶ」が私たちDOHSCHOOLのモットーです。夏休みにはワークショップもいろいろと開催していますので、ぜひ気軽に体験してみてくださいね。
【スポンサー募集】VEXロボティクス競技大会を支援するサポート団体を募集しています
VEX世界大会への参加費用は、基本的に選手のご家庭での自己負担となっています。一般社団法人青少年STEM教育振興会では、子どもたちがVEXロボティクス競技大会を通じて育んだ知識や技術を維持するため、国内のオフィシャルイベントパートナーとして、継続的に競技大会を運営しています。
VEXが繰り広げる国際的な競技大会により、同世代の子どもたちとの交流を図り、グローバル的思考やコミュニケーション力、語学力の育成を目指し支援を行っています。
このような活動をより充実させるべく、一般社団法人青少年STEM教育振興会では、サポーター(サポート企業)を募集しています!詳しくは以下のボタンのリンク先よりお問い合わせください。多くの企業さまからの問い合わせをお待ちしています。